Spiral Fiction Note’s diary

物書き&Webサイト編集スタッフ。

『百円の恋』

 この間山戸監督『おとぎ話みたい』をレイトショーで観に行って今年の映画館で映画観るのは打ち止めかなって思っていたんだが予告で観たこともあり僕がなにかを観たり聞いたり読んだりする上で参考やきっかけにさせていただいている人がいいよって言われていたのもあってあとは週刊プレイボーイだったか高橋ヨシキさんの映画評でもわりといい感じのことが書かれていたなあというのを覚えていて休みだし映画行くならばこの作品を今年の絞めにしようと『おとぎ話みたい』同様にテアトル新宿で公開になっている『百円の恋』を観に行った。
 家から新宿には渋谷まで出て宮下公園前の明治通りをずっと新宿タイムズスクエア方面に行くだけだし雨さえ降ってなければ三十分もかからずにチャリで着くので普段より少しだけ遅く起きて自転車に乗って新宿へ。23日だから天皇陛下のお誕生日で祝日だから映画館も混むかなって思って前日にwebでチケットを取っていた。クリスマスシーズンの街は嫌いじゃないけど自転車にはちょっと危ない。車の量も増えるしタクシーを捕まえる人が増えるから急に左にタクシーが寄って止まろうとかするから夜はちょっといつもよりも気を使って運転する。車のヘッドライトやブレーキランプの灯りはキレイだけど近視の僕の目にはぼやけて見えるから世界がちょっと歪んで見える。
 九時少し過ぎた頃にテアトル新宿に着いたのでチャリを止めて道路を渡ってファミマでドリンクを。ついでに樋口さんと岩井志麻子さんが対談している週刊ポストを立ち読み。



 週刊ポストの樋口さんと岩井志麻子さんトークで樋口さんが岩井さんの著書名にかけて『ぼっけえ、きょうてえ』って言ってるけど他県の人にはインパクトある単語なんだろうなと発売した当時は思った。うちのばあちゃんとか普通に使うからなあ。





 『百円の恋』めっちゃ並んでた。テアトルデーだからってのはあるとは思うんだけど朝一の回でけっこうお客さん入っていた。




監督・武正晴
脚本・足立紳


出演・安藤サクラ(一子)、新井浩文(狩野祐二)、稲川実代子、早織、宇野祥平坂田聡、沖田裕樹、吉村界人、松浦慎一郎、伊藤洋三郎、重松収、根岸季衣ほか



松田優作の出身地・山口県で開催されている周南映画祭で、2012年に新設された脚本賞松田優作賞」第1回グランプリを受賞した足立紳の脚本を、「イン・ザ・ヒーロー」の武正晴監督のメガホンで映画化。不器用でどん底の生活を送っていた女性が、ボクシングを通して変化していく姿を描いた。実家でひきこもり生活を送る32歳の一子は、離婚して出戻ってきた妹とケンカしてしまい、やけになって一人暮らしを始める。100円ショップで深夜勤務の職にありついた一子は、その帰り道に通るボクシングジムで寡黙に練習を続ける中年ボクサーの狩野と出会い、恋をする。しかし幸せも長くは続かず、そんな日々の中で一子は自らもボクシングを始める。14年・第27回東京国際映画祭の日本映画スプラッシュ部門で作品賞を受賞。(映画.comより)


オフィシャルサイト
http://100yen-koi.jp


安藤サクラ×新井浩文、全身全霊を注いだ「百円の恋」
http://eiga.com/movie/80512/interview/


クリープハイプ「百八円の恋」MUSIC VIDEO



 安藤サクラさんを初めて観たのは『愛のむきだし』だったなあ、フィルメックスでの上映の舞台挨拶にいたけどその時はラストシーンのバンの中で満島ひかりの表情が完全に化けたと思ったんだけど安藤さんもこんなにブレイクするとは。何週間前の『ボクらの時代』で安藤桃子×安藤サクラ×満島ひかりトークやってたな。
『「愛のむきだし」@東京フィルメックス
http://d.hatena.ne.jp/likeaswimmingangel/20081130






