監督:松本准平
キャスト:辻岡正人、穂花、上山学、でんでん、根岸季衣、大澤真一郎、増田俊樹、三坂知絵子、柴やすよ、加藤亮佑
ストーリー(あらすじ)
撮影時26歳の新人・松本准平監督が、都会に生きる3人の若者の迷いや苦悩をリアルに描いた人間ドラマ。ある時、ひとりの男が殺され、男が手にしていた金が消えてなくなる。男に不正に金を流していた大手企業のエリートサラリーマン達也は、男の恋人だった女性ルカに出会い、2人は一緒に犯人と金を探す。その過程で達也は大学の後輩リョウと再会。同性愛者のリョウは達也に密かに思いを寄せるが、リョウの知られざる過去が明らかになり……。主演は俳優のほか監督としても活躍する辻岡正人。(映画.com)
とある飲みでお会いした松本准平監督の第一作劇場映画『まだ、人間』をヒューマントラスト渋谷で観て来た。
ツイッターのTLで見ると監督がリツイートやRTしてるのを見るとどうやら賛否両論らしい。僕の感じとしては賛否というよりも監督のやりたいこととでできることの間に差があってこんがらがってるように感じられもした。
観ていて画がなんか違和感あった。なんか撮りたい画とか役者がカッコつく画があるのが繋がってるような感じで観ていて辛い。
監督とカメラマンはきちんとどういう画を撮るのかシーンごとに決めてたんだろうか。これは敢えてやっているのかいないのかはわからないが違和感を感じた。あと最初の方の部屋のシーンの音声もなんか変だった気はしたんだが。
役者さんは演技できる感じがして、でもみんなエキセントリックなんだよなあ。えっ?急にみたいな行動や次のシーンでは真逆な事をしたりして。まあ人間だからそういう事はあるんだろうけど細かいシーンで揺れをもう少し丁寧にやってもいいだろうし三人のうち一人ぐらいは観客が感情移入できるかあるいは一応普通っぽい人がいたほうが差異が出てキャラが立つと思った。モノローグもやるならもっと最初に一気に畳み掛けていれちゃっても成り立つと思うんだよなあ、三人の内面がモノローグで出てれば突飛なエキセントリックな行動に出ても観客は違和感なく受け入れられると思う。
「東京の真ん中はからっぽ。僕たちの真ん中にはいったい何があるんだろう」というモノローグから始まる。ロラン・バルトが『表徴の帝国』で皇居を「東京の空虚な中心」と評した事に関連してると思うんだけどこの映画はあまり東京な感じがどうもしない。海沿いというか東京湾≒ウォーターフロントは出てくるけど街の匂いとかしないからかもしれない。だから東京の真ん中はからっぽっていうモノローグもなんだったんだ?と思った。
三人のトライアングルの感じは面白くて「愛してる」という呪いの言葉で繋がっていく。ルカがリョウに惹かれるというか彼女がロザリオ?だっけを引きちぎっても彼が抱きしめて希望の話をしたらわりと次に会った時にはリョウLOVEな感じになっててその間とか丁寧に書けばいいのにと思ったり、リョウと達也のBLな関係もなんか達也はツンデレかいなと思ったり。
まあ昔映画の専門のシナリオの先生がゆうてましたよ、ゲイにフェラチオされたら女よりも上手くてそっちに引きずられるって。なんせ男のツボは男が一番わかるからってゆうてました、はい。
大手企業のエリートサラリーマンって設定の達也がまったくエリートに見えない、舞台をやってるはずのリョウも演劇してる感じがまったく漂ってこない。そっち側を描いてないから達也・ルカ・リョウの三人と消えた金と死んだ男の世界だけの彼らしか見れないから人間味というか現実感が沸かないけどなんでそこ話に入れなかったのかなって。エリートとして働いてたのがあれば金がなくなって困ってリョウやルカの関係の中でああいう風にある種エキセントリックになっていく達也との陰と陽の対比できたしそっちのほうが人間味出たと思うし、リョウはでんでんさん演じるクリスチャンな家の描写あるから多少近くは感じられるけどね。
