今年おそらく最後になるであろう映画を観に渋谷にふらっと行ってきました。なんか気になってサイト見たりツイッターでの町山さんのつぶやき見たりしてて観たいなって思って休みの日に家でのんびり読書しようと思ったけど今年最後だろうなって思うと家を出てました。
公開自体は今週の土曜日で東京の観に行ったシネクイントは一週間早い先行ロードショーみたいでした。わりと席も埋まってたし家族連れやカップルが多かったかな、まあ僕みたいに一人で映画に行く方がマイノリティなのかもしれないけど。
いつも通り『ヒミズ』の予告観てまた涙ぐんでその次が『ハラがコレなんで』観て俺の感動を返せボケっと思いながら映画が始まった。
ストーリー:SFオタクのイギリス人青年、クライブ(ニック・フロスト)とグレアム(サイモン・ペッグ)は、念願だったコミックの祭典「コミコン」とアメリカ中西部のUFOスポットを巡る旅を楽しんでいた。その途中彼らは、ネバダ州の「エリア51」でポールと名乗る宇宙人と遭遇する。そしてポールを故郷に帰すため、悪戦苦闘の日々が始まり……。(シネマトゥディより)
チェック:『ホット・ファズ 俺たちスーパーポリスメン!』などで絶大な人気を誇る迷コンビ、サイモン・ペッグとニック・フロストが主演と脚本を務めたSFコメディー。陽気な宇宙人とオタクの青年2人が繰り広げる珍道中を、『未知との遭遇』『E.T.』など過去の傑作SFへのオマージュをちりばめて描く。宇宙人ポールの声を、『グリーン・ホーネット』のセス・ローゲンが担当するほか、『エイリアン』シリーズのシガーニー・ウィーヴァー、『E.T.』などのスティーヴン・スピルバーグ監督がカメオ出演しているのも見逃せない。(シネマトゥディより)
もう今年一番劇場で笑ったと思う。ブラックジョークからオマージュや過去のSF映画との関係性なんか、まあ宇宙人のポールの存在が最高。
異邦人であるポールが実はイギリスから来た二人が思い描いていたアメリカを一番体現してる辺りなんかも面白い。
ロードムービーとしてアメリカのUFOと宇宙人に関係あるエリア51なんかの聖地を巡りながらもちろんクライブとグレアムとポールを追いかけてくる連中もいてかなり楽しいし面白い展開だった。
彼らが途中で出会う女性は厳格なキリスト教原理主義者の父を持ち彼女もその教えを信じている。世界は神が作ったと信じていてダーウィンの進化論も否定しているような、実際にアメリカでは進化論を教えないようにしていた州もたくさんあったみたいだし、アメリカにおけるキリスト教というのは日本にいる僕らには少しわかりづらい事柄が多いのが現状だと思う。
町山智浩著『キャプテン・アメリカはなぜ死んだか』の文庫を最近読んだけど福音派やなんかアメリカにおけるキリスト教の影響はデカすぎて誰が大統領になるかなんて大きな事柄から小さな事までそこが起因してる。
ポールという名前は物語の冒頭で宇宙人である彼が宇宙船で60年前ぐらいに落下した時に犠牲になった犬の名前でその事故とその犬の飼い主の女の子が物語の実は大きなキーだったりしてきちんとシナリオの伏線もされていた。でパンフの町山さんの解説によるとポールって新約聖書の著者の一人の聖パウロの英語読みであったりするみたい。
無神論者なイギリス人とキリスト原理主義者なアメリカ人が出会った時にそこに宇宙人がいたら? そういう部分でも面白いし笑えるのは何も信じないものと何かを信じるものが急に現れた者に、起きた出来事に自らの根本を揺るがされてしまうという事だろう。
そんなキリスト原理主義者として育ったルースも旅の道中に加わりながら徐々に変化していく。その彼女を追いかけてくる父親、まさしく古い価値観のアメリカのような彼と、ポールを追いかけてくる組織のメン・イン・ブラックな男と彼の部下であるような二人組(この二人も道中コントちっくな事をしてくれて面白くて憎めない、たぶんコメディアンじゃないかな)がアメリカのUFOスポットをポールたちを追いかけながら北上していく。
『イージーライダー』みたいなロードムービーで彼ら←は古きアメリカの価値観に殺されてしまうわけだが、『宇宙人ポール』では宇宙人SFの典型的なとも言えるラストを目指していく。宇宙人は宇宙船に乗って星に帰るのでしたという古典的なものだけどそこに辿り着くまでの展開やポールと一緒にある種の逃亡をする彼らの関係性はずっと観ていたいと思えてくる。
