トム・ジョーンズ作、舞城王太郎訳『コールド・スナップ』を読み終えた。前作にあたる岸本佐和子訳『拳闘士の休息』から続けてだったが一作目のほうが僕は好きだったし評価も高いのかもしれないと思った。まず『蚊』が最高だったのもあるが『コールド・スナップ』の帯にも岸本さんがトム・ジョーンズと舞城王太郎は魂の双子なんじゃないかみたいなことを書かれているが、資質はかなり近いのだと思う。饒舌なところとか。
ただ、トム・ジョーンズは短編しか発表したことがない。ワンアイデアで短編は書けるものではあるしトム・ジョーンズやレイモンド・カーヴァーやチャールズ・ブコウスキーだったりデニス・ジョンソンなんかアメリカの白人系の作家、たいていアル中かヤク中だし生活も豊かではない、学校の用務員だとか郵便局とかブルーカラーな人たちが書いたアメリカ小説の傑作な短編小説は僕も大好きだ。
トム・ジョーンズは確かに短編でキラリとする。ボクサーや海軍にいた話やアフリカに行った話とかは二作に共通するものでその視線から書かれるものはリアリズムである。さきほどあげた作家たちはアメリカの短編小説の書き手の中でも評価の高い、リアリズムをえがいた作家たちだった。
彼らはニューヨークタイムスなんかで短編が売れる、トム・ジョーンズはそうやってデビューしたようだ。アメリカはそうやって短編で稼ぐことができるわけだが、ことさら日本において短編小説家というものはおそらく成り立たない。
魂の双子である舞城王太郎は長編小説が書ける小説家である。トム・ジョーンズは書いているという話がだいぶ前からあるそうだが体調の問題もあり世には出ていない。
短編小説と長編小説を書く筋肉は明らかに違うものだ。作家としては舞城王太郎の方が格は上だと思う。ずっと書き続けている人だからだ。体調の問題というのはデカい。小説を書くという行為は精神と体力が異様に必要であり体力がない作家はずっとは書き続けることはできない。
あと資質が近い作家同士だとものすごく良くなる可能性よりも無難というか想定内で作品が収まってしまうのかもしれない。作家性が近しい小説家と映画監督がいて小説を映画にしてもダイナミズムや予想を超えるものにはならないような気がするのだが、これもそういう感じがしてしまった。
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