Spiral Fiction Note’s diary

物書き&Webサイト編集スタッフ。

Spiral Fiction Note’s 日記(2023年12月16日〜2023年12月31日)

12月上旬の日記(2023年12月1日から12月15日分)


12月16日

ガブリエル・ガルシア=マルケス著『百年の孤独』が来年新潮文庫で出るという話題が数日前に旧TwitterことXで出ていた。さすがに新しく出すならたぶん新訳になるだろう。文庫が出る前にこの『百年の孤独』を再読しておこうかなって。あとはポール・トーマス・アンダーソン監督がトマス・ピンチョン著『ヴァインランド』を映画化するらしいので、こちらも含めて年末年始で読めたらいいんだけど、どちらも分厚い。
なんといっても『百年の孤独』というタイトルがカッコ良すぎる、人の人生は百年ぐらい(祖母は103歳で健在だが)ということも考えたらこの「孤独」は誰もが抱えていくしかないものだよなって。文庫版になった時にダサい装幀だけにはしないでほしい。

8時過ぎに起きてからちょっと読書をしてから昼まで作業、というか今後のスケジュールの修正とやろうと思っていることを書き出したりしてみた。
仲俣さんが登壇したB&Bのトークイベントでも言われていたが、来年は『百年の孤独』文庫版が出る、ということは来年出る小説はこんな巨大である種伝説的な作品と戦うことになる。それは途方もない戦いかもしれないけど、戦える土俵にいる人が羨ましくもある。せめてその土俵に上がれるものは書きたい。それでもう一回『百年の孤独』を読み返したいと思った。
6月末までの執筆スケジュールと作品たちの関係性を書き出してみた。全部繋がっているからシェアワールドというかサーガみたいになっているけど、ひとつが出来上がれれば次につながっていく。

Syrup16g Fake Plastic Trees 




「PLANETS大忘年会2023」【第1部】2023年のカルチャーシーンを総括する座談会( 明石ガクト/成馬零一/吉田尚記/宇野常寛)を見に渋谷ヒカリエへ。今働いている会社は株式譲渡されて親会社が変わったが、コロナパンデミックになってリモートワークが始まった頃のオフィスはヒカリエにあったのでそれまでは週三ほど出社していた。このところ二年以上はヒカリエに用事がなくて足を運んでいなかった。イベントスペースとオフィスがある階層は違うけれど、慣れていたはずの場所は自分とは関係のところだなって思える雰囲気だった。
登壇者それぞれに三つずつ2023年のトピックというかキーワードを挙げてもらってのトークだった。『ゴジラ-1.0』の話も出て、その時に『シンゴジラ』は怪獣映画の可能性を広げたから評価できると宇野さんが言われていた。『ゴジラ-1.0』が今アメリカでヒットしているのも、映画界でのストの影響もあったりするし、日本のコンテンツがすごいというとは言いにくい、だが、いろんな状況が重なったことが大きいという話も出ていた。
そこから流れで「シン」から「-1.0」という震災と復興の躁状態の10年代から、コロナパンデミック後のタモリさんが『徹子の部屋』で話した「新しい戦前」の予感と気分についてのものになっているのではないかという話もあった。それはなんかすごくよくわかるものだったし、ウクライナやガザもそうだし、世界のどこかで起きている戦争に日本はまったく関係ないわけではなく、その飛び火はいつどこでどの国に広がるかわからない、そんな時代になってしまっている。だから、日本でもその「新しい戦前」というワードはリアリティがどんどん出てきていると思う。
宇野さんが出していたもののひとつに「MCU」フェーズ4の失敗というものがあった。このことが何を物語るかが、日本では語られないほどヒットしなかった。日本映画のガラパゴス化はさらに進んでいて、いわゆる洋画はどんどん観られなくなってしまっている。その中でなんとかヒット作や話題になっていたのが「MCU」だったが、それもディズニー傘下でスピンオフや映画につながるドラマをたくさん作りすぎてしまったせいで、一気に飽きられていってしまった。
また、フェーズ4の始まりで作るべきだった作品としての『エブエブ』と『バービー』が挙げられていた。ありえた可能性として、この二作品のようなものがフェーズ4にあれば、こんなことにはならなかったのだろう。
終わってから宇野さんにご挨拶をして歩いて帰ったが、渋谷は人が多すぎて早く進みたいのに全然進まないし、これはやっぱりなんか異常だし、こういうところに土日にはやっぱり来たくはない。映画とか観るなら平日が一番なのはそういうことが理由になっている。

夜に友達からお茶に誘われたのでニコラでのんびりと話をたくさんした。

 

12月17日
お茶が終わって日付が変わってから帰って寝たので、8時前ぐらいにのんびり起きた。とりあえず、読書とかする気分ではなかったので散歩へ。
9時ぐらいに空いている場所がないのでたいてい代官山蔦屋書店に土日のどちらかは散歩がてら歩いている。寒くなると聴いていたけどそこまで寒くはなかった。radikoで『オードリーのオールナイトニッポン』をBGMにしようと思ったが、スペシャルウイークでティモンディがゲストで野球をやるという回だったので、正直興味がわかずにSpotifyで今週聴いた『佐久間宣行のオールナイトニッポン0』のゲストがラランド回をもう一度聴きながら歩いた。

Oneohtrix Point Never - Nightmare Paint (Official Music Video) 


お店二階の音楽コーナーにいくとBEATINK関連コーナーがあって、来年の2月と3月のポスターが提示されていた。
Oneohtrix Point Neverのライブにはジム・オルーク石橋英子がゲストというのを見てすごく行きたさが増してきたけど、2月28日っていうのがネックで、来年は閏年だから29日まである。応募するつもりのメフィスト賞は2月末〆切なので29日中に応募しないと間に合わないのでその前日はちょっとしんどい。


プロフェッショナル 仕事の流儀』 - ジブリ宮崎駿の2339日


TwitterことXで話題になっていたのをNHKオンラインで見る。スタジオジブリを一緒に立ち上げた高畑勲監督が亡くなったことが宮崎駿監督にかなり大きな影響を与えていたことがわかるものになっていた。
今年公開された『君たちはどう生きるか』における最後に出てくる大伯父をこの映像の中で宮崎監督は「パク(高畑)さん」と何度も言ってしまっていた。もともとキャラクターには実際のモデルは大抵いるらしいのだけど。亡くなった高畑さんを大伯父にしたことで、宮崎さんが彼の背中をずっと追いかけてきて、受けてきた影響を今作でなんとか一度終わらせようとしていたようにも見えた。
また、創作(映画)のほうにどんどん入り込んでいってしまい、そちらが宮崎監督の現実になり、みんながいる現実のほうに帰って来られなくなるという話も出てきていた。そのため、日常生活の方はどうでもよくなってしまうのだ、と。
創作の方に入り込んでしまってそちらが現実になることで、現実生活のほうが現実ではなくなるというのは古川日出男さんも同じようなことを言われていたから、何かの枠を超えて誰も辿り着いていないものを創作している人はやっぱりそう場所でものを作っているんだなって思えた。
大伯父の存在とかもだけど、このドキュメンタリーは『君たちはどう生きるか』の種明かしをかなりしてしまっており、これはこういうことなんでっていう感じがかなりあって、ジブリ側や宮崎監督がこう作ったのでこう観てということに誘導している気もしてしまう。もし、それが答えだとしても考察への対応だとしても、それをやられてしまうとある種の批評封じにもなってしまう。
作り手が種明かしをしてしまうと、それ以外の見方とかがダメではなくて、違うみたいなことになってしまう危険性もあるし、今は正解を求める時代なので批評とかが成り立ちにくなってしまう。ずっと書生的にジブリに20年とか通っている人が撮影しているからこそのものだけど、その人が作ったストーリー、展開でどう感じるかもコントロールはできる流れになっている。その人の本当の意志なのか、ジブリ側の要請かそれはわからないけれど。

