Spiral Fiction Note’s diary

物書き&Webサイト編集スタッフ。

『フラワーガール』


 彩瀬まる著『やがて海へと届く』読了。「喪失と再生」についての静かな、でも確かな祈りに似た物語。彩瀬さんは文章がキレイだが、章ごとというか現実の世界に挟まれている章での書き方は幻惑的で『遁走状態』のブライアン・エヴンソン を思い浮かべた。
 境界線があり、こちら側とあちら側にいる人の物語を綴るには、この小説で書かれたやり方が、いちばん読む側があちら側にいる人に想いを寄せている人に同化できるんじゃないだろうか。
 口コミでどんどん広まって読まれていく作品になると思う。装丁も内容とあっていていい。




 ぼくのりりっくぼうよみ『hollow world』を昨日からずっと聴いてる。17歳、受験生マジかよ、『文學界』にエッセイも羨まし! 新しい時代はいつもやってきていて、僕らはいつだって遅れてきた青年だし、間に合ってしまった青年だし、早すぎた青年なんだろうなって思う。いろんなものや世代がクロスオーバーすればいい。




三軒茶屋三角地帯考現学



『クレイジーキャメル』
 麿赤兒の舞台を初めて観る。始まって時にこれはアングラだと、思った。アングラというジャンルだったりかつて新宿で団十郎さんたちがやっていた赤テントとか映像で観たことしかないけど、脳裏にアングラという言葉が浮かんだ。感覚としてそう思ったのだからどうにもほかに形容しようがない。全身金粉で塗りつくした演者たちの動き、妖艶さと禍々しさが混ざり合って、天国と地獄の織りなす世界のようでもあった。普段使わない脳の部分が刺激されているように。



『フラワーガール』
フラワーガールが海辺で佇んでいる
近づいていくとこちらを見て
右手で顔の花を一本抜いてわたしに差し出した
ふんわりとした黄色い花
受け取ると花は燃え出して黄色い炎になって消える
フラワーガールはもう一本抜こうとする
それを断って海辺に座ろうと提案した
フラワーガールと打ち寄せる波を見ている
わたしの肩に花が寄りかかる
甘酸っぱい匂いがしていて
鼻を近づけると花が笑いかけてくる
遠くから匂いにつられたミツバチがやってきて
蜜を吸うと彼女はくすぐったそうに笑う
ミツバチはたくさんの蜜を蓄えて飛んでいく
その方向には地上に落下しそうなオレンジ色の夕日
萌えるような地平線にミツバチが飛んで行って
フラワーガールと夜に落ちていく