監督: 豊田利晃
キャスト:瑛太、窪塚洋介、KenKen、草刈麻有、ピュ〜ぴる、松田美由紀、國村隼他
ストーリー:雪が降り積もった原野に囲まれた山奥。そんな社会と完全に隔絶された場所に一人で暮らし、黙々と爆弾を作ってはさまざまな場所に送りつけている垣内良一(瑛太)。日本の社会システムを粉砕しようともくろむ彼は、そのために作ってきた爆弾の最後の一個を総理大臣に送りつけようと決意する。だが、その夜に自殺したはずの兄(窪塚洋介)が彼の前に現れる。困惑する良一だが、思いもよらぬ兄の出現によって、自身の運命に大きくかかわる家族の意外な秘密を知ることになる。(シネマトゥデイより)
ユーロスペースにて公開中。豊田監督の作品はやっぱり『9ソウルズ』が一番好きですね。前作、いわゆる復帰作だった『甦りの血』は僕は面白く感じられず、今作はどうなのかなって思っていた。
舞台的にも雪が降り積もる白の世界に一人で爆弾を作り続けている男。社会との関わりを捨てて個人を呪縛する、個人の尊厳を無下にする社会システムに対して孤独なテロとしてそんな社会を作っている大会社やテレビ局のお偉いさんに自作の爆弾を送りつけている。
彼の前に現れる兄弟たち、弟(KenKen)に兄(窪塚洋介)、そして妹(草刈麻有)。弟はバイクで事故死しており、兄は小屋を作り猟銃で自殺をしていた。唯一生き残っていたのは妹のみであり、彼が小屋から出て行くまでに生きている人間に会うのは妹のみだった。死んだものたちと顔を白く塗ったりしていている死神のようななにかが見えてしまう良一、山奥で孤独に暮らす彼らは兄にもらった宮沢賢治の本を読み詩を書き、世界を呪詛している。
しかしそうやって爆弾を送り続けるという事で人間の尊厳を冒涜する社会システムから自由になった兄のようにはならずに、送る事で彼はその世界と繋がっている。彼の元に刑事が来るが逃げ出して都会に。
白だけの純粋な世界から猥雑な人々とその世界に彼は再び降りてくる。それは唯一生きている妹によって。死んだ兄弟の側ではなく混沌とした世界に。
KEEさんこと渋川さんが出てくる電車のシーンで顔に泡みたいな白いのを塗っている良一がいるんだけどトンネルを抜けたら雪国だったの逆バージョンみたいなシーンなんだけど吹き出して笑ってしまった。途中から少しコントかなって思い出していたけど。
作品のテーマを真摯に掘り起こして物語る時にある種の狂気的な人物の描写は心を痺れさすかのような感覚もありそれは見方を変えれば、いや紙一重でコントになってしまう。
なんか見ながら八十年代アングラ映画ってこんな感じだったのかなと思っていた。社会システムと個人を描くとしてもそこを脱して遠くからテロ行為をしてる彼をまったく理解できないわけじゃないが感情移入はできないし、個人と世界を回すシステムを描くなら伊坂さんの『モダンタイムス』だとかのほうが説得力はあるかもなあっと。
誰もが悪意があってこのシステムを維持している誰ではない、ただ誰もが自分の仕事をしているだけでそれが駆動され僕ら個人の何かを損ないながら奪われながらそれは動いている。利権だとかで個人よりも資本主義を動かすために個人が犠牲になりその肉や血のグリースでその歯車はまわり続けているようなそういう感覚。
世界と戦うのならば世界とコミュニケーションするしかないのではないか、それか兄ように下を見ずに上を見て死ぬ事でそこから自由になるしかないだろう。
どことなく物足りない感じだった。正直予告でやってた『9ソウルズ』リマスター版の予告みたいな来るぞっみたいな感覚、疾走感をどうも期待してしまう。
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