「一緒にいていつも楽しかった。でも、僕ら、遊んでたのか? 仕事してたのか?どっちなの?ってすごく難しいバランスがあって、飯野さんを思う時、いちばん大きいところですね。これが仕事に偏っていたら、もっと違うものを作っていた気もするし、やりたくないことをやっていたら飯野さん的な作品は残せなかったかもしれないし。その難しいバランスに僕自身が何も力添え出来なかった後悔がずっとあります」

「たまにゲームの仕様もメモ書きしていたけど、適当にしゃべっていたときのほうが遥かに熱量が大きかった。そのあたりが仕事として機能しなかったのは、飯野賢治最高!と思うし、作品として残して欲しかったなとも思います。彼は自分をプロデューサーだと思ってただろうから、そんな役割の人を近づけなかったけど、本来は圧倒的にクリエイターだったはずなんです」

「『結局、飯野さんが作れたはずのゲームは作られなかったな』って、悔しい気持ちが強かったです。飯野さんの才能で作れたはずのものがたくさんあったはずで、何でもっとゲームに集中してくれなかったんだ……と飯野さんに怒りながら、泣きながら帰りましたね」

飯野賢治とは何者だったのか?第1回】『リアルサウンド』「怪物」「花束みたいな恋をした」の脚本家・坂元裕二氏に聞く風雲児との日々―“300万本売れるRPG”の顛末も明かされる

飯野賢治さんは名前しか知らないし、作ったゲームもしたことないんだけど、坂元裕二さんが脚本家として業界から離れていた時に生き延びるきっかけになっていたことなんかも語られている。そこだけでも2000年以降の坂元裕二復活の裏側にあったモラトリアムと友情の話でもあって、かなり興味深い。

 

12月18日
寒い。とりあえず6時台に起きるけど急激に寒くなったから布団から出たくなさすぎる。作業ではなく読書の続きをする。いろいろと併読していた作品が読み終わったので次の積読していたものに移った。
柴崎友香著『続きと始まり』、川井敏夫著『金は払う、冒険は愉快だ』、アンドレイ・クルコフ著『侵略日記』、テッド・チャン著『息吹』を追加。継続しているのは古川日出男著『平家物語 3』、大谷能生著『〈ツイッター〉にとって美とはなにか』。いくつか併読して一章ずつというよりはある程度の区切りのよいところまでを読んでは違う本をちょっと読むみたいな感じにしている。
始業時間になったのでリモートワークを開始。いつも通りの作業で午前中にあったオンラインミーティングでわりと話をした。施策を考えたり、どういう運用するかっていう時にそもそも上の方でそのサービスとかをどういう方向に向かわせたいとか決まってないと、下の方って決めようがないよなとか思ったりもする。
リモート終わってからすぐに湯船に浸かる。冬は基本的毎日湯船に浸かっているが、一番リラックスできる時間かもしれない。
自分の作業を二時間ほどしたら体が冷えてきたので諦めて布団に入って、読書の続きをしていたら眠くなったので寝た。

 

12月19日
寒くて6時過ぎに目が覚める。家を出るまでは毎週やっているミーティングの時に出す資料を書く作業を。思ったより進まなかった。


火曜日はユーロスペースはお得な料金で映画鑑賞ができるのでチケットを取っておいた。案の定、午前中だけど、年齢層の高いお客さんがかなりいてアキ・カウリスマキ監督を長年観てきた方々なんだろうなと思える客層だった。

フィンランドの名匠アキ・カウリスマキが5年ぶりにメガホンをとり、孤独を抱えながら生きる男女が、かけがえのないパートナーを見つけようとする姿を描いたラブストーリー。カウリスマキ監督による「パラダイスの夕暮れ」「真夜中の虹」「マッチ工場の少女」の労働者3部作に連なる4作目で、厳しい生活の中でも生きる喜びと誇りを失わずにいる労働者たちの日常をまっすぐに映し出す。

フィンランドの首都ヘルシンキ。理不尽な理由で失業したアンサと、酒に溺れながらも工事現場で働くホラッパは、カラオケバーで出会い、互いの名前も知らないままひかれ合う。しかし不運な偶然と過酷な現実が、2人をささやかな幸福から遠ざけてしまう。

「TOVE トーベ」のアルマ・ポウスティがアンサ、「アンノウン・ソルジャー 英雄なき戦場」のユッシ・バタネンがホラッパを演じ、「街のあかり」のヤンネ・フーティアイネン、「希望のかなた」のヌップ・コイブが共演。2023年・第76回カンヌ国際映画祭で審査員賞を受賞。(映画.comより)

淡々と物語は進む、その中に会話ややりとりでクスッと笑えるところがある。アンサやホラッペの主人公たちは若くはない。二人ともスマホとかをずっと見るわけでもなく、最新のものには興味がなさそうだ。
アンサの部屋ではラジオをよくつけているが、そこで流れてくるのはウクライナとロシアの戦争の状況であり、二人の日常の中に現在進行形の戦争が入り込んでくる。そのことは日本よりも国土が近いフィンランドのほうが恐怖だろうし、身近な戦争でもあるのだろう。
二人が惹かれ合い、再会するまではいつも通りの日常が描かれる。二人とも友人とのやりとり以外ではあまり人との関わり合いがない。社交的にも見えないが、孤独とは違うような振る舞い、一人でいることに慣れてしまってそれが普通になっている人間の生活の佇まい。そういう同じ気配や匂いを感じて二人は相手が気になったのかもしれない。

映画『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』特報解禁!【前章3月22日(金)・後章4月19日(金)全2章全国公開】 


三ヶ月後には「デデデデ」映画の前編が公開されるので楽しみ。ちょうど桜が咲き始めるか、暖かくなり始める頃だ。
家に帰ってから朝やっていた作業の続きを夕方過ぎまでやって、なんとか片をつける。別件で気になっていたことに関してようやくメールが来たのでそちらも一安心。


家から会食するお店のある麻布まで歩いていくことにした。一時間半以内には着く距離だったので、途中まで聴いていた『JUNK 伊集院光・馬鹿力』と『フワちゃんのオールナイトニッポン0』を行き帰りで聴いた。

ZAZEN BOYS - 永遠少女 


六本木の蔦屋書店近くの坂の辺りがクリスマス仕様でライトアップされていた。ちょうど、その時にZAZEN BOYSのニューアルバム『らいど』収録の『永遠少女』のMVがアップされているのに気づいて、この先に駐車場の自販機でブラックの缶コーヒーを買って飲みながら、一曲丸々聴いた。
この煌びやかな場所で戦争のことを歌った『永遠少女』の歌詞はなんだか真逆だけど、繋がっていて僕の心を穏やかにしてくれた。また、ライブでこの曲を聴いてゆれたい。


今年やっていたゲームのライティング作業の仕事を振ってくれた編集者さんと忘年会も兼ねて、「天富良 よこ田」へ。何が食べたいと聞かれて、天ぷらと答えたらこのお店を予約してくれた。
コースだったので写真以外にも何点が出てきたが、最初はエビの足を揚げたもので香ばしくて最高級のかっぱえびせんみたいだった。本番というかそこからえびの天ぷらで始まって十品ほど天ぷらが出てきて、最後にももう一回えびの天ぷら。絞めは天丼かお茶漬けかが選べたので天丼を。途中から日本酒も二杯ほどいただいたが、美味しかった。
カウンターだったので揚げたものをすぐに出してもらったけど、そのタイミングもちょうどよかった。
隣には一人で来られたアジア系の観光客の女性の人がいたけど、天ぷらをあげている職人さんは、スマホの翻訳機能を使って、白子の天ぷらとかもろもろ説明をしていた。今は英語や韓国語や中国とか話せなくてもスマホでとりあえず、意思疎通や説明もできるし、海外の人も日本っぽいものを食べる時にもこういうやりとりをしてくれれば安心だよなって思いながら、その光景を見ていた。ある程度の金額の料理屋さんということもあるし、サービスの一環ではあるだろうけど、もっと東京や観光地だけでなく常態化していってるんだろうな。
来年もこんな風に忘年会もかねて美味しいものを食べに行きましょうと約束をして解散。日本酒で体も温まっていたので来た道を歩いて帰った。こういう日があるとうれしいし、なんとかやっていける。

