朝病院に行き、咳がしんどいですと言った。もしかしたら、インフルになる前からたまに咳してたら右の肩甲骨の裏側みたいな箇所の肺が咳すると衝撃があったのでもしかしたら気管支炎になりかけていて、そこから新型インフル入り込んで感染したんじゃないだろうかと思ったりしてた。
すぐにレントゲン撮ったけど特に問題はなく、咳止めの薬を強くしときますみたいな、インフルもほぼ治ってますと。でも熱とか咳が続くようであれば来なさいって、安静期間というか移す可能性のある今週は仕事は行かない。
元々金土と休みにしていたから。一日まあだいたい四百人以上はレジしてたらそりゃあインフル菌だってもらうわなあとは思う。マスクしようがたぶん無効果だろう、自身の抗体を強めるしかどうしようもない。
何百人いたら本人は発症してなくても菌を持っているやつなんてザラだろうし、昔バイト先のドラッグストアで同じ年の子が結核になったけど客商売で多数の相手をする商売はもう運がいいか悪いかでしかない、そういう菌をもらうのは。
不運にももらって家で安静だとか結核だと隔離されると基本的には一人だから、考えることが多くなる。だいたいそういう場所から離れようとするのが当然の成り行きだ。
あんまり遠出できないのでOwen Pallett(前は「Final Fantsy」と名乗っていた)「Heartland」をamazonで頼んでた。うちはインターフォンないのでドアをノックされるのだが、最近「サダモトさん」って何回か呼ばれていて、イラッときていたんだが、めんどくさいから言わなかった。
「碇」って読めないなら、「サダ」って「貞」ならわかる、「定」だけじゃん「石」へん消えてるやん、来て毎度間違えるクロネコの人は毎度同じなんで僕よりちょい上っぽいが「新世紀エヴァンゲリオン」まったく見た事ないんだろう、これで大好きとか言ったら学習能力ないよな。
「エヴァンゲリオン初号期パイロット、碇シンジです」でお馴染みの「イカリ」だって。なんで、「イカリモトなんで」と地味に言ってみた。
言われるまでまったく間違えに気付いてなかったらしく、恥ずかしそうにしてた。確かに常用漢字じゃないけど。
Lewis Takes Action (live, with orchestra)
家でのんびりと阿部和重「シンセミア」の一巻と二巻を読了。「神町サーガ」のこの地方都市におけるこの空気感は濃厚だ。
人間関係が嫌でも密接に関わっている。世代を超えて、深く絡まってこんがらがっているだけにそのしがらみをほどくのは非常に難しい。「シンセミア」の連載後期はドラマ「木更津キャッツアイ」の放送時期とも重なっていた。
「木更津キャッツアイ」がゼロ年代をある種代表する作品であるのは人気だけではなく作品の根底にある。
宇野常寛著「ゼロ年代の想像力」にも書かれていたけど大塚英志氏が「木更津キャッツアイ」はドラマの中に「ぶっさん」の死を(このドラマはいろんな野球オマージュがあるがマンガの中に突如「死」を挿入してしまった「タッチ」ももちろん含まれる。和也が死んだシーンのオマージュも取り入れられている)きちんと呈示し、終わらない日常(宮台真司さんの発言)の時代に対しての終わりのある日常と地元意識の拡大がゼロ年代の空気感だったことを出した事を評価していた、それは当初大塚英志ぐらいだったという感じの事が書かれていた。
「東京」に憧れない、行きたいと思わない人が増えたのもゼロ年代だった。
再ヤンキー化しているのも、携帯小説的なものも、浜崎あゆみの歌詞に固有名詞がほぼ出てこない理由も、コブクロが売れる理由なんかもそういうものと切り離せない地方での充足感や、地元意識の拡大がある。「木更津キャッツアイ」はそういう空気感をいち早く大衆が目にするテレビの中でドラマとして現してしまった。
「ぶっさん」が千葉に住んでいて「東京」に行く理由がなかったこと、昔ながらの友人たちがいる地元の方が楽だし楽しい感覚が新鮮なまでに一気にこの国中に伝播した。だけども、「木更津キャッツアイ」の素晴らしさは毎日たまってビールを飲んで野球をしてという変わらない、終わらない日常がきちんと終わりますよと言ってしまったことだった。
変わりのない日々もやがて終わりますよ、いいですか、死からは逃れられませんよと明確な意思表示をしてしまったことにある。だから「木更津キャッツアイ」の方が「池袋ウエストゲートパーク」よりも現実味があって、ゼロ年代を代表する作品になっている。
「シンセミア」もある種の「木更津キャッツ」メンバーみたいな盗撮集団がいる。こいつらは「木更津キャッツ」みたいに笑えないんだが、自分たちの町である「神町」でのいろんな人たちの性愛関係を、秘密を盗撮によって握ろうとしている。地元に残った彼らや東京から戻ってきた彼らは退屈すぎて刺激に飢えて、次第に暴走し始める。
まあ、後は彼らの一人と友達の警察官、これはロリコンで、一回りも下の中学生と付き合っているというか、幼女の尻の穴の匂いを嗅ぐ事が一番性的に興奮する野郎で、警官ならば少女たちに近づいてもなんら不信感ももたれないしという理由から警官になったようなやつや、町を二代、三代と牛耳っている家の関係性など、ブラックな部分がだいぶ滲み出てきている。
性的な関係やドラッグというか麻薬など、産廃問題での対立における裏での取引や潰し合いと利害関係、などと様々な要素が絡みに絡み合っている。
まさしく「サーガ」的な内容であるし、読んでいて嘘くささは感じられない。人間はそういう部分もある。特に関係性が濃密で外部から見えない場所では関係性は深くて抜け出せない。
阿部和重「シンセミア」、宮藤官九郎「木更津キャッツアイ」、山下敦弘「松ヶ根乱射事件」は並べてみるとすごくゼロ年代的な空気感が共有されている。西田美和「ゆれる」や本谷有希子「腑抜けども、悲しみの愛を見せろ」も同じく地方都市の人間関係を描いている。
「神町サーガ」は「シンセミア」と「ニッポニアニッポン」、芥川賞を取った「グランド・フィナーレ」からなる。三月に出る「ピストルズ」は「シンセミア」に続く話らしいのでこの中に入るのだろう。
「グランド・フィナーレ」はロリコン的な小説、「シンセミア」にもロリコン警官が出てくる、ロリコンってもう当たり前に知られ存在する性的な趣向だからなあ、珍しい事ではないが危険視はされる。
古川日出男「聖家族」も「サーガ」だったけど、こういう文量があって読み応えのある、世界観があっていろんな人物や世代の話は小説の醍醐味だと思う。「シンセミア」は登場人物が五十人とかいてめっちゃ、多い。
「聖家族」は狗塚家の代々の話だった。こういうメガノベルは脂の乗った熟練している作家が書くと本当にすごいなあと感嘆するしかない。
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