『SPEC』最終話「癸の回」副題「百年の孤独」

　『SPEC』最終回を二十分見逃して最後まで見てもう一度最初から見直してみた。以降は見ながらのツイッターのツイート。ネタバレとか気になるなら見ない方がいいと思う。

　最初に見た時の終わりかけの頃。

・最終話の副題『百年の孤独』という単語が今ようやく出てきた。ガルシア＝マルケス『百年の孤独』からだろうけどあることないことが入り交じるマジックリアリズムをこのドラマもたらしてたのはこいつね。

・加瀬君の顔の演技凄すぎるな。

・目には目を、歯に歯を。

・映画に『ケイゾク』か？

・今年ハマった『SPEC』と『熱海の捜査官』は共に伏線回収せずに終わるという展開。

　で、最初から見直す。ただ最終回のサブタイトルがガルシア＝マルケス『百年の孤独』だったのを知ったのが昨日ぐらい。

・今日の『SPEC』の最終回の副題が『百年の孤独』だと。確かに津田は『百年の孤独』的に死んでも同じ名前奴が・・・。中部日本餃子のCBCの女はスペイン語話すし、当麻も地居もスペイン語話せるけどそこまで伏線張ってたか。この作品自体がマジックリアリズムなドラマって事か。

　と呟いてた。最初の二十分見ると多少は最後の方が一回目見た時よりわかる。

・人は記憶を自ら都合のいいように書き変える、あるいは逆に被害妄想的になかった事を脳内に置き換える。記憶とは脆弱なもの。『SPEC』はそこをやった。しかし、脳内だけではない記憶、それは身体性を伴う記憶。空虚さから過剰に反転したこの十年で僕らは何か記憶を書き変えたのかもしれない。

・地居＝津田。津田は公安部のパブリックドメイン。SPEC狩りをしてる中にSPEC所有者が混ざってる？これは『ケイゾク』でいう所の朝倉が早乙女に化けていたのと同じか。

・愛人のみやびちゃんが野々村に言った台詞『何これあつあつじゃん。（中略）見てろよ、えい』で途中で切られて画面展開する。完全にえいがって言う所の前で処理してる。で最後は当麻が映画化とかぜってーしねぇから！と前フリ、堤さんなら映画するときにそういう流れにする。

・十字架の前で死に絶える者。彼をキリストになぞらえるならキリストから成る歴史＝記憶がずっと今まで作り替えられてきたのが今の社会。それを13番目の使徒のように裏切り殺し改変する者、過剰に氾濫した情報がキリスト的世界を終わらす銃弾。

・『熱海の捜査官』『SPEC』『インセプション』『第９地区』は終わり方もそうだけど同じような想像力で作られている気がする。同時代性というかオウム・9.11の宗教的テロの後に現代の宗教のような過剰に溢れた情報・ネットがかつての神話すらも呑み込んで新しい何かを求めるような。

　と見ながらツイート。
　最後の十字架の前で地居＝津田がやられるがそれをやったのはニノマエではないと地居が言い残す。別の誰かの仕業、これは解明されずに終わる。
　ドラマが終わった後に当麻が『映画化とかぜってーしねぇから！』というがみやびはえいが的な事をドラマで言う。そしてパブリックドメインな津田が最後に出てくる。これは『ケイゾク』における早乙女に扮していた朝倉の死体の指紋が変わっていて朝倉が生きている事を示唆したのと同じ感じ。

　みやびと津田の名前の固有性の連続、いなくなっても同じ固有名詞を持つ者が現れる、あるいは存在している。マルケス『百年の孤独』をずっと放置して読んでないがこの作品はラテン文学のマジックリアリズムの代表格として有名。

マジックリアリズム、マギッシャーレアリスムス(Magischer Realismus)、魔術的リアリズム（まじゅつてきリアリズム）とは日常にあるものが日常にないものと融合した作品に対して使われる芸術表現技法で、主に小説や美術に見られる。幻想的リアリズムと呼ばれることもある。 MAGIC（魔術）の非日常、非現実とREALISM（リアリズム）の日常、現実という相反した状態が同時に表すこの技法はしばしばシュルレアリスム（超現実主義）と同義とされることがあるが、魔術的現実主義（マジックリアリズム）は、超現実主義（シュルレアリスム）と異なり、ジークムント・フロイトの精神分析や無意識とは関わらず、伝承や神話、非合理などといったあくまで非現実的なものとの融合を取っている手法である。

　『百年の孤独』は死んだはずのやつがまた出てくる。名前を継承していたりするので親子だったり親族関係で同じ名前の人間がいるからややこしいと言われる。

　この作品では「人は記憶を自ら都合のいいように書き変える、あるいは逆に被害妄想的になかった事を脳内に置き換える。記憶とは脆弱なもの」として『SPEC』という特殊能力者を出す事で描いた。そして名前の固有性の曖昧さをも描く。記憶と名前がなかったら、いやそれすらも簡単に書き換えられる、変化する世界で戦うために最後に残された身体性としての痛み、当麻たちは生き残るが傷だらけになっている。

　映画に続くとは思うんだけどなあ、どうだろう。