 

12月20日
なんとなく今月に入る前に有給使っておこうと思ったのがこの日だったので、前日の美味しい天ぷらと日本酒で心地よい気分になって家に帰ってぐっすり寝て、特になにもない、予定を入れない日にした。


散歩に行った時に寄った書店で『SPECTATOR』最新号が出ていて、テーマというか特集が「文化戦争」で中をパラパラめくるとマンガで描かれていて読みやすそうなので購入した。

 来年の前半はぺぺトルメントアスカラールと、2期スパンクハッピ・レトロスペクティヴ、に費やされることになる。後半はラディカルな意志のスタイルズに集中するだろうけれども、こうして年間計画で集中しないといけない運動体ではなく、遊撃的にいつでもできる構えになっているのがクインテットとQN/Kだ。

菊地成孔の日記 2023 / 12/ 19記す>

60歳になった今年、去年から菊地さんは体の至るところに不調や事故に遭ったりで、本来予定されていたライが延期というか飛んでしまって後ろ倒しになっていた。
日記にも描かれているので来年の前半はペペトルトメントアスカラール、後半はラディカルな意志のスタイルズのライブがあるのが待ち遠しい。
スパンクハッピーはあまり思い入れがないし、ファイナルしかリアルタイムでないのもあって、そこはたぶんイベントとか行かない気がする。

しかし、なにもしない一日だった。

 

12月21日
6時台に起きたが作業ではなく読書を。リモートワークが始まる前に週一のオンラインでのミーティング、意見交換もできたし来週までにまたやるべきことをして、来年形になるようにやっていくしかない。
リモートワークでの作業は来年のスケジュールというか、もう年末年始のあとのことになっている。一月は冒頭が会社が休みなので給料も減るからちょっと嫌だけど、動いていないのだから仕方ない。
昼過ぎにめちゃくちゃ眠くなった。なんだろう、また気圧か「冬季うつ病」的な睡魔なのか、旧Twitterこと「X」が死んでいて仕事でポストするものができなかったり、予約投稿が勝手に削除みたいになっていた。このまま「X」も終わるのかなとどこかでワクワクしている部分もあったが、16時ぐらいには復活していた。


仕事が終わってからニコラでガトーショコラとクリスマスブレンドをば。来週までお店はやっているのであと二回は行くので、「よいお年を」とはまだ言わない。

──かつて小津安二郎が撮った東京をたどるドキュメンタリー映画『東京画』から40年、東京に対する印象はどう変わりましたか?

ヴェンダース 『東京画』は1983年の映画なので、だいぶ昔の話ですね。その時は小津安二郎が亡くなってちょうど20年後のタイミングでした。そして2023年は『東京画』から40年。当時撮影した東京をいま見つけようとしても難しいですね。いま観るとまるでイノセンスな時代のようで、もはや存在しない都市のように思えてきます。『東京画』に映っている東京は、今日のそれよりも小津時代のものに近いですからね。

──私たちはどこか、ルーティンを退屈なものとして否定的に捉えがちです。

ヴェンダース そうなんです。でも実は、ルーティンはある種の構造を与えてくれます。そして、その構造の中にこそ、本当の自由を見出すことができる。自分自身を解放してくれるスペースが生まれる。だから、日課を重荷としてではなく、自分を助けてくれる構造として理解するならば、多くの人がもっと人生を楽しむことができるのではないでしょうか。

ヴィム・ヴェンダース監督インタビュー 「ルーティーンが与えてくれる幸せな人生」とは

今年一番最後に観ようと思っているヴィム・ヴェンダース監督『PERFECT DAYS』に関してのインタビュー。TOHOシネマズは年末年始やっているみたいだから、30日か大晦日に観れたらいいなと思っている。

 

12月22日
このところ恒例の寒くて目覚まし鳴るちょっと前に目覚める。リモートワークまで朝活がてら読書を。柴崎友香さんの『続きと始まり』と川井敏夫著『金は払う、冒険は愉快だ』は作品の内容もテンポも文体もまったく違うけど、どちらもそれぞれの日常に読者がうまく入り込んで、その視点で物語を読み進めていける感じのものになっていておもしろい。


リモートワークを始めて、昼休憩で外から戻ってきたら、Mephisto Readers Clubから第65回メフィスト賞受賞作 金子玲介著『死んだ山田と教室』全文掲載の「メフィスト」2023年冬特別号が届いた。
前回の須藤古都離著『ゴリラ裁判の日』も発売前に読めたけど、この形はすごくいいなと思う。単行本は来年五月ということなので半年後、そんなにかかるものなのかと不思議ではあるが、プロモーションだけではなく、ここから加筆修正とかするってことなのだろうか。

やりたいことは〈表現〉だけだ、私は。前回のこの「現在地」にも書いたが、たとえば連載中の『京都という劇場で、パンデミックというオペラを観る』を脱稿させるという先月後半の作業は、地獄に堕ちるに等しかったが、楽しかった。これは「苦しいが楽しい」の第1相である。じゃあ第2の相(フェーズ)はなんなのか、といったら、苦しんで苦しんで苦しんで執筆する数日間、というのを、保証してくれる金銭を、自分が稼いでいることである。1日に24時間、たとえば小説について考えなければならないとしたら、この24時間を、衣食住の面でサポートできるだけの金銭が〈いま、ここ〉に所有されていなければならない。だから、好きなことをやるためにお金が得られることも(事前に)やる。それは苦しい。これが「苦しいが楽しい」の第2相なのであって、そういう話をある初見の人に話したら「え? お金のことばかり考えてるんですか? 古川さんは」と言われた。めちゃめちゃ腹が立った。

古川日出男の現在地」 「好きなこと」のために 2023年12月22日

この「めちゃめちゃ腹が立った」という部分を読んで、古川さんには失礼なのだが笑ってしまった。初見の人は古川さんが書いている「第1相」のことへの想像がまったくないか、できない人だったからなのだと思う。
たぶん、ビジネス書とか自己啓発書は読んでいたり、読めても小説は読まないか読めない、読んでいても答えのあるようなものだけしか読んだことがない人なんだろう。ある程度の冊数のエンタメだけでなく純文学とか読んでいて、そんな質問はしないと思うし。


仕事が終わってから渋谷へ。金曜日の渋谷はクリスマスシーズンということもあって、ごちゃごちゃと人混みだらけ。目的地もわかっているので早く進みたいけど道いっぱいに人が歩いているのっで中々抜いていけないジレンマ。
日曜日に観る映画のチケットを買いに先にヒューマントラストシネマ渋谷に寄ってから、シネクイントへ。公開初日であり、A24作品ということもあるのかそこそこお客さんは入っていた。

SNSで流行する「90秒憑依チャレンジ」にのめり込んだことから思わぬ事態に陥っていく女子高生を描き、2023年サンダンス映画祭で話題を呼んだオーストラリア製ホラー。

2年前の母の死と向き合えずにいる高校生ミアは、友人からSNSで話題の「90秒憑依チャレンジ」に誘われ、気晴らしに参加してみることに。それは呪われているという“手”のかたちをした置物を握って「トーク・トゥ・ミー」と唱えると霊が憑依するというもので、その“手”は必ず90秒以内に離さなければならないというルールがあった。強烈なスリルと快感にのめり込みチャレンジを繰り返すミアたちだったが、メンバーの1人にミアの亡き母が憑依してしまい……。

