Spiral Fiction Note’s diary

物書き&Webサイト編集スタッフ。

『嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん』

 昨日読書会を終えて家に帰って今週の疲れが出たのかバッタリと寝て起きたら九時過ぎてた。読書会の帰りに次の課題書を決めるために本屋に行ったりする間で話をしてて映画の話になった。
 『嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん』も観たいなって思ってんだけど監督の人の話になってとかそういうのが起きて残ってたらしく、『オーズ』録画したやつ見ながら上映館と時間を検索したら一時間少しで新宿三丁目の角川シネマでやるみたいだったので家を出て新宿三丁目末広亭の近くにある角川シネマ新宿に。初めて来たような気もしなくもないが。



監督・瀬田なつき
出演・大政絢染谷将太、三浦誠己、山田キヌヲ鈴木卓爾田畑智子鈴木京香






ストーリー:ある日、みーくん(染谷将太)は暴力的でわがままだけれど、かわいくて憎めない幼なじみのまーちゃん(大政絢)と再会する。二人は10年前に起きた誘拐監禁事件の被害者同士で、いまだに心に癒えない深いキズを抱えていた。不気味な連続殺人事件が世間を騒がせている中、精神科医のもとを訪れたみーくんの前に刑事が姿を現し……。



 『桃まつりpresents kiss!/あとのまつり』の瀬田なつきがメガホンを取り、入間人間原作の累計100万部突破の人気小説を映画化。かつて誘拐監禁事件の被害に遭った幼なじみの男女の、どこか壊れた愛情をシニカルにつづる。


 ラノベではかなり売れている作品らしく、読もうかどうしようかなって思いながら手を付けない作品だったので内容や設定もほぼ皆無な状態で観る。タイトルからするとセカイ系や空気系なんだろうなって思ってた。この作品の著者の入間人間さんの書籍は本屋でも何作か見ていて興味があったし。


 彼をwikiで見ると「影響を受けた作家として西尾維新乙一米澤穂信を挙げているほか、自身の作品同士の世界観リンクの手法に関しては上遠野浩平伊坂幸太郎の影響である事を明かしている」というある意味ではファウスト系以後の作家であることがうかがえる。


 パンフで佐々木敦氏が書いている「西尾維新乙一佐藤友哉米澤穂信などといった先行作家が切り拓いてきた『ミステリ+青春+キャラクター+トラウマ』を踏まえつつ」というのは原作を読んでないが映画でも感じられるので原作小説ではそれらが映画よりも特化されているような気がした。


 誘拐監禁事件の被害者同士であるみーくんとまーちゃんは嘘を付き、そして壊れている。みーくんは手塚治虫が描いた『アトム』のように、大塚英志が指摘するような漫画表現でいう所の死なない肉体である。それ故にキャラクター的な主人公であり、死にたくてもなぜか死ねない人である。


 まーちゃんは事件のトラウマから、彼女が耐え切れずにというか本能で自分を守る為に消した、失った記憶があり終始壊れている。
 彼女は自分を「まーちゃん」と呼ぶ人間がその誘拐監禁事件で一緒にいた「みーくん」であるという状態で彼女はそう呼ばれる事でトラウマであるその事件での唯一の自分を守ってくれた「みーくん」という存在を感じヤンデレツンデレのように一気に甘え出す。


 名前による固有性、誰かにだけ呼ばれるその関係の中でしか彼女は安心できない、真っ暗な闇では寝れないし真っ暗にするとフラッシュバックのように恐怖が一気に駆け上って発狂したり攻撃的になってしまう。彼女はそうなってしまって誰かを傷つけても終わった後には覚えていない。
 

 「みーくん」の怪我を見ても自分がやったなんて微塵も感じてはいない「まーちゃん」がいる。その彼女はマンションに一人暮らしをしている。彼女の両親はすでにいない。そして「みーくん」が「まーちゃん」の部屋で見つけたのはこの所行方不明になっていた小学生の姉弟だった。


 同時期に起こっている連続殺人事件を追っている刑事が「みーくん」「まーちゃん」という誘拐監禁事件にあった二人に接近していくがその刑事が誘拐監禁事件で事件の後に二人に話を聞いた刑事であった。


 『ミステリ+青春+キャラクター+トラウマ』という事を踏まえればそのまんまで終わるわけもないのだけどこの作品にある痛さというか哀しみというよりは痛いって事を描いているだけに観ているとかなり痛々しい。


 西尾維新作品や乙一作品や米澤穂信作品や佐藤友哉作品を読んでいるとわりとこの作品の流れはどことなく掴めるような、腑に落ちるような感じがある。連続殺人事件の犯人とかね。


 この作品は「みーくん」と「まーちゃん」という呼び名で繋がる関係性における固有名詞と現在まで続く過去がもたらした癒されない痛みを描いている。


 「みーくん」は作中でことあるごとに『嘘だけど』という。彼がついている嘘でしか守れないものがある。そして「まーちゃん」は壊れたままだ。


 最後にまたエンドレスサマーのように始まるしかないシーンでの二人とその光景のポップさ。彼は『嘘だけど』とは言わない。


 誰かの痛みを救うため、癒すためのウソとそして虚像だとしても「本当」と「ウソ」の間にあるものが日々を進めるかもしれない。


 「まーちゃん」役の大政絢が若い頃の柴咲コウにしか見えなかったんだけどさ、柴咲コウは同学年だから彼女が『バトロワ』『GO』ぐらいの頃の十年前ぐらいな感じに似てる。まあ、主題歌とか柴咲コウ大政絢も同じスターダストプロモーション所属みたい。
 「みーくん」役の染谷将太は『パンドラの匣』で観て好きになったんだけど今作でも非常にいい味出してた。シニカルな感じがよく似合う。すごくいい役者になりそうな気がするなあ。


 ここでもwikiから転載しますが、「ファウスト系」とは「『ファウスト』によく載るような、「セカイ系とミステリと現代ファンタジーを融和させた作品」のことをファウスト系と呼ぶことがある。青春の心の停滞を怪奇等の日常から逸脱した出来事と共に書くことにより、自分の存在意義や心の在り方などといった自分探しを拡大させ自己の内面と世界を繋げさせる、といった構造が特徴的である。代表的な作家として『ファウスト』に創刊当時から参加している西尾維新舞城王太郎佐藤友哉などが挙げられる。」というのがすごく感じられた。現在ファンタジーな部分はあんまり少ない作品だったけど、映画はね。小説は何作も出てるからこのイメージではないのかもしれないけど。


 退屈しないで観れた作品だったし、ファウスト系も嫌いではないので僕的はいいんじゃないかなと思いますが、問題は劇場というか音響が途中からトラブり始めて役者の台詞が音割れしたりぼわッとした感じになったりして最初は演出か?とすら思ったけどそれがずっと続くと言う体たらく。終わって劇場出たらこの劇場で使える無料観賞券もらったけど。観る環境が悪いのはダメだね。それを無関係にしても85点ぐらいな印象で。


 名前と言えば呼び名で思いつくのはこの曲。


08.Salyu live in budokan. Name

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