Spiral Fiction Note’s diary

物書き&Webサイト編集スタッフ。

「試作神話・雨の繋がり」「eye drops syndrome」etc

「試作神話・雨の繋がり」


 ある街にミルカという赤い髪の少女がいた。赤い髪をなびかせ、観る者の眼を奪う美しさを持っていた。


 ミルカは祖母と暮らしていたが、祖母が亡くなり生きていくために娼婦になった。最初は町の娼婦のエルアの家に住み、彼女から生きていく術を教わった。エルアはミルカを妹のように可愛がった。そして、女の生き方を教え込んだ。


 ミルカが初めて街でお客を取った日、エルアは遠くの街に旅立った。エルアは娼婦の人生を終え、恋人の元に嫁いだ。
 ミルカはエルアと暮らした二年で美しい女になった、すらっと伸びた肢体、赤い髪、大きな誠実な目、引き締まった腰、強調される胸。男達はミルカがいつ娼婦として街に立つのかエルアに聞いた。


 ミルカの最初の客は街の金持ちのザジだった。ふくよかな腹の出方、余裕に満ちた笑み、ミルカの嫌悪するもの塊だった、我慢した。ミルカの最初の男になる金は破格でザジや一部の街の権力者しか無理だった。その大金はエルアに支払われ、その金は彼女の結婚費用と新しい暮らしのために使われた。ミルカは世話になったお礼としてエルアに全てを取り分にしてと頼んだからだった。


 その日からミルカの娼婦としての人生が始まった。ミルカと多くの男が寝たがったが彼女の言い値は他の女の5倍だった。そのためあまり客はつかなかった。ミルカは自分を安売りしないようにエルアに教え込まれていた。


 青い瞳をしたレスカは街に立つミルカに恋をした。レスカは若い青年だった。彼は勇気を出してミルカに話しかけたが、彼女の言い値を聞いて黙りこくってしまった。彼はある商人の家に丁稚奉公していたので金はなかった、そして彼女の言い値はあまりに高かったのだ。


 ミルカは高級な娼婦だった、一部の金持ちだけが買える特別な女として知られるようになった。しかし、彼女は街に立った。街の風景から少し浮く自分がなんだかおかしくておもしろかった。男からは羨望の眼差しで、女からは嫉妬の眼差しで見られる快感は彼女をさらに美しくしていった。


 毎日レスカは彼女に話しかけた、最初はつれなかったミルカも次第に心を許し話すようになっていった。レスカは彼女を自分だけのものにしたくてたまらなくなっていった。


 レスカは今まで欲しいものなど何もなかった青年だった。ただ、今レスカが欲しくて、それ以外には必要ではないと思うようになった。


 レスカはある日、家の主人がミルカを買ったのを見てしまった。離れにある部屋にミルカと主人が入るのを目撃してしまったのだ。彼はミルカと主人の性交をうずくまりながら部屋の外で聞いていた、ミルカの喘ぎ声に興奮を覚え、主人の発声する音に怒りを覚えた。ことが済み、ミルカは彼がうずくまっているほうとは逆の扉から出て行った。ミルカはレスカには気づかなかった。


 レスカが部屋に入ると主人は一瞬脅えた顔になったがすぐに怒りを露にした。レスカは主人に殴り掛かった。若いレスカの方が分があった、最後は部屋にあった主人の護身用の短剣でことはすんだ。
 レスカは泣きながら部屋にあった金を持ち出し、走り出した。ミルカを見つけるために。
  

 いつも場所にミルカはいなかった。レスカはミルカの住処を知らなかったのでそこで日が暮れる頃まで待っていた。


 影が長く伸び始めてきたころミルカが姿を現した。ミルカはレスカの顔を見るなり抱きしめた。レスカの顔はひどく悲しげな顔で頬を涙が伝っていたからだった。


 レスカは震える手でポケットからぐしゃぐしゃになった紙幣を取り出しミルカに差し出した。


 ミルカの住処でレスカとミルカは最初で最後の性交をした。レスカはミルカの中で何度も果てた、ミルカはそれを受け入れるように彼を促した。二人は裸のまま尽き果て眠りに堕ちた。