ポールは60年ぐらいアメリカにいて凄くアメリカナイズされている。そんな彼は秘密裏にいろんな事を人類に教えたりとかしている。この作品が過去のSF映画のオマージュを孕んでいるのは今年公開された『スーパー8』同様だけども、ポールに映画の相談を電話でしてきたのがスピルバーグっていうネタがあったり、しかも電話の声はマジで本人なスピルバーグで最も宇宙人と戦って勝利を収めてきたあの女性も重要な人物としてカメオ出演していたりする。
昨今の『仮面ライダー』や『戦隊ヒーロー』での『仮面ライダーディケイド』や『海賊戦隊ゴーカイジャー』みたいな過去の同シリーズにおけるデータベースを消費するっていう物語の使い方は長年積み重ねてきたものがないとできない。
だけどもSFというジャンルでもそれはできて過去のSF小説やスピルバーグをはじめとするSF映画というものが何十年も連なってきた歴史の中で『スーパー8』や今作『宇宙人ポール』にオマージュとしても使われデータベース消費的に物語に動員されている事でさらに深く物語れるし掴みとしてもいいなって思う。
異邦人である彼らがイギリス人と宇宙人がアメリカを旅する事で見えてくる実際のアメリカというものや宗教とそれを信じないものみたいな見方もできるんだけどこんなにも爆笑しながら観れる映画って素敵だなって思う。
これ本当に面白い、劇場で観てほしい。
今年はあんまり映画館に行けなくて数も観れてなくて今年公開の作品のDVDもあんまり観てない(基本的に映画館で新作観て見逃してレンタルしてまで観るのは僕はほとんどないので)んだけど勝手にベスト10を。
第十位
『ブラック・スワン』
ダーレン・アロノフスキー監督の前作『レスラー』がかなり泣けたので期待して観に行ったらこわいこわいこわい。
衝撃的な映像とかもだけどやはり母と娘の関係性というのはなんともいえぬものがある。しかしこの監督は今敏監督をリスペクトしているので今作品へのオマージュが見え隠れしまくりでした。
第九位
『サウダーヂ』
世間的にはかなり高評価な作品。嫌いじゃないんだけどなぜか僕的にはそこまで言うものなのだろうかという疑問もありつつ。だけどもこの作品にある地方都市での人間の関係性とそこに入ってきたブラジル移民とのディスコミュニケーションの描き方は凄いと思ったしラッパーの彼が歩きながら自分の家族の事をラップしたあのシーンは観ながら鳥肌が立ちまくった。
地方とヤンキーとラップとレゲエの親和性についてもリアリティがあると思えた作品だけど同じ雰囲気だと『ヒーローショー』がやはり好きですというかあの感じの方がヒリヒリする。
第八位
『その街のこども 劇場版』
傑作ですね、渡辺あやさんの脚本は凄いんだけども年始に観てこれは今年のベスト3には絶対入ると確信してた。でもあの3.11の大地震と福島原発問題が起きてしまってそれは僕の中で変わった。
何の因果かはわからないけどそういう年に前年の阪神淡路大震災の15年後にテレビで放映され絶賛され16年目に劇場公開されたこの作品。
大地震によってホームを失った、そこから出て行かないといけなかった人がそこに戻るという物語であり渡辺あやさんがひたすら書き続けた人と人のディスコミュニケーションの話なんだけどやっぱり原発周辺で育ったその街のこどもたちはもうそこには戻れないという現実があることが素直にこの作品を評価できなくなってしまった。
第七位
『ソーシャル・ネットワーク』
現在も生きている人物を主軸に作った作品でアラブの春すらも起きたその背景にはフェイスブックがあったというそのフェイスブックを作ったマーク・ザッカーバーグを描いている。
彼がアスペルガー症候群であるのは言葉にはされないが彼の行動等でわかるようになっている。コミュニケーション障害の主人公がネットコミュニケーションを創造したという皮肉な物語に現代を象徴でもあり天才の孤独でもあるこの作品。でもなんだかとても面白い作品で最後にワンシーンの行動が彼と僕らは同じような人間なんだなって思わせてくれる。
第六位
『アンチクライスト』
エグい、エロい、けっこうシンドイ! タイトルが示すように禁忌的な物語でシャルロット・ゲンズブールがセックスシーンだったりオナニーシーンだったりクリトリス切り落としたりとかしてもかんなりダメージがきまくるこの作品。『冷たい熱帯魚』と同時期に観たんだけど救いようもない物語を観ることで救われてしまうということはある。
震災後に被災した弟に違う場所にいる兄が何をしたらいい、何ができるかという問いに対して弟が何もいらないから俺たちと同じ目に遭ってくれよと言った話に似ている。兄と弟の立場が逆だったかもしれないけど。
第五位
『劇場版 神聖かまってちゃん ロックンロールは鳴り止まないっ』