 一言でいうとめっちゃいい映画だった。物語は家にずっといる一子が家族の暮らしから一人暮らしをするために家を出る。そしてその前からなんとなく見ていたボクシングジムに所属していたボクサーとの関係やサイテーな人との一件から気持ちが変化していく。
 その揺らぎはフィジカル(ボクシングをすること、体を動かすこと。だからこそ冒頭の家に寄生しブクブクに太っていてだらしのない肉体の描写が非常に大事な画になっていてのちのボクサーとして体を作って変わっていく肉体との対比になっていて説得力がある)が変わるきっかけになる。フィジカルは目に見えて変化する(贅肉は消えて筋肉質になっていく。余計なものが削ぎ落とされていく)ものでそれに引きずられるように気持ちも変わる。だからこそ演じている安藤サクラがめちゃくちゃいいし新井浩文のダメな人なのに醸し出す色気具合いいわ。
 新井浩文主演で山下敦弘監督『松ヶ根乱射事件』がかなり好きな映画上位なんだけどあのお父さん役の三浦さんのダメっぷりとか崩壊してそうでしないけどゆるやかな緊張感があるっていうのが家族のリアリティーだなあと『東京ポッド許可局』の配信されたPodcastのやつの『大人論』聴きながら思い出した。
 新井浩文という役者の説得力というか存在感というのは色気もあるんだがダメな部分だとか醸し出す人間のある種負の部分とかを体現できちゃってるところなんではないかな、あれってさ演じるとか以前に彼がダメ人間だとかではなくて存在する上で観客である僕らの中にも当然あるダメな部分とか狂気だとか怒りみたいなものをどうしてか浮かび上がらせてしまう鏡みたいな役者の佇まいがあるのかもしれない。同時に今作の主演の安藤サクラにもそれはあって二人がいることで余計にそれが際立ってくるので観ている側にはビシビシくる。
 安藤サクラはこの映画では変化していく側の人間であって新井博文は変化しない側の人間のように描かれている。


 ボクシングをはじめるまでは体を鍛える前だから普通に歩いている、まあ、一子が家を最初にケチャップかけられてケンカして出てすぐにつまずいたように歩く事もままならなかった彼女の描写が見事だと思う。家という守られた内部から出て一人暮らしをはじめて百円ショップで働きはじめ外部との関わりができるようになってくると出会いもあるし最低な人も面白い人たちにとも知り合っていく。
 関係性が増えると見える景色も範囲も変わっていくし他者というめんどくさいものとの関係に悩んだりするしその対応における自分もあらわになっていく。
 歩く事からランニングするようになっていく、ボクシングを本格的に始めるとボクシングのステップも入ったりしてジムでのトレーニングも次第にそれらしくなっていく。当然できなかったものができるようになると気持ちにも余裕ができたり自信がつくので百円ショップでのレジの対応も始めた時の小さいな聞き取り辛いものではなく自信なかった頃とは違う対応ができるようになっていく。そういう意味でこの作品はフィジカルの変化が精神に与えるものを描いているし最後に一子が狩野に伝えることはそれまでの自分に対してのものだったりも含まれているだろう。でも、あのまま実家に寄生してボクシングも始めてなかったらその事にすら彼女は気付けなかったはずなんだと思う。
 だから観ているとボクシングのトレーニングでリズミカルに映画内の音楽に合わせて動く彼女に身体性を強く感じるし体を動かす事だったりなにかをはじめようと思うのだ。年末に新しい一年が来る前に観る映画としては最高なんじゃないだろうか。
 今年、テアトル新宿で観た『そこのみて光輝く』『おとぎ話みたい』『百円の恋』と日本映画で面白かったものはわりとここで観てるなあ、とふと思った。どんどん変わっていく一子に動けない自分が動いた時の可能性をきっと感じるはずだから。
 あとなにがリアルかっていうとバイト先のおっさん(坂田聡さんが演じてた)みたいなの十年間ぐらいフリーターしてるけど何人も見てきた。口が軽くてうるさくて自分の事だけしかいわなくて欲望に忠実でなにかあったらすぐにどこかに消える人。人間らしいといえば人間らしいけどなりたくないw




 帰ってきてから近所のTSUTAYA中村佑介さんの画集第二弾『NOW』を買った。重い、たくさんのページがカラーで版形も大きいのに三千円! 中村さんがツイートをされてるイラストの価値や存在感がもっと身近になる一冊になると思う。

愛される資格

愛される資格

ぼっけえ、きょうてえ (角川ホラー文庫)

ぼっけえ、きょうてえ (角川ホラー文庫)

松ヶ根乱射事件 [DVD]

松ヶ根乱射事件 [DVD]

NOW

NOW