 目が覚めたのは荒い声だった。ミルカとレスカは殺人犯として捕まった。


 レスカは自分一人の犯行だと役人の言ったが、ミルカが自分が主犯だと言ってると役人から聞かされた。
 ミルカはレスカの前で役人に犯された。レスカはどうすることもできずにただ、ただ泣き叫んだ。ミルカはただ悲しい顔で。
 犯されたミルカとボロ人形のように暴行されたレスカが部屋に残された。二人は抱き合う力すらなくしていた。


 レスカは聞いた、なぜ、主犯だと言ったのかと。
 ミルカはやさしく答えた。私を本当欲しがってくれた、それで人をあなたが殺したなら私が犯人のようなものだと。そして、私はあなたを愛しているから。


 赤い髪が燃えるように、青い目が凍えるように。


 ミルカの体は炎に包まれ、髪の赤の如く全てを、レスカ以外を燃やし尽くしていった。街を包み世界の全てを呑み込んでいった。マグマとなっていったミルカ。世界は灼熱で全てが終わった。


 世界中でマグマが上がり、生物は消え去った。


 レスカの体は空に舞い上がり、目の青の如く広がり、空になった。レスカとミルカは空と地と離れた。届くことのない距離。


 ミルカが狂うようにマグマが噴き溢れた。レスカは空からそれを見て大粒の涙を流した。雨が振り出し、やがて何万、何千年と月日は経ち、雨がマグマを冷まし、マグマは完全なる大地となり、生き物が新たに誕生し始めた。


 雨が空と大地を繋ぐ、水は大地を巡り、食物から排出され、空に帰された。そしてまた、空で冷やされ、雲となり、そしてまた雨となり大地に戻る。それがレスカとミルカの繋がりとなった。

 
 かつてひと組の男女がいた。彼等はお互い繋がるために新たな世界を創った。永遠に繋がるために。



「eye drops syndrome」


 世界が潤んで 何かが零れ落ちる
  

 君待ち 零れ落ちた感情の彷徨


 消えて行く面影 ふいに現れては乱す仕業


 何が零れ落ちた 地面の水たまり


 揺らめく水面 今揺らめいた


 潤んだ色彩 忘れてない形の情景


 君待ち 堕ちていく些細な記憶


 血流が速度を増す がんじがらめな心


 今一粒 潤んだ滲んだこの世界


 忘れないこと 捕われないこと


 色彩が増す 色彩を纏う


 君待ち ひとりぼっち


 ほんとは 待っていないくせに


 聴こえてきた歌 忘れる事はしないと


 君待ち 色彩が 溢れて 舞う


 君舞う 色彩纏って 君鮮やかに 散る 



「なんかのプロローグあるいはメモ(リー)」


いつだったかは忘れた、ただ疲れてた。


どうしようもないこととか、つまりはどうでもいいと言われてしまうことの範疇、そこに捕われる思索。


ぼんやりとしてた、お香の煙の舞い上がる様、やがて見えなく消えて行く後先。


何が話したかったっけと記憶喪失、茫然自失、いわゆる迷子、コインロッカーベイビーいずこへ。


痛みだけ残る透明少女、過ぎ去る夏の日、街に残る不協和音。


せめて傷跡残して、想い出に浸った振りして現実逃避、逃避行できない常識ある思考、試行錯誤して空っぽの空。


空を泳ぐ天使は生け捕りにすると、羽根が高く売れるって都市伝説、羽根を生きたまま切り取られた天使が人間世界に馴染んで暮らしている。



まあ、ごく一部のものがね。他のものはある手段で羽根をまた手に入れ飛び去って行く。


飛べない天使は黒い雨に打たれて、希望を失う、できるのは少女に真実を教えてやるだけ、本当の飛び方を。


飛んだ少女は意識だけ残して、体を捨て去って、残された体を天使が食べる、そういう契約、いやそれが儀式、儀式とは神話を反復することだから。


少女の肉体を食べた天使は決まったように新宿をうろついている。いつも男を誘惑してる、ノセられた男は天使の上に乗っかって白濁した液体を、ただ欲望のままに吐き出して。


気が付いたら男は路上で寝てる、あれが真実なのか夢なのかわからずに気持ち良さと不快感が入り交じり、やがて白濁とした自己嫌悪に襲われて、欲望を持て余す若者に襲われて、希望を失った。


白濁した欲望を手に入れた天使は、やがて子を産む。小さな羽根の生えた天使を産み、我が子の羽根を引きちぎり、飲み込む、まるで笑うように泣くように矛盾した感情に弄ばれて一対の羽根を体内に取り込む。


