リチャード・パワーズ「われらが歌う時」下巻を読了。最後で過去と未来が交差したようになった部分はあれだけの長さの話を読んできたからこそ意味をなし得るというか意味がある。最後が最初であり未来と過去を結んだ。時間は連続性の中にある。
古川日出男「聖家族」は「われらが歌う時」のようなアメリカが辿った歴史をある家族の数十年で表しているわけではないが、やはり温度というか根底に流れているのが近い感じを受ける。
「聖家族」は兄弟妹と祖母、祖母の祖母、と長い時間の系譜が描かれている。東北の歴史と一族の流れ、伏線も回収していないものもあるが、その細部はなんとなく伝わるものである。古川日出男作品には神話のようなファミリーロマンスがデビュー当時から描かれている。それは家系図のような物語の形をした手紙だ。
「ベルカ、吠えないのか?」も軍用犬から見た第二次世界大戦から冷戦終了までだが、犬の系図という一族の流れから世界を見せる、神話的な世界観を描く作家が古川日出男という存在だ。
「ブ、ブルー」の舞台後のトークで柴田元幸さんが古川さんとスティーブ・エリクソンが似ているということを言われた。古川さんも作家として似ていると思うと言った。古川さんからすれば時間の違いや速かれ遅かれ彼が書いた作品は自分が書く可能性があった、自分の書いた話を彼が書く可能性も高い、と。彼らは同じような感覚を持っているという。
空中に浮かんだ物語をいかにつかむか、耳をすまして捕まえるのか、しかし作家が見える、捕まえようとする物語は作家性によりもちろん違う、だから近い感性の作家が同時多発的に同じようなテーマや物語を書くということはパクリとかそういう次元の低い話ではないようだ。その感覚は彼だけのものだ、第六感のようなものをイメージするほうが僕らにもわかりやすいのかも。
で、買って読んでなかったサタミシュウ「はやくいって」を読む、速攻で読み終わった。長い物語を読んでいたのでスピードが上がっているのかもしれないし、まあこの本は短い。この「はやくいって」はサタミシュウ「私の奴隷になりなさい」「ご主人様と呼ばせてください」「おまえ次第」の前三作の細部というか登場人物が出ている短編だ。
前三作の表紙はAV女優の大沢佑香だったが、今回はAV女優の加藤ツバキになっている。前は大沢佑香が解説を書いていて今作は加藤ツバキが書いている。彼女達が書いているのを読むとサタミシュウのこの青春SM小説(と角川は帯に書いている)は女性の方が読者は多いらしい。主人と奴隷という主従関係のSとMの物語が女性に受けているというは、ひょっとすると「草食系男子」問題とも関係があるのかもしれない、ないのかもしれないが。
大沢佑香
http://blog.livedoor.jp/oosawa_yuuka/
加藤ツバキ
http://ameblo.jp/samuraicats3030/
森博嗣「スカイ・イクリプス」も文庫で出ていたがこれは「スカイ・クロラ」シリーズの短編集である。最初に出た「スカイ・クロラ」が実はこのシリーズの最も最後の話だったというのは後の作品を読むとわかってくる。
時間軸だと「ナ・バ・テア」「ダウン・ツ・ヘヴン」「フラッタ・リンツ・ライフ」「クレィドゥ・ザ・スカイ」「スカイ・クロラ」「スカイ・イクリプス」となっており、最後の「スカイ・イクリプス」はその前の作品のキャラクターたちが出る短編で細部を埋める形となっている。森さんの小説だとこのシリーズの文体が一番そぎ落とされていて詩みたいで好きだ。
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