Spiral Fiction Note’s diary

物書き&Webサイト編集スタッフ。

『リアル鬼ごっこJK』あとがき

 今日、20日に園子温(原案)×碇本学(著)『リアル鬼ごっこJK』(文芸社)が発売になりました。7月11日公開の園子温監督『リアル鬼ごっこ』のノベライズです。僕自身は今作が単行本デビュー作ということになります。
 発売になった単行本にはあとがきがないのでこのブログであとがきのようなものを書いておこうと思いました。
 僕は本を買う時、文庫だと特にあとがきから読みます。あとがきが面白ければ買うし、つまらなくてもあったほうがいいと思う派です。ハードカバーを持っていても文庫も買うような好きな作家さんだったらやっぱり装丁もほぼ一緒で同じ内容だけの文庫なんてサービス精神ないじゃんというか残念な感じがします。


 僕が園さんの映画を初めて映画館で観たのはオダギリジョー主演『ハザード』でいまは無くなってしまったシアターN渋谷でした。観終わって吐き気がして僕の中のなにかがかき混ぜられてしまった気になった。僕の核を書き換えるような新しいもの。新しいOSをインストールされてしまうような感覚。
 園さんの作品はその時も公開が続いていてもう無くなったシネアミューズイーストウエストのレイトショーで『気球クラブ、その後』を観たり、こちらも閉館した三茶の劇場で『紀子の食卓』を観たのが06年だったと思います。
 年が明けて今だと『園子温初期作品集DVD-BOX』に収録されている8mm作品上映会に行って園さん自身に初めてお会いして流れで渋谷での飲みに参加させてもらいました。そこからイベントに行ったりしたり『愛のむきだし』のエキストラに行ったりしました。
 東京フィルメックスで『愛のむきだし』が上映された時は嗚咽に似た、鼻水も涙も防波堤が崩壊したみたいに出てきて止まらなかった。だけど日本ではきっと無視されるかヒットしないだろうなとも思った。でも海外の映画祭とかではきっとすごいことになると感じた。それは当たった。そして映画が公開された年の年末に町山智浩さんが今年のベストにあげてから多くの人が『愛のむきだし』を観て驚愕して園子温というどちらかというとアングラなイメージがあった映画監督の存在を無視できなくなった。そこに『冷たい熱帯魚』も公開されてという流れがあったように思う。

 
 僕はシナリオライターになりたくて上京して映画の専門学校に行ってシナリオセンターに通って岩井俊二さん主宰の『プレイワークス』に応募して作品開発したけど映像化はできなかった。園さんに出会ってしまって園さんはご自身でも脚本を書かれるから脚本家じゃなくてもいいや脚本家いらないよなって思って、今思うとそれは違うんだけど。そんな頃に読んだのがずっとファンだった伊坂幸太郎さんの『ゴールデンスランバー』だった。
 読み終わったあとにこれは映画にはできない(その後中村監督によって映画化される)、小説ができることをしていると興奮した僕は当日行く予定だったプレイワークスの飲み会をブッチした。


 当時付き合っていた彼女が貸してくれた古川日出男さんの『ハル、ハル、ハル』を読んでから古川日出男さんの小説を読むようになった。そして古川さんの『ベルカ、吠えないのか?』文庫刊行時に青山ブックセンター六本木店での「フルカワヒデオナイト」に行ってそこで古川さんの朗読を初めて聞いた。それから古川さんの小説のリズムが僕の中にインストールされてより小説の世界を感じられるようになった。
 その年は古川さんのデビュー10年目でメガノベル『聖家族』が発売になる年で僕はそれまで出ている単行本とその『聖家族』を一年で全部読んだ。僕は脚本家になることは園さんとの出会いで諦めたが物語を作ることはしたかった。映画監督になろうとは思わなかったしそういう選択肢はなかった。ひとりで物語を作るということ、古川日出男さんの小説に出会ったことで僕は小説家になろうと思った。
 園さんはジーパンを履いた朔太郎と呼ばれた詩人だったし、現在も監督であり詩人であるとは思うが、古川さんは演劇をしていて小説家になったけど朗読を聞いていると詩人っぽいなって思う。園さんも古川さんも僕には詩人的なパフォーマーな部分が近しいし、二人とも多作な作家だ。僕がこの二人に憧れて影響を受けているのは僕にはない要素をお二人が持っているからだ。だとすれば?
 影響を受けている僕が創作するならば受けながらも園さんや古川さんとは違うベクトルに向かうしかないとやはり思うし、それが武器になるかもしれない。


 園子温さんと古川日出男さん、そしてチャーリーこと社会学者の鈴木謙介さんと彼がパーソナリティーを務める『文化系トークラジオLife』に関わる、周辺にいた人たちと25歳を過ぎて出会ったことが現在に確実につながっている。
 園さんとの繋がりから水道橋博士さんとも繋がって本当によくしていただいている。僕の人生で初めての連載が『水道橋博士のメルマ旬報』であることと創刊から書かせていただいているのは僕の誇りだ。
 小説家で言えば樋口毅宏さんと窪美澄さんにはいちファンであるにも関わらずよくしていただいて本当に感謝しかない。小説家であることとどう作家として戦っていくのかということを小説で見せてもらっている。もちろん古川日出男さんも。


