Spiral Fiction Note’s diary

物書き&Webサイト編集スタッフ。

『希望の国』試写 07/12

 10月20日公開の園子温監督最新作『希望の国』の試写状を頂いたのでお昼に東銀座の試写室で観てきた。水道橋博士さんもいらした。試写会はガラガラだと聞いていたのだけどほぼ満席だったと思う。
 この映画を観て、マスコミ試写なので観た人がこの映画について何かを書くとしたらその人は脱原発なのかそうじゃないのかとか立ち位置を明確にしなければ書けないというのがあるからみんな恐れてガラガラだと聞いたのだが予想に反して満席だった。


 公開もだいぶ先のなのでネタバレもしないように感じた事をメモのように書き残しておこうと思う。公開したらまた観に行くんだけど。




監督・脚本: 園子温
キャスト:夏八木勲大谷直子村上淳神楽坂恵、でんでん、筒井真理子、清水優、梶原ひかり伊勢谷友介吹越満占部房子大鶴義丹、松尾諭深水元基並樹史朗、田中壮太郎、米村亮太朗田中哲司手塚とおる堀部圭亮


ストーリー:泰彦(夏八木勲)と妻(大谷直子)は酪農を営みながら、息子夫婦(村上淳神楽坂恵)と一緒に慎ましくも満たされた暮らしをしていた。そんなある日、大地震が村を襲う。泰彦の家は避難区域に指定されたが、長く住んだ家を離れることができない。葛藤の日々を送る中、息子の妻いずみの妊娠が発覚。二人は子どもを守るためにあることを決意する。(シネマトゥデイより)



 今作は村上淳さん(『ヒミズ』)に神楽坂恵さん(『恋の罪』)の夫婦、清水優さん(『愛のむきだし』)に梶原ひかりさん(『冷たい熱帯魚』)のカップルももちろん素晴らしいんだけど小野家の父である夏八木勲さんに母である大谷直子さんの演技が素晴らしくてもう最後の方は二人の空間観てるだけで泣けてきた。


 『ヒミズ』に置ける染谷×二階堂の世界を感嘆させた十代のコンビが物語を引っ張って行き心に刻まれたように夏八木さん×大谷さんの夫婦の温度、それは十代の彼らのような若さや勢いや青さみたいな燃えるような温度ではなく同じ時間を共有し互いの呼吸が互いの細胞の中に組み込まれもはや離れる事などできない個人と個人の繋がり、それは血を分けた自分の遺伝子を半分持つ子供のような血縁で結ばれていない最も近しい(愛しい)他人とだけ持てる夕焼けの橙色に似た優しい温度。
 ただ長い時間を過ごしただけではなく思いやり慈しみあったものだけが持てる優しい温度が夏八木さんと大谷さんの二人がスクリーンに映る時に醸し出される。


 このお二人の演技を、二人だけの空間を観るだけでもこの映画は観てほしい。本当に素晴らしくて最後の方はもう泣けてしまって。


 『ちゃんと伝える』みたいに園監督がわりと息子=村上淳さんに入っている感じがする。息子としての園さんと父親の関係性の投影が。そしてずっと園監督が描き続けた「家族」があの日以降どうなったかというものがここにはある。
 園さんの映画は確かに血はたくさん出るしバイオレンスなシーンもエロいシーンもあるからハデな印象とか持たれやすいけどずっとこの国の「家族」を描いてきた事は間違いがない。


 雪が降る被災地の美しく残酷な光景、観終わってからずっと心に刺さった杭は抜けずに存在感を増していく、観終わってもなおその杭は抜ける事なくその存在感は次第に増していくだろう。
 老いている父と母、息子夫婦に隣の家の息子とその彼女、という三世代のカップルがこの時代をどう受け入れてその先を生きていくか、決断をしていくか。だから観ていて非常に心が揺れる。
 息子夫婦の男の鈍感さや大人になれなさと子供を宿した女の危機意識と子供を守ろうとする強い意志を描くのだけど彼らのその先の景色としての父母、その以前の若いカップルがとてもバランスよく描かれている故に観ている側は感情移入しやすいと思う。そして津波に流された瓦礫の景色がきちんと映し出されている。


