Spiral Fiction Note’s diary

物書き&Webサイト編集スタッフ。

映画「重力ピエロ」+α

 小説家・伊坂幸太郎作品の中でも代表作と言われ第129回直木賞候補作品でもあった「重力ピエロ」が映画化し公開。


 寝ないで朝一から名前がCQNからヒューマントラストなんとかに変わった映画館で観てきた。


 原作との違いでいうと兄・泉水が遺伝子を取り扱う会社務めではなく、大学で遺伝子の勉強をしている。
 クロスオーバーする伊坂作品で最も多くの作品に出ているはずの黒澤がいない、もし見落としていても彼らしい存在感はない。
 母は病死ではなく自動車事故で死んでいることになっている。
 原作よりも兄・泉水と弟・春の年齢が近い。


 感想でいうと小説を読んでない人の方が楽しめる。「アヒルと鴨のコインロッカー」は読んでいる人の方が楽しめると思う。それはあの内容をどう映像化したのかという興味があるから。


 監督の森淳一さんは窪塚洋介主演「Laundry」の人で株式会社ロボットの人。最初にロボットって出たし監督が「Laundry」だからと思ったら空気感がやっぱりロボット制作の匂いがした。
 「Laundry」自体がやさし〜い感じのテイストだった。なんか安藤政信さんが主演した「サトラレ」に近いような気もするかな。


原作者・伊坂幸太郎のコメント
http://www.jyuryoku-p.com/isakacomment/index.html


 の中に「重力ピエロ」というお話は、映画にすると、ごく普通の「家族の話」になってしまうのではないか、という危惧があった。とある。


 以下ネタバレ含むので映画見るつもりで原作読んでない人はスルーして。


 この作品のあらすじ:仙台の街で起こる連続放火事件。放火現場の近くには必ず奇妙なグラフィティアートが描かれていた。過去に辛い記憶を抱える泉水と春の二人の兄弟は、事件に興味を持ち謎解きに乗り出す。グラフィティアートと遺伝子のルールの奇妙なリンク。


 泉水と春の兄弟は名前が英語にするとスプリング、そんな繋がりで母が名付けた。元モデルであった母と父が劇的な出会いをして母が押し掛けてきて二人は結婚し、長男・泉水が誕生する。


 しかし、母が連続レイプ犯に暴行されてしまう。妊娠していることが発覚、父は生もうと言う。そのことで近所から言われたり父親に似てないと言われることになる春、容姿端麗なことや絵が上手いことで。父は春の誕生日がピカソの命日であることからピカソの生まれ変わりだと春に告げる。


 連続レイプ魔は捕まるが高校生であったために数年少年院に入り、その後少女売春の斡旋を始める。


 グラフィティアートと連続放火事件は対のものとしてあり、二十年ほど前の連続レイプ魔事件とほぼ同じ位置で起きている。グラフィティアートの文字の頭文字はA,G,T,Cと遺伝子の頭文字となっている。


 全ては遺伝子上の父への警告として春の自作自演、つまりはなぜ自分が生まれてきてしまったのかという性的なことに対する嫌悪の原因に向けての復讐劇であり、兄はそこに巻き込まれていく。


 小説で読むよりもかなり復讐としての自作自演要素が強く見えてしまう。それを覆い隠すためにごく普通の「家族の話」が表面に出ているような感じを受ける。

 泉水役の加瀬亮、春役の岡田将生もすごくいいんだけど、自分に痛みのないことなど悪いことだとまったく思っていない葛城役の渡部篤郎とキャストは違和感ないんだけどなあ。夏子役の吉高由里子も雰囲気としてはあってる。父と母の小日向文世鈴木京香もいいのに。


 たぶんこの内容自体が映画化すると微妙な感じになる感じ。
 「陽気なギャングが地球を回す」の映画化みたいな大失敗作品でもない。
 3月に観た「フィッシュストーリー」はすごく面白かったからやっぱり監督との相性の問題もあるのかもしれない。だからその中村義洋監督がやる「ゴールデンスランバー」は期待できそうな気がしてくる。


 だから「重力ピエロ」は善くも悪くもないっていう感じの作品。


 小説の方が好きってのもデカイかもしれない。伊坂作品は基本的に誰にでも勧められるし、読んだ人はたいてい好きになる作家さんなので今の時代でのポピュラリティーのある作家さん。村上春樹の系譜にいるし、「春樹チルドレン」の代表格でもある。そう考えるとおそらくは村上作品も映画化すると微妙なことになる可能性が高そう、だから彼は映像化を今まで許さなかったんじゃないかと思う。


 小説での文体や雰囲気で読んで面白いと思える内容は実写化、映像化するとあまりにも普通な画や内容になることが多々ある。それは小説と映画という表現の違いだと思う。だから映画の現場がきついからと言って企画が通りやすいからと言ってなんでも原作物やっていくとこういう事態になる。しかもオリジナル脚本の映画が減る事自体が映画業界の衰退に近づく。


 伊坂作品の映像化は原作権がほぼ買われているのでこれからも公開されていく、そのことによって伊坂さんの魅力が損なわれてしまうのはもったいない。同じく村上春樹作品に影響された古川日出男さんの作品は映像化がしづらい、たぶん映像化すると小説の力がまったく現れない文体からなっているから。言葉のリズムで作られているのから。


 僕が惹かれたのはそこの部分が大きい。小説には小説の表現があり、映画には映画の表現がある。伊坂さんの作品は映像化はしやすいかもしれないけど、台詞も展開も非常に小説的なので、監督と脚本家がきちんとやらないと原作の力をうまく活かすことができない。


 上映前の予告で観たいのは「ハゲタカ」と「エヴァンゲリオン」かな。「ディアドクター」もよさげ。とりあえず「ハゲタカ」はドラマで放送してる時から大森南朋さん出てるから見てたけど面白かったのでどう映画として今の社会情勢を出しているのか、ただ客がおっさんばっかりな気がする。


 朝まで文化系トークラジオ Lifeを聴く。詳しい内容はまたPODCASTで配信されたら聴き直さないと、いつもよりも断然会話のペースが速い、東さんのペース速いけどcharlieがそれに対してみたいな速さでかなり濃厚で、しかも情報量が多くて速い!
 しかも二人の会話聴いていると頭のいい人のトークだなあ、話もきちんと聴いてるし理解して、話の道筋を見失わないで話せるのがやっぱりすごいなって思う。

 
 途中でDragon AshCanvas」が流れて嬉しかった。メールにこの曲のことを書いていたので僕のメールを読んでこの曲を流してくれたのかなって思ったりして、他にも誰かこの曲をリクエストした人がいるのかなあ。「Life」でDragon Ash流れるのなんだかすごく嬉しかったりする。