Spiral Fiction Note’s diary

物書き&Webサイト編集スタッフ。

『スマグラー おまえの未来を運べ』

 最近どうもバルト9でよく映画を観てるような気はしますが『モテキ』に引き続きバルトに行ってきました。
 石井克人監督の新作『スマグラー おまえの未来を運べ』です。まあ、石井さんと言えばやっぱり『鮫肌男と桃尻女』でしょうか。『PARTY7』もありましたけどこちらは出てる人全員変というか常人がいないから変人だらけだと変人がどう変人かわからないという・・・。


<メモ>進化というのは、その場しのぎ的なトライアンドエラーの繰り返しの結果なので、生物の身体の仕組みには、しばしば、効率が悪いと思わずにはいられないようなものがる。もし神が宇宙をきちんとデザインして創造したとするならばこんな未整理で効率が悪いものもなるはずがない。宇宙は、神のような知性が創造したものではない。リチャード・ドーキンス『進化の存在証明』 <メモ>イエスヘブライ語ギリシア語はできず、パウロは書簡をギリシア語で書いた。新約聖書は、福音書も書簡も黙示録もギリシア語で書かれた。福音書のイエスの言葉はギリシア語への翻訳。それははじめから神の言葉の翻訳だと考えてよい。

 ってのは新書で読んだ『ふしぎなキリスト教』に書いてあったんだけど地震後にこの国を考えたら天皇制やこの世界の成り立ちも考えないといけないし、物語にそういうのを入れようと思ってそういうのを読んだりもしてる。Reflectionすることと神の言葉ははじめから翻訳されている事はなにか自分の中では繋がる。


 で、映画の方は予告始まって『ヒミズ』の予告編を映画館で初めて観た。


映画『ヒミズ』予告編


 予告で泣きましたけどね。また観たいって思った。デッカいスクリーンで住田と茶沢に会いたくなった。
 震災後、地震原発問題のあとのafter 3.11の日本は一瞬だけ一つにまとまったように見えたけど、当たり前だけどすぐにバラバラに断絶した。被災地と東京や関東ではもちろん被害も状態も違う、東日本のこの感覚と西日本の感覚は当然ながら違う。当然ながら関東にいる僕は被爆し続けてる、この感覚。


 3.11以後の表現で僕が夏に影響を受けている人の作品を読んだり観れたのは僕としては非常に大事な事だった。
 古川日出男著『馬たちよ、それでも光は無垢で』、宇野常寛著『リトル・ピープルの時代』、園子温監督『ヒミズ』という三つの表現に後押しされたし、進もうと思ったから。


 『ヒミズ』は公開が前倒しで来年の1月14日に公開になりました。『AERA』の「現代の肖像」での園さんのインタビューを読むとなぜ園作品で「家族」について描かれるかなどわかると思います。
 『紀子の食卓』での光石さんが『ヒミズ』でも主人公の父親です、真逆な感じの役だけど。あと今までの園作品が苦手だった人でも『ヒミズ』は違う印象を受けるんじゃないかな、映画館で観ろっていう話です。
 『愛のむきだし』だって公開前からあんだけプッシュしてたのに(フィルメックスで観て号泣&嗚咽しかけたから)結局みんなが注目し始めたのは公開された09年の年末ぐらいだったし、その年の映画のランキングで軒並み上位でようやくだった。
 近所のツタヤも最近になって『愛のむきだし』がずっと借りられている感じなのは『冷たい熱帯魚』のヒットもあってだろうなって。来月は東電OL殺人事件からインスパイアされた『恋の罪』が公開で1月は『ヒミズ』っていうね。



監督・石井克人
出演・妻夫木聡永瀬正敏松雪泰子満島ひかり安藤政信我修院達也小日向文世高嶋政宏阿部力


ストーリー・役者を志望するも挫折し、パチンコやその場しのぎのアルバイト生活を続ける砧涼介(妻夫木聡)。誘われるままにうまい儲け話に乗ったところ、逆に多額の借金を背負うことになってしまう。涼介は返済のために、日給5万円という高額の運送屋のアルバイトをすることに。運送の仕事を仕切るジョーと、彼をサポートするジジイと共に初仕事にかかった砧が、運んでいたものはなんと死体。“スマグラー”と呼ばれるこの運び屋の仕事は、危険な荷物の運搬と処理だったのだ。たった一度のミスすら命取りになる、死と隣り合わせの世界に飛び込んだ涼介の身にさらなるトラブルが襲い…。


 で観た『スマグラー』に関しては監督さんの石井克人監督は堤幸彦監督みたいにマンガ・アニメ的リアリズムを実写に取り込み、役者の身体をマンガ・アニメ的キャラクターにした映画を作ってきたイメージがありました。


