Spiral Fiction Note’s diary

物書き&Webサイト編集スタッフ。

『火の魚』

 朝、起きてから休みだしどうしようかなって思って、映画行こうかなって思って『シネマライズ』の名画座ライズで『トレインスポッティング』でも観に行こうかって思ったんだけど、観たら疾走感のあるものに惹かれちゃうしなあとか、そもそもこの作品もう14年前だぜとか、96年に生まれた子、中二じゃんみたいなことは思わないけど、イマイチのれなくて他にやってる名画座ライズは『アメリ』『ブエノスアイレス』の作品。


 『アメリ』は東京に住み始めて一番最初にシネマライズで観た作品。ライズのパンフは上に「NO.」がついてて『アメリ』は「NO.113」で「NO.115」が『ヘドウィグ・アンド・アングリー・インチ』で「NO.117」が『ピンポン』とこの3連チャンでライズが好きになったんだと思う。


「今秋、シネマライズ地下に株式会社スペースシャワーネットワークによるライブ ハウスがオープンします。伴ってシネマライズは、BF館とライズエックスの上映 を6月をもって終了し、ライブハウスオープン後は2F館と共に、音楽と映画を中 心としたカルチャーの「現在」を発信する拠点として、新たに動き始めます。」


 なわけで単館系/ミニシアターと呼ばれてお客も集まっていたんだが、昨今のシネコンなどで単館系作品もそういう場所でやったりしてるのも影響してかライズも変わっていくらしい。


 さっき、パンフ探してたら岡山に一年戻ってた時に深夜バスで大阪に行って単館系映画館で観た岩井俊二監督『リリイ・シュシュのすべて』が出てきた。これも東京だとライズ。


 今日昼間にNHK広島が制作した渡辺あや脚本『火の魚』を見たんだけど、渡辺あや作品だと『ジョゼと虎と魚たち』はシネクイントで確か観て、『メゾン・ド・ヒミコ』はライズ、『天然コケッコー』はシネアミューズ、『ノーボイズ ノークライ』はライズ。『ノーボイズ ノークライ』はすげえいい映画だったけど公開二日目ぐらいの昼間に行ったはずだが客が十人とかだった気がする。


 結局、映画は行かずに当日券が出ていた劇団、本谷有希子 第15回公演『甘え』を観に行く事にした。

 『火の魚』は録画してもらったのをDVDに焼いてもらっていたのだが放置プレイでほぼ忘れていて最近、ツイッター上で宇野さんに観ました?って聞かれて思い出して探したらあったので見ようと思ってて、今日昼間に観た。


『火の魚』は室生犀星の原作をもとに2009年にNHK広島放送局が制作したドラマ。平成21年度(第64回)文化庁芸術祭大賞(テレビ部門・ドラマの部)受賞作品。平成21年度芸術選奨文部科学大臣新人賞(演出・黒崎博)。


あらすじ・広島の小さな島から届けられる物語。テーマは「命の輝き」。
島に住む老作家・村田省三(原田芳雄)のもとに、原稿を受け取るため東京の出版社から女性編集者・折見とち子(尾野真千子)が通ってくる。小説家と編集者は、歳は違うがプロ同士。互いに一歩も譲らず、丁々発止のバトルが繰り広げられる。あるとき小説の装丁を、燃えるような金魚の「魚拓」にしたいと思いついた村田は、折見に魚拓を作ることを命じる。魚拓をとるには、金魚を殺さなければならない。小さな命を巡って、二人の間にさざなみが立つ。
やがて村田は、折見の“秘密”を知ることになる・・・。
ぶつかりあい、いたわりあい、笑いあう。世間から取り残された孤独な老人と、時間を慈しむように生きる女性が過ごすひと夏。命が輝くユーモラスでほろ苦い物語を、瀬戸内・大崎下島を舞台に描く。


 出演者のメイン二人は村田省三:原田芳雄、折見とち子:尾野真千子原田芳雄さんの無骨な唯我独尊で我がままな感じ、それは孤独から来るものなのだが味があって、それ故に独りであるのが余計に伝わる。広島弁のせいもあってかよけいに怖い(標準語圏内からすれば怒っているように聞こえる)し雰囲気もある。


 それに対して標準語で村田に対する折見の態度は低姿勢に見えて丁寧な言葉遣いのコントラストがある。しかし、見ていると彼女の態度はへりくだっているわけではなく仕事としてそういう接し方で村田にそう接しているだけ。プロとして作品にはきちんと思ったことを言う芯の強さを見せる。


 対照的な二人に見えるが実際はわりと似ている者同士である。孤独を隠す、年を取り死ぬことに対しての恐怖がある村田はそれを消そうと脅えないために島の人とできるだけ関わらないし、彼らにも態度がデカイ。


 偏屈なジジイの感じがものすごく出ててこのジジイには関わりたくないと思える。最初は作家と編集者という立場上、村田が上というか影絵を折見に島の人の前でさせたりと命令するが、しだいに彼女に好感を持つようになる。


 だが、東京から腫瘍の病気で手術し島に戻って十年以上、人と関わらない生活をしていた村田はその好感を持ってしまうことに戸惑う。


 村田のナレーションで『傷つくのは相手を好ましく思ったこと』だと心の内面を話している。


 『俺は死に脅えながら、死んだように生きている。だが、その何が悪い。諦めていればよいものの求めようとした時に苦しみが始まる。俺はもう何にも求めたくはないのだ』


 村田と折見は互いに『死』に関して畏れている。そこに金魚の魚拓を取るための小さな命を消す行為。それはやがて村田に後悔をさせることになる。彼は折見に会いに十年振りに島から東京へ赴く。


 折見の言葉遣いもまたいい。最後に孤独と孤独が向き合う辺りが穏やかに進みながら心が少し軽くなるような透明感みたいな感情のやりとりと佇まいが心に染みる。


 一時間弱のドラマだが、これは脚本も素晴らしいけど演出も主演の役者の二人も全てがうまくかみ合っている感じ。渡辺さんは人の人の間の空気感や心の寄り添う温度を描くのが本当に上手いと思う。


 最後の村田の台詞は笑った。


 本当に微妙なというか心の揺らめきとかの描写とか台詞の流れが渡辺さんは上手い。今年放送した阪神・淡路大震災15年特集ドラマ『その街のこども』も渡辺さん脚本だったのだがこちらは見逃し録画もできていない。制作はNHK大阪みたい。こちらは再放送あるかもしれないので待とうかな。


 このまま評価が高まれば渡辺さん朝ドラ書くんじゃないかなあ。


 夕方観に行った劇団、本谷有希子 第15回公演『甘え』はまた書きます。

ジョゼと虎と魚たち(通常版) [DVD]

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メゾン・ド・ヒミコ 通常版 [DVD]

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天然コケッコー [DVD]

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ノーボーイズ、ノークライ [DVD]

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