昨日は第30回日本SF大賞受賞作・伊藤計劃「ハーモニー」読了した。「わたし」という概念とさらよならする、個人ではなく社会が最小単位になる物語。デビュー作「虐殺器官」から連なる姿勢が感じられた。
「エヴァンゲリオン」の旧劇場版での全ての人が一つに溶け合う世界、「わたし」が消えて「みんな」が「わたし」であるような自我と他者の境界線がなくなってしまう「人類補完計画」を「ハーモニー」のクライマックスでは少し思い出した。
まあ、違うっちゃ違うんだけど、「わたし」というやっかいな意識をどうするかどう捉えるか世界が幸せになるために「わたし」という意識はどう扱われるべきなのか、管理されるのか?
かつての旧世紀とこの現在の新世紀の間に僕らに降り掛かった困難を真っ正面から受け止めしまうことを社会すら放棄しているような。絶望の話を語ることや考える事で希望は見いだせるのか? 希望の話をするためにはただの絵空事を言っても誰にも届かない、まずはこの現状をきちんと捉えて、そこから見える何かを磨いて守って育てていかないとたぶん、希望の種はないのかもしれない。
今がけっこう深刻でいろんなやっかいなことがこんがらがってしまっている。少しでもそれをほどいてほんのわずかでも何かが変わることが始めれたらいい。小説や映画などの、そういう日々の中にある表現がそこへ導くといいなと思う。
大塚英志「僕は天使の羽を踏まない」の文庫版のあとがきにあった「ぼくの表現はすべからく、夢を見せるためではなく、夢から醒めさせるためにある」ということが本当に今という時代の表現には必要で、読者や受け手をずっと夢みさせていてもなにも変わらないどころか、事態を悪化させるだけだろう。現実から逃げていれば現実がやがてゆるやかに浸食してすべてを覆い尽くすだけなのだと思う。
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