僕が気になったのはやっぱり脚本(話の流れ)と画かなあ、脚本はもっと練れたと思うんだけど。こいつら(登場人物)にまた会いたいって思えないんだよなあ。
途中で達也が灰を顔に塗るシーンあるけど『ヒミズ』『モンスターズクラブ』に引き続き今年三作目の邦画顔に何かを塗る映画だった。『ヒミズ』『モンスターズクラブ』は主人公の精神状態がある種悪化した上の顔の上に何かを塗る事で本性を隠し世間に対して自分は違和がある特殊であるという記号性みたいなものだった。
今作『まだ、人間』はそれとは違う。金(札)を燃やしそれを塗る、金を探していた彼が金を燃やし塗る事である種それまでの行動に対しての自責の念だとか感情の発露としての行動。『ヒミズ』『モンスターズクラブ』は顔に塗ったまま外(世界)に出て行く。
まあ、『モンスターズクラブ』の瑛太が真っ白に塗って電車乗ってるシーンはさすがに声だして笑ったけどコントじゃねえかって。
『まだ、人間』は三人を描いてるんだけど外部が存在してないみたいなんだよね。「東京の真ん中はからっぽ」っていうよりは彼らという真ん中は満たされているのに外部(世界)がからっぽな感じがした。
なんだか大塚英志の「少女まんがの世界には他者がいない。そこにあるのはただ自意識だけで、この自意識は「エヴァンゲリオン」でゼーレの連中が夢みたような「補完」された世界のよう に自他の間にだらしなく共有される。それが少女まんがの本質であり限界でもある。」ってのを思い出した。
松本さんの資質ってもしかしたら九十年代の岩井俊二監督的なものなのかもしれないなあ、少女マンガ的な↑他者のいない感覚が。
次回作は外部を描いてほしいなと思いました。それか超自意識な世界を描ききるか。
The Heartbreaks - Delay, Delay (Official Video)
気になったので輸入版を買ってみた。ほほおやはりUKはいいバンドが出てきますなあ、この感じは好き。
最近読んだのは伊坂幸太郎『夜の国のクーパー』と樋口毅宏『二十五の瞳』という新刊でどちらも好きな作家さん。
『夜の国のクーパー』は「この国は戦争に負けたのだそうだ。占領軍の先発隊がやってきて、町の人間はそわそわ、おどおどしている。はるか昔にも鉄国に負けたらしいけれど、戦争に負けるのがどういうことなのか、町の人間は経験がないからわからない。人間より寿命が短いのだから、猫の僕だって当然わからない――。これは猫と戦争と、そして何より、世界の理のおはなし。どこか不思議になつかしいような/誰も一度も読んだことのない、破格の小説をお届けします。ジャンル分け不要不可、渾身の傑作。伊坂幸太郎が放つ、10作目の書き下ろし長編。」って内容。
デビュー作『オーデュボンの祈り』に伊坂作品第一期を飾る『ゴールデンスランバー』『モダンタイムス』的なものと物語の基本構造行って帰ってくるをファンタジー要素で構成した感じで猫目線で語られますね。あと仙台?から流されてきた公務員の嫁に不倫されて出て行かれた男が出てくるんだけど彼の視点も。猫からその国の話を公務員の男は聞かされるのだが。まあ真ん中ぐらいである種わかっちゃう部分はある。
乙一さんの『銃とチョコレート』の読書感に似ているかもしれない。ファンタジーっちゃファンタジー?かな。まあ、『ゴールデンスランバー』『モダンタイムス』以降顕著になっている権威やシステムというこの世界を作り上げているものを寓話で本質を描いたような作品とも言えるのかもしれない。
『二十五の瞳』は「小豆島別離伝説。あなたはニジコを知っていますか? 『二十四の瞳』の舞台で有名な小豆島。平成、昭和、大正、明治、四つの時代に島で起きた事件と悲恋の背後には因縁の物語があった」っていう内容。章というか一話毎に時代が遡っていく感じですね。
正直な所を言えば第四話でテンションが下がった。それまでは樋口毅宏作品だっ!ってテンション上がって読めた。ナイーブさとかロマンティックな感じもありつつも樋口節でオマージュとヒップホップ的なサンプリング的手法で物語が展開していた。