 観ながら脳裏に最初に浮かんだのは阿部和重著『シンセミア』とそれを元ネタにした速水健朗著『ラーメンと愛国』だった。『ラーメンと愛国』の冒頭はアメリカの小麦戦略だったし『シンセミア』における主人公の家のパン屋はアメリカの権力の代行者として描かれた。小野家の家業は酪農。パンと一緒に食べるのは牛乳だから。深読みし過ぎだろうか。


 戦争に負けた日本を統治したGHQアメリカは小麦粉が余りすぎていた。ならば敗戦国に売っちゃえばいいわ。でも日本人は米食う国民だしなあ、じゃあパンを給食に出して車で日本全国回ってパン食はいいですよ的なアピールして小麦粉を消費させる国にしちゃおうぜという流れがあるわけで、その辺りは速水さんの著書『ラーメンと愛国』に詳しく書かれているんだけど。
 戦後に日本を調べたら識字率も高かった(こいつら勤勉だぜってアメリカは改めて思った)のにアメリカは英語を第一言語にはせずにとか、してたらたぶんうちの親父ぐらい(戦後生まれ)の世代から英語は喋れてたりすると思う。もしそうだったら原発が爆発した時に英語話せたらけっこうな数の国民が海外に行けた(逃げれた)と思うんですよね。



 日本の原発に関連し、1955年2月、シドニー・イエーツ米国下院議員が広島に6万キロワット級原発を建設する法案を提出している。
 米国では1979年3月のスリーマイル島原子力発電所事故以来、原発の新設計画が停止されていたが、2001年からのブッシュ(息子)政権が推進政策に転換(原子力ルネサンス)し、法人税控除などの優遇措置が講じられ、当政権期に原発新設が30基分も計画されたが、2011年6月までに1基も建設工事が始まっておらず、2010年時点で撤退が目立ちはじめていた。地球温暖化対策を重点に置くバラク・オバマ政権にも引き継がれた。その結果、事故以来初めての原発としてメリーランド州カルバートクリフス原発第3号機が計画中であったが、2010年10月にコスト上のリスクが高いとして中止され、建設中止が30年以上(1970年代半ばから2011年の間)続くことになった。(wikipediaより)



 アメリカは震災の一年前には原発の計画中だったのが中止ですよ。で日本は国民の多くが反対してるのに大飯原発再稼動とかですよ。なんですかね、やっぱり実験場なんですかね?と思ってしまいますね。僕の勘違いだといいんですけど。


 『希望の国』を観てる時に浮かんだのはさっき書いた『シンセミア』と前作『ヒミズ』を観た時にも思い浮かんだ古川日出男著『馬たちよ、それでも光は無垢で』と宇野常寛著『リトル・ピープルの時代』でした。退去命令が出た町にいた主を失った動物たちは古川さんの『馬たちよ、それでも光は無垢で』を連想させた。


 この国の既存のシステムの崩壊、象徴的な父を殺す事で人は大人になるという通過儀礼を失ったこの国。今作の父である泰彦が取る行動はある種システムを壊すメタファーみたいだった。映画観てる時に地震があってあの時の事が甦る感じだった。
 あと架空の県な長島県が舞台だけど福島原発の数年後って設定でそうやることでメタな視線というか、観てる側は架空の県の出来事としてのフィクションの中に現実に起きている原発問題を嫌でも考えてしまう構図になる。この辺りはさすがだと思うしあの日以降やはりメタなもの、メタフィクションの有効性≒想像力について考える事が多い。