主人公ミアを演じるのは、ドラマ「エブリシング・ナウ!」のソフィー・ワイルド。人気YouTubeチャンネル「RackaRacka(ラッカラッカ)」を運営する双子の兄弟ダニー&マイケル・フェリッポウが長編映画監督デビューを果たした。(映画.comより)

怖いところもたくさんあったけど、救いのない物語であり、呪われている「手」を握っての降霊術ごっこみたいな「90秒憑依チャレンジ」をしたミアが主人公。ミアは友人がダメだと言ったにも関わらず、その友人の弟にも「90秒憑依チャレンジ」をさせてしまったことでその日常が壊れていってしまうというもの。
人には見てはいけないことや知らなくていいことがある。この「90秒憑依チャレンジ」はドラッグだったり、アルコールだったり、とか依存症のあるもののメタファにも見える。ルールを守ってやっていればそこそこ楽しく遊びになるが、そのルールを守らなかったり逸脱してしまうとデッドエンドが来てしまう、あるいはその人間が壊れてしまってもう元には戻れない。
 A24は予算があまりかからないでアイデアでおもしろさがあるホラー作品でヒット作を何作品も出してきている。この映画はたしか北米の配給権を取って公開したものだと思うのだけど、ホラー映画ってエンタメであって、中高生から大学生ぐらいが何人かで観にいってワーキャー言い合うようなものが大ヒットに結びつきやすい。
今作もそういう要因はかなりあると感じたが、途中から「90秒憑依チャレンジ」によって壊れていってしまうものをどんどん見せられていき、主人公のミアが死んだ母の亡霊を見てしまうようになることで悲惨なことが連発していく。なんというか途中からダレたというか、怖いところもあるけど、あんまりハマれなかった。

 

12月23日
8時前に起きてからいつもの散歩に。『三四郎オールナイトニッポン0』を聴きながら代官山蔦屋書店へ。「三四郎ANN0」は前回がなかやまきんに君ゲストで収録だったので久しぶりに生放送だった。小宮さんのアドリブトークでどんどん進んでいき、相田さんのフリートークがなくなったが、リスナーからのメールも「宗教」コントトークに進んでいく小宮さんを後押しをする形になってこのラジオの良さが出ていた。
お店二階の音楽コーナーにいくとBEATINK関連コーナーが前から常設されていたが、前になかったフリーペーパーが置かれていたのでもらった。Oneohtrix Point Neverが表紙、裏はトム・ヨークのTHE SMILEのセカンドアルバム『WALL OF EYES』というもの。

家に帰ってから送ってもらったワードファイルのデータを読みながら気がついたことを校閲モードで赤入れして戻した。なんか年末気分だと作業する気が起きないのがネック。

 

12月24日

寒くて目が覚める。目覚ましが鳴る直前の7時前だった。ちょっとだけ本を読んでから家を出る。『四千頭身 都築拓紀のサクラバシ919』をradikoで聴きながらヒューマントラストシネマ渋谷へ。
本国アメリカでは四年前の2019年に公開されたケリー・ライカート監督×A24作品『ファースト・カウ』を鑑賞。二年前にイメージ・フォーラムで特集上映「ケリー・ライカートの映画たち 漂流のアメリカ」というのがやっていて、『オールド・ジョイ』と『ウェンディ&ルーシー』は観ていた。それでA24と組んでいるというのは当時もニュースで見ていて気になっていたけど、日本では公開スルーされていた。
おそらく僕のようにA24ファンとケリー・ライカートのことを知っている人はこういう作品は観たくてたまらないので、朝一だが三十人ぐらいはお客さんがいた。

「オールド・ジョイ」「ウェンディ&ルーシー」などの作品で知られ、アメリカのインディペンデント映画界で高く評価されるケリー・ライカート監督が、西部開拓時代のアメリカで成功を夢みる2人の男の友情を、アメリカの原風景を切り取った美しい映像と心地よい音楽にのせて描いたヒューマンドラマ。

西部開拓時代のオレゴン州アメリカンドリームを求めて未開の地へ移住した料理人クッキーと中国人移民キング・ルーは意気投合し、ある大胆な計画を思いつく。それは、この地に初めてやってきた“富の象徴”である牛からミルクを盗み、ドーナツをつくって一獲千金を狙うというビジネスだった。

クッキー役に「マネー・ショート 華麗なる大逆転」のジョン・マガロ。これまでライカート監督作の脚本を多く手がけてきたジョナサン・レイモンドが2004年に発表した小説「The Half-Life」を原作に、ライカート監督と原作者レイモンドが脚本を手がけた。2020年・第70回ベルリン国際映画祭コンペティション部門出品。(映画.comより)

男性社会や村社会的なものからはぐれて、あるいは意図的に逃避している男たち二人がとあることをきっかけに出会う物語で、非常に画が素晴らしく開拓時代当時の雰囲気が感じられる美術のよさもあって、何気ない日常が豊潤に描き出されている。
なにもない、持っていない男たちがたった一頭しかいない雌牛のミルクを盗んでドーナツを作って成り上がろうとする物語。ドーナツはすぐに評判になり、権力やであり牛の所有者にも認められる味だったことから、物語は崩壊へ動き出す。
クッキーとキング・ルーの二人は同性愛でもなく友達でもない、なんというか友情でもないのかもしれない絆というか親密さによってなんとか貧しさから、現状から脱出しようとする。そこにはミルクを窃盗することは悪いことだとわかっていても、二の次であり、クッキー自身は料理人だから作ったものが人たちに喜ばれる嬉しさがあり、野心を見せるキング・ルーは危ない橋をわたるのがうまいというよりも危機察知能力の高さで生き延びてきた野生味がある。
冒頭に現代であろう時代に発見されたものとラストの二人のシーンが重なることでおそらく悲劇は起きたのだろうなと想像させる内容にもなっていた。淡々と描くからちょっと退屈に、眠気は誘われる。だけど、その派手ではない映像は日常の延長線、かつてあった景色だろうなと感じさせてくれる。それだけでもケリー・ライカート監督の作品が他の作家とは違う、彼女の作品だとわかるのだからまさしく作家性が溢れているものになっていた。最新作『ショーイング・アップ』もA24の未公開作品特集上映で公開が始まったので今週中に観たい。

group_inou / HAPPENING 


group_inouが解散して数年経つのに突如リリースされたシングル曲、そのMVがアップされていた。なにかの狼煙だろう。あるいは思いつきで久しぶりになにか作ってみたってことなのだろうか、謎だ。歌詞は前よりもふざけてる感じはする。

「M−1グランプリ」敗者復活からTVerのリアルタイム視聴。ニッポンの社長とトムブラウンはもうなにやってんだか、声出して笑ってしまった。残念がらどちらかが敗者復活ということにはならなかった。トリッキーすぎるよ、最高だったのになあ。
そのまま本編を視聴。トップバッターの令和ロマンで笑ってしまった。好きな漫才だったし、彼らは『佐久間宣行のNOBROCK TV』や『ラヴィット』で見ていたり、『三四郎オールナイトニッポン0』にも松井ケムリが出ていたり、彼ら自身がパーソナリティーをやった「オールナイトニッポン」シリーズも聴いていたりしたけど、ちゃんと漫才を見たのは初めてだったかもしれない。他に好きだったのは真空ジェシカさや香は去年もだったけどなんか笑えないんだけど、なんでだろう。
決勝が終わって最終投票で松本さんまで三対三と同票だったけど、そこで令和ロマンに入った時に「おおっ!」と声が出た。そういう新しい何かが始まる瞬間だと本能的に感じたのかもしれない。
その後の千鳥さんが司会の反省会をYouTubeで見てから寝た。なんだか「M−1グランプリ」見初めて夜は他になんにもしなかった。ダメダメな一日だった。

 