羽根を無くした天使の羽根が再生する、天使は子供の羽根の傷跡にキスをしてコインロッカーに入れる。子供は泣かない、すでに子供は自分の運命を受け入れている。


泣くのは今ではない、生死の境目の瞬間に世界が終わるような始まるような響きをあげる、それが合図だ。やがて扉は開かれるだろう、そこから始まりを告げよう。


扉が開かれる、その瞬間、透明少女が笑っている。赤ん坊の泣き声にかき消されて透明少女は新宿の街角に溶けて消える。


その瞬間、少女は『サヨナラ』と赤ん坊に言う、赤ん坊の脳裏に直接。この世界で、母体代わりのコインロッカーから引き離される、羽根を失った天使の欠片は『サヨナラ』を知る。


ひとりぼっちになる、世界とは引き離された場所であると本能が認識する。


赤ん坊の中で本能が蠢く、全能全てが欲するのはその引き離された場所であり、戻るべき手に入れるべきものだと、赤ん坊は保護された人間の中で眠りにつく、全てを忘れたような顔で。



「残像 in my head 雨上がりの虹に響け」


 七色の虹が見たいけど 今は雨降りで
 止んだら見えるかい 夜の狭間に七色


 暗闇は続きやしない 見方を変えれば同じ事
 光と闇は同じ属性 朝焼けに溶ける赤


 深海に潜む進化の情緒 そこはまだ見えず
 どれだけ沈めばいいの 生命螺旋の藍


 空気の振動を感じたい そこには辿り着けず
 前に進むにも手探りで 樹海で踊る緑


 電車が通り過ぎていく ただ立ち止まり
 ふいに振り向いた先 堕ちていく橙


 すれ違う女の子たち わずかな残り香を
 残し思い出すあの子 記憶の中の紫


 重力を振り切って 天に届くように
 狂乱と笑顔の日差し 満ち足りて行く黄


 僕と君の隔たり 繋がろうとする意志
 その優しさと過ち 雨上がりの青



「レインドロップ&ティアーズドロップ」


 本当に死ぬってなんだろうって考えてて、思うのは、僕が例えば死ぬ、これは肉体の死、精神の死はどうだろう?
 輪廻転生はあったほうがいいけど、あるかはわからない、となると精神が滅ぶのは完全な死はなんだと考えると、僕が死ぬと、僕を知ってくれてる人の中に僕の存在が入る。その時点では僕はみんなの中で生きている。僕を知っててくれている人が少しずつ死んで世界からいなくなっていく、僕の記憶や想い出を持つ人が死んでいく、僕が消去されていく、そう、僕を知っていてくれた人が完全にいなくなる時に僕は完全な死を迎えると考える。


 そんなこと考えながら、歩いている。


 歩きながら考えている・・・
 生きているのに死ぬことを考えている・・・
 寝たいのに寝ないで考えもなく、文を綴っている
 ・・・ただ書いている・・・。
 雨がぽつりぽつり、降ってくる。
  レインドロップ
 レインドロップス、虹色のレイン、レインボードロップス。
レインコートを来て外に出ようか。
 雨粒が頬を伝っていく、雨は降っていない、降ってなんかいないんだよ、降ってなんか!
 空は星が、星なんてない。
 星なんてみんなどこかに行ってしまうんだよ、星に乗ってどこかに行ってしまうんだろうさ、みんなどこかに行ってしまうさ。


 セイ ハロー、グッバイ!


 星が増えていくよ、目を閉じて瞼に星が増えていくんだ、僕の中に今一つの星がある、小学・中学の友人だ、あいつは高二のままで止まってしまった。僕らはどんどん年を取るのにあいつはあの頃の想い出のままだ。僕が初めて見た、死体だったんだ。初めて触れた死の感触、冷たく哀しい、真冬に降る雨みたく。


 いつかは僕もそうなるだろう、レインドロップ
 雨なんか降ってないのに、ああ、これは涙か。
 ティアーズドロップ、その時に耳から聞こえてきたよ。


 『僕を忘れないでよ』


 ティアーズドロップ、空がかすんだ。


 『僕を忘れないでよ』と声に出してみた。

 
 レインドロップス、雨が上がって、虹が空に落ちてきた。
 レインボードロップス、空が色を取り戻した。

試作品神話 (角川文庫)

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merkmal 通常盤

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