文芸誌『新潮』二月号を買う。掲載されている古川日出男『二度目の夏に至る』を読むために。
ここ最近の古川さんの小説以外の朗読イベント以外でのある意味では肉声というか言葉としての文字を読むのならば『SWITCH』で連載されている『小説のデーモンたち』がある。ここには作家の創作に関する事が想いが綴られている。震災後は古川さんの福島出身の作家としてのドキュメンタリーになっていたように思う。そこで書かれていた京都を舞台にした作品についてのことなど。その作品の取材のために大震災の日には京都にいたこと。それは『馬たちよ、それでも光は無垢で』にも詳しい。
今回の『二度目の夏に至る』は前に『新潮』に掲載された『冬』と『疾風怒濤』の続きにあたる。
この二作はまだ掲載のみで単行本化されていない。おそらくは三作まとまって『ドッグマザー』として刊行されるようなそんな気がする。『ドッグマザー』として書かれていたのが改題されて『二度目の夏に至る』になったのかな。うーむ、その辺は謎。
古川日出男 朗読 『東へ北へ』のイベント時に古川さんに「僕は『馬たちよ、それえも光は無垢で』に書かれていた書かれない、書く事ができなくなった『冬』『疾風怒濤』に連なる『ドッグマザー』という小説はどうなるんですかと聞く。『ドッグマザー』はなんとしてでも書く、そして三つをまとめて来年には本として出すからと。」って件があるからたぶん出るとしたら『ドッグマザー』としてだと思う。
『冬』『疾風怒濤』が刊行されている『ゴッドスター』の後の話だったので『ゴッドスター』のカリヲが成長し京都に行った話の系譜であるのは間違いないが『ゴッドスター』ではカリヲのママである「あたし」が主語で語られる物語がこの京都シリーズではカリヲであろう「僕」の視点で物語が進んでいく。
新潮から刊行された『LOVE』(文庫)と『MUSIC』と『ゴッドスター』から始まる『新潮』掲載の『冬』『疾風怒濤』『二度目の夏に至る』は共に東京の湾岸地区から大地震で液状化してしまったような場所から舞台が京都に移っていく。
『LOVE』『MUSIC』は『ベルカ、吠えないのか?』の犬小説に対応するかのような猫小説だった。しかし物語の始まりは江戸時代に埋め立てられ拡張された土地を舞台だった。『MUSIC』で京都に舞台を移し猫が宙を飛ぶ!
『二度目の夏に至る』は流れ的にも『ゴッドスター』を読んでいる方が物語がわかりやすい。『冬』『疾風怒濤』ももちろんのこと。まずカリヲだった彼の養父であったメージ(彼は自分の事を明治天皇だと言っている)とその飼い犬の伊藤博文(と名付けられている)と彼のママの事を読んで知っている方が物語に深みというか厚みが増す。
以前にスイッチパブリッシングで行われたイベントで古川さんは「世界文学」を書きたい。日本には世界にあるようなキリスト教だとかそういう国と直接結びついて文化を形成するほどのものがない。だからそれならば日本にあって世界にはない「天皇」を描く天皇小説を書く事で「世界文学」化したいと言われていた。
最初から『ゴッドスター』の系譜の流れは古川さんの中でそういう天皇小説的なものとしてあり、系譜が綴られる度にマジで天皇小説を書こうとしていたんだと気付かされた。
だから舞台は東京から京都に移行するのだしそこにはある種の新興宗教的なものも、霊的な不思議な力を宿す人達も出てくる。そして当初に書こうとしていた物語から計画は変わっていったはずだ。
3.11の東北関東大地震があり『馬たちよ、それでも光は無垢で』が書かれた。それは異質な小説だった。かつて古川さんが書いた東北六県を舞台にした『聖家族』の長兄が現実の福島に行った古川さんの前に現れてくるのだから。ドキュメンタリー的な進み方をしている中で突如フィクションの創造物の中の人物がそこに同居してしまう。
『二度目の夏に至る』の『新潮』の紹介文には「僕はここ京都で聖家族を作る――大震災後のひびがはいった世界で、謎めいた「教団」の闇の中で、ポスト3・11の想像力が爆発する!」とある。そう今作では「聖家族」というワードが出てくる。
日本という国の中で「聖家族」とは?
小説の最後の一文はビックリしましたがこれはどうもまだ続きそうな感じがしました。どうなるんでしょうか。
『二度目の夏に至る』ではカリヲのママからの手紙という感じで大震災後の東京の現状や原発事故後の光景が綴られていくのと京都での彼が交互にくるような構成で。だから地震がなければこういう形にならなかったはずだし、古川さんもこう書かなかったはずだ。
だけども現実の表現は当たり前だけど目の前で起きた事を吸収し飲み込んで進んでインプットしたものをアウトプットしていく。
冒頭の雄鹿の角の話の所がすごくよくて。未刊行で連載も中断したはずの『黒いアジアたち』では猪と豚がメインだったし、古川さんの小説にはカラスや猫や犬たちが動物たちがいて歩いている人間の視線とそれらの動物の視線とか高低差があって世界の見方が幾通りも存在し交差して物語が沸騰していく。
雄鹿の角がなぜ必要か、それは一夫一婦ではない彼らはその角でメスを奪い合うのから。それが彼らを雄として雌を勝ち取り子孫を残すために必要だから。それはメタファーみたいに「僕」の院主とのあの行為に重なる。
やっぱり古川日出男という作家は異質な感じがするんだけど僕は影響もずっと受けているし読むのが楽しみでならない。そしてまとまって単行本化してほしい。
このラインというか系譜はまだ続きそうな気が、する。
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