Spiral Fiction Note’s diary

物書き&Webサイト編集スタッフ。

『初音ミクはなぜ世界を変えたのか?』


 先月の26日にABC本店で山崎洋一郎×樋口毅宏トークイベントを観に行った。小説家の窪美澄さんもお客さんで来られていて僕らはそのまま打ち上げにも行った。行く前のサイン会というか書籍購入者に両名がサインしている時に柴那典と初めてお会いして挨拶をさせてもらった。
 『あまちゃんモリーズ』に音楽を担当した大友良英さんのインタビューが載っているがインタビューをしたのが柴那典さんとPLANETSの中川さんだった。

あまちゃんメモリーズ    文藝春秋×PLANETS

あまちゃんメモリーズ 文藝春秋×PLANETS


 僕はその少し前に古川日出男さんが学長を務めた福島県郡山で行われた「ただようまなびや 文学の学校」に行っていて大友さんの講義は取っていなかったが二日目の休憩時間に知り合いの方々と一緒に立ち話をさせていただいていた。その縁もあってお二人が大友さんにインタビューしたものの文字起こしバイトをしていた。それもあって柴さんとはメールはしていて、だけど一度もお会いした事がなくSNSで繋がっているという状態だった。
 まあ、狭い世界というのか出版界隈の人と知り合いになっていくと数珠つなぎに知り合いの知り合いはほぼ知り合いになっていく、僕みたいにデビューもしてないしライターらしいライター仕事もしてなくてもなんとなく知り合いになっていく。
 打ち上げでも柴さんはロッキングオンにいたこともあってそういう話もされていたけど、春日太一著『あかんやつら』みたいに『あかんやつら』のロッキングオンver.は確実に面白いなと思うが、色んな問題がありすぎそうなんで無理っぽいw
 


 そんな柴さんの初の単著『初音ミクはなぜ世界を変えたのか?』が出ると聞いていたので初音ミクとかボカロとかほぼ聴いてないし知らないに近いのだが楽しみにしていた。最近、知り合いの人や知り合いの知り合いの人がどんどん本を出しているので超羨ましい気持ちもあるが単純にすげえなあって思いながら書店で見つけると嬉しい。
 バイト先の近所の書店で『初音ミクはなぜ世界を変えたのか?』を見つけたのでゲットしてきた。
 金曜で花見に今週ラストぐらいな勢いなのに人がいねえから風邪&花粉で体調がだるだるダルビッシュなクソな状態なのに疲れて雨降るから意味のない力仕事をして外にあるものを中に閉まったら今度は出せとか言われて出したらゲリラ豪雨みたいな大雨に降られてもはやすべてがどうでもいい!!!!!!と灰色の空に叫んでやろうかと思ったが空に叫んでも祈りは届かないので止めてひたすら皮肉や嫌みをインカムで言ってみた。気持ちが荒んだだけだった。
 

 仕事帰りに僕がひとりで行ける数少ないお店ニコラに行っていつものを飲んで食べながら『初音ミクはなぜ世界を変えたのか?』を読んだ。
 読みながら感じたのはこれすごくいいなということ。
 序章「僕らはサード・サマー・オブ・ラブの時代を生きていた」一章「初音ミクが生まれるまで」二章「ヒッピーたちの見果ての夢」の流れだけでも初音ミクが生まれた背景から技術の進化とヒッピーカルチャーとコンピューターを繋いだ男、アメリカ西海岸というインターネット文化の始まりから今へとわかりやすく書かれている。


 一九六七年のアメリカ、
 一九八七年のイギリス、
 二〇〇七年の日本、
 二十年おきのサマー・オブ・ラブには「新しい遊び場」と誰でも参加可能なコミュニティと中心に音楽があった。そう歴史が繋がれている。ゼロ年代以降に分断されたものを柴さんが意識的に意欲的に自分が関わってきたジャンルできちんと接合しようとしている感じが読んでてする。
 上の世代と今の若い世代の狭間で分断されてしまった歴史をきちんとこういう流れがあって初音ミクに繋がるんだよって。すごくそういうの大事だと思う。この書籍はできれば初音ミクとかが普通にあって聴いてきた若い世代が読む事で自分たちの親世代とか上の世代に起きた事やそれが脈々と繋がっている、歴史という時代の果てにあるんだよってことを知ることができると思うし断絶したものを繋げれる一冊。 


