Spiral Fiction Note’s diary

物書き&Webサイト編集スタッフ。

『サウダーヂ』

『サウダーヂ』公式サイト
http://www.saudade-movie.com/


制作:空族/『サウダーヂ』製作委員会
監督:富田克也 脚本:相澤虎之助/富田克也 撮影:高野貴子 



イントロダクション
『土方、移民、HIPHOP 『この街で一体何が起きている?!』


 不況と空洞化が叫ばれて久しい地方都市。“中心”街。シャッター通り、ゴーストタウン。それがアジアNO1の経済大国と呼ばれた日本の地方都市の現状である。しかし街から人がいなくなったわけではない。崩壊寸前の土木建築業、日系ブラジル人、タイ人をはじめとするアジア人、移民労働者たち。そこには過酷な状況のもとで懸命に生きている剥き出しの“生”の姿があった。
 街そのものをテーマに、実際にそこで生活している人々をキャスティングしてつくられたこの作品には、これまで日本映画ではあまり描かれる事の無かった移民たちの姿が描かれている。特に100年前に日本からブラジルに渡った日本人の子孫たちのコミニティは国内において大きな規模を成している。移民の問題は世界的な課題であり、そこでは差別や経済格差、文化間の衝突は避けられない。


 友人の只石にも観てみてよと言われTBSラジオの澤田くんとばったり会った時にも東京にいる地方在住者ならまた『タマフル』での宇多丸さんの評とは違った見方ができると思うと薦められたので観に行ってみた@ユーロスペースの昼の一時前の回。かなり席が埋まっていた。


11/5 ザ・シネマハスラー「サウダーヂ」
http://podcast.tbsradio.jp/utamaru/files/20111105_hustler.mp3


 高齢の方もわりといたし二十代前半の大学生みたいのもいたし幅広い年齢層だった。ほとんど埋まってたので注目度も高いみたい。時間は二時間四十分ぐらいかな、まあ最近このぐらいで長いかどうかなんか気にならなくなってきた。
 要は編集のテンポと物語の進み具合のテンポが上手いかどうかで長く感じか感じ内かでしかないよなあって思う。


 イントロダクションにあるように「不況と空洞化が叫ばれて久しい地方都市。“中心”街。シャッター通り、ゴーストタウン。」を描いた作品で土方(これは現在では放送禁止用語になっている。以前深夜に見た『巨人の星』で飛雄馬が「親父の仕事は土方」っていうシーンで「土方」に「ピー」が入っていたのをマジで見た事がある。「ガチャ目」もダメだと一度シナリオ書いて読んでもらったら言われた事がある。時折思うけどそうやって放送禁止用語にしていくことでその当事者は本当に救われるのか、それこそ逆に差別的に追いやってはいないのか?と思う事が多々ある。言い方を変えていく事で本質を置き去りにして問題をうやむやにする傾向がこの国にはある。カタカナにしていくことで、あるいは難しい言葉を並べてわからないから専門家に任そうとして知らないうちにおかしい方向に流れていく事に気付けない)の精司とHIPHOPグループ「アーミービレッジ」のクルーの猛が主人公的な感じで物語は進んでいく。


 猛が精司とタイ帰りという保坂とタイパブに連れて行かれてその帰りで彼は自身の過去に起きた(両親は自己破産しパチンコに逃避、家庭は崩壊している。弟は精神に異常をきたしていた)をその場でライムするんだけどそれ観てたらちょっと震えた。あそこはヒップホップ好き嫌いはあっても凄いと思うんじゃないかなあ。僕は震えました。


 タイパブにハマってる精司はそこの女の子(タイと日本のハーフの子)とタイに行きたいとか言い出すけど彼と彼女の見つめるものは真逆だし、彼の奥さんはエスティシャンでなんか怪しげな水を売る方に入っていったりして、でその水売ってるのが水商売してるヤクザで、その水のCM出てるのがその店のナンバーワンだったりするし、実際にヤクザな家業の人がそういうスピリチュアルをやってたりするんだって。
 ブラジル移民の人は団地に住んでてそこはかつて猛の一家も住んでたようなとこで彼らも仕事が無くなってどんどんブラジルに帰っていったりして、猛の事が昔好きで東京に行っていた女の子のまひるはイベントのオーガナイザーになっているけど彼女もどこかしら壊れていてクスリに手を出している。


