Spiral Fiction Note’s diary

物書き&Webサイト編集スタッフ。

「フルカワヒデオ200ミニッツ」

 渋谷まで歩いて行く、いつも通りの道程。O-nestまで歩いて行くと早めの夕暮れで空は暮れかけて、道玄坂のラブホとライブハウス街は人通りが個々の目的のために箱の前に集まっている。
 23日金曜日は作家・古川日出男氏の「フルカワヒデオスピークス!」刊行記念のイベントの「フルカワヒデオ200ミニッツ」を観に。


 タイトルが200ミニッツという時点でものすごい企画なんだが、さすが佐々木敦氏率いるHEADS企画というかなんというか。三時間二十分間古川日出男さんは出ずっぱりで朗読するというギグ、普通に古川さん死ぬぞと思ったが期待感が勝る。


 目次
 1:古川日出男ソロ〜列島を音響する(古川日出男:虹釜太郎:鈴木康文)(第一部)
 2:古川日出男ソロ
 3:ヒデオジェクトケイタニーラブ(古川日出男:小島ケイタニーラブfrom ANIMA)
 4:古川日出男MC
 5:列島を音響する(古川日出男:虹釜太郎:鈴木康文)(第二部)
 6:古川日出男×渋谷慶一郎
 7:フルカワヒデオプラスアルファ(古川日出男 + 植野隆司 from テニスコーツ + Jimanica from d.v.d + 千葉広樹 + 戸塚泰雄 from nu)


 アンコール:HFオーケストラ(上記フルメンバー)


 入る前にエレベーター前に違うライブ待ちのファンがいて入り辛いなって思ってたら仲俣さんがいらしたので同乗して6階へ、「路字」メンバーである藤原さんとかがいて話をする。知り合いがいてよかった、お客さんはオープンの6時にはそんなにいない感じ、まあ平日の金曜日だからしょうがない。
 仲俣さんと仲俣さんの知り合いの編集の人や司書の人とかと始まるまで話をしていると例の噂のキンドルを仲俣さんが見せてくれた。ペーパーブックという区分でいいんだよな、重さもそんなにない、操作で画面上に出ている英字を音声で読んでくれる! 


 今の所日本語バージョンがないけどそのうち出そうだし、英語バージョンが二万五千ぐらいらしいからwiiと同価格ぐらいかな、日本語バージョン出たら欲しいかも。それと視覚障害者の人に対しても有効なメディアになりそう。古川さんの小説を購入してキンドルで古川さんが朗読してくれたら豪華だな。


「海難記」キンドルで何を読むか
http://d.hatena.ne.jp/solar/20091023



 始まって下の階に行く、ライブスペース。200ミニッツの内容は上記の1〜7で、やったのは古川日出男著「聖家族」を。二段組みで七百ページを越えるこの作品を200ミニッツで、古川さんは出ずっぱりで。ある種のショートバージョンで、作者が短く伝えれるだけの内容で大長編を観客に朗読する。これはパフォーマンスだし文字にした瞬間に死んