Spiral Fiction Note’s diary

物書き&Webサイト編集スタッフ。

東京怪童1/宇宙兄弟6

 僕は人の顔なら覚えている、街ですれ違っても一度見た事ある人だったりレジしたことある客だったり。芸能人だとさらにわかる、隠そうとする雰囲気と言う空気感が漏れているのが伝わるから。そういう感覚は鋭い方だと思う。しかし、顔とか後ろ姿でこの人は見た事あるとか画面でしか見た事なくてもわかってしまうのに、いかんせん名前が出て来ない。


 音楽にしても曲名が覚えれない、覚えていたはずの曲名でもまったく出ないことが多々ある。人の名前も完全に覚えている、覚えれる人もいるが、姿と名前が完全に一致するということだけど、普通に忘れるというか思い出せないことが多い。漫画にしても小説にしても物語は、話の展開は覚えているのに登場人物の名前はまるで読み終わったら消えてしまう。映画も登場人物の名前は観終わったら、かなりの確率で覚えていない。作品の中で何度も呼ばれてない限り、ほぼ残らない。


 たぶん、一定量の固有名詞や名前しか保てないし覚えれない。新しく覚えれば何かが消えて行くような感覚。健忘症の一種なのかどうなのか。そんなことを感じるのは漫画とか読んでレビューを書こうとした時に登場人物の名前が出て来なかったりする時だ。


 望月ミネタロウ「東京怪童」一巻と小山宙哉宇宙兄弟」六巻を読む。


 「ドラゴンヘッド」などでお馴染みの望月さんだが、今作からなぜか名前がミネタロウとカタカナ表記になっていた。この「東京怪童」には脳になんらかの障害を持っていて、先天的な人や後天的な人、四人の少年少女がメインで、彼らを治療し精神的ケアをしている病院が舞台。十九歳のハシは事故で破片が脳に入り込んで思った事感じた事を全て口から出して言ってしまう。二十一歳のハナは所構わずオーガズムを感じ自慰をしてしまう。六歳のマリは人を認識できない、彼女以外が住んでいない世界に住んでいる。十歳の英雄は自分はスーパーマンと思っている、彼の脳は痛みを感知しない。


 彼らはそういった理由で一般の生活が困難である故に病院の中にいる。これを映像化したら近いのは松尾スズキクワイエットルームにようこそ」のような世界観かもしれない。人は思った事感じ事を全て口に出すと社会的に存在することはまずできない。


 特異な症状を持った彼らをどう描いていくのかは読んでて気になったのでコミックが出れば読んでいこうかなと思う。彼らの痛々しさはまったく僕らと遠いわけではない。


 感じた事を言っては人間関係を上手く運べないから人は嘘も言う、本当の事はかならずしもいいことではないということを教わらずとも僕らは知っていく。


 人前で性的興奮を覚えても理性でそれを抑える、抑えなければ社会的に制裁や事件になってしまう。


 世界は自分と他者との関係性の中でしか存在しない、他者がいない世界は自分もいない世界。そこで生きることが生きていると言えるのかどうか、人類補完計画でもないけど全ての人の意識が海の中に溶け合うような生命のスープの中、他者は自分であり自分が他者である、もはや痛みすらもない世界を求める人もいるだろうけど僕は僕の自意識と誰かの自意識が衝突するから感情が生まれて僕が僕であることを感じれていると思う。


 痛みがないのなら人は無敵だと思いながら知らない間に死ねる、痛みは生きるために必要だから、痛みがリミッターとなって、その限界値を超える本人の意識の強さが自殺の完全さを起こす。痛みがあるから人はそう簡単に自ら命を落とせない、痛みや恐怖心は生きるために必要な要素として備わっていると思う。太古の昔、恐怖心を消す為の叫びがやがて笑いに変わった。生きる為に人は笑う事を覚えた。生きる為に必要最低限な恐怖を感じ、それに支配されない為に人は笑った。


 だからこの漫画はかなり現代的なものをそういう症状を持った彼ら、度が過ぎているように見えるけどあえてそうしたのだろうが。彼らを通して物語に落とし込んでやろうとしている感じを受ける。


 「宇宙兄弟」はこの間五巻まで一気に買って読んで面白かった。ので新刊も楽しみにしていた。一番好きな漫画は「プラネテス」だけど、これは何十年も先の宇宙が舞台の物語で、こっちの「宇宙兄弟」は今の時代の宇宙飛行士の弟と、夢を諦めていた兄が弟と同じ宇宙飛行士をまた目指す物語。熱血過ぎずに暑苦しくない、でも芯は燃えているけどきちんと落としどころとかユルい感じのシーンも挟みながら読む人間に違和感を与えない。


 遺伝子の秘密は日々少しずつ明かされている、人間の遺伝子情報も次第にわかってきている。それと同様にある意味で神秘でまだわからないことが多い宇宙という舞台。
 世界の土地はもはや夢を思い求めるロマンがある場所ではなくなった、目指すは宇宙というのはわかる気がする。未知を求めることがロマンなんだと思うし、そういう場所に挑む人たちを描くと必然とそれらが内封されていく。
 この漫画はテンポがとてもよくできているので非常に読みやすいし、キャラクターも魅力的。


 保坂和志「残響」も読了。読んで思ったのは柴崎友香の作品を読んでいる時の感じに似ているなあという、特に「残響」は柴崎作品にありそうな感じだなって思った。で調べたら「作家の保坂和志から高い評価を受けるが、三島由紀夫賞選考では保坂との作風の類似も指摘されている(福田和也の評)」ってあるのでまあ僕が感じた事は間違いではなかったというか、保坂さんからの影響下にある作家さんなんだろうなあ柴崎さんはって思った。


 ある程度好きな作家や影響を受けている作家からの匂いがするのは至極当然なことだと思うんだけど。ミュージシャンだってコピーから初めて好きなバンドの音に近いものを最初はやるし、そこの影響下からは完全に抜け出せないし、小説も漫画も映画も同じ。


 完璧に100%のオリジナルなんてないし、無理だしみんな最初は誰かのコピーでしかなくて、そうじゃない人は生まれ持った新しい価値観を持った孤高の天才だから、そんな人はレア中のレア。みんな真似から初めてコピーである自分が嫌になって試行錯誤して自分の中のアイデアとか想いとかをそれに混ぜ合わせて新しい色だったり形を作ってその人なりのオリジナルができていくわけで。

 
 その人なりのオリジナルは影響を受けた人たちから引き継いだ魂の一部が入っていて当然。まあ完全にパクるというのはまあ愚の骨頂だけどきちんとリスペクトしていたらそれは影響を受けた人にはきちんと伝わると思う。だから保坂さんは柴崎さんを評価したんだと思う。でも、読んだら保坂作品には保坂作品の匂いが濃厚にするし、柴崎作品には柴崎作品特有の匂いがする。その匂いが個性なんだろう。

東京怪童(1) (モーニング KC)

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宇宙兄弟(6) (モーニング KC)

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残響 (中公文庫)

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次の町まで、きみはどんな歌をうたうの? (河出文庫)

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