Spiral Fiction Note’s diary

物書き&Webサイト編集スタッフ。

「東京」

 古川日出男著最新刊「聖家族」の仮綴本を読破、まさしく読破がふさわしい分量の小説でした。発売は9月26日です。
 古川日出男さんの今まで一番長い「アラビアの夜の種族」よりも長い物語。
 東北六県、古川さんの故郷福島も他の県も全ての東北を巻き込んで、軸となる狗塚家の兄弟妹たちの、彼らのばば様の系譜の連なりを、歴史の中に挿話が介入して、次第に現在・過去・未来を夢見る胎内の夢が、溢れて重なって数字の因果律と共に手紙のようになり、ひとつひとつが膨らんで繋がって東北の中で蠢く物語。やっぱり圧倒的に物語る、物語れている。古川日出男が圧倒的に物語る、これはやはり古川さんからの手紙だ、現実と妄想を混ぜ込んで綴った小説の形をした手紙。


 これは読むのに時間と根気は必要だ、なぜならば一ページ二段組で700ページをゆうに越えている。
 「アラビアの夜の種族」を読んでいる時にも睡魔に襲われたが、この睡魔はこの物語に吸い込まれていくような感じだった、先が読みたいのに進めないような、変な力に左右されていた。
 「聖家族」も同じような感覚になった、一気に読もうと思ってもどうもある程度すると胎児の夢につられるように読む僕自身も夢の中へ誘われてしまう。


 バイトに行く時にバッグに読みかけで止まっていた松尾スズキ「同姓同名小説」をいれて、途中ツタヤにCDを返しに行くと、僕は上りで、下りのエスカレーターに松尾さんがいた、久しぶりに見た。バイトの休憩中に最後まで読んだ、最後の松尾さんの兄の話はけっこうくるものがある、未だに声をかけれない、サインぐらいはもらってもいいぐらい本とか買ったりしてるのだけど、空気感が完全に放っといておくれよっていう殺気を醸し出しているから。


 ビッグコミックスピリッツ常磐貴子(20世紀少年のプロモーションで)さんが表紙号で、浅野いにお最新短編「東京」が掲載されているので久しぶりに買った。読んでて少し泣きそうになってしまった、どうも僕は浅野作品の原風景に自分を重ねてしまったり、自分の原風景のように感じてしまう、最近感傷的な僕はこの作品のカタルシスとかに弱い、そう今なぜかとても弱い。「東京」には確かになんでもあるしいろんなものがありふれているけど、それらはあるけど僕のモノではない、僕のモノにはならない、地元に帰ってもそれは同じではあるけれど。


くるり - 東京/磔磔「TAKUTAKU DE KUTAKUTA」2007.12.6
 


 東京はほとんどが地方出身者だ、ほんとに移民みたいなものなのかもしれない。でもこの物語の「先」を考える事は大事なんだよな、ある人の「東京」での感想を読んで思った、この「先」を想像できるかは、創造していけるかは、うん、とても大事なことだって。


Swallowtail Butterfly あいのうた - YENTOWN BAND


 
 懐かしいけど、僕の薄っぺらな移民に関する歌とかで思い出せるものはこれ↑ぐらい。移民は去るし、また戻ってくる、ここに居座るし、ここで生きて死ぬ、「東京」もそうだろう、理由がある人は残ればいい、理由がないならまたどこかへ、行けばいいんだから。
 
 僕は「東京」の雑踏の慌ただしさが好きだけど、前よりも確かに。