Spiral Fiction Note’s diary

物書き&Webサイト編集スタッフ。

「リップスティック〜ラブシャッフル」

 「ラブシャッフル」の五話を見る。カメラマンの旺次郎(松田翔太)と美大生の海里(吉高由里子)の関係性。美大生で父が画廊を経営し英才教育、いや絵を描くことだけを課せられた海里の絵を見てしまった旺次郎の中に芽生える嫉妬心、偽物だと自分のことを言う旺次郎、本物の前では全てが嘘くさいと。


「なんていうか、俺最近スランプでさ。ろくな写真が撮れない、つか撮れる気がしねえ。理由ははっきりしてんだ。お前。はあ、お前の絵、あれすげえや。自分が偽物っぽく感じちまった。モデルにいろいろつっこむのもパフォーマンス。ある種の洗脳みたいなものに過ぎない。そんな自分の安っぽさに気づいちまったが、トークのきれも悪い悪い。戦場カメラマンで、死にたくないやつを撮ってる自分のエゴに嫌気がさしたとかなんとか。お前に偉そうに言ったけど、あれ嘘なんだ。本当はびびちゃってただ逃げ戻って来ただけ。もう死んじちまったけど俺が尊敬するカメラマンのじいちゃんが言ってた。芸術家は電球に近づく蛾みたいに死に吸いよせられるだって。そしていつからか死から生を見つめる。それが暗闇から光を見るように、キラキラ輝くんだって。タナトス。それを制圧するものが真のアーティストだ。死を乗り越えて怪物になる。くそー。俺は偽物なんだ、安さ爆発カメラのなんとかさ」「ほんとうになりたいの、ふふん怪物に?」「えっ?」


 野島伸司脚本でクリエイターあるいは芸術家の「偽物」と「本物」のことを言っていたのですぐに思い浮かぶのは「リップスティック」。


 有明悠 ( 三上博史)は少年鑑別所職員をしながら画を描いている。彼には画家の兄がいた、が死んでいる。兄の恋人の桑田千尋麻生祐未)に思いを寄せたままの悠、兄の画をずっと描いていたのは悠だった、兄の恋人を欲しがってしまった彼。真実をバラされる前に兄は死を選び、恋人は兄を思い続ける。彼女は弟の気持ちに気づきながら時間は過ぎる。
 この作品の中で「本物」のアーティストとはなんであるかを画廊・小泉章吾 ( 夏八木勲)が語る。


「そうだ。彼はとても才能があった。しかし、彼の才能は無限にわきでる泉ではなかった。それを使いはたしてしまうと、あとは身もだえするような苦しみが待っていたんだ。もはや想像力も涸れてしまった。わかるかい? 才能には二種類ある。使っても使っても、あとから補充される天性の才能と、環境やナルシズムによってつちかわれていく才能。ざんねんながら、君のお兄さんは後者だった。芯からわきでる創作意欲が失われてしまうと、あとは生ける屍になるしかない」


 牧村紘毅 ( 窪塚洋介)が悠と語ったこと。


「僕は左脳人間なんです。あらゆる物事を論理的に解析してしまう。だから悲観的になってしまうんですね。常に最悪を想定して、そして想定したからにはそれを見てみたいという誘惑にも駆られる。だから僕にとって、あらゆる結末は悲劇的なものになるんです。その点、芸術家は右脳人間であるらしい。極めて楽観主義で、おおざっぱな人種です」「そうかな、芸術家も悲劇的な結末を迎えた人は多い。僕の兄は絵描きだった」
「だった?」「あぁ、自殺した」
「真の芸術家は自殺などしないと思いますが」「ゴッホも?」「死に至った理由は本人にしかわからない」「神によって、強制的にその使命を終わらせられることもある」「神…?あなたは神を信じている?」「いや」「でしょうね、神とはこの空の抽象化に過ぎない。人間は自分より上と下の狭間で安定することを望む」「無限にブランコに乗ってると、おかしくなってしまうかもしれないからね」


「僕に才能はない」「そうですか? 少なくとも僕は見てみたいな。あなたは開放された画家ではなく、むしろ正反対にこの閉塞された職場を選んだ。意識的に選んだんじゃありませんか」「なぜそう思うんだい?」「あなた自身が檻の中にいる錯覚を受けられる」「僕が檻の中に居たいとでも?」「何かの罰を受けるために」「僕に何の罪があるって言うんだ」「言葉遊びですよ」


「僕たち、友達になれたかもしれないのに」「友達?」「まるで正反対の人間だからです。僕は突き詰め、やがて消えゆく哲学者だと思っています」「消えゆく?」「そしてあなたは…」「芸術家だと?」「ええ」


 「リップスティック」自体は「世紀末の詩」の続編的なニュアンスがあった。「世紀末の詩」の続編として構想されていた「新世紀の詩」は「世紀末の詩」の視聴率の悪さなどから制作されていない、なので「リップスティック」がこれに近いとされている。日テレで福山雅治主演の野島ドラマがあるとかかなり昔に噂があったがそれが「新世紀の詩」的だと言われたが制作はされなかった。


 日テレで原案、最終回だけ脚本を野島伸司氏が書いた「仔犬のワルツ」の主人公はピアニストだったが、そこにも才能というものに関して野島理論的な物語が展開されていた。

リップスティック

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仔犬のワルツ DVD-BOX

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