 小説家を目指すならデビューするまでは作家と仲良くしたり近づきすぎないほうがいいというのが当たり前のことらしい、実際に言われたこともある。いろいろ勘違いしちゃったりするからってのがあるから。
 僕は近づいたことではっきりと小説家として食べていくことが今どれだけきびしいのかとか感じれたし作家という生き方に少しでも触れられたことはデカかったと思っている。それでも僕はそっちのほうに行こうと思った。自分が好きな作家さんたち(死んでしまった作家、現在生きている作家、これから出てくる作家)とメジャーな場所できちんとバトルロワイアルしたかった。
 いまだに樋口さんにはお前は編集者に向いてるとか言われるけど、編集者って好きじゃない作家も売らないといけないし、それが仕事だけど。嫌いだけど売れる作家と好きだけど売れない作家とか、僕は好きな作家しか興味ないし嫌いな作家におべっかとか使えないから編集者になれないと思う。そこには自意識の問題があったりするんだろうけど僕はステージで踊るのか、それを客として見て踊るのかだったらお客さんを踊らす主体になりたかったんだ。
 他にもバイト先で出会っていまだに繋がっている友達だったり少ないけど中学高校からいまだに縁も途切れずにいる友達とか家族のみんなが「お前はやれるだけやりなよ」って僕が物書きになろうとすることを否定しなかったことはありがたかった。みんな僕にある種の諦めを持っているんだとも思うが。


 このノベライズに関して言えば園さんから1月末にLINEで「俺が今撮ってるリアル鬼ごっこのノベライズ書いてみるか?」という言葉から気がついたら2月頭に宣伝プロデューサーの柴田さんと文芸社の中村さんと打ち合わせして、3月末締切で6月に出ますっていう展開の速さだった。
 去年の年末辺りに『非道に生きる』担当編集者である綾女さんと園さんのアトリエにお邪魔した時に僕らが来るのを園さん忘れていて新作映画の打ち合わせをスタッフさんとされていたのが『リアル鬼ごっこ』だった。
 スタッフさんが帰った後には園さんがパソコンで車に搭載しているカメラに残っている事故映像とか監視カメラがとらえた悲惨な映像とか、メキシコのマフィアが残虐非道なことをした後の映像だとかイスラム国での悲惨な処刑映像とかを二、三時間見せられて僕と綾女さんは買ってきたからあげをなんとか戻さずに見たんだった。だから僕は園さんが『リアル鬼ごっこ』を撮ることだけは知っていた。
 園さんは映画公開ラッシュもあったし『ラブ&ピース』の絵本のための絵も描いていらしてノベライズ依頼されてももう書く時間がなかった。そこでなぜか僕に書いてみるかと言ってくださった。だから僕は運がよかっただけなんだと思う。でも、その時にそこにいるだけ、思い出してもらえるってことは本当に大事なことだろう。だってこうやって形になったのはたまたまだったとしてもあとから考えれば大きなターニングポイントなのだから。


 今作には僕が好きな作品や作家さんの影響がガッツリ出ているし意識もした。大塚英志さんに岡崎京子さん、フィリップ・K・ディック作品(特に亡くなる直前の『ヴァリス』シリーズ)や野島伸司さん、古川日出男さんの作品のインスパイアやオマージュがある。
 原作の山田悠介さんがいて、原案である園さんがいて、ノベライズを書いた僕がいる。その時点で多層な構造がある。決定稿だけをノベライズしても100ページ少しが限界だったこともあり、打ち合わせで言われたのは本にするには200〜250ページいるということだったから僕は映画では描かれていない部分を勝手に作るしかなかった。
 園さんにも映画のプロデューサーのひとりでもある谷島さんにも「やりたい放題やっていいよ」と言われていたので振り切るしかなかった。園さんの著書『自殺サークル 完全版』が映画『自殺サークル』のただのノベライズではなくて冒頭に映画の内容が少しあるだけのまったく違う物語に(リンクはしてるし繋がってはいる)なって『紀子の食卓』の原作になったようななにかを目指したかった。だから、ノベライズは僕が書いた部分、決定稿を元にした部分が交互にくるという流れになっている。そして最後まで読めばわかるんだけどその多層な構造を物語に代入した展開になっている。


 ノベライズを読んでから映画を観ても、映画が公開されてノベライズを読んでも違いがわかって面白いと思うし、そうであってほしい。園さんが言われている「質よりも量」というように作り続けて、書き続けていけるようになりたい。スタートラインに立たせてもらった、リングに上がらせてもらったような感じ。あとは走り続ける、どんだけ打たれようが何度でも立ち続けるように。


 本当に園さんをはじめとし原作者の山田悠介さんや『リアル鬼ごっこ』の映画のプロデューサー陣の方々、文芸社の中村さんのおかげで一冊の本になりました。ありがとうございました。
 あとは僕がなんとか生き延びていくことが今までお世話になった方々への感謝の印になると思ってます。

リアル鬼ごっこJK

リアル鬼ごっこJK