Spiral Fiction Note’s diary

物書き&Webサイト編集スタッフ。

映画「ソラニン」@「ロックの学園」試写会

ASIAN KUNG-FU GENERATION - ソラニン (PV)


 前日21日はバルト9で「ブルーノ」を観て大爆笑していた27歳の僕は、日付が22日になってとりあえず28歳になった。誕生日を迎えると毎年よく生きてるなあと思う。こうやって日々は勝手に積み重なって、日々は断層になっていく。
 平穏と言えば平穏な毎日だなあと思う。真綿でゆっくりと首を絞められていくような、ゆるやかに死に向かうような平穏な日常を何かに示すことで、それらになんとか刃向かっている気がする。


 原作も好きで、書いている浅野いにおさんのファンである僕は、誕生日22日に「ロックの学園」(神奈川県にある元三崎高校)での「ソラニン」特別試写に応募して見事に当たったので彼女と電車にのんびりと揺られて京急に初めて乗って横須賀方面にも初めて、電車に揺られて、大根とまぐろの町な三崎へ。
 駅からバスでさらに15分ぐらいのとこに「ロックの学園」はあった。22日が最終日の三日間限定みたいだったけど、まるでロックの文化祭みたいな高校をまるまる使ったイベント。体育館でライブや各教室で展示やギター教室等、校舎三階を全て使って学園祭。


 入り口には「ロックの学園」の去年から出張中の校長先生こと忌野清志郎さんのポスターやなぜかガンダムテレキャスターを持っていたり。


 試写まで時間があったので校舎の中をブラブラと歩いていくととある教室でプリンを食べた。校舎の中で僕らが使っていた机や椅子じゃないけど懐かしい匂いがして、落書きがしてある机とか椅子に座って見える教室から外の風景の在り方とか。過ぎ去っていった日々がふいに現在に飛び込んできた。


 廃校になったこの三崎高校は映画の撮影やPVなどの撮影ではよく使われているらしい。堤幸彦監督「BECK」はここで撮影されたらしく、ひとつの教室では「BECK」部屋があって演者が使った服や小道具、映画のパネル等が展示されていた。

 
 時間になって集合場所に行って、おそらくは美術室みたいな教室、石膏の人物像があったからそうだと思う。窓は視聴覚教室にあったような黒いカーテンで、光が普通に差し込んでて真っ暗にはならなくて、外からは中庭でやってるライブの音も聴こえてきたりして、まあ映画館で観る映画って感じじゃなくて、やっぱり学園祭とか文化祭で誰かが撮った自主映画を教室で観るような感覚で。





 三木孝浩監督/出演・宮崎あおい高良健吾桐谷健太近藤洋一伊藤歩永山絢斗
 ストーリー/OL2年目で会社を辞めた芽衣子(宮崎あおい)。 音楽への夢をあきらめきれないフリーターの種田(高良健吾)。不確かな未来に不安を抱えながら、お互いに寄り添い、東京の片隅で暮らすふたり。だが、芽衣子の一言で、種田はあきらめかけた想いを繋ぐ。ある想いを込めて、仲間たちと「ソラニン」という曲を書き上げた種田。ふたりはその曲をレコード会社に持ち込むが…。不確かな未来に揺れながらも、新しい一歩を踏み出していく若者たちを描き、絶大な人気を博した 浅野いにおの傑作コミック「ソラニン」を映画化。主人公・井上芽衣子を宮崎あおい、恋人の種田を高良健吾が演じる。


 原作に忠実な撮り方というかストーリー展開。始まってわりとすぐに頭痛が始まった、その後は腹にきた。あんまりあるわけじゃないけど僕は時折物語にあたること(食あたり的な)があって、その状態に。原作も何度も読んでるし流れもわかってるんだけど、漫画よりも実物の人間が演じる方が僕にはダメージが大きかった。


 冴木をARATAが演じてて、彼とレコード会社で会って、トイレで種田と話すシーンで泣いてしまった。ある意味での種田との対比。かつて種田が憧れたバンドマンだった冴木は今やレコード会社の社員でアイドルのCDを出そうとしている。過去と未来のような、大人と子供のような、夢と現在のような、対比がそのワンシーンだけで出てしまう。

 
 種田に言われて、冴木が言う「守るものが変わったんだ」という台詞は痛い。人が変わっていくことを否定はできない、変わらない人なんていない。誰かに対してそうあってほしいと自分が思っていても、それは自分がその人に描いた、期待している像でしかない。変わっていくことは誰にも否定はできない。


 頭痛は治まらないで、右脳辺りが痛かった。やっぱり「ソラニン」的な空気感は「ゼロ年代」に思春期を終えて大学や社会へ出て行った「ロスジェネ」世代の空気感が濃厚で、彼らの青春物語は過ぎ去ってしまった世代にもこれから迎える世代にも共有される普遍的なものはあるはずだけど、やっぱり彼らは僕らだったと僕は思ってしまう。


 世界的不況で価値観はぐるっと変わったと思うし、人々の認識も有り様も変化した。今だったら就職したら早々に辞めれない。次がある可能性は明らかに低いし、もろもろの待遇等は下がる。今務めている会社に一生務めたいと思う人の割合が一気に増えたのは「ゼロ年代」の後半のサブプライムローン問題辺りからだったと思う。逆に今務めている会社に一生勤めたいと思う人の割合が一番低いのが「ロスジェネ」世代の上の方が就職した頃(就職難だったこともあるけど)だったと記憶している。


