Spiral Fiction Note’s diary

物書き&Webサイト編集スタッフ。

『自殺サークル』『紀子の食卓』

 新宿三丁目に行って紀伊国屋書店宇野常寛×濱野智史『希望論 2010年代の文化と社会』を買う。
 読書会があったのでその店の入っているビルの前のガードレールで宇野さんの「はじめに」読んで目次を読んでたら章扉デザインが東京ピストル加藤賢策さんだった。知り合いの名前があるとなんか嬉しい。


 で、いつもの読書会で今月は芥川賞受賞した円城塔『道化師の蝶』と田中慎弥『共喰い』の二冊。
 円城さんのはやっぱりこの辺りで円城さんみたいな新しい文学的なものをいい加減に芥川賞あげないとマジで賞自体がオワコンになるっしょみたいな期待も込められていると思う。僕は理系な部分がないので読むと難しいなって思うけど読んでてて独特で文体やA・A・エイブラムスとかもうそういうの好きだわ〜ってなるし、言葉と織物を絡めるのとかデビューの『Self-Reference ENGINE』からブレないなっと思う。『これはペンです』読んでないから読みたいな。
 『共喰い』は確かに中上健次をめっちゃ薄くしたっていう話が出たけどまあそうだわなあって内容。確かに今更こんな話どうよ?みたいな部分は拭えない。
 文壇とか昔の価値観の文学を守りたいみたいな人しか押さない気がするんだけどここに文学の未来はあるか? ないよね。ウナギの比喩とかは・・・。もう親父がウナギでよくね?そっちのほうが面白いよ。最後の一文もうるせえよって思っちゃった。
 

 でみんなと話してて朝起きたら妻がフラミンゴになってるっていうすばる文学賞受賞した澤西祐典『フラミンゴの村』は凄く面白そうなのでさっき起きて近所で買ってきた。こういうシュールな方がプロット聞くだけも読みたいなあって思う。
 ただ、芥川賞もある種のショー的な部分と言うかテレビで放送されたほうが年に何冊も読まない人も観たら興味を持って買ってしまうから『共喰い』のほうが売れて十万部とかいく。もう内容とか関係ないとこで売れてしまう。これはどうにもならない事だと思うけど。やっぱり『道化師の蝶』の方が売れるべきだし売れてほしい。


 それから四人で深夜のバルト9にて園子温監督『自殺サークル』『紀子の食卓』の二本立てオールナイト上映を観る。『自殺サークル』の方は劇場で観たことなかった。
 


 『自殺サークル』は2002年の作品なんで十年前で集団自殺をテーマにした映画。
 新宿駅のプラットホームから54人の女子高生が手を繋いで飛び込み、自殺するところから始まる。その後、事件は全国に飛び火するが、その原因を辿るとインターネット上にあるらしい。(wikiより)


 インターネットが少しずつ普及し始めた頃だと思うけどその頃にはもうネットによる繋がりを集団自殺に繋げて描いていたのも凄いなって思う。
 石橋凌さんや永瀬正敏さんや大森南朋さんのお父さんの麿赤兒さんなんかが刑事で事件を追っていくんだけど事件を解決できなくてわりと投げっぱなしで物語が終わる印象をずっと持ってたけどまあそうだったりするよね。
 ジェネシスことROLLYが出た時は爆笑してたけどあのボーリング場の辺りの感じってもしかすると未見だから違う可能性が高いけど『ロッキー・ホラー・ショー』的な事を園さんやろうとしたんじゃなかろうか。あの辺りはもうフザけてる感じがしてきて殺伐としてても笑っちゃうんだよな。


 でも、石橋凌さん演じる刑事の家庭と彼が取る行動は救いがなさすぎて。事件の秘密というか確信に迫るのは彼氏が飛び降り自殺して歩いてたらぶつかって耳から血を流してた女子高生で観るまでROLLYさんのイメージで薄れていたアイドルグループなデザートにヒントがあったりとかど忘れしてた。
 あの子供達のシーンとか怖いなあ。病院のシーンとかは公開ぐらいにブームだったJホラーの映画の影響がありそうな撮られ方に思えた。
 この集団自殺を取り扱いながら、都市伝説に似た風説が一気に広まる過程にインターネットが普及してきた時代ではそのスピードがあがり一気に拡散されていくそんな始まりの季節を見事に描いてしまっているなあと十年も前の作品だと思うと余計に感じる。


 フィルムの保存状態なのか映像と音がちょっとダメだなって思ったりはした。終わって15分休憩して『自殺サークル』のその後の世界を描いた『紀子の食卓』に。五年前に観た感想と今日観た感想を織り混ぜながら書こう。


 『自殺サークル』ともリンクする作品であり『自殺サークル』はその前日譚ということになっている。『自殺サークル』の54人の女子高校生が新宿駅でホームに飛び込み自殺するシーンも出てくるし、その発端と言うか始まり、映画が明かされてなかった部分がこの作品ではあかされる。 


 紀子であり『ミツコ』である主役・吹石一恵は物語を先導していく、チャプター1という感じで。これはその後の『愛のむきだし』でも同様にチャプターで各登場人物がメインになるのと同じ設定。
 紀子は自分があるようでないような、街をキャリーバッグを引きずりながら歩く感じは肉体を探している幽体のように輪郭がない感じがする。東京に肉体を探しにきた霊体。
 妹のユカ役の吉高由里子は姉を追い東京へ。姉のいる『家族サークル』に入る。タイトルは『紀子の食卓』なので、主人公は紀子なのだが、ユカに引き継がれていく感じがあるし、最後に『ここではないどこか』へ出て行く彼女は『レンタル家族』という作り物の家族から脱却する可能性を示唆していると五年前に観た時も思ったけど今回もそう思った、そんなラストのシーン。


 『家族サークル』の黒幕でもあるクミコ役のつぐみは影のある感じもするし、『レンタル家族』のなかでは明るい女の子を演じたりと様々に表情を変える感じでその後には園子温監督『エクステ』では暴力的な母親役でも出演している。
 父親役の光石研さんは最後の方ですごいことになってたけど、やっぱりいると締まる感じで最新作『ヒミズ』とは真逆な父親である。
 自分の家族が知らないうちに崩壊していくことに気がつかなったこととか、二人を探し当ててからの『レンタル家族』として二人とクミコを呼ぶなどの行動を起こし家族を再生させようとするが『理想の家族』像から逃れられない父はやはり家族を再生させれない。
 一緒に暮らして生活すれば家族だというのはやっぱり幻想で、その家族の個々人の数だけの人格が一つの家で一緒に住んでいるということは、個々人がきちんと関係していかないとすぐにほころんで崩壊していく。


 園子温という作家性に嫌でも描かれてしまう「家族」という問題と「父」という存在。逃れようとしても無意識に扱ってしまうもの、ずっと描いていくものがやはり作家性と呼ばれるものではないだろうか。
 村上春樹もそうだけどずっと父親との関係性についての作品を何十年もやってきて彼はようやく『1Q84』で彼は主人公が父を許し主人公自体が父親になった。そういうものは作家性の根本として描かれ続ける。


 冒頭の紀子からだけどモノローグがすごく多い。モノローグはすごく好きなので、チャプターごとにキャラのモノローグが映像と共に流れるのが世界観を構築させ、各キャラの内面が伝わってくる。モノローグがいいと作品に入りやすい。


 紀子のモノローグは笑ったなあ、みかんの皮のとことか東京に行ったら父は妊娠して帰って来るだとか地方にいてわかり合える人もいないけどネットの「廃墟ドットコム」で出会ったクミコや決壊ダム(安藤玉恵)とならわかりあえるから東京に行きたいとかそういうゼロ年代に半ばぐらいまでまだかろうじてあったそのネットで繋がり上京したいという感触。
 ネットも現実世界の拡張でしかないから現実でもうまく人付き合いできないとネットでも実は出来ないと言う事にみんな気付いていなかった頃。
 現実世界では誰にも相手にされないけどネットだけなら人気者になれるようなそんな錯覚が存在していたあの頃の感触。

 
 五年ほど前に観た後に園さんとお話をさせてもらう機会があった時に幡ヶ谷で起きた兄が妹を殺した事件(渋谷区幡ヶ谷妹殺害バラバラ事件)について、あれが日本の今の縮図だと言っていたのはわかるような気がする。
 『俺は関係ない』と言った長兄はこの作品を観てもやっぱり関係ないというだろうか、言えるのだろうか?

 紀子が東京で名乗る『ミツコ』という名前、『奇妙なサーカス』でも『ミツコ』出てくる。なんか豊中の地名とかリンクすることが多いなあ、園監督作品は。そういうのも作品を観てると繋がっていっていくので関連はなくてもなんかサーガ的なものも感じられたりしなくもない。

 
 『あなたはあなたの関係者ですか?』


 社会学者の宮台真司さんは『愛のむきだし』『ヒミズ』にも出演はされているけど『紀子の食卓』を絶賛されていた記憶がある。まあ、やっぱりこの数年で園さんの知名度と期待値は上がり続けているんだけどやはり代表作のひとつは『紀子の食卓』だろう。


 レンタル家族を呼んだスーツのひげの男の人って手塚とおるさんだと思うけど彼は『ヒミズ』でも実は少しだけど主人公の住田にある衝撃を与える役でも出てる。『愛のむきだし』の爆弾作るって言ってた人はまた別の人だっけな。
 ばらが咲いた〜って血まみれなシーンで流れるけど決壊ダムこと安藤玉恵さんは『気球クラブ、その後』にも出てた。あれ?あの中で荒井由美『翳りゆく部屋』を酔って歌っていたような気が。


 園組とすら呼べる何度か園作品に出てる人は園さんが合う人とは何度も仕事したいって言っている事の象徴だね。


 朝五時前に上映が終わって暗闇の新宿三丁目副都心線に。電車のところに柵というか人が入れないようにしてるうやつ、電車来たら開くスライドボード?みたいなやつを見たら54人の飛び込んだ女子高生を思い出し、きっと電車会社が『自殺サークル』見て防止用に作ったんだろうなって思ったり思わなかったり。

希望論 2010年代の文化と社会 (NHKブックス)

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道化師の蝶

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共喰い

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フラミンゴの村

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自殺サークル [DVD]

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