12月25日
夢の中で僕はどうやら車に乗っていた。父が運転していたがその車は高級車で内装が革張りのようなもので、一気にしかし滑らかに加速した。外側のデザインを見ていないが僕はベントレーに乗っているとわかった。そんな中、母からの電話がかかってきた。電話に出ると夢から覚めた。

起きてから朝風呂に入って体を暖めながら体を起こす。ちょっとだけ読書の続きをしてからリモートワークを開始。年内の営業も自分は残り三日。来年のスケジュールとかも見つつ、年末年始にセットしておくこととか諸々やるけど、切迫感もないのでわりとのんびり作業をする。


20時から予約をしていたニコラでクリスマスコースをいただく。最初からビールを飲んでいたけど、お魚とお肉に合わせて白と赤ワインを出してもらった。すべての料理とデザートが美味しくて大満足だった。
今年でクリスマスコースは三年目、一年目ははじめてだったのもあって僕は皿洗いヘルプに入った。去年の二年目はどういう流れでやるべきかお店側もわかったので僕は皿洗いしなくてもよくなって、ひとりでコースに行くのはどうだろうと思って予約しなかった。今年はそもそもひとりでもいいし、いつまでコースをやるかというのもわからないわけで、食べたいと思っている時に食べておかないとダメだなと思って予約をお願いしていた。
ほんとうに食べにきてよかった。メインの魚とイモの料理と鴨肉も美味しくて、コースだからこそ出せるものだったりするだろうし、こういう機会に曽根さんが作った料理を堪能できた。デザートも二品あって、最後のショートケーキが最高の締めになった。コースが終わってからちょっと知っている人たちと談笑してから帰ったけど、ほんとうにいいクリスマスになった。

 

12月26日

起きてから昼にやる作業のために前にライティングしたものなどを確認してリストアップした。銀行にも用事があったので家から駅前に出て用事を済ませて、TSUTAYA書店で浅田彰著『構造と力』文庫本を購入。解説が千葉雅也さんというのも気になっていた。タイトルはよく聞くものだけど、正直読んだことがなかったのでこれを機会にしようと思った。

「BOOKSTAND映画部!」のレビューコーナー「月刊予告編妄想かわら版」2024年1月号が公開されました。1月は『笑いのカイブツ』『カラオケ行こ!』『僕らの世界が交わるまで』『哀れなるものたち』を取り上げました。



久しぶりに江戸川橋駅で降りて神田川を写真で撮ってから護国寺方面へ。今年やっていたライティング作業で資料を読むことも必要だったので、編集者さんにお願いして出版社の一室で関係のある資料を読んだり、気になる部分はスマホでとりあえず写真を撮ったりした。
今までやっていたライティングした箇所の固有名詞と何年だとか諸々を資料で直接確認する必要もあったし、読まないとわからない雰囲気ともあるので時間はかかるだろうなって思って、とりあえず13-18時でお願いしてたけどあっという間に時間が経ってしまった。スマホで撮ったデータを元にまた原稿を書き直したりしないといけないけどこういう作業をしないと進めない感じもあるので疲れたけど、仕事したぞと自分に言い聞かせて電車に残って帰った。

 

12月27日

6時過ぎに目が覚めるけど、寒くて二度寝。7時半ぐらいに起きてから読書してからリモートワーク。昼休憩の時にTSUTAYA書店に寄ったら坂元裕二著『それでも、生きてゆく』のシナリオブックが出ていたので購入。ドラマを見てから読むか、読んでからドラマを見るか悩みどこ。
作業中は『アルコ&ピース D.C.GARAGE』『JUNK 爆笑問題カーボーイ』『星野源オールナイトニッポン』『あののオールナイトニッポン』を。年末なので今年最後の番組だったり、収録だったりとみんな売れっ子だし忙しいんだろうなって。今年から始まった『あののオールナイトニッポン』はあのちゃんのブレイクがよくわかる内容だったし、彼女が出ているものは見たり聞いたりする一年だった。ポップなほうのAnoとしてのライブは観ていないけど、バンドI’sのライブには行けて熱狂を感じられたのはすごくよかった。
星野源オールナイトニッポン』では久しぶりのシングルリリースもあって、その一曲目の歌詞についての話とかを源さんがしていた。

星野源 - 光の跡 (Official Video) 




仕事を一時間早上がりして渋谷へ歩いて向かう。空に浮かんでいた満月がものすごく光っていた。

LOFT9で『宇野維正×柴那典 ポップカルチャー事件簿 「2023年徹底総括&2024年大展望」編』 を鑑賞。何度かチケット購入していたけど、原稿〆切とか用事ができていけずに配信で見るこということが続いていたので久しぶりの現場で。
『終わらない週末』から『Civil War』ティーザーから感じるものを柴さんが話されていてすごく同意した。宇野さんの旧ジャニーズのあとの怪談的な権力争い話がさいごにあった。昨日今日のあの話とは扱い方は違うのがよくわかったし、芸能界という場所におけるあるものを巡ることだから、それぞれのメディアも腰の入れ方が違うわけだ。
だいたいのこと表に出せないことばっかりだったが、お二人の音楽や映画やアニメや芸能に関しての知識と実際にライターとして取材していることから出てくる事柄は知らないことばかりだし、いままで見えていたことが違うものに、そういう角度から見るとだいぶ違ってくるなということがたくさんあった。
A24のとある最新作がすげえつまらなかったと宇野さんが言われていて、僕もそう思っていたけど、A24のプロデューサーいない問題、監督に好き勝手やらせてしまう問題とかもワインスタイン問題以降のアメリカ映画界のプロデューサーがいない、育っていないということにつながったりしているようで、物事には当然だけどいろんな側面や結果がある。単眼ではなく複眼で見るしかない、しかし、それが難しいし、何かに囚われてしまうとそれが非常に難しくなるなと思える、そう気づかせてくれるトークイベントだった。

 

12月28日
起きてから朝風呂に浸かる。寝ても疲れが取れていなかったりするし、目覚めにも風呂は気持ちよくてちょうどいい。
読みかけの本の続きを読んでからリモートを開始。今日が年内営業最終日だけど、オンラインミーティングもあって、来年初頭にすぐやることの打ち合わせをしたりいろいろと動いていった。
昼休憩の時に銀行に行って入金確認とかした帰りにツタヤ書店でトワイライライトで開催された豊崎由美著『時評書評』出版記念トークイベントで豊崎さんがオススメしていた月村了衛著『半暮刻』があったので購入した。内容紹介をされている時にこれはこの数年に起きたいろんなことを描いている作品だとわかったので読みたいと思ったものだけど、なんというか読み終わったらまた見え方が変わりそうだ。


22時過ぎてからニコラへ。年内最終日ということで常連さんたちがどんどん集まり始めて、毎年と同じようにたくさん飲んで話した。
「良いお年を」と言える場所がいつくかあるといいよねって思うし、そういう場所のひとつ。深夜三時には帰ったけど、夜風が心地よかった。

 

12月29日

9時前に目が覚めた。最終金曜日だったので近くのコンビニに行って朝食用のパンと一緒に朝日新聞を買った。月に一回の古川日出男さんの「文芸時評」が掲載されているのが読みたかったから。
他者と自己の隔たり、それを溶解して自分ごとだと考えられるようになること、世界中で争いや格差が肥大していく中でそのことがより意味を持つだろうし、差別や戦争で儲けたい人にはそれが一番邪魔になるのだろう、と思った。

『令和ロマンの娯楽がたり』を見たがかなりおもしろかった。メンツもいい(男女比もほどよく、お笑い&演劇、バンド&ラッパー、元アイドル(ラジオ好きも兼ねる))し、レギュラーになったら見てみたい。たぶん、レギュラー化すると思う。
途中から登場したトリックスターとしての永野さんの重要性がよくわかるものでもあった。トリックスターは時として王になる(代表格はスサノオかな)から永野さんマジで王になるかもしれない、僕がタモリさんの後継者のひとりは永野さんじゃないかと思うようになったのが今年。
タモリさんはジャズだけど、永野さんはロックがベースでカルチャー関連は実は博識、ダウ90000蓮見との絡みもよい(ダウの番組での永野さんと蓮見さんの絡みが良すぎて、ダウの単独も観てみようと思ったきっかけになった)が、そのおかげでその若き才能がいろんなジャンルのおじさんやおばさんから搾取されるのをうまく防いでいける存在にもなりそう。

