Spiral Fiction Note’s diary

物書き&Webサイト編集スタッフ。

古川日出男 朗読 『東へ北へ』

 今日を休みにしたので僕はこの暑さと湿気の中の一日中外にいるバイトを五連チャン入った。手だけがやけに焼けている、というか半袖の下から皮膚の色がまるで違う。日焼けのラインから腕を切り落とされても、その落ちた手は僕のものではないかのように、違う、色、焼けてる皮膚の表面。


 朝起きてから不在届けの入っていたアマゾンからの郵便物を取りに世田谷郵便局に。立川志らく『雨ン中の、らくだ』を購入したのが送られてきていたから。僕は志らく師匠の落語を一度しか生で聴いたことがない。


 ただその一度の邂逅は凄まじく、腹を抱えて笑った。それが志らくさんの師匠である立川談志師匠の十八番のひとつである『らくだ』だった。ZAZEN BOYS×立川志らくというライブで。


 ZAZEN BOYSが十数曲演奏した後にいきなり志らく師匠が出てきて落語を、『らくだ』を始めるのだ。ZAZENのリズムに狂ってまぐわっていた僕たちはその落語の世界にラインを超える必要なく入り込んでいく。そして経験したことのない落語を体験したのだった。


 単純に今考えている小説に金髪の落語家を出したくなって、なぜか彼のワゴンの中で主人公は金髪の落語家に『らくだ』を聴かせるというシークエンスを思いついてその流れでそういえば『雨ン中の、らくだ』って本があったけど読んだことないやって。


 お昼を過ぎて自転車で渋谷に。東急の信号、円山町の坂道のとこのファミマの地下にあるサラヴァ東京って場所に。小説家・古川日出男さんの朗読イベント『東へ北へ』を観に。(ダンス)黒田育世(音楽)小島ケイタニーラブ  松本じろの三名とのコラボレーション。


 黒田さんとの舞台『ブ、ブルー』(黒田育世×古川日出男『ブ、ブルー』予告プラス追記)は以前観ていて、トークイベント(「ダンストリエンナーレ トーキョー 2009 ―限りなき瞬間― 」 )も観ていて黒田育世というダンサーの凄さみたいなものは体感しているので楽しみで、黒田さんの時は音楽は松本じろさんで世界観ががっしりできてる。小島ケイタニーラブさんは前にも朗読イベント(「フルカワヒデオ200ミニッツ」)の時に古川さんとコラボしてるのを観ていたので万全の体勢だなあと。



↑だいぶ前のエクスポの時かな。

 
 東北東日本大地震の時に古川さんは小説の取材のために京都にいた。実家は福島だった。彼は新潮の編集部数人とでかつて彼が書いた東北六県を巡るメガノベル『聖家族』の舞台東北に、地元の福島に行く事になる。
 そのノンフィクションと小説『聖家族』が繋がり一つになった小説が『新潮』7月号に掲載された書き下ろし『馬たちよ、それえも光は無垢で』だった。今月の末に単行本として出版されることになった。


 今日は間違いなく『聖家族』の朗読だろうと思っていた。古川さんの小説で彼の出自元である東北を書いているのは『聖家族』だから。その小説が発売された時のイベントでも他でも何度か朗読で聴いているが、この原稿用紙二千枚近くのメガノベルは組み合わせ次第で異なる小説になる。あるいは著者自らが選んで読み出すとリミックスされたかのように違う小説になるという特殊なものだった。


 だから、今日の『東へ北へ』でもリミックスされたそれらのパーツはDJ的に組み合わせれ孕まれて産み落とされる名前のない胎児とその母親を、三兄妹を、ヒップホップグループを繋げてまた違う角度からの『聖家族』として朗読された。


 最初は古川さんとケイタニーラブから。途中でケイタニーラブが歌う歌があった。僕はそれを初めて聴いたが『馬たちよ、それえも光は無垢で』の中で出ていた曲だとわかった。


 彼が何年も前に作った曲でそれを地震で四月に延期されたリリパで古川さんが福島出身の古川さんが来るとわかって歌っていいかどうか悩みに悩んで歌った歌だった。そしてやってくれてよかったと『馬たちよ、それえも光は無垢で』の中で書かれていた。