 マンガ・アニメ的リアリズムっていうのはゼロ年代クドカンや堤演出をはじめとする作家が描いたドラマや映画に見られたものです。サブカルがもはやサブカルとして成り立たないほど細分化された現在においてよくみられるようになった気がします。例えば『ピンポン』のような作品とか。


 写実主義(しゃじつしゅぎ)、あるいは現実主義は、現実を空想によらず、ありのままに捉えようとする美術上、文学上の主張のこと。リアリズム(英:Realism)、レアリスム(仏:Réalisme)。ルネサンス以降の美術は現実をそのまま表現することを目指してきたため、広義の写実主義と呼ぶことができる。


 現実ではないマンガやアニメのリアリズムを実際の人間である役者が演じると彼らはキャラクター的身体を持った表現の一部となる。ライトノベルの元祖と言われる新井素子さんの有名な発言を思い出す。


・新井はデビュー直後の『毎日新聞』インタビューで「マンガ『ルパン三世』の活字版を書きたかったんです」と述べたことから、当初その文体はマンガやアニメとの関係で論じられることが多かったが、この発言自体は記事を書いた記者の曲解によって発生したもので、本人の発言意図と乖離したものであることが判明している。
・新しい世代の言語感覚による「文章で書いた漫画」であると指摘されており、後の作家に対する影響力は無視できない。このように、新井素子の文体は後のライトノベル文体に少なからず影響を与え、元祖的もしくは雛形的存在と称されることもある。


 文章でマンガを書いたようにマンガ・アニメ的リアリズムでドラマや映画を撮るというものが受け入れられて当然になったのが前の十年から少し前だったように思う。


 『ヒミズ』も古谷実のマンガ原作だがマンガ・アニメ的リアリズムではなく、震災後のこの国の空気を取り込んだ極めて園子音的作品に昇華されている。
 マンガ版の一つ目の住田に見える化物(あるいは物語の不穏な空気の実体としての)が震災に置き換えられている事で極めて現実の延長線上の演出、リアリズムを獲得しているように思える。




 今作でもっともマンガ的なのは安藤政信さん演じる中国マフィアの殺し屋である「背骨」の動きであり強さである。この部分においては彼は中国での映画撮影をしてたりして中国語を離し鍛えている肉体の説得力がある。
 戦闘シーンはこれ見よがしにスローモーションで汗や唾や血がゆっくりと飛び出たりするシーンが多様されていて、それを見せたいのはわかるけどなんだか少し見飽きた感も否めない。


 暴力団高嶋政宏が扮するヤクザが砧(妻夫木)を拷問するシーンは最初はエグいことしてるなって思うんだけどまあ慣れてきて彼もすごくキャラクターらしい人物なのでなんかバイオレンスなシーンもやりすぎてコメディ的に笑わかすつもりなのかと途中から思ってしまった。



満島ひかりも重要人物として出てくるがこのシーンでも他の三人(運び屋)はそばを食っているが彼女は食っていない。『タマフル』で映画のフード理論で一緒に飯を食べてない人物はその輪に入らないというのがあって、彼女はその理論を実践するかのように彼等とは最後までほぼ相容れなく自分の居場所に戻っていく。


 今作には永瀬さんに我修院さんに島田洋八さんに森下能幸さんに津田寛治さんといわゆる石井組常連さんが出てる。妻夫木×満島の絡み見てると『悪人』での満島が復讐しにきてんじゃないかって思うね。
 妻夫木くんは好きな役者さんだけど『マイ・バック・ページ』『スマグラー』と今年公開した作品はあんまり響かなかったかなあ。

 あと砧が拷問の後に白髪みたいになるんだけど、そういう描写を野島伸司著『スワンレイク』でもあった気がして調べた事あるんだけど一夜にしてとかはないらしいんだよね。その日のうちに白髪になるってのが実はマンガ・アニメ的な表現だったりするのかも。


ストレスで一夜にして白髪ってホント?
http://www.zakzak.co.jp/society/domestic/news/20110730/dms1107301421004-n1.htm


 僕は十五とかぐらいの安藤政信さんのファンだからまあほぼ十五年近くファンなんだけどもっと日本映画に出てほしいなって思います。安藤さん出てたから観に行った部分もデカイけど。


 最後がどうも納得できなくもないけどそれでいいのかなっていう、まあハッピーエンドだけど。砧に対してジョー甘いような気もするけど『モテキ』のあの終わり方からしたらまだマシだと思った。


 今日の夜は『Father, Son, Holy Ghost』という『三位一体』なタイトルをセカンドアルバムにつけたGirlsのライブに行ってきます。


Girls - 'Honey Bunny' Official Video


 最近は友人の竹原に教えてもらったDiscopolisをよく聴いてます。


Discopolis-Timber Merchants


 ブコウスキー新潮文庫から出ている『街でいちばんの美女』『ありきたりの狂気の物語』がオススメです。

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