文春砲で「松本人志問題」が取り上げられていて、「M−1グランプリ」で優勝したばかりの令和ロマンがかわいそうだったり、損しているような声も聞くけど、おそらく彼らの能力の高さならこれからもお笑いでしっかり才能を発揮してポジションを取っていくことになるんじゃないかなって思う。
ただ、今回の問題でどう吉本興業が対応していくのかでいろんなパワーバランスが変わっていく。旧ジャニーズ問題も性被害の問題だけど、芸能界における権力争いがあるからあれだけ報道をいろんなところがやっている側面がある。
吉本興業も同様になにかが大きく崩れる可能性が高ければ、その利権や権力をめぐってメディアは報道を加速していくだろう。だが、それがないないなと思えばメディアはそこまで追求しない可能性もある。だけど、それでも芸能界に関する性被害問題は業界の構造とも関係しているので、しっかりとそんなものが崩壊、瓦解してルールが作り直されて、こういう被害ができるだけなくなるようなものにしないといけない。単純にそうならないと未来がない。誰も作り手にも出る側にもなりたくない、自分で配信できるから問題ないよって人もいるかもしれないけど、結局のところ、権力や利権に金という問題が絡む時に起きてしまうこれらの問題について「しょうがない」という言葉がでないような環境や構造を作らないと将来的にどこかでまた起こるし、続いていってしまう。
そして、ただひたすらに正義の側として声を挙げ続けるのも難しい側面がある。旧TwitterことXで正論を言うことで変わることはあるし、小さな波紋が大きな波になるかもしれない。だけど、ずっとXに張り付いて自分の思う正しさだけをひたすらネットの海に流し続けてもそこにも未来はないのではないかと思っている自分がいる。正義もまた暴力なのだ、という人が我を忘れてXでポストしているのを見ると、なんかそのせいで正しさが間違って伝っているようにも感じてしまう。

僕は園子温監督に影響を受けたし、脚本を書くのを手伝ってクレジットしてもらったりノベライズも書かせてもらったという恩はある。園監督のアトリエでたくさんの人と飲む機会や少人数の時もあったけど、報道にあったようなことは知らなかった(もしかすると僕も知っていると思われて言われていなかったのもしれないけれど)。でも、そういっても関係性が近かったりするような人は知っているのが当たり前だと普通なら思うだろう。この辺りはそれぞれの件で当事者との関係性や距離でだいぶ知っていることは違うと思う。彼らは共犯者はごくわずかな人を選んだ上でやっているはずで、わかっているからこそ関係性が近くても飲みには行かないみたいな人もいたのではないかと想像はできる。
松本さんの報道にあったものも園監督の件も実際に業界で有名だったとしても共犯者的に関わっている人は少ないだろうから、被害に遭った女性たちから話を聞いた業界の人たちが知っていたということだ。それはずっと見逃されていたわけで、そこに声をあげることもできず、あるいはしたくてもできなかった人もいたから今回のような性被害は続いていた&多くの人が犠牲になったということでもある。
結婚していようが子どもがいても、浮気をして家庭以外の男女関係がどうであろうが、当事者の問題であり、夫婦間のことであるから、そこの倫理観は問われるとしても他者からすれば大きな問題ではない。だけど、報道にあるような性加害をしていたとなると話はまったく違う。それは犯罪だということ、一緒に飲んだりして当事者同士が合意の上でセックスしようがなにをしようが問題はないけど、嫌がっている人を騙したり、人数の多い男性が女性を逃げられないようにしたり、話すと業界にいられなくなるとか脅しをしてしまえばもう犯罪でしかない。
僕は筋肉ムキムキになる前ぐらいまではずっと松本人志ダウンタウンの笑いに影響を受けてきた。ロスジェネとは「ごっつええ感じ」を思春期に見て育った世代とも重なると思っていた。園子温監督の『ハザード』に衝撃を受けて彼の作品を観るようになって個人的に知り合うことでいろんな人に会えるきっかけもできたし、人生において大きな影響を受けた。僕がわりと大きな影響を受けてきた人たち性加害者じゃねえかと思うとどうしようもない、やるせない。怒りよりもどうしたらいいかわからない気持ちが、いろんな感情が混ざり合ってそれをうまくつかめない。
かつて今よりは若かった僕の中にあった性的な欲望や破壊的な欲求、社会へ受け入れられていないような怒りで世界を斜めに見たり皮肉る、そういうものが彼らの創作に惹かれていったのかもしれない。その意味でも僕の中にもそういう場所にいたら、そういうところに組み込まれていたら、性加害に加担してしまう可能性があったかもしれない。そういう可能性をこれからも排除して否定するためにも、僕は擁護もしないし、やっぱり性加害したことについて事実であれば、それがいつのことだったとしても彼らはこれから罪を償うしかないと思っている。


昼過ぎに家を出てヒューマントラストシネマ渋谷へ。「A24の知られざる映画たち」という特集上映で先日観た『ファースト・カウ』のケリー・ライカート監督の『ショーイング・アップ』を観にきた。
A24ブランドでもあるし、ケリー・ライカート監督の注目度もあがっているのもあってか年末の仕事納めが終わったところも多いのもあるだろうけど、こんなにこの映画でお客さん入るだってぐらい入っていた。

「ウェンディ&ルーシー」などで知られ、アメリカ・インディーズ映画界で高く評価されるケリー・ライカート監督が、ミシェル・ウィリアムズと4度目のタッグを組んだ作品。芸術家の女性の思うようにならない日常や周囲の人々との関係を、時に繊細に、時にユーモラスに描く。

美術学校で教鞭を取る彫刻家のリジーは、間近に控えた個展に向け、地下のアトリエで日々作品の制作に取り組んでいる。創作に集中したいのにままならないリジーの姿を、チャーミングな隣人や学校の自由な生徒たちとの関係とともに描いていく。

主人公のリジーをウィリアムズが演じた。共演に「ダウンサイズ」「ザ・ホエール」のホン・チャウ、ライカート監督の「ファースト・カウ」に主演したジョン・マガロ、ラッパーのアンドレ・ベンジャミン、「フェイブルマンズ」のジャド・ハーシュ。2022年・第75回カンヌ国際映画祭コンペティション部門出品。(映画.comより)

残念ながら半分以上寝てしまった。『ザ・ホエール』にも出ていたホン・チャウや『ファースト・カウ』主演だったジョン・マガロも出ていて、A24作品っぽいなって思ったけど、なんだろう。前日遅くまで飲んでいたせいなのか、単調な流れではあるから眠りを誘ったのか。この映画について僕は語れない。

リモートワークの時にいつもradikoを聴きながら作業をしているけど、それがないので歩く時とか空いている(TVer見ない時とか読書)時に『四千頭身 都築拓紀のサクラバシ919』と『マヂカルラブリーオールナイトニッポン0』は聴けた。都築はほんとうに「ラジオ」になろうとしている。番組がどんどんおもしろくなってるのが感じられた一年だった。マヂラブは僕があまり興味のないことを二人が話しているけど、ずっと聴けるのはたぶん二人の声が僕に合うからなんじゃないかな。



