Spiral Fiction Note’s diary

ライター&「monokaki」編集部スタッフ。「水道橋博士のメルマ旬報」で「碇のむきだし」、「週刊ポスト」で「予告編妄想かわら版」、「PLANETS」で「ユートピアの終焉ーーあだち充と戦後日本の青春」を連載中です。

『お嬢さん』二回目


【見逃した映画特集2017】『お嬢さん』@UPLINK
http://www.uplink.co.jp/movie/2017/47866


去年、観たのは3月20日だった。2017年のマイベスト3に入るぐらい面白かった作品。
http://d.hatena.ne.jp/likeaswimmingangel/20170320

↑にも書いているが最初はタイトルもまったく惹かれることもなくスルーしていたが、菊地成孔さんの書いたレヴューを読んですぐに映画館に。

菊地成孔の『お嬢さん』評:エログロと歌舞伎による、恐ろしいほどのエレガンスと緻密
http://realsound.jp/movie/2017/03/post-4373.html
↑「いつまでも最高20代で時を止めて、ずっと恋をしていたいという「中、高、大、あらゆる二年生病」という、西欧からアジア〜アフリカまでを覆う現代のペスト、本作はそのパンデミックへのダーク・アスピリンである。大人には、こんな悦びがある。本作は「大人が退行する事」の古典的で正しい形がしっかりと示され、現代のペストが、いかに病的であるかを、全く別の病理が炙り出し、撃つ。毒を持って毒を制するのだ。」


 この数年かもしれないが、僕は間違いなく映画に関しては菊地成孔さんの批評を参考にしてるし、好きなものだったり、新しい発見をさせてくれる映画に出会えるきっかけを菊地さんにもらっていると思う。最初は『バードマン』だったような、『セッション』問題から以前に増して興味を持ったという部分はあった。僕も『セッション』観ていいとは思えなかったからだ。そこで菊地さんが『バードマン』をオススメしていても観に行ったら最高だった。パンフも尊敬している小説家の古川日出男さんが寄稿されていた。
 同じ作品を二回観に行くというのは年間に2作品程度だと思う。去年は、『ベイビー・ドライバー』と『南瓜とマヨネーズ』だった。『お嬢さん』は二回目を見逃していた。実際問題として僕はDVDとか動画配信だと集中力が持たないので、なにかライター仕事に関係していることでもない限りそういう視聴はしない、というかできない。やっぱり映画館で観るのが好きだし、自由を奪われた箱の中で観るしかないという状況を含めて僕は映画というメディアが好きなんだと思う。

 そんなわけで何か面白い作品はないかなと探していたら、UPLINKで【見逃した映画特集2017】というのをやっていて『お嬢さん』が上映中だったので通算二回目を観に行った。満席ではなかったがわりと埋まってた。女性客の方が多かったと思う。口コミの力だろうか。一応、ジャンルとしては「百合」だしなとか思いながら。イギリスの人気ミステリー作家・サラ・ウォーターズの小説『荊の城』が原案、サラ・ウォーターズレズビアンの人らしく、彼女の作品は基本的に「百合」的な世界が描かれているらしい、それを監督のパク・チャヌクがもう二次創作なぐらい舞台背景など設定を完全に変えたもの。しかし、映像になることでよりビジュアル的にエロティックで美しいものに仕上がっている。映画は1部、2部、3部と章が変わるごとに原案がミステリーだったこともあり、どんでん返し的に観客を裏切ってくる。その辺りも巧妙で面白く、客を惹きつける。

 珠子と秀子お嬢さまの関係は次第に密なものとなり、互いにとって一番大事な存在になっていく。その過程を本当にうまく描いていて、「百合」的なジャンルに興味がない人でも十二分に楽しめるものになっている。そこはさすがパク・チャヌク監督。彼は男性社会から彼女たちを解放していく藤原伯爵のような詐欺師、いや、マジシャン的なテクニックで物語を展開させていく。珠子と秀子が勝ち取るものは閉じられていた世界からの脱却であり、新しい世界へのパスポートだった。同時にメインキャストである藤原伯爵と秀子の叔父である上月の最後は対照的であり、彼女たちのこれまでの境遇を考えると爽快でもある。描写はわりと残虐だが。

 二度目の鑑賞だったが秀子お嬢さま役の女優さんは、去年も観て思ったけど「のん」「酒井若菜」の系統の顔だと思う。(この系統の)かわいいからキレイのグラデーションの中にこの三人は入んじゃないだろうか。あと、前にも書いたけど秀子の幼少期を演じている少女が本当に美少女で将来、とんでもない美女になるんじゃないだろうかって思う。

 原作や原案がありでも、監督がここまで自分のオリジナルティややりたいことを持ち込んで、原案をよりスケールアップしたり、素晴らしい作品にできるということは本当にすごいことだ。ただ、原作やヒットしている小説や漫画がベースだったらヒットすると思って企画を通すような世界では、対して誰も幸せにならないというのは目に見えていることなので、こういう作品を観た作り手や役者はなにかを心に灯すはずだ。そこから、日本でも何かをぶっちぎってしまう映画ももっと多く生まれると思いたい。そういうのが観たい、オリジナルでも原作ありでもいいから、映画監督の作家性を全開にしたものを、役者がよりアグレッシブで自由なところで。