Spiral Fiction Note’s diary

物書き&Webサイト編集スタッフ。

「実録・連合赤軍 あさま山荘の道程」

likeaswimmingangel2008-04-07

 新宿で降りて雨の中、傘もささずに伊勢丹のほうへ。テアトル新宿へ行く。
実録・連合赤軍 あさま山荘への道程」を観る。開始は11時30分、終わったのが14時55分ぐらい。


 誕生日に観に行った阿佐ヶ谷ロフトでのイベントでも話に出ていた映画。観ながらあん時にcharlieや森山さんと話をしていて一番右端で煙草を吸いながら語っていたじいちゃんなんだあとか思って、その人は塩見孝也で役者は「VERSUS」とかの坂口拓が演じていた。


 連合赤軍とかあさま山荘事件とか僕らはリアルタイムで知らないし、歴史の教科書で少し習ったぐらいかな。
 映画は連合赤軍ができるまでを原田芳雄のナレーションと当時の映像とテロップによって流れを示し、実名で当時の彼らを演じる役者によってあさま山荘までを描く。


 3時間を越える映画であり、ほとんど事実で一部はフィクションらしいのだが、革命を目指した当時の若者の姿が描かれている。

 映画というよりは映画なんだけども、連合赤軍知りたいならこの映像観ればという感じが僕には強い。映画館ですれば映画だけどこれは連合赤軍のことの有様の映像集みたいな感じ。


 遠山美枝子役は坂井真紀、重信房子役は伴杏里だったりと一緒に並ぶとやっぱりさあ、無理があるよ。伴は大学生に見えるけど、坂井さんはなんか疲れた主婦みたいに見える時あったし。大学生役だよ最初のシーンの方。37歳と22歳が並んだら違和感あるよ。なんで遠山役が20代前半の女優ではなかったのだろうか、不思議だけど。


 そんな坂井さんの見せ場は山岳ベース事件のところ。山岳ベース事件では総括によるリンチで同胞12名が死んでいる。

 僕は連合赤軍関連のものは大塚英志「「彼女たちの」連合赤軍」しか読んでなかったが、大塚氏が批評したことが映画の中に出ていた。


 山岳ベース事件の首謀者として森恒夫(逮捕後獄中自殺)と永田洋子(死刑囚で現在も服役中)がいるのだが、遠山美枝子に対する総括は「なぜ山で化粧をしているの?」「なぜ髪を伸ばしているの?」「なぜ指輪をしているの?」という所から始まり、遠山は自己総括をすることになる。
 僕には永田による「かわいい」女性としての遠山に対する嫉妬、嫌悪(自分はそれができないが故に)が発端にあったようにも見える。


 遠山は自分で自分を殴りつける、唇は切れて顔面の骨は折れて腫れて見るも無惨な顔になってしまう。永田は手鏡でその顔を見せる。その時の永田洋子の顔はすごくワルい。遠山は絶叫する、自分であったものがまったく違う顔の「かわいい」とは真逆のものになってしまっている。

 絶望を見てしまった叫びは脳裏にこびり付く。ここで遠山は壊れる。その後柱に結ばれトイレにも行かせてもらえずにもらし、「ロープを切って、手が痛い、おかあちゃん、手が痛い、手を切って、おかあちゃんかあちゃん」(曖昧だけどこれに近い台詞だったはず)と言った後に絶命する。かなり怖いシーンだ。顔とかじゃなくて壊れた叫びとかじゃなくてこれが実際にあったということに。


 その後も妊娠している女性も総括によって死んだり、永田から森についてどう思うと聞かれた金子みちよは「目が可愛い」と言い総括を受け死亡。とりあえず、冒頭からどんどん人が死んでいく、男女問わず若者が死んでいく。


 遠山も金子もカンパしてもらった金でパンタロンを買った女性も、殺されてしまった妊婦もその後の80年代における消費社会寄りの女性たちだったのだろう。永田はそれを受け入れたくても出来なかった古い価値感を持つ女性だったのかもしれない。
それを受け入れたくてもできなくて同胞の女性を総括で殺して行くことで自分の思想にとどまることを選択したようにも思えた。


 「「彼女達の」連合赤軍」を読んでからこの作品を観るとそういう見方が出来る。そこに時代性を感じることもできる。大きな資本主義の流れの一歩前だったのかもしれない。女性が資本主義を引っ張って行くその前夜みたいな時期だったんだ、彼女達は少し早過ぎて出会うものが革命思想だっただけで命を落とした。


 映画はあさま山荘の最後までが描かれる。最終的には5人(一人は未成年)が立て篭り逮捕されるが、その3年後のクアラルンプール事件で立て篭り犯の一人であった坂東國男は超法規的措置によって釈放され日本赤軍に合流した。ARATA演じた坂口弘は釈放を拒否。
 未だに指名手配中ですよ、坂東って人、今年60歳のじいちゃんが、うちの親父と年変わらないし。


 革命を目指した青春があった、その方法がたとえ間違えていても、結果多くの人を死なせてしまったとしても、そういう若者がかつていたという映画。


 あんまり人には勧めないけどね、興味がないとしんどい。映画として面白いのかと言われるとどうなんだろうなあ、歴史的に起こったことを事実に基づいて作った映像って感じが強いな。


 ハイジャックしてもバスジャックしてもどこにも行けない現在、かつてハイジャックして海外に逃げた人たちがいる。彼らや彼女達は死ぬまで逃げるんだろうか、ずっと逃げ続けるのは一番辛いだろう。祖国にも故郷にも帰れないまま死んで行くんだろうな。でもそれを選んだのは彼らだから。


 観終わった後はざっくりと疲れた感じ。テーマがテーマなだけに、そして現実にあったということだけに。客は彼らと同年代ぐらいのおじいちゃんおばあちゃんが多かったなあ、観て何を思うんだろう。


 大塚英志原作「多重人格探偵サイコ」はマンガや小説(何個かバージョンがある)と多重人格的なパラレルな世界観を持つのだが、そこに永田洋子をモデルとした女性も出てきたりしていた。


 三池崇史監督「多重人格探偵サイコ」のドラマでは確か山岳ベースの中で妊婦の中にいた胎児を取り出すようなシーンがあり、その取り出された胎児が主人公の雨宮一彦だったはずだ。


 大塚英志は史実を自身のサブカルチャーの中に取り込んでいく、
 僕は中学の頃から彼の作品を見たり読んだりしているのでこういう問題に興味を持ったのも必然かもしれない。
 なぜか昔買った大塚英志が三池版のドラマを再編集したDVD「多重人格探偵サイコ・フェイク」があるがまだ見てない。

「彼女たち」の連合赤軍 サブカルチャーと戦後民主主義 (角川文庫)

「彼女たち」の連合赤軍 サブカルチャーと戦後民主主義 (角川文庫)