17時前に通称「ぷくいち」へ。年内最後の営業で予約ができないからオープン前に並ぼうと樋口さんに言われていた。樋口毅宏三輪記子ファミリーとご飯をすることになっていたが、すぐにみんなが揃わなくてとりあえず並んでいたので五人と告げて中に入ってビールとつまみを頼んで待っていた。
タクってきてくれて揃ってからたくさん食べて飲んで話をした。一番下の娘さんは初めて会ったけどもう一歳半で離乳食ではなく、だし巻きとか普通に食べてた。長男くんは前に会った時よりもずいぶん大きくなっていて、話もちゃんとしていた。両親がめっちゃしゃべるから、すごくおとなしくなるかしゃべりまくるようになるのか、どうなんだろう。
いろいろと共通の話題とか話をしたけど、世の中はほんとうに複雑だ。とりあえず、正義を振りかざしていくとマヒる、暴走するからその塩梅が難しいよねって話にはなったけど、やっぱり単眼ではなく複眼で世界を見ないとどうしても大事なものを損なったり、傷つけていくし、たぶん後悔することになるんだろうなって。

 

12月30日
有村架純と付き合っていて、彼女の実家に行く。彼女の部屋にいたと思ったらすぐに居間に場面が変わって、彼女の父親に交際の許しをもらった。その後、一人で彼女の家から帰る途中に、有村架純って熱愛報道あったよなって思う。あれってなんだったんだ?と思い出して目が覚めた。
どういう夢やねん! どういうきっかけやなんの影響で有村架純さんが出てきたんだ? 不思議すぎる。オチもなんなんだ?


7時半過ぎに家を出てTOHOシネマズ渋谷まで歩いていく。radikoで今年最後の『三四郎オールナイトニッポン0』を行き来で聴いた。四千頭身の都築が台湾に行く飛行機待ちの間に電話で出演し、去年から今年にかけての年越し番組での都築再びな感じになっておもしろかった。来年も『三四郎オールナイトニッポン0』は毎週のお楽しみなので、二人とも健康で今のままでゆるゆると続けてほしい。
年末の渋谷だけどまだ朝が早いからそこまで人はいない。『PERFECT DAYS』の上映はスクリーン1の小さなスクリーンだったが、半分近くは朝早いけどお客さんは入っていた。
ヴィム・ヴェンダース監督は数年前にル・シネマでレトロスペクティヴ上映があって、その時に代表作十作品は観ていて、好きな監督だし彼が日本をどう撮ったのか気になっていた。2023年の映画納めはこれにしようと前から考えていた作品。
水道橋博士のメルマ旬報』でご一緒していたスタイリストの伊賀大介さんが衣装でこの映画に参加されていることは知っていたけど、作中で翻訳家の柴田元幸さんが普通に役者として出演していて驚いた。

パリ、テキサス」「ベルリン・天使の詩」などで知られるドイツの名匠ビム・ベンダースが、役所広司を主演に迎え、東京・渋谷を舞台にトイレの清掃員の男が送る日々の小さな揺らぎを描いたドラマ。2023年・第76回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に出品され、役所が日本人俳優としては「誰も知らない」柳楽優弥以来19年ぶり2人目となる男優賞を受賞した。

東京・渋谷でトイレの清掃員として働く平山。淡々とした同じ毎日を繰り返しているようにみえるが、彼にとって日々は常に新鮮な小さな喜びに満ちている。昔から聴き続けている音楽と、休日のたびに買う古本の文庫を読むことが楽しみであり、人生は風に揺れる木のようでもあった。そして木が好きな平山は、いつも小さなフィルムカメラを持ち歩き、自身を重ねるかのように木々の写真を撮っていた。そんなある日、思いがけない再会を果たしたことをきっかけに、彼の過去に少しずつ光が当たっていく。

東京・渋谷区内17カ所の公共トイレを、世界的な建築家やクリエイターが改修する「THE TOKYO TOILET プロジェクト」に賛同したベンダースが、東京、渋谷の街、そして同プロジェクトで改修された公共トイレを舞台に描いた。共演に新人・中野有紗のほか、田中泯柄本時生石川さゆり三浦友和ら。カンヌ国際映画祭では男優賞とあわせ、キリスト教関連の団体から、人間の内面を豊かに描いた作品に贈られるエキュメニカル審査員賞も受賞した。(映画.comより)

主人公の平山のトイレ清掃の仕事と毎日毎週の生活のルーティンを描いていく。その中で彼のルーティンが壊れてしまったり、変更しないといけないことが彼の側からではなく、外側の他者によって起こされていく。
あまり感情が出ず、言葉も多くは発しない平山だが、他者との関係性の中で感情は大きく動いて揺らいでいるのが役所広司という俳優からゆっくりとだが確実に強く観客に伝わってくる。
ヴィム・ヴェンダース監督らしく平山が仕事場がある渋谷に向かうまで自動車に乗って東京の街を移動するのはすごくよかったし、平山と関わる人たちも微笑ましい。
60歳とか近い平山が働かないといけない現実や、労働環境や問題なんかは出てこないし、オシャレなトイレの公共性やその意図であったり、今回はUNIQLOがかなり出資している作品だったりするのでその部分での批判もあるだろうなってわかる。
でも、なんか偽善ぽいかもしれないけど、富裕層がこういう風に社会が成り立っているのはこういう仕事をちゃんとしている人がいて、人と人の緩やかな交流やつながりがあるということを描く映画にお金を出しているのはまだマシなのかなって思う自分もいる。
そういうことも含めても、ヴィム・ヴェンダース監督が見た東京、そこにいた平山のルーティンとそれが時折変化する他者との交流は僕には届いたし、すごく好きな映画だなって思った。パンフ買おうと思ったら売り切れてた。

帰ってからTverで『全力!脱力タイムズ』を見たら、永野さんがまた出てきていいコメントをしてた。ちゃんと皮肉であり批評でもある毒を吐いていた。

夕方前に波木銅著『ニュー・サバービア』が太田出版さんから届いた。帯に推薦コメントを寄せた樋口毅宏さんからのご紹介みたいです。ご恵投いただきありがとうございます。
来年1月19日みたいなので少し早めに読ませてもらいます。

――価値観を揺さぶられるような出来事があったときに、それを受け入れられるかどうかが大事ですよね。年齢を重ねると、どんどん難しくなるような気も……。

わかります(笑)。でも、「知らなかっただけでしょ」「間違えていただけでしょ」という話だと思うんですよ。「厳しく指導することが正しい」と思われていたことが今ではパワハラになったり、「僕は君を守る」ということがじつはパートナーを家庭に閉じ込めていただけだったとか、いろんな変化があるじゃないですか。この10年くらいで社会的な常識のラインもかなり動いているし、「1回も間違えずに生きていく」みたいな幻想は捨てたほうがいいと思うんです。どういう場面でそう思うかは人によって違うだろうけど、「あんなことをしてしまって申し訳なかった」みたいなことって普通に起きるので。

アジカン後藤正文「正しさというものを疑いたい」朝日新聞の連載エッセーで日々の思いを発信

――よく言われることですが、日本ではミュージシャンや俳優などが社会的なメッセージを発しづらい雰囲気があります。そのことについてはどう感じていますか?