劇場で観れなくてDVDで観賞した少ない作品の一つ。かまってちゃんは好きか嫌いかというと好きにはなれないんだけど実際に一度ライブを観た感じとしてはこれは確かに多くの人を惹き付けるものがあるというのは間違いないと思って銀杏の峯田君がシーンから消えてる間に彼のとこにいきそうだった人がの子に魅せられたんじゃないかなって思ったりもした。
作品としては二階堂ふみの演技の眩しさとかまってちゃんの音楽と物語のシンクロ性、だけどもある種の企画ものなのにかまってちゃんに対して「これどうよ?」的な目線もあって非常にニュートラルな作りで終わり方もよかった。
第四位
『イグジット・スルー・ザ・ギフトショップ』
モキュメンタリーちっくなのに、これは嘘か本当か? 何が真実で何がフェイクなのか君の価値観は君によってなのか? 様々なことを突きつけてくる作品だし正直これを作ったバンクシーは批評精神も凄いけど人に何かを考えさせるものを作ることに関しては超一流だなと思った。
第三位
『ブルーバレンタイン』
僕は男女がすれ違って別れていく話が意外と好きで。まあ、永遠なんてないとしてその一瞬の気持ちで人生は躍動して駆動させて進んでいく、その後、後悔や失敗をしたとしてもそれはよくありえることで。
かつて彼女を救ってくれた彼のその優しさは二人が結婚して子供が生まれて家族になってそれぞれに見えてくるものが変化していくその中で、彼女を癒してくれた彼のその変わらない優しさが彼女を苛立たせる、なんとか家族を続けて行こうとする彼は変わろうとする彼女がわからない。
互いにすれ違っていく。どちらも悪くはないのだけどただ二人を繋いでいたその気持ちはズレて行ってもう結びつくことはなくなってしまう。
そうやって僕らはすれ違って生きていく。
第二位
『冷たい熱帯魚』
初見は去年の東京フィルメックスで三池さんのイベントと映画館でと三回は映画館で観てるんだけど園子温という名前がさらに世間に広まっていくその過程でこの作品が今年の最初に公開されたのは素晴らしくて嬉しかった。
そりゃあ暴力も殺した人を透明にしたりとエグい、エロい感じもありますけどこれは極上のエンタメだと思ったし『アンチクライスト』同様にこれを作ることで監督自身が癒され救いようのないものに救われる観客というそれまであまり多くなかった気がする作品にきちんと需要があると知らしめたと思う。
僕個人としてはブログに書いた『冷たい熱帯魚』の感想がTBSラジオ『小島慶子キラキラ』の水道橋博士さんの『ペラペラ』内で読まれるという事もあり、僕は放送まで知らなくてその日はDragon Ashのツアー初日で家を出ててツイッターのメッセージで『文化系トーク系ラジオ Life』のプロデューサーの黒幕こと長谷川さんや同番組の前Dだった阿部さんからブログの内容を博士さんが使うからリアルタイムで聴いてねみたいな感じで気付いた時は夜だったからリアルタイムでは聴けなかったっていう。
今年は園子温監督作品は『冷たい熱帯魚』『恋の罪』があって来年一月には『ヒミズ』があって、『ヒミズ』は八月に幸運にも観せて頂いた事もあって園子温監督作品を楽しめた一年で、『恋の罪』は僕的にはそこまでヒットしなかったのは僕には女性的な感覚が少ないのかもしれないし、その前に大傑作である『ヒミズ』を観てしまっているのもデカい。
来年は『ヒミズ』が基準になるんでかなりしんどいことになりそう。『ヒミズ』超えてくる作品あったらそれ映画史に残ると思うし。
第一位
『宇宙人ポール』
映画館で爆笑できる幸せね。第二位の『冷たい熱帯魚』も大爆笑でしたけど。で、去年の『ベスト10』の第一位が『第九地区』なんですよね。去年も今年も同じく宇宙人が故郷に帰る話が僕的には一位だっていう。
これは僕自身の何かが反映されているんだと思う。僕は故郷の家族とも仲悪くもなくておばあちゃんと父母がいて先祖代々の墓があること以外に帰る場所って感じもないし、数少ないけど地元にいる友だちもいるんだけどよく帰るわけでもない。
此処ではない何処かに行こうとしていたのかはわからないけどどうも此処は居場所じゃないなって思ってなんだかんだずっと家から出たくて出て、東京の生活の方が僕にはあってしまった。帰ってこいと言われているような気もたまにしなくもないんだけど今の居場所やホームは東京にあるから、故郷に帰ろうとする宇宙人に何か自分の想いや感情が動かされたりするんだろうなあ。帰らないといけない理由がある人は帰るべきだし、そうじゃない人はそこに留まればいいと思う。きっと帰る場所が僕にはあるようでいてないんだろう。