Spiral Fiction Note’s diary

物書き&Webサイト編集スタッフ。

「スヌスムムリクの恋人」

 野島伸司「スヌスムムリクの恋人」の発売日だったので朝買いに行って昼間に一気に読み切った。

 
 ストーリー・親同士の縁で生まれたときから幼なじみとして暮らした四人の男子。最後に未熟児として生まれた野坂望(通称ノノ)は、いつしか自分の心が女の子であることを自覚する。
 

 という内容で。3人の男と1人の女という構図は「美しい人」にもあったなあ。性同一性障害を持ったノノと生まれた時から一緒の3人、そして彼らの両親との関係。


 「高校教師」では先生と生徒の恋愛と近親相姦を描き、「聖者の行進」では知的障害者への暴力と性的な暴行というタブーを描いた野島伸司の最新小説は心は女の子で体は男の子の性同一性障害を取り扱っている。
 主人公は自分をムーミンスナフキンのように見立てたりしている。タイトルからもわかるだろうか?
 スヌスムムリクとはスナフキンの本当の名、原作に表記されている名前。


 四人の父親は大学時代に同じラグビー部に所属し、別々に就職はしたがほぼ同時期に結婚し多摩川沿いの3LDKテラスハウスを向かい合わせに四角く四棟購入した。というところから物語は始まる。
 まとめ役の気の弱い知的な清人、お腹にいた時は双子だったがそのもう一方の養分を吸い取ってそのもう一方が消滅して生まれてきた運動が得意な肉体派の哲也、花形選手の父とミスコンの女王だった母を持ち八方美人でいろんな女の子と付き合っている容姿端麗な主人公の直紀、、最後に生まれた望は未熟児で病弱な体質だが、見た目は女の子にしか見えない。
 そろって私立の幼稚園に入れられて大学までエスカレーター式で父親たちの大学の附属だった。彼らは生まれたときからずっと一緒だった。やがて、望ことノノの肉体の中に女の子の心が宿っていることを知り・・・。


 男の体に間違えられていれられてしまった女の心を持つノノと幼馴染みの3人、ノノの苦しみからなんとか救おうとそれぞれが動き出していく。


「ママって一番近い女の人の象徴じゃない。そのママがいなくなって、ナオチャンのポケットは穴が空いたんだよ」
「だから、一杯愛情欲しいけど、全部すぐに零れちゃうんだ」
「やっぱり僕って寂しがり屋さん?」
「でも零れても零れてもまた入れようとするんだ」


「母親は息子に執着するんだ。愛されている証拠だよ」


「人にはさ、躍る側と躍らされる側があるの。どっちがいいって事じゃないよ。オリンピックでもワールドカップでも、今日みたいなコンサートでもさ、その時その時躍らされて楽しむ人たちと、他人のお祭りには全く興味が沸かない人間がいるの」
「全くというほどじゃないよ」
「みんなが盛り上がってても、どこかシラけて感じる」
「うん、それはたまに」
「だったら、きっと躍る側よ」


「ただ、いなくなると自分が寂しいから。もしかしたら、救えなかった自分が、その後苦しむのが嫌で」
「その気持ちは、残酷だけど僕の中にもある」
「誰の中にもあるよ。その証拠に、見ず知らずの人間が自殺しても、泣いたりする人間はいない」「うん」
「肝心なのはね、善人ぶらないという事よ。ナオキは自分の中の残酷さに気づいているからいい」
「そうなのかな」
「もしかしたら人の一生って、自分の中のそういう醜い部分と戦う為のものかもしれない。悪口言ったり、嫉妬や妬み、そういった部分と戦う」


「過度の美しさは男子には高い柵になる。実は意外とモテない。たいていダメモトで突っ込んでくるデリカシーのない男性に押し倒されて付き合ってしまう場合がほとんどだね。奇麗過ぎると、まともな男子は生身の存在だと思わずに、観賞用にするんだ。女性はよく花に譬えられるけど、君はフラワーショップの奥で、非売品のショーケースに入れられている存在なんだ。誰もが欲しいと思っても、それは買える物じゃないと承知している。一応、聞いてはみるだろうがね」


「自己責任ってなんだろう? 僕らは若い。希望や夢や好奇心に溢れている。それは時には危険を顧みない探究心だったり、冒険だったりする。それで間違った時、自己責任だと言われてお終いなのか? 勝手にしろ、したければ責任を自分で取れ? そんな消極的な鎖を付けられなくちゃいけないのか? あの時アメリカに媚びる為に、自衛隊は撤収されず、彼は見殺しにされた。日本に帰りたいと言ったのに。想像もできない恐怖の中で、そう言ったのに。あの時、この国は終わったんだ。今の大人の世界は、彼を、いや、僕たちを見殺しにしたんだ」


「私たちは似てるって、いつかナオキに言ったね」「うん」
「いいかげんで、無責任なとこ」「うん」
「だけどホントは違う。自分の中でしっかりとしたモラルがあるの。だから、それ以外は適当にもなれる」
「そう、なのかな?」
「誰にでも合わせられる? 八方美人? それも、自分のいちばん奥にある決定的な自分以外は、他人に譲れるからなの」


 野島語録というか、野島さんらしい台詞の数々です。過去の作品に出てきた台詞のニュアンスのものもあるし、野島さん自身の考えも登場人物の台詞として語られてるように感じる。


 最後のほう一回感情が高まって泣いた。いい本だけど嫌いな人は大嫌いなのかも知れない、なんとなくそう思う。
 なんとなくだけども。物語の展開や台詞回しは好き嫌いってあるし、なにせこの物語、性同一性障害を扱っているだけどに個人の考え方で受け入れられるかどうかもあるのかもしれない。


 苦しみ続けた人が報われようとする時、僕はいつも思うんだ
 そうさ、やっぱり世界はまんざら捨てたもんじゃない。


 「スヌスムムリクの恋人」読んでるときのサウンドトラックはずっと100sのアルバムを聴いていた。
「Honeycom. ware」


 「やさしいライオン」が好きだけど、PV見つからなかった。


スヌスムムリクの恋人

スヌスムムリクの恋人

OZ

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