Spiral Fiction Note’s diary

物書き&Webサイト編集スタッフ。

『桐島、部活やめるってよ』


監督: 吉田大八
原作: 朝井リョウ
脚本: 喜安浩平
出演:神木隆之介橋本愛東出昌大、清水くるみ、山本美月、松岡茉、落合モトキ、浅香航大前野朋哉、高橋周平、鈴木伸之、榎本功、藤井武美岩井秀人奥村知史、太賀、大後寿々花




ストーリー・とある田舎町の県立高校映画部に所属する前田涼也(神木隆之介)は、クラスの中では地味で目立たないものの、映画に対する情熱が人一倍強い人物だった。そんな彼の学校の生徒たちは、金曜日の放課後、いつもと変わらず部活に励み、一方暇を持て余す帰宅部がバスケに興じるなど、それぞれの日常を過ごしていた。ある日、学校で一番人気があるバレー部のキャプテン桐島が退部。それをきっかけに、各部やクラスの人間関係に動揺が広がり始めていく。


 新宿バルト9にて観賞。午後五時前の回だけどわりと埋まっていた。作品に出てくる高校生ぐらいよりはそれより上の世代の方が多い感じかなあ。
 原作は未読ですが何度も予告で観てて面白そうだなって思っていたのとツイッターのTLで映画関係の人の評価高いので早めに観に行こうと思って。

 


 岡崎京子著『チワワちゃん』をうまく映像化するとこんな感じかなと。東京の中心が空虚なように外部を周りから語り内部≒中心を露出、浮かび上がらせていくようにスクールカーストの頂点にいる桐島を巡る群像劇。
 同じシーンも各人物事の視点やその後の行動があり、それが何度か交互に重ねられていく事で多層的にひとつの事も見せていく。それぞれの想いや行動によって現れてくる出来事や結果、そして感情の発露。
 バレー部のキャプテンであり人気者で彼女もギャルではないが可愛くスクールカーストの頂点にいるであろう桐島がバレー部を誰にも言わずに辞めた事で彼女がその女友達、バレー部員や桐島の男友達の平穏な日常は彼がいなくなることで(欠席なのか逃げ廻っているのか、↑彼とクラスがほぼ違うはずだった)安定を失う。

 
 運動部という体育会系、帰宅部だけど女子と仲の良い彼らと桐島や宏樹の彼女のイケてる(可愛さとその無意識に似た傲慢さ)女の子のスクールカースト上位たちと地味な真面目なバド部や帰宅部でバスケで遊んでいる宏樹を屋上から吹奏楽の練習をしながら見ている女の子、出したシナリオはダメだしされ顧問のしょうもないシナリオで映画を撮らされる映画部たち。体育会系と文化系の学校における、クラスにおけるポジション。



 彼らのやりとりが多層的に描かれていくので各自の想いや行動がどう繋がるのかわかりやすい。イケてるやつだって悩んでる、そりゃあそうだ。イケないやつももちろん悩んでいる。桐島をめぐる群像劇において彼の出番はない。
 だが、彼の存在の大きさは出ない事で彼の周辺の人々によって露になってくる。そして顧問のしょうもないシナリオを無視して好きなマイナーな映画やゾンビ映画(前田涼也は作中で『映画秘宝』を愛読している)を撮るんだと動き出す前田の撮影とか桐島に振り回される彼らがやがて屋上で・・・。

 ここで旧来の映画や小説ならば桐島の苦悩を描いていただろう、だがそれはそれで大事だけどやはり今は違う。彼を除いた人物達の想いや行動、そしてどうしようもないスクールカーストの中で、逃れられない教室で形成された人間関係が一気に迫り出して来る。丁寧な描写で撮られておりかなりわかりやすいと思う。たいていの人はどちらかに感情移入できるわけだし。


 多層的に同じシーンを違う視点で撮ってみせるのは映画、映像に向いている表現だと思う。宏樹の彼女が宏樹をいつも見ている吹奏楽の女の子に気付いてする行動とかまあわかりやすく高校生になればほぼ人格は形成されているのでその辺りもキャラがうまく描かれているのではないか、普通に面白く観賞できた。
 こういうタイプの青春映画ってあんまりない気はしなくもないけど、あるかもしれないけど今後の青春映画にいい影響を与えていくんじゃないかなあ。


 少しだけ気になる女のが自分の相手をしてくれると勘違いしてしまう童貞マインド、いやカーストの下位にいる彼が屋上で爆発させる想い。最後の終わり方もいいなと思う。
 でも、観終わった後に斜めぐらいにいた高校生男子の集団のやつが「全然意味わかんねえ」って言ってたけどこの作りだと理解できないのか? それとも自分のクラスの立ち位置とか気にしない感じの子なのか、謎だ。


 タイトル『桐島、部活やめるってよ』がいろんなバリエーションで弄られてるけどまあそれだけインパクトあるタイトルだし、映画も面白いので今後口コミで広まっていくかな。

桐島、部活やめるってよ (集英社文庫)

桐島、部活やめるってよ (集英社文庫)