 人形浄瑠璃などの文化がある日本で初音ミクが生まれて育つというかユーザーの間で育ち世界に放たれていったなどの話も興味深いがクリプトン社の伊藤社長にしている最後のインタビューは文化がいかに育って行くのか、一発屋みたいなヒットカルチャーから豊穣で次世代に繋がって行くものに育て行くかについての姿勢と新しいものは奇跡的なタイミングと出会いによって生まれてくるものだとわかる。


 ボカロPたちもただ楽しむために始めたものが広がっていった。初音ミクを開発していた人たちのバックグランドにあったものが与えた影響など本書に書かれていることは「初音ミク」を巡るゼロ年の景色のドキュメンタリーだがこの十年に定番になって音楽シーンを賑やかなものにしている。
 柴さんにはぜひ二十年後に起こりうるであろう「フォース・サマー・オブ・ラブ」について書いてほしい。その時二十年前に起きた「初音ミク」からの影響や類似点を挙げてもらってとなると音楽の歴史書のようになるのかもしれない。

初音ミクはなぜ世界を変えたのか?

初音ミクはなぜ世界を変えたのか?



てれびのスキマ著『有吉弘行のツイッターのフォロワーはなぜ300万人もいるのか 絶望を笑いに変える芸人たちの生き方』 (コア新書)
http://booklog.jp/item/1/4864366020
↑に書いた簡単なレヴュー。


タモリ学』が『いいとも!』最終回とグランドフィナーレの前に発売され、『水道橋博士のメルマ旬報』連載の『芸人ミステリーズ』の中から選りすぐりのものと有吉弘行についての書き下ろしが追加されたこの『有吉弘行のツイッターのフォロワーはなぜ300万人もいるのか 絶望を笑いに変える芸人たちの生き方』(←タイトル長い!!!)がほぼ同時にと言える時期に出た事がすでにてれびのスキマという物書きが必要な時に、今しかないというタイミングで書籍を出して単著デビューしたという印象を持つ。


この二冊は読めばすぐに読み終わってしまう。スルスルと読み進んでいって楽しんで終わる。情報量は多いはずなのに交通整理が巧みにされていてスルーと滑らかに読者に読ませていく。


お笑い好きな多くの人が読む事になるだろうし、これから出会う人がたくさんいる本だと思う、同時にこれからお笑い関連の本がスキマさんの登場によって変わっていきそうな気配がある。


『いいとも!』のグランドフィナーレの裏番組で司会をしていたのは有吉弘行がメインを務める『有吉反省会スペシャル』だった。タモリさんがお昼の座から降りるお別れ会にはダウンタウンウッチャンナンチャンとんねるず爆笑問題ナインティナイン明石家さんまというビッグネームが一堂に会した奇跡が起きていた。
ただ、見ながらそこにいるお笑いの綺羅星は当然ながらタモリさんとは別の輝きであり彼の変わりにはならないし、それぞれがすでに一等星だった。あの場にいるものが次の座に着くものではないそんな感じがあった。


という僕の想いみたいに『タモリ学』のあとに出る本のタイトルが『有吉弘行のツイッターのフォロワーはなぜ300万人もいるのか 絶望を笑いに変える芸人たちの生き方』というのはもうスキマさん最高だ、これだこれと思ってしまうわけだ。


ブログ等で注目されていた書き手が書籍を出すと言うのはすごく夢のある事だし、誰だってブログを始めて文章を書く事が出来る時代だけに実はブログで人気になっても(まずそれが困難なのに)その先の景色を見れる人はさらに、本当に限られている。プロの書き手になれるという意味で。アフリエイトとかそういう手段での儲けじゃなく書き手としての原稿代や書籍の印税やなんかで自立するのは一昔の物書きよりもさらに難しいはずだ。


もう、熱量をどこまでぶつけて形にできるか巻き込めるか、いやはや巻き込まれるか。
星座の繋がりを意識すればただの星々の輝きがある像を浮かび上がらせていきそこに物語が生まれる。物語は世界を理解する最良のモデルだ。てれびのスキマさんという書き手はお笑いを通じて僕ら読み手に星々の輝きの繋げ方を浮かび上がらせ方を教えてくれる書き手だから。もう次の三冊目も楽しみに待っている。