ただ第四話の手塚治虫オマージュ、トリトン?みたいな展開と地震をこうやって物語の中に取り組むのは現実ときちんと対峙しているからわかるのだけどなにかのれなかっただけだ。
序章と終章をどう取るかによってだいぶ印象が変わっちゃう作品なんだろうけどね。好きか嫌いかで言ったら好きだけど大好きじゃない。
ロマンチストすぎる気もするけどそれが暴発する作家さんなんだよなあ、だから嫌われるし愛されるのどちらかだ。
ってソーシャルライブラリーに書いた感想がツイートされたら樋口さんから返しがあった↓。
「いつも的確な書評をありがとう。☆は辛めだけど学さんのレビューを信用しているので悪く受け取ったりはしません。みんな、貴方のような優しさと手厳しさを両方兼ね備えていればいいのにと思っています。あ、四話目は「三つ目がとおる」です。それぞれの原作もぜひ読んでみて下さい」
前にクッキーシーンwebで『テロルのすべて』(http://cookiescene.jp/2011/07/post-211.php)のレヴュー書いたのを読んでもらったからその事で信用してもらえているのかな。確かに四話目は『三つ目がとおる』だけどそれネタバレじゃねと思わなくもない。
関係ないけど知り合いの元美容師の姉さんは渋谷のスクランブル交差点歩いてたら目の前から歩いてきた人に「あなた三つ目の目が開いたままよ」って言われたらしい、確かに霊感は強い人なんだけど。
ここ読んで『またか!』と突っ込みましたけどw
↑真ん中辺りが「左へ曲がると光る海が見えてきた。この瞬間がいつまでも続くと思えるほど人生を肯定することはできないが」と書かれている。
と返した。まあこれはオザケン『さよならなんて云えないよ』のオマージュであり樋口さんのデビュー作『さらば雑司ヶ谷』でもこの曲に関して言及されていたので。
「僕は一生このネタを書いているような気がしますw」と返していただいたので「だと思います!がデータベース消費みたいにたまにこれをやられると作品を何冊も読むことで強度が増すオマージュになりますね。」と。
でも小説にしろアニメにしろ表現って長い間続けて作品を出していくと地層みたいになっていく。『ガンダム』だって最新作『AGE』よりもファーストからニューガンダムの流れをくむ『ユニコーン』の方が受けてるし『仮面ライダーディケイド』に『ゴーカイジャー』なんてまさしく長年積み重ねてきた歴史をデータベース消費する事で物語りを展開していたわけで。
小説もそういうやり方はかなり有効だと思うんだよなあ、作家性の強度と特異性を増すには。それにずっと読んできた人にはニヤリと嬉しいしね。
で昨日は久しぶりにクラスヌに行って踊ってきた。ゲストバンドはBACK DROP BOMBとシャムキャッツだった。
BACK DROP BOMB "Progress"
ニューアルバムは聴いてたからこの曲テンション上がったけどスキルがハンパなくてミクスチャーロック好きとしてはテンション上がる。なんだろうあの無敵感。
渚(MUSIC VIDEO) / シャムキャッツ
初めて聴いたんだけどなんだか凄かったなあ、初見ではくるりみたいな変態的なリズムとなんだかユニコーンっていうか奥田民生的なものをハイブリッドして現在進行形にした新しいロックンロールな感じだけどこれ玄人受けするわ。
やっぱりリバティーンズとかヴァインズとかフロアに流れるとテンションが一気に上がってしまう。わかってるんだよ『Don't Look Back Into The Sun』ってことは。でも『Horrorshow』とかかかったら仕方ないじゃないか。
つうわけで今週はそんなリバティーンズの映画『ザ・リバティーンズ 傷だらけの伝説』(http://www.emimusic.jp/intl/babyshambles/)を観に行こうと思います。 今月末にDVD出るんだけどね。
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