 すでに価値観は変わってしまっている。だから「ソラニン」は「ゼロ年代」のサブプライムローン問題までの「ロスジェネ」価値観や生き方が描かれている。もはや過ぎ去ってしまった時間であり、振り返るにはちょうどいい公開なんだと思う。「テン年代」最初の年に前ディケイドの「ゼロ年代」に若者だった人の生き方を描いた作品。だから僕には愛おしくて哀しくて笑ってしまうけど痛い。


 僕はまだ種田のような生き方をしているフリーターで、やりたいことを夢とかじゃなくてなんとか現実の一部にしようともがいている。だから物語にあたってしまう、僕が種田みたいになってしまってもほかの人の人生は続く。
 残酷な事に「ソラニン」が僕を含めて多くの人の心をつかむのは、主要メンバーの誰も才能もないしありきたりな僕らが当事者として物語を歩んでいることだ、哀しいまでの現実と毎日がある。誰かが死ななきゃ動けないのかよって思うけど、でも、僕らもそういう一面はあるから。


 ストーリー的に似ているのは鈴木清剛さんの小説「ロックンロールミシン」を行定勲監督で映画化した作品だろう。こちらは「ゼロ年代」的だけど前半の空気感の中にある青春物語。
 あきらかに違うのは「ソラニン」の芽衣子は会社を辞めてからバイトをしたりと漫画・映画ともに最後まで種田と一緒に過ごした家から引越しをするが彼女は再就職をしたかするのかはわからない終わりに対して、時代的に難しいというリアリティだからだろうけど。


 「ロックンロールミシン」の加瀬亮が演じる会社員は同級生だった池内博之演じる青年が立ち上げるファッションブランドを手伝い始めて会社を辞めてしまう。やがてそのブランドも起ち行かなくなってしまい、そのブランドは解散してメンバーは元居た場所に戻っていく、彼もまた辞めた会社に上司に休職扱いにしてもらって、元居た会社に戻るという一時のモラトリアムを過ごす内容。
 この映画を観た当時はものすごくリアリティがあった。何かをしてもダメになっても元居た場所に帰れる可能性とかモラトリアムを過ごす事がまだ許されていた。数年後にはそれがリアリティを失った。


 「ソラニン」は僕にとって大切な作品で、だけどももう過ぎ去った時間を懐かしんでいてもいてもどこにも行けないし進めない。「ゼロ年代」という一つの季節がまるで僕の亡くなった古い友人のような感じがする。その時代とある意味では決別し、忘れないためにそこにあったことを証明するために僕らは進んでいくしかない。



 とか思ったのは試写終了後にCMディレクターで三崎ロック学園の「教頭」である箭内道彦×「サンボマスター」の近藤洋一×三木孝浩監督のトークがあってそこで聞いた事も影響している。箭内さんがもはや古田新太さんの痩せてるバージョンにしか見えないよ、派手な服装だけど似合ってるのはいいな。近藤さんが撮影から15キロ痩せたらしく、まるで別人。で三木監督は「文化系トークラジオ Life」での番外編ポッドキャストでの感じと同じく物腰の低い優しい感じの人だった。


 近藤さんが演じる加藤は、顔が似ているからとオファーしたみたいだけど、近藤さんと加藤の共通点は「僕もベーシストで、大学に6年通って、カミさんが大学の軽音サークルの先輩で、名前がアイっていうんです」と「カミさんの旧姓は宮崎。宮崎アイって、宮崎あおいと一文字違い」とリンクしてますねえ〜。つうかもろ一緒じゃん。


 箭内さんがサンボマスター「ラブソング」聴いて、あまりにも感動してサンボ側にPV作りたいって言ったらもう決まってて、公式版はビリー演じた桐谷健太が出ている。わかったよ、じゃあ自主でって作ったPV、長澤まさみが神がかって可愛すぎる。
ラブソング サンボマスター


 箭内さんが「もう二度と聞けないミュージシャンのことを思ったとき、その偉大さを証明することが、生きている僕たちの役目だと思う」と昨年死去した同校“校長”忌野清志郎について話した時に泣きそうになった。頭は痛かったけど、そういう部分はクリアで。


 終わっても頭痛も腹の具合も悪かったから駅までゆっくりと歩いて帰って、電車に乗って品川までゆらゆらと揺られた。ずっと寝てた。家の最寄り駅のエスカレーターを上っていたら左側の方にナイスミドルがいて見た事あるなって思ったら黒沢清監督だった。「ドッペルゲンガー」が一番好きだけど、まあ歌えずに家に。着いたらちょうど宅配便が来てて「文化系トークラジオ Life」のiPhoneケース。ちょうど誕生日に来るように頼んでた。



 まあ、iPhoneユーザーじゃないんだけど、するつもりもないんだけど。番組支援のために買った。まあ、浅野いにおファンでもあるし。最初に「Life」に興味持ったのは「蓮沼フェス」でcharlieに浅野さんのデザインバッチもらってからだったし。22日は「浅野いにお」DAYになってしまった。


一冊の本を著すこと 一篇の詩を詠むことは 世界に無視され 消えてしまうことを こばむ行為だと わたしは思う 広大すぎる世界に 圧倒されないよう ふんばっているんだな 西島大介著「世界の終わりの魔法使い」より


 さあてと、真綿でゆっくりと首を締め付けられてゆっくりと死んでしまうとしても、世界に抗う事は止めないし、諦めない。なんだかそんな気分だね、鼻で笑ってもらっていいし、なんだかそういう気分なんだ。

ソラニン 1 (ヤングサンデーコミックス)

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ソラニン 2 (2) (ヤングサンデーコミックス)

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