Salyu 「Valon-1」
○湖(夜)
しんと静まり返っている湖。
湖の中から小さな青白い発光体が現れ
飛んでいる。
○崩壊した街並
骨組みだけを残した建物に朝日が差し
込んでいる。
○丘の上にある小屋・全景
小屋の向こう側に湖が見える。
○同・中
粗末な部屋の中、ベッドが見える。
ベッドのシーツが動く。
シーツから後藤マイカ(22)が顔を出
す、シーツから幼い顔の大江ソラ(22)
も顔を出す。
マイカがシーツを腰まで下げる、マイ
カの胸が露になる。
ソラの上半身が見える、体つきは幼く、
思春期の少年のようにか細い。
マイカ「(ソラを抱きしめ、両手で肩甲骨を触りながら)ねえ、
ソラ知ってる?」
ソラ「(声変わりしてない少年の声で)何?」
マイカ「この肩甲骨はね、人間が天使だった時の名残なんだって」
ソラ「マイカは天使見たことあるの?」
マイカ「ないよ、だって神の使いなんだよ、天使は。
人間が死ぬ時に天国へと連れて行ってくれる案内人なんだよ」
ソラ「じゃあ、あの日世界中に天使が舞い降りたんだね」
マイカ「そうかもしれないね」
ソラのお腹の音が鳴る。
マイカ「ご飯にしようか」
ソラ「うん」
○鏡博士の家・全景
森の中にひっそりとたたずむ家。
ソラが歩いてきて、ドアを叩く。
ソラ「博士、博士―」
鏡の声「入っておいで」
ソラが家の中に入っていく。
○同・中
イスに座っている鏡リョウジ(60)。
鏡の顔の一部や腕、指先、服から覗く
皮膚など機械で出来ている。
鏡「いらっしゃい、コーヒーでも飲むか」
ソラ「うん。博士は夜湖に飛んで光る生物知ってる?」
鏡「あれは蛍だろう(と本棚から生物図鑑を出し、
蛍のページを開きソラに渡す)これじゃないかい」
ソラ「うーん、全然違うや」
ソラがポケットから羽根のついた五センチほどある夜光虫を渡す。
ソラ「だって、これだよ」
鏡「(手の上に置き)これは夜光虫か」
ソラ「夜光虫って何?」
鏡「刺激を受けると青白く発行するプランクトンだ、
しかし海に生息するはずだ、そして本来は一、二ミリ程度の大きさなんだ。
もっとも飛ぶような生物じゃない」
ソラ「じゃあ、博士がよくいってるじゃない、
環境が変わって突然変異したとか?」
鏡「うーん、湖で生存できるなら、突然変異というよりは環境変異のほうが
近いかもしれないな」
ソラ「よくわかんないや」
鏡「ソラだってそうかもしれない。確かマイカと同じ年だろ、
えーといくつだっけ、えーと」
ソラ「22歳だよ」
鏡「でも、世界が終わってしまったあの日から君は成長していない、
環境変異かもしれないよ」
ソラ「いいことなの、悪いことなの。博士」
鏡「私にもそれがどういうことなのかよくわからないんだ」
ソラ「博士にもわからないこといっぱいあるんだね」
鏡「わからないことだらけだよ」
鏡が笑う。
○森・坂道
マイカが籠を持って歩いている、
籠の中にはつくしや山菜が入っている。
マイカ「ある日、森の中、くまさんに出会った」
マイカが歌を歌いながら坂道を下っていく。
○丘にある小屋・中(夕)
暖炉の火が優しく室内を照らしている。
ベッドの上に座って本を読んでいるソラ。後ろの壁にソラの影が映り、揺れている。
ドアが開き、マイカが薪を持って入ってくる。
マイカが火の番をし始める。
マイカ「ソラ、同じ本ばっか読んでおもしろいの?」
ソラ「博士の家から借りてるんだよ、同じじゃないの」
マイカ「博士元気だった?」
ソラ「もう長くないって言ってたよ」
マイカ「(振り返り)えっ!」
壁に映るソラの影に、羽根のようなものが見える、
しかしすぐに消える。
マイカ「……何」
ソラ「どうしたの?」
マイカ「なんでもないよ、それより博士が自分で長くないって言ってたの?」
ソラ「機械と生身の体がどうもうまいこと繋がらなくなってきてるみたいなんだ」
マイカ「行くよ」
とソラの手を握って小屋から出て行く。
○博士の家・中
ロウソクの灯りが室内を照らしている。
イスに座っている鏡、小刻みに揺れている。
ドアをノックする音がする。
鏡「どうぞ」
マイカがソラの手を引っ張って入ってくる。
鏡「どうしたんだ、こんな時間に」
マイカ「ソラが博士もう長くないって」
鏡「そうか、でもホントのことだよ」
マイカ「博士がいなくなったら私たちどうしたらいいの」
鏡「いずれそうなるんだよ」
ソラ「死なない人なんていないんだよ」
マイカ「なんでそんなこと言うの」
マイカが涙ぐむ。
鏡「私は若い頃罪を犯した、その罪を軽減させるために体の半分を機械にした。そして刑期を終え、私は私の体を改造した博士の所で研究をすることになった」
ソラ「だから博士は生き延びた」
マイカ「どういうこと?」
鏡「この世界で人間として生き残っているのはおそらくマイカだけなんだよ」
マイカ「ソラだって」