 あとは園組と呼ばれる人達があれこんな所に!という感じで出られてますね。この所続けて三作目な吹越満さん、もはや園組でいちばん作品出てるんじゃねな深水元基さん。僕はかなり好きな『夢の中へ』にも主演されている田中哲司さん、手塚とおるさんは前作『ヒミズ』にも『愛のむきだし』で爆弾をみたいな役をされてた気がするのだが今作は全然違う感じだし、前作に続いて堀部圭亮さんも。
 やっぱりでんでんさんも出られていて清水優さん演じるミツルのお父さんでいいお父さんなんだけど笑顔で体バラバラにしちゃいそうな『冷たい熱帯魚』の村田な部分がもしかしたらあるんじゃないかシンドロームに。


 こうやって園組と呼ばれるような役者さんがなぜ集まるのか、園さんの作品に出ているかは今発売されている『ヒミズ コレクターズ・エディション』の特典ディスクに入っている『メイキングオブヒミズ』を観ればわかると思います。というかですね、『ヒミズ』は最高なのはもちろんですがこのメイキングも素晴らしいのでこれだけで劇場公開できるレベルなんでレンタルで観るのもいいですけど買っちゃった方がいいです。


 あとスタッフロールの脚本協力に知り合いのアンカーズのメンバーの人達の名前があってなんか感動したのと負けてられないと思った。


 10月には『園子温 監督初期作品集 DVD-BOX(SION SONO EARLY WORKS: BEFORE SUICIDE)』が出ますね。『自転車吐息』とかぴあフィルムフェスティバル入選した『俺は園子温だ!!』とか過去の作品がたくさん入ってます。


 試写が終わった後に試写室で観ていらした水道橋博士さんにご挨拶をさせていただいて、ツイッターで絡ませていただいたりしてるので。なんとお付きの方が運転する車でうちの近所まで送っていただきながらお話させてもらいました。
 園さんの映画の事や樋口毅宏さんの作品だとか博士さんが最近オススメな坂口恭平さんの事など。僕は古川さんの『サマーバケーションEP』をオススメしたり。とても楽しい時間でした。
 普段は歩いたりチャリ乗っているので車に乗って流れて行く景色が新鮮でした。車に乗る事はほぼないので。六月の末にデモ行った首相官邸前とか国会議事堂とかを通りすぎたり渋谷とかいつも歩いてる景色が違う角度から見れてよかった。なんだかシンクロが続いてるなあと思います。


 帰りに本屋に寄って『独立国家のつくりかた』買って家に戻ってちょっと休んで青山に向かった。約束の時間まで時間余ってたんでABC(青山ブックセンター)本店行ったら入り口のフェアのとこに坂口恭平さんのコーナーがあったので博士さんが一番オススメしてた『一坪遺産』買った。


 青山に行ったのは知り合いの元美容師のお姉さんに髪を切ってもらうためだった。姉さんは知り合いの美容室を借りて知り合いのカットをしている。本当に偶然だがそのお店の名前は『SION』で、帰りに気づいてちょっとビビる。何回も行ってるんだけど。

ヒミズ コレクターズ・エディション [DVD]

ヒミズ コレクターズ・エディション [DVD]

園子温 監督初期作品集 DVD-BOX(SION SONO EARLY WORKS: BEFORE SUICIDE)

園子温 監督初期作品集 DVD-BOX(SION SONO EARLY WORKS: BEFORE SUICIDE)

シンセミア〈1〉 (朝日文庫)

シンセミア〈1〉 (朝日文庫)

ラーメンと愛国 (講談社現代新書)

ラーメンと愛国 (講談社現代新書)

馬たちよ、それでも光は無垢で

馬たちよ、それでも光は無垢で

リトル・ピープルの時代

リトル・ピープルの時代

独立国家のつくりかた (講談社現代新書)

独立国家のつくりかた (講談社現代新書)

TOKYO一坪遺産

TOKYO一坪遺産

サマーバケーションEP (角川文庫)

サマーバケーションEP (角川文庫)