他の人のことはわからないですけど、僕自身は「それで売れなくなるなら仕方ないかな」と。「(政治的、社会的な発言に対して)そんなこと言わないで」とファンの人に言われることもあるし、それで自分たちの音楽が聴きづらくなるのは申し訳ないなという気持ちもあるんですよ。ただ、社会的な問題や人道的な問題に対して何か言うことで、自分の曲が聴かれなくなるような社会だったら、もうしょうがない。それは受け入れようと思っています。だって「子どもたちの虐殺をやめろ」と言うことで仕事がなくなったとしたら、そっちのほうがおかしいじゃないですか。大丈夫ですよ、そうなったらもう一度SHELTER(東京・下北沢のライブハウス)のオーディションから始めるので(笑)。また自分たちで場所を探してライブをやればいいし、商業的な成功がすべてではないですからね。自分たちも商業的なタイアップで曲を作ることもあるし、「偉そうに言うな」という話かもしれないけど、最終的には音楽は一人でも作れるから、という気持ちでいます。理解してくれたり、間違ったら諭してくれる仲間も周りにいますしね。

アジカン後藤正文「何度も炎上して燃えかすに」それでも社会の問題について発信・活動を続ける意味

ゴッチさんのインタビューを読む。彼は正しいことを声だかにいうのではなく、行動が伴っているし、言葉への信頼と責任を強く感じているのが伝わってくる。だから、彼のいうことは聞いてみようと思えるし、その上で自分でどう受け止めて考えるべきなのかという方向に僕らも向かえる。


STUTS - 夜を使いはたして feat. PUNPEE (“90 Degrees” LIVE at 日本武道館 June 23, 2023)


この曲にこの数年支えられていて、武道館ライブは最高だったし、この曲を生で聴けたことがほんとうにうれしかった。

 

12月31日
7時に起きる。昨日『PERFECT DAYS』を観たらシネマイレージのポイントが6になった。そこまで貯まると一回鑑賞料金が無料になる。来年の一発目でもいいかなと思ったけど、パンフも買えなかったしせっかくだから大晦日に二回目をそのポイントを使って観ることにした。
昨日よりは一段下の列の同じ番号の階段横。8時25分から上映と早いが年齢層は高い感じも同じだがそこそこお客さんは入っていた。
役所広司さん演じる主人公の平山は渋谷の公衆トイレの清掃まではスカイツリーすぐの家から自動車を運転して向かって、仕事が終わればまた帰っていく。自動車というものは一つの部屋であり、個人的な空間である。だからこそ、彼のパーソナルスペースとして誰かが乗ってくることは基本的に彼は好んでいない。
だが、規則正しいルーティンは他者によって破られる。そして、仕事先の後輩であるタカシ(柄本時生)や彼が熱を上げているアヤ(アオイヤマダ)が乗り込んでくる。また、姪っ子であるニコ(中野有紗)は家出して叔父である平山のアパートに転がりこみ、彼の仕事についてきてその仕事ぶりを見る。アヤとニコという平山からすれば娘同然の若い女性たちは車内でかけている彼がずっと聴いてきたカセットテープに興味を持つ。もちろん二人ともスマホを使っているし、車内で鳴っている曲もアプリで誰のどんな歌かすぐにわかる。彼はSpotifyも知らない、その必要がないから。彼の新しいものよりもずっと馴染んできたものとの生活は、時代遅れであり、彼女たちのような存在との交流が基本的にはないので新しいサービスや単語はわからない。だけど、それで彼はいいというスタイルを取っている。
一周り以上してカセットテープもレコードも形として若い世代に受けているのは事実ではあるが、この作品では懐古主義とも見える平山のスタイルをよいものでもなく、悪いものでもなく彼が選んだものだとして描いているので観ていてそこまで嫌だとかおかしいとかは思わない。
ある種の世捨て人である平山はどこか聖人君主のような描き方にはなっているが、ニコの母である妹ケイコとのわずかな交流で父親との軋轢があり、そのことで彼はなにかを諦めたか捨てたことがわかる。ケイコは運転手付きのレクサスでニコを迎えにくるのでかなり金持ちであるという描写はされている。おそらく平山自体もボンボンだった可能性が高く、父親が会社経営などしていたのだろうか、彼はそれを継がなかったり否定することで出ていって妹であるケイコが会社などを継いだようなイメージができる。
その意味で平山は競争社会から降りた人であり、そのことで日々の微細なことに喜びを見出し、トイレ清掃という仕事にも自分なりの誠意と誇りをもってやっているのだろうと観ていると感じられる。
製作はUNIQLO柳井正の息子で同社の取締役兼グループ上席執行委員である柳井康治だというのが確かにそういうものを描く上で引っかかる部分ではある。彼らは平井のような生活ではなく、明らかに妹のケイコの側の人間だ、ということだ。そういうこともあるので、これがある種の偽善のようなものだとしては、金持っている側は露悪的に振る舞うよりはまだそっちの方がマシではないかと僕が思った部分だったりする。
あと二十年とかして、自分がこのまま東京で生活をしているとしたら、おそらく独身で子供もいなく、仕事も平山のような清掃員などをやっている可能性はかなり高い。そういう視線でも平山を見ている自分がいた。
スマホは便利だが、Wi-Fiがなければ充電がつきればなにもできない。音楽だってSpotifyとかのアプリが機能しなければ聴くことすらできない。そういうこと無意識で多くの人は感じているだろう、やっぱり目に見えるものは安心する。カセットやレコードの再ブームも結局目に見えない配信サービスの裏返しにあるだろうから、それらの割合がどんな風に変わっていくのか、それによって人々の生活スタイルも変わっていくだろう。だけど、そのサービスやシステムからこぼれ落ちる人も出てくるし、そのための公共や福祉という側面はどんどんこの国ではなくなってしまっている。

2023年映画マイベスト
01:『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』
02:『スパイダーマン : アクロス・ザ・スパイダーバース』
03:『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー : VOLUME 3』
04:『PERFECT DAYS』
05:『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』
06:『イノセンツ』
07:『ザ・ホエール』
08:『SHE SAID/シー・セッド その名を暴け』
09:『AIR/エア』
10:『キリエのうた』

今年のマイベストはこんな感じ。『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』『スパイダーマン : アクロス・ザ・スパイダーバース』は四回、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー : VOLUME 3』は三回、『PERFECT DAYS』『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』『ザ・ホエール』は二回劇場(スクリーン)で観た。映画は劇場とそこに行って観るという体験がセットだし、それが僕にとっては大事なことで映画ということ。必然的に好きな映画は回数が増える。「エブエブ」は『アンダー・ザ・シルバーレイク』以来DVDを買うぐらいには好き( A24ショップでスペシャルエディションを購入したがリージョン違うからたぶん日本では観られないけれど)な作品。
A24はシネマライズで2013年公開のハーモニー・コリン監督『スプリング・ブレイカーズ』からわりと気になった作品がそこの作品だったりして観てきたが、『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』『アンダー・ザ・シルバーレイク』みたいな作品は少なく、十作品観たら当たりは二作品ぐらいと実は打率は低い。だが、当たりは低いが作家性はそれなりに高かったりはする。だから、次作とかほかの映画会社でいい作品を撮る監督がちょこちょこいるというレーベルにもなっている。

毎年元旦は東京湾に向かって歩くというのが決まりごとになっていて、明日はどうしようかなと思っていたがルートは決まったのでそれとちょっと関係する小説を読みながらのんびり過ごすことにした。

小説を読みながらradikoで『川島明のねごと』を聴きながら、NHKプラスで『第74回NHK紅白歌合戦』のano出演だけは見ようと思って曲順から合わせて見た。
司会の有吉さんとは番組で共演しているのは知っていたけど、浜辺美波とも昔共演していたらしい。そして、もう一人の司会の橋本環奈。確か、橋本環奈が世に出たのは「奇跡の一枚」と呼ばれる写真からだったが、アイドル時代のあのも同様に「奇跡の一枚」と呼ばれる写真があり、その対比として「天使と悪魔の最終決戦」と言われていて、今でもネットで検索すると出てくる。

Twitterを検索したらやっぱり「天使と悪魔の最終決戦」の話題を出している人がたくさんいた。そこからは毎週日曜日に聴いている『有吉弘行のSUNDAY NIGHT DREAMER』をBGMに読書の続きを。


元旦に歩く場所が出てくる小説を読み終えたら旧TwitterでYOASOBI『アイドル』で出場歌手のアイドルたちとのコラボで橋本環奈&anoも一緒の「天使と悪魔の最終決戦」を踏まえた演出があるみたいなのでそこだけ見てみた。これはコラボ企画として圧倒的に強いわ。紅白でしかできない演出だった。

それでは皆さま良いお年を。

2023年はこの曲でおわかれです。
I's - " 永遠衝動 " LIVE at 渋谷WWW X