 登場人物もかなり多い、猛が途中でヤクザの親分とベンツの前で話してるシーンがあるけどあの人達は本物の方で後半の暴走族的なシーンの時に現れて「じゃあ出してくれよ」みたいな感じで出たらしい。というのを『シネマハスラー』で聞いてたけど確かに観ると猛役の人がマジで怖がってるように見える。


 『SR サイタマノラッパー』も地方とヒップホップを描いているけど地方とロックは成り立たないんだろうなって思う。そういう作品は出てきてないよな? 『ソラニン』『BECK』だってあれは東京の話だし現実に起きてる問題を掘り下げている作品ではないから。
 日本中のロードサイドには全国展開のチェーンがあって車で走って見える光景はそこまで変化はないってのは前の十年ぐらいの「地方」を描いた作品の中でも繰り返し出てきててそれが悪いのかどうかは別だけど今青春を過ごしてる子たちはそれとショッピングモールがセットになった風景だよね。


速水さんのブログより「秋元康つんくのショッピングモーライゼーション」
http://www.hayamiz.jp/2011/02/popinmollization.html


 AKBとスマイレージで歌われるショッピングモール考は興味深い。浜崎あゆみのブレイク等を書いた『ケータイ小説的。』もオススメだけどそれを読むとなぜエグザイルが売れたのかもわかる。「再ヤンキー化」してるからね。
 そこにヒップホップというものも絡んでると思うし、ヒップホップが日本に知れ渡ったのはオザケンとスチャの『今夜はブギー・バッグ』や『DA・YO・NE』だったりするのかな。『DA・YO・NE』はいろんな地方の方言バージョンが存在したよね、きっとそういうことなんだと思う。


 それから99年にDragon AshViva La Revolution』が二百万枚を超えるね。この年は椎名林檎宇多田ヒカルがブレイクするというゼロ年代の音楽シーンに影響を与えた彼らが一気に日本中で聴かれた年だったりする。Kjは自身の功罪のひとつに親子愛や仲間愛を歌うヒップホップやジャパレゲエを後に増やしてしまったと何かで語っていた。その後の事を考えれば『Viva La Revolution』の影響はデカかった。公開処刑等がありDAは現在のスタイルになったし、日本のシーンにそういう歌は増えた。


 だけど編集のテンポなのか脚本のテンポなのか長く感じ部分もあって二時間四十分でももっと早く感じれるようにもできただろうし、シーンごとでフィルムの肌触りみたいな観た感じがバラバラなような気もした。
 わりと高評価な作品みたいだけど僕にはそこまで響かなかった。描いてる世界の事もなんとなくわかってるし何が乗れなかったんだろうか。


 猛がブラジル人との事で最後の方であるシーンのあのPV調の町のシーン観てたら思い出したのは↓


LIVE REASON −あかり ,from here−

↑これ福山(実家の近くというか隣の市)で撮られてるっぽいんだけど素晴らしいんだよね。


 観終わって浮かんだのは同じく地方を描いた井筒監督『ヒーローショー』だった。僕としては『ヒーローショー』の閉塞感と絡み合ってどうしようもない場所に行ってしまうあの感じは明るい話じゃないけど凄く現実感があったなあって事。
 この『サウダーヂ』で描かれている景色のあのどうしようもない感じとかわかるのに同調できないのはなんだったんだろう。
 

 でも団地とかって子供が出ていって老人ばっかりになったりしてるとこも増えてきてるらしいし、労働問題を考えた時に若者がいなくなってこの国は流動化して外国人の人を受け入れていったらいろんな場所でその国のコミュニティが出来上がってすでにそこにあるコミュニティとの軋轢や受け入れも起きていくだろうなとは思っちゃうよなあ。


 コミュニティの大切さや個人同士の繋がりが今年嫌でも見直されたしみんな考えるようになったけどすぐにそれもバラバラになってしまってるのは感じるよなあ。今月京都に行った時に同じ国、言語で陸続きなのに違う国みたいに感じたあの空気は大都市圏と地方という差とかは違う空気感を感じた。

SR サイタマノラッパー [DVD]

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