小説家の窪美澄さんが台湾に呼ばれてイベントに出られたらしい。というのはツイッターで知っていた。
今日、窪さんが台湾の書店で本を買ったということをツイートしていてその中の一冊が岡崎京子さんの『リバーズ・エッジ』だった。
昨日のブログ『レトロスペクティヴ映像編』でもB&Bでの西島さんさんとコヤマシゲトさんのトークで岡崎さんのことが出てて数日以内に続くなあって思ってた。そういえば僕は窪さんについて書いた時に岡崎さんについて少し書いていたのだった。
『よるのふくらみ』
http://d.hatena.ne.jp/likeaswimmingangel/20140228
ここに書かれているのはメルマ旬報に書いたものを再録している。書かれている本屋大賞については書店でバイトしていた2006の印象で僕は『魔王』推しでした。
今のというか昨今の本屋大賞は売れている本をさらに売るためだけの賞になってしまったのでまだ売れていない新進気鋭だとか将来的に書店員さんが応援したいという作家という感じはもうない。
ただ、年間ランキング上位の作品の売り上げが本屋大賞候補になって大賞取ればさらに伸びるというだけで結局売り上げも二極化してるだけなんじゃないかという気持ちにはなる。
今年だったら二位の木皿泉著『昨日のカレー、明日のパン』が取っていたら個人的にはまだ本大捨てたもんじゃないなって思ったかもしれないが。
彼ら(彼女ら)の学校は河ぞいにあり、それはもう河口にほど近く、広くゆっくりと澱み、臭い。その水は泥や塵やバクテリアや排水口から流れこむ工業・生活排水をたっぷりとふくんだ粘度の高い水だ。
流れの澱み、水の流れが完全に停止した箇所は、夏の水苔のせいですさまじい緑となり、ごぼごぼいう茶色い泡だけが投げこまれた空カンをゆらしている。その水には彼ら(彼女ら)の尿や経血や精液も溶けこんでいるだろう。
その水は海に流れ込んでいくだろう。海。その海は生命の始原というようなイメージからは打ち捨てられた、哀れな無機質な海だ。海の近く。コンビナートの群れ。白い煙たなびく巨大な工場群。風向きによって、煙のにおいがやってくる。化学的なにおい。イオンのにおいだ。
河原にある地上げされたままの場所には、セイタカアワダチソウが生い茂っていて、よくネコの死骸が転がっていたりする。
彼ら(彼女ら)はそんな場所で出逢う。彼ら(彼女ら)は事故のように出逢う。偶発的な事故として。
あらかじめ失われた子供達。すでに何もかも持ち、そのことによって何もかも持つことを諦めなければならない子供達。無力な王子と王女。深みのない、のっぺりとした書き割りのような戦場。彼ら(彼女ら)は別に何らかのドラマを生きることなど決してなく、ただ短い永遠のなかにたたずみ続けるだけだ。
一人の少年と一人の少女。けれど、彼の慎ましい性器が、彼女のまだ未熟なからだのなかでやさしい融解のときを迎えることは決してないだろう。決して射精しないペニス。決して孕まない子宮。
惨劇が起こる。
しかし、それはよくあること。よく起こりえること。チューリップの花びらが散るように。むしろ、穏やかに起こる。ごらん、窓の外を。全てのことが起こりうるのを。
彼ら(彼女ら)は決してもう二度と出逢うことはないだろう。そして彼ら(彼女ら)はそのことを徐々に忘れていくだろう。切り傷やすり傷が乾き、かさぶたになり、新しい皮膚になっていくように。そして彼ら(彼女ら)は決して忘れないだろう。皮膚の上の赤いひきつれのように。
平坦な戦場で僕らが生き延びること。
『リバーズ・エッジ』あとがきより
映画『渇き。』予告編
http://www.cinra.net/news/20140415-kawaki
↑これは予告編だけでもすげえ、絶対観に行く。
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