Spiral Fiction Note’s diary

物書き&Webサイト編集スタッフ。

黒田育世×古川日出男『ブ、ブルー』予告プラス追記

 ここ数日は秦基博「朝が来る前に」をよく聴く。charlieがいいよって言っててセカンドアルバム出てから聴き始めたんだが。色々と感慨深いです。


秦 基博 / 朝が来る前に(Live at Zepp Sendai '08.12.6)


 家を出て下北沢まで自転車に乗って、小田急線で新百合ケ丘へ。小田急線は信号トラブルのために、急行が来ない、急いでいるのに。ただ待ち合わせはなく、行く予定だったり誘った人は予定があったり、できたりで一人だったから、誰かを待たすということはなく、まだ心持ちとしてはよかった。


 新百合ケ丘には行ったことはなく、だからなんとなく時間配分ができずに、急行なら30分ぐらいみたいだったから下北沢に二時前に着いて、開場が二時半だったから余裕だと思ったら、トラブル、時間が読めない。各駅では遠い。
 実際にはだいぶ進んでからどこの駅だっけな、新百合ケ丘のひとつ前の急行停まるとこで急行に乗ってなんとか四十分すぎとかに着く。川崎アートセンターは駅からわりとすぐにあって助かった。



 始まる十五分とか前でも客席は埋まっておらず、ここに来る交通手段が小田急オンリーだから。で、階段の通路の横の左端の席に座って階段を挟んだ隣の右端の席を見たらHEADSの佐々木敦さんがいたので、これまたお話させてもらう。
 新音楽誌ヒアホンのことを聞かせてもらったり、とかしました。で、そういえばこの日15日は文化系トークラジオ Lifeの「「就活」で何を学ぶか」ってトークイベントがTBSであったので「行かれなかったんですね」って聞いた。


 僕もこの日のイベントのチケを先に取ってからイベントを知ったのでお手伝いに行けなかったんだが、佐々木さんは「就職活動したことないし」って。前に「Life」でも話されていた気がすることを言われた。そうね、「就活」イベントにしたことない人が行ってもねってのは。


 僕も世に言うところの就職活動したことないし、するつもりがないので行っても手持ち無沙汰になったのかもしれないなって。だから真剣に就職活動するためにトークを聞きに来た人との温度差がかなり出てしまったかもしれない。
 でも、ここで角川の人にお会いしたりすることが僕なりの就活でもあって、あまり一般的ではないとしても。
http://www.faderbyheadz.com/


 小田急線の遅れもあって十分遅れの開始。古川さんの朗読から、煙が舞台に。古川さんが座っていたイスが宙に浮く、あの古川日出男が浮いたっ!


 黒田育世さんが舞台で舞う。初めて観る黒田さんの体の動きはなんだか狂気にも見える、鋭さとしなやかさを、そして強さを体現しているように妖しい。そこはまるで“異”世界の空間で、空気がビシビシと振動して二人が共鳴する。目が釘付けになって、そして何かが怖い。


 黒田さんの肢体が波を打つように、人の体はあんな風にも動くのか! そして叫ぶ、飛ぶ、跳ねる、空気が濃縮されて、古川さんの朗読が、物語の、言葉が混ざりあって、なにかが、なにかの一線を越えてしまっているような。
 近くにいた客は黒田さんの動きで笑ったりしている、その気持ちはわかる、理解できることとできないこと、人は想像を超えるものや理解できないものを目の当たりにすると笑ったり怖がったりする。


 でも、笑ってしまうぐらいにカッコいいということは、ある、たしかにあって。僕は凄いと思いながら怖くなったりして、畏怖している。この空間に、目の前の“異”空間はある種のカオスが、空気に溶け出しているし、何かを破壊している、僕らの観客の中のなにかを。
 そして物語が、ダンス×文学で再生され創造されているのが凄くて、怖い。でもカッコいい、喉が渇いて仕方ない。


 古川さんも黒田さんと共にダンスもする、身体性のある作家、だから共鳴したのか。黒田さんはその場その場で、瞬間瞬間に体に降りて来たものを肉体で現す、だからシャーマン的な、何か霊的なものすら感じる、躍動する肉体、静動がある。
 古川日出男著「サウンドトラック」の主人公の一人・ヒツジコのダンスはきっと黒田育世さんが踊るものに近いと観ながら思う、だから小説が具現化している。それは間違いではないだろう。だからこそ彼らは同じものを見据えて一緒に舞台に立っているはずだから。