鏡「ソラの役目は死んでいく人間を連れて行くことだろ、なあソラ」
ソラ「バレてたか(と下を出す)」
ソラが光に包まれる。
マイカと鏡が眩しくて目を瞑る。
光が弱くなり、ソラの姿が現れる。
ソラの服は白い布を巻いたようなローブに変わり、
背中からは大きな羽根が出ている。
マイカと鏡が目を開ける。
マイカ「ソラ、羽根が」
鏡「俺を連れて行ってくれ、あの湖に」
ソラ「わかったよ、博士」
マイカ「ソラ、どうしたのねえ、どうなってるの」
ソラ「僕もあの日死んだんだ。でもマイカを一人にしたくないからこんな格好だけどこっちに戻ってきた、それだけだよ」
マイカ「それだけって、生きてるじゃない、私の前にいるじゃない、ねえ」
ソラ「マイカ、目に見えるもの全てが本当のことじゃないんだよ。
さあ行こう」
ソラがマイカと鏡の手を持つ、羽根が動き始める。
宙に浮く、ソラ、マイカ、鏡、部屋から消える。
○夜空(夜)
マイカ、鏡がソラに手を握られ飛んでいる、満面の夜空。
○湖(夜)
ソラ、マイカ、鏡が水辺に座っている。
鏡が立ち上がり、
鏡「ソラありがとう、マイカさよなら」
鏡の機械の耳が機械音と共に横に出てくる、赤いランプが光っている。
機械の耳のボタンを押すとランプが消え鏡が倒れる。
マイカ「(駆け寄って)博士。ねえ博士」
ソラ「ごめん、マイカ。博士を連れて行くよ」
博士の体から青白い光が浮かび上がり、それを抱くソラ、
空へと舞い上がっていき、見えなくなる。
マイカ「……(空の消えた夜空を見ている)」
湖から夜光虫たちが青白い光と共に水面に出てくる。
ソラ「ねえマイカ」
マイカの横に普段の姿のソラがいる。
マイカ「ソラ、私どうしたらいいのこれから」
ソラ「僕がいるよ、ずっと。ずっと」
湖に映る月、水面の上を幾千、幾万の夜光虫たちが舞っている。
数年前にシナリオセンターでの授業で書いたなんか短いシナリオ。考えずに書いたから設定とか変。今はこの世界観を少し使ってもうすぐ締め切りの「このラノベ」大賞用のやつを書いている。セカイ系ってやつか。
元々はSalyu「VALON 1」からのインスパイアと遠藤浩輝「EDEN―It’s an Endless World」と「多重人格探偵サイコ」のバーコードの後の天使篇からくだりをREMIXしようとしたような気が。まあ、書いてる小説は全然違うんだけど、ノリと勢いで。
仲俣さんからお借りしていて去年の年末に読み切れなかった最後の一冊だったシオドアスタージョン「夢みる宝石」をさっき読了。前の二冊「アインシュタイン交点」「あなたの人生の物語」のある種の読み辛さに比べれば読みやすい文体だけもやはり難解だ。だけどもとても面白い。
SFの流れがあってラノベとか存在しているはずなんだけど、今やその両者の違いとか繋がりとか断絶しているのかもしれない。
お借りして気になった作家のフィリップ・K・ディック「流れよわが涙、と警官は言った」「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」が自分で買ったので読むのが楽しみ。いつ読めるかわからんけど。
去年知り合いの人にオススメしてもらった本でスティーヴン・キング「バトルランナー」、ジーン ブルーワー「K‐パックス 」は買っているのでようやく読み始めれる。とりあえずこの二冊から先行していこう。
佐々木敦さんに「ニッポンの思想」の新書にサインしてもらった時にオススメの作家いますかって聞いたら読んだ方がいいよって言われた神林長平「アンブロークンアロー―戦闘妖精・雪風」シリーズは買ってないけど読みたい。
三月に阿部和重「ピストルズ」が出るのでその前史であるらしい「シンセミア」の文庫全四巻も昨日アマゾンで来たし、昔ハードカバーで買った時に読めないから友達に読まずにあげたんだよなあ。
本読んでるとある程度は書けるんじゃないかって思ってしまうし、実際にはそんなに簡単ではないし、構成とか文体とか諸々。でも、まったく読まないで書けるとも思わないんだよなあ。
去年は読む比率が高くて書く比率がだいぶ低かった。とりあえずインプットしたものやそこから浮かんだものをアウトプット。
海難記「イベント告知〜2010年の「出版」を考える」
仲俣さんが出るイベント。一昨年の阿佐ヶ谷ロフトの出版を考えるトークのイベントには行ったんだけど、今回は日程的に空いてたら行くつもり。2月1日頃の予定が今の所立たない。出版関係の人でいっぱいになるだろうな。
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アンドロイドは電気羊の夢を見るか? (ハヤカワ文庫 SF (229))
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