ANIMA サマーライト


 放射能の雨に打たれて 
 踊りつづける
 終わりのない雨のビートに
 鳴り止まない胸のビートに
 もう一度
 スピードを上げて


 この曲が披露された。そしてケイタニーラブさんと黒田さんと松本さんが代わりリミックス『聖家族』は続く。松本さんのアコギと黒田さんのコンテンポラリーダンスが古川さんの朗読と混ざって、ケイタニーラブさんの時もそうだが、混ざってある種のカオスになってハイブリッド化していく。


 黒田さんの体の動きは頭の先からつま先まで意志を持っている。身体性の最大限まで引き出すというか何か凄まじしく怖い、畏怖のような感覚すら覚える。古川さんの『サウンドトラック』に出てくるヒツジコはきっとこんなダンスで戦ったのではないかと僕はずっと思っている。指の先まで完全に意志を持つのに時折輪郭があやふやで揺らいでいる。中心の核以外が強烈な意志を持つのにふいに消えるような、何かが出ている。


 古川さんは全身小説家だが、全身朗読者でもある。声を変えて動いて自分の小説のリズムを自ら発していく。古川日出男という作家の小説を読むなら一度朗読を観てからの方が体に物語が入りやすくなると思う。そのリズムがわかると小説が溶け込んでくるから。僕もきっとそうやって惹かれていったと思う。


 終わった後に携帯つけたら二時間ぐらい経っていた。あのイスはケツが痛くなるのが問題だ。ライブハウスにしろイベントスペースにしろイスの座り心地はもっと改善されてもいいんじゃないかなって思う。
 飲食店が水にこだわるようにそういうライブスペースではイスのよしあしも客に与えるイメージは大きいと思う。正直立って観ている方が楽だったろうし、後ろの方はきっと黒田さんの体の動きあんまり見えなかったと思う、わりと前の方の僕も前の人であまり見えない時があったぐらいだから。


 終わってから小西さんや足立さんといった古川さんのイベントでよくお会いする編集者の人と挨拶や話をして、これまた初めて会ったのがABCの古川日出男ナイトだった『界遊』の新見くんと話をしてた。『界遊』メンバーの米村くんとも初めてお会いして話をさせてもらう。
 知り合いの知り合いが繋がっているというこの状態が年々どんどん増してる。まあ、僕のポジションは古川さんのイベントによく来るファンっていうのは変わらないままですけど、がんばらねえとなあ。


 新見くんと米村くんと僕の三人で古川さんとお話させてもらう。古川さん誕生日が近いらしくお祝いされてたり、ケーキが出てきてたりした。


 僕は『馬たちよ、それえも光は無垢で』に書かれていた書かれない、書く事ができなくなった『冬』『疾風怒濤』に連なる『ドッグマザー』という小説はどうなるんですかと聞く。『ドッグマザー』はなんとしてでも書く、そして三つをまとめて来年には本として出すからと。『冬』『疾風怒濤』読んで凄く期待していたのでよかった。京都が舞台の小説、そのために地震の時に京都にいらしたみたいだし。


 なんとか新人賞に応募する小説書いてますというと『こんな時だから速度の遅いメディア(小説)が必要だからがんばれ』と言ってもらった。たぶん、この言葉が聞きたかったんだ。
 自分のせいでけっこう落ちててそれでもなお逆ベクトルのポジティブシンキングで次の書こうって思って少しずつ動き出してたから。僕は影響を与えられまくりな古川さんの小説を体験して話をしたかったんだと。なんかいろんなものがクリアになったような風通しがよくなったような気持ちになった。


 最後にデビュー作『13』ってどのくらいの期間かかりましたかって聞いたら『四年、そのぐらいかかった。自分の文体見つけるのに時間がかかるから』と教えていただいた。僕は自分の文体見つけるのにあとどのくらいだろう。

雨ン中の、らくだ

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ZAZEN BOYS4

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月も見えない五つの窓で

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早稲田文学 3号

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聖家族

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MUSIC: 無謀の季節

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サウンドトラック

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13 (角川文庫)

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新潮 2011年 07月号 [雑誌]

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