 屋上が舞台のひとつ、それは古川さんが「コヨーテ」に書いたこの「ブ、ブルー」の原作小説に色濃く示されていた。そこに載せられたテキストはこの舞台の一部分でしかないが。沈んでいる世界と沈んでいない世界、ビルを占拠している育代、彼女はカラスに一時育てられている、育った彼女は屋上でカラスを、日出男の世界は沈んでいる、学校の窓は耐水仕様でエイの表情の豊かさや、ヒトデがくっついていたりする。
 ダイブすることは片方では死を、片方ではまさしくダイブ。


 舞台上にあるのはイスや一斗缶、巨大なメタルシェルフみたいな屋上へ上がれる装置。舞台上の空間を存分に使って踊る、2時間ないぐらいの上映時間に耐えれる運動量はハンパなくすごい。


 この舞台は土日の二日の二回だけ。もっと観たいとは思うけどあれだけのものは連日したらたぶん保たないのだろう、かとも思う。何度も泣きそうになって目が潤んだ。感動しているんだけど二人の凄さで、文学の、朗読の言葉が、ダンスの、身体の強弱が、訴えて来て僕の中の何かのスイッチを刺激したみたいで、だから僕は泣きそうになった。


 終わった後にはアフタートークとして翻訳家で「モンキービジネス」の責任編集をされている柴田元幸さんと黒田育世さん、古川日出男さんのトーク。物語というか創造することについて古川さんと黒田さんは同じ見識で、それでやりやすかったみたい。


 空中に混ざっている物語を、物語はすでに存在していて、それを捕まえる。それは物語に呼ばれるようなもので、古川さんは呼ばれる声を聞く耳がないといけないと。しかしみんながそれを持っていないし、持っていても声が小さいから捕まえられない人が多いって。「日出男、お前なら書ける」って言われるということを言われていた、それに黒田さんも同意していた。
 物語は自分の中からも出てくるが、実際はその空中に混ざりあって存在している物語に自分が上って捕まえに行く、呼ばれたからには全身全霊で自分の中のすべてを出し切らないと上っていけず、物語を形にはできない。

 
 柴田さんは古川さんはスティーブ・エリクソンと似ているって話で、古川さんは個人としては似てないが作家として似ていると。スティーブ・エリクソンが書いた作品を読んで、これ書かれたかあって思うことが何度もあるらしく、つまり空気から捕まえる物語が、呼ばれる物語の質が同じであるみたい。だからこれを書かれたら違うものをってことになったりするみたい。


 物語に呼ばれるって感じ、上って行くという感覚。物語が降りてくるって感じは降りて来てるんじゃなくて呼ばれているのかな、僕に書けって言ってくれているなら最後まで書くしかないわけだ。僕と同じようなセンサーの人間も呼ばれているんだろうから。


 最後に柴田さんの責任編集している「モンキービジネス」の四月に出る号で古川日出男さんが影響を受けた作家・村上春樹さんにインタビューした記事が載るって、けっこうな枚数で。古川日出男×村上春樹かあ、濃いなあ。読みたいテキスト。



 古川さんが「ブ、ブルー」の中で即興で紙に書くシーンがあって、チラシを挟んでいた公演の紙に書かれていた、それと同じようにして書かれたと思われる言葉が裏面に載っていた。今日観たのとは違う、古川さんが書いて黒田さんが読んでいた文章ではないが。小田急が遅れたことを舞台上で古川さんがアドリブで入れていた。「小田急が遅れてぎゅうぎゅう詰めで、小田急が遅れて、九歳の時に、小田急の“きゅう”と九歳の“きゅう”がねえ」って聞いたのとは違うけどニュアンスはこんな感じだった。



1 コップからしか覗けません。水のなかにいるんです。そしてさ、踊ってるの。見えるよ。見えるんだって。こんなんじゃ上手く書けれないけど。
  見えるっては書きたいよ。あのね、コップの中にいると、水をすこしなめられるよ。水、水をのんでる。ずっと水をのんでるんだって。


2 水をのんでてもしゃべられるのか? こうしてコップの中にいるってさ、縛られてるのとおんなじだ。折れても書けるよ。こうして書けるよ。
  コップの中にあるのは何?  活けられるのは…コップに。花。もちろん花だよ。花は切られても、コップに入れられれば、生きるの。だから生きられるんだよ。ねえ、花をコップに。花をコップに入れようよ。



 帰りは急行ですぐに下北沢に着いた。今回ほぼ何にもしてないのですが協力とクレジットしてもらっているフリーペーパー「路字」の四号をもらおうと「ほんきち」に行った。写真はゼロから四号まで、たぶん号外の一個以外はあるのかな。
http://www.big.or.jp/~solar/rojipost.html

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