Spiral Fiction Note’s diary

物書き&Webサイト編集スタッフ。

『川の底からこんにちは』

 二時間ほど寝て、もはや仮眠して銀行に行って振り込んだり支払ったり、残高が減るために働いているんだね、in my lifeと思いながら用事と買い物を済まして家に帰ってからまた歩いて渋谷まで出かけた。
 ヘルシア緑茶を飲み始めました。朝始めた仕事先までは三十分ぐらい徒歩だから本当に効くか確かめる、体脂肪よ消えてくれ。あんだけ重い物を運んで動き回って行き帰り往復で一時間歩いて夏過ぎても太ってたら、落ちなかったらたぶん、このまま膨張してビッグバンを起こして新しいセカイを作り上げることになるのかもしれない。


 渋谷の道玄坂まで歩いてユーロスペースに。高校の同級生の翔史から電話があって、健康診断した後らしく時間があるというので観に来た『川の底からこんにちは』を誘ってみた。
 今週の『タマフル』での『シネマハスラー』だったのもあり、観た人の評価もよく、『愛のむきだし』で女優に覚醒した満島ひかりは観たかったので。もう『愛のむきだし』最初に東京フィルメックスで観て一年半以上経ってる。その時のブログ『 「愛のむきだし」@東京フィルメックス』。
 で、エキストラに行ったのは二年半以上前で、レストランでのユウとヨウコと両親が食事するシーンで彼女、満島ひかりを観たけどその時はやっぱりアイドル上がりの子みたいな感じだった。


 ブログにも書いているけど『愛のむきだし』の後半のバスでのシーンで彼女の顔つきが明らかに変わる。
 女優になったというか映画に必要とされる側の人になったような、メタモルフォーゼ、覚醒したような気がして僕は観ながら震えた。『愛のむきだし』は園子温監督の鬼才と言われる作品性の本当にむきだされた欲望や期待や哀しみや人間の業が表現されていることと彼女が女優になる瞬間を撮らえてしまったというマジックが存在していることで一際際立った作品になった。


 翔史がやってきて少し話しながら劇場へ。彼の知り合いのライブハウスの店長がX JAPANYOSHIKIの後輩で店長とYOSHIKIが電話している時に十代の子がX JAPANのコピーをやってて電話越しにその音を聴いたYOSHIKIがもっと早くしろって演奏止めてでも言えって言われて、結局演奏止めさせてバンドのやつが電話変わって相手がYOSHIKI本人だとわかって、もっと早くやれって言われたエピソードとか聞いたり。
 これで世に出たらこのネタ使えるよねっていう。そういうエピソードも使えるぐらいにならないと世には出れないのかもなあ。この電話で運を使い尽くしたっていう説もある。


 僕に呼ばれた翔史はこの『川の底からこんにちは』のことはまったく知らないまま、『愛のむきだし』は観ていたので主演が満島ひかりっていうとわかるぐらいの感じで、すごくクリーンな何の情報もないままに観る事に。僕もしじみ工場がなんとかっていうぐらいの情報だった。





監督・脚本: 石井裕也、主演・満島ひかり、遠藤雅、志賀廣太郎岩松了、相原綺羅、菅間勇、稲川実代子、猪俣俊明、鈴木なつみ牧野エミ、工藤時子、安室満樹子、しのへけい子、よしのよしこ、並樹史朗、山内ナヲ、丸山明恵、目黒真希、森岡龍、廣瀬友美、潮見諭、とんとろとん、他


ストーリー:上京して5年、仕事も恋愛もうまくいかず妥協した日々を送る佐和子(満島ひかり)は、父親が病で倒れたことから帰郷。一人娘のため父が営むしじみ加工工場の後を継ぐことになるが、従業員のおばさんたちには相手にされず、会社の経営も倒産寸前に追い込まれていた。その上、一緒に工場の後継ぎになりたいと付いてきた恋人にまで浮気されてしまう。


 パンフ呼んでて知ったのはこの作品がぴあのスカラシップだったってこと。PFFぴあフィルムフェスティバルスカラシップとは1984年から始まり、PFFが企画、脚本、撮影、公開、DVDリリースまでをトータルプロデュースすることで、監督に映画製作の本質を学んでもらう事を目的とした映画製作援助制度である。映画祭のコンペティション部門「PFFアワード」の受賞者に脚本提出の挑戦権が与えられ、その年の最も期待したいフィルムメーカー1名にスカラシップ作品監督権が与えられる。PFFスカラシップ専任プロデューサーと共に、受賞から1年に及ぶ企画開発の後撮影に入り、受賞から2年後のぴあフィルムフェスティバルにてプレミア上映され、海外映画祭出品を経て劇場公開される。とのこと。


 園子温監督も『自転車吐息』がスカラシップ作品で劇場デビュー。橋口亮輔監督や矢口史靖監督、熊切和嘉監督、李相日監督とかも輩出してる。


 いろんなことを「しょうがない」で済ませていた佐和子。日本の不景気も彼氏がバツイチの子持ちなのも、やりたいことがないのも、ずっと妥協していた彼女の元に父親が倒れたと叔父から電話が入る。
 彼女はとある理由で五年間田舎に帰っていなかった。わたしなんて「中の下の人」ですからという佐和子。会社を辞めてエコエコというバツイチ子持ち彼氏と田舎に帰り倒れた父の代わりにしじみ加工工場で働きだす。


 そこで働くパートのおばさん連中には嫌われているようなもので、彼女がなぜ五年間帰れなかったかがいとも簡単に嫌みとして言われ、一緒にやってきた彼氏は彼女を問いただし、その後復讐されるように高校の同級生と彼氏が浮気をしてしまう。彼の娘との関係も良好にはならないまま、彼はいなくなり、最後は家で迎えた方がいいということで病気の父が家に帰ってくる。


 会話のテンポや、佐和子の口調の間などがよく、妥協して「中の下の人」だというやる気のない彼女の雰囲気は笑えるし、確かに面白い。叔父役の岩松了さんとのやりとりなどは面白くて何度も笑った。彼女の環境も危機的な工場の経営状態ももうすぐ死んでしまう父親という暗さしかないような場面でさえ、そのやりとりや間のよさで笑いがこぼれる。


 僕だけが笑っているだけではなく翔史も、観客はわりと中年以上が多かったように思えたがかなり声を出して笑っていた。ということは監督の狙いは成功していたと言えるだろうし、世代にあんまり関係なく笑えるやりとりが展開されていた。


 ここでは母性的なものとかっていうよりは女と男って感じで、女は強く逞しいけど男はホントにダメだなっていう感じ。佐和子の彼とかはホントにダメな典型で、父親からもあんな男からは別れろって言われる。
 でも逆にがんばってみるとか言っちゃう佐和子のもはや逆切れのような開き直りが始まるとしょうがないというネガティブな言葉がしょうがない、がんばるしかないに変化していく。


 変わっていく彼女、今まではおばちゃんたちに言いたい事も言えずに声も小さかった佐和子は開き直って大きな声で一生懸命言葉を伝えようとする。シナリオ的には佐和子は同じような台詞を言っていてもその裏にある気持ちに変化がある。成長というか変わっていく彼女が映し出されている。
 子役の子もほぼ表情のない感じなんだけど次第に変わるし、父親に思っていたことをぶちまける。
 テレビで連れ子を殺してしまったニュースを見て佐和子に脅えてみたりとここのやりとりの感じもよく、最終的には頭を下げて帰ってくる彼とのやりとりのシーンは本来は号泣する場面にあえて彼を帰らせてきてその会話や行動がせつないシーンなのに笑ってしまうし心が温かくなってしまう。
 最後の佐和子の台詞は大声で叫ぶんだけど少し音が割れてた気もしなくもないがいいだろう。


 観てよかったなって思える作品だった。満島ひかりは本当に映画に愛されてしまった女優なんだなって思ったし、この作品がスカラシップな石井監督の次回作はぜひ観たいし、これから期待される監督には間違いない。
 これはなんかいろんな人に観てもらいたいなって思う作品だな、今年観て一番面白かったなって思ってるのは『第9地区』だったけど『川の底からこんにちは』が上に行ったかなあ。好きな作品だし物語。タイトルもいいし作品の内容ときちんと合ってるし、クライマックスのくだりにも関係してていい。


 帰りにくるりのB面集アルバム『僕の住んでいた街』を買う。これに収録されている『すけべな女の子』がかなり好きで、以前書いてたシナリオにも重要な曲として出してたりする、まあシナリオはお蔵入りになったけど。あれ以来シナリオ書いてないなあ。


くるりーすけべな女の子


 軽く仮眠してバイトへ。いつも通りのレジ打ちマスター。最初の一時間は人がいたので品出ししてて店頭の商品補充してチラッと観たら園子温監督が店から出て行く所だった。声はかけなかったけど。
 いつものハットに紫色で金色のラインが入っているジャケット着てた。まあ、後ろ姿でもわかるんだけど何度かお会いしているから。昼間に満島ひかりが出ている映画観て、その作品がスカラシップで、夕方に園さん見かけてってなんだか出来すぎだろって思った。


 レジ打ちマスターは給料日のせいかハンパなく打ちまくり、七時間のレジで八十万いくとこでした、ホンマにアホかっての。西友とかのレジ打ちのパートのおばさんが主人公の物語書きたいなとか思ったりした。
 なんか『OUT』みたいなノリの、なんかそういう欲望出していったりとかしていくタイプの。ずっとくるり『僕の住んでいた街』をかけて仕事してた。


 いやあ、『すけべな女の子』の最後の盛り上がり方がすげえ好き。

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