Spiral Fiction Note’s diary

物書き&Webサイト編集スタッフ。

『ラブレス』


 前作『裁かれるは善人のみ』が凄かったので(ダメージが)アンドレイ・ズビャギンツェフ監督最新作『ラブレス』をば。『週刊ポスト』のミニコラム連載「予告編妄想かわら版」でこの作品を取り上げた時に書いたのはこんなものでした↓。


 『父、帰る』でヴェネツィア国際映画祭の金獅子賞を受賞したロシアの鬼才・アンドレイ・ズビャギンツェフ監督の新作『ラブレス』(4月7日)。離婚が決まり、お互いに新しいパートナーと再出発したいと思っていた両親の元から息子・アレクセイが消えてしまう。
 「母親が引き取るべきだ」「もうゴメンよ、前に進ませてもらう」と言い合う父と母。息子は二人の新しい人生には必要とされおらず、もはや、邪魔者になってしまっています。しかし、二人は息子をまったく愛していないわけではなく、行方不明になった息子を探し始め、警察も町の人たちも捜索を開始します。
「自分を愛しすぎる私たちが、今観るべき衝撃作」と予告でナレーションがあるように、夫は離婚がバレたら出世に響くかを気にし、妻は「あんたのお陰で人生台無しよ」と静かな怒りをぶつけます。離婚が決まっていた二人の仲はさらに険悪なものになっていきます。
 ここからは妄想ですが、行方不明の息子は、この「ラブレス」な場所から本当の愛を探しに出かけました。しかし、そんなものはこの世界にあるのでしょうか? だからこそ、もう彼は生きたままで帰ってくることはありません。哀しみに暮れる両親でしたが、心の何処かでホッとしている自分に気づいて、さらに泣き崩れるのでしたーー。


 って2月の末に予告編だけ観て書いたんですが、そういう連載だから。映画本編観たらどっちかというとこの妄想のオチよりも酷い終わり方だったような気がします。アレクセイがどうなったかはネタバレにもなるので書かないとしても、問題は両親なんですがアンドレイ・ズビャギンツェフ監督はあえて重要な部分を回収せずにエンディングに行くので不穏さしか残らないし、また、同じようなことは起こりうるのではないかというすごい嫌な後味が残ります。父親も母親も互いに浮気相手とばかりいて、父親の方が付き合っている彼女は妊娠してるし、母親の方は年上の金持ちと付き合ってる。父も母もお互いの新しいパートナーとのセックスシーンがあって、この夫婦は子供ができたので結婚したことが間違いだと思っている。そのことで母親は自分の母(アレクセイの祖母)になにがあっても面倒は見ないし手を貸さないと言われていて、その亀裂が今だに続いている。

 父親の方はすぐに孕ますね、アンタね。みたいな感じで、そのせいで生まれる悲劇よりも性的衝動がまさる。大抵の人はそうだと思うし、人間の80年とか人生100年とか言い出しちゃったみたいけど、その何十年に渡る悲劇は数分の性的快楽による生まれてくる。それは新しく生まれてくる者にはどうにも抗えないもの。でも、そうやって人類というか人はエロスとタナトスが混ざり合いながら次の世代を残していたし、僕らもそうやって生まれてきている。彼と同じような間違いはどこでも起きているし、悲劇と喜劇は同時に起こる。
 知らないところで種が蒔かれて知らないうちにそれに巻き込まれる舞台が人生というものだと思うと、多少は気楽というか客観的に見ることもできるのかもしれない。母親はずっとスマホばっかり見てますね、大抵のシーンはスマホとともにありますね。セックスかスマホぐらいの勢いで。つまり夫婦は子供ができて家族になったけど、そこには愛とかそんなものがあると思わないとやっていけないし、あると誤解したまま家族として生活を始めたけど、子供のことよりも自分のことが大切だし優先させる。そうして、置いていかれる邪魔になりそうになったアレクセイが消える。ゆっくりと喉元に鋭いものを突きつけられていくような、でも、殺されない、ヒヤリとした後味だけが残る作品でした。




『Stand Inside Your Love』
さらさらと砂が流れていく足元
まぶしさで手を顔の前に出して
光を遮ろうとする
ひんやりとした僕よりも体温の低い手が
ふれて指と指の間に
君の指が忍び込んできて
握られていない手はそのままで
顔だけ君の方を向いてみる
そこに立っている君の顔もまぶしそう
でも笑っているのがわかる
だから同じように笑って
二人でまぶしさを
繋がれていないほうの手で遮って
そのまま少しだけ伸ばすようにすると
そちらの指先も触れあう
立ったままの二人の影が伸びる
さらさらと
光の粒子が舞うから
そのまま距離を近づけて
唇が重なるとなにかの儀式みたい
目を閉じるとまぶしさが消えていって
風の音と互いの温度だけ
指と指がきちんとうまく重なるような大きさだって
その時に気づく