Spiral Fiction Note’s diary

物書き&Webサイト編集スタッフ。

「ゴールデンスランバー」

likeaswimmingangel2008-12-07

 伊坂幸太郎ゴールデンスランバー」が「このミス」2009年版ベスト1なんですね。読んだのは去年発売された今ごろだった。読み終わった後は拍手したくなるような気がして、おもしろかったです。


 伊坂作品の中では上位だと思うし、一番好きなのは「アヒルと鴨のコインロッカー」だけど。伊坂作品の世界観は共通する登場人物や出来事がシンクロして大きなサーガのようになっていること。重なり合う世界と人物が作品を読めば読むほど面白さが出てくるものだ。


 伊坂幸太郎作品と同じような趣向と言うか世界観を持つのが森見登美彦作品だろう。どちらの作家も去年ぐらいまでは刊行されている本をほとんど読んだ。僕は小学校の時に兄が読んでいた影響で大塚英志×田島昭宇「MADARA」シリーズを読み始めた。
 このシリーズは108からなるという定で作られたサーガだった。基本的には輪廻転生を繰り返し出会い別れ、共に戦い、あるいは敵対し、裏切り、求め合うという話だった。そこから大塚英志関連の本や漫画を読むようになった。大塚英志原作の世界観は共通する登場人物や世界観など読めば読むほど世界が出来上がっていくものだった。

 
 大塚英志氏は自らの作品を読むサブカル好きな読者に文学に出会うような装置を仕掛けていた。それはこの国を代表する作家である大江健三郎の小説のタイトルを自らの原作のノベライズの章タイトルにしたり、サリンジャーだったり、中上健次や、村上春樹などの大塚の言う所の文学に出会うために至る所に仕掛けていた。
 実際、「MADARA」の元ネタ自体が手塚治虫どろろ」×三島由紀夫「豊穣の海」シリーズだった。


 僕自身はその仕掛けと配置されていた装置で村上春樹サリンジャーを読んでみたのだが自分には合わなかった。三島由紀夫に至っては読破した小説はない、途中で頓挫した。でも小説を読むと言うことは好きになっていった、自分で作家を探すようになった、売れているものや自分のアンテナに合うものを。そういう中で伊坂幸太郎作品を読んだりするようになった。


 今年に起きた秋葉原殺傷事件の後にフリーランス編集者の仲俣さんと話をした時に、犯人に届くような文学作品はなかったのだろうかと話になった。僕と犯人は一才ぐらいしか変わらない。だけど僕と同年齢の男子が読んでいる小説ってなんなのだろうかと考えるとなかった。僕は比較的読む方だから一般的な方に当てはまらない。
 西尾維新佐藤友哉とかですかねえと言うとなんか違うなあってなって、伊坂幸太郎森見登美彦はどうですかって言うとあれってライトノベルな感じなんだよなあって。そう言われると確かに伊坂・森見作品の読みやすさはライトノベルに近いなと思った。ライトノベルでもきちんと届く作品はあるのだろうけど。その時点で仲俣さんは伊坂作品が苦手だと言っていたし、トリッパーの書評にも書いていた。トリッパーに大塚英志の連載があったので買って読んでいたから記憶にはあった。


 仲俣さんのブログのエントリー「ミス1位記念に伊坂幸太郎ゴールデンスランバー』評を公開する。」
http://d.hatena.ne.jp/solar/20081205#p1
 

 仲俣さんはこないだ会った時に「モダンタイムス」の方が「ゴールデンスランバー」よりもよかったって言ってた。僕は「モダンタイムス」よりは「ゴールデンスランバー」の方が好き、「モダンタイムス」は読み終わった後の爽快感がないし、敵と言うか結局解決したのか問題っていうモヤモヤが残ったから。「モダンタイムス」よりはその前史にあたる「魔王」の方が僕は面白いと思う。伊坂幸太郎作品は長編よりも短編の方が僕は好きだからかもしれないけど。


 僕は今年に入ってから仲俣さんや僕の身近な人の影響があって古川日出男作品をほぼ読んだ、買って読んだ物も読み返した。今読んでいる「沈黙/アビニシアン」を読めばデビュー前に書いている「ウィザードリィ外伝」以外の刊行されている物は読んだ事になると思う。そう言う意味で今年は僕にとっての古川日出男元年であったのだけど。


 古川さんにしても映画監督の園子温さんにしても僕にとってはそれまであった価値感をぶっ壊してくれる表現者で、彼らの作品に触れる度に僕の中でrebirthしているような気がする。だって吐き気とか感じるような作品に出会うってないから。凄すぎて怖いとか、自分の無力さに気づかされてそれで気持ち悪くなるような、でも作品に魅せられるという真逆なことが起きる。だから憧れてしまうのかもしれない。


 僕の二十代前半は野島伸司大塚英志の影響を思春期に受けたままの状態で、前半から後半の今にかけては園子温さんの作品を観ることと古川日出男さんの小説を読むことで確かにいろんなことがぶち壊されて新しい僕の基準ができあがった。


 何が書きたかったのかよくわからなくなってしまった。ツタヤのAVコーナーで物色していると昔お世話になった金沢文子が復活してて、きっとこの人もいろんなことがあったんだろうなあって思ってしまった。

ゴールデンスランバー

ゴールデンスランバー

アヒルと鴨のコインロッカー (創元推理文庫)

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夜は短し歩けよ乙女

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四畳半神話大系 (角川文庫)

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豊饒の海 第一巻 春の雪 (新潮文庫)

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クビキリサイクル 青色サヴァンと戯言遣い (講談社文庫)

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水没ピアノ 鏡創士がひきもどす犯罪 (講談社文庫)

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沈黙/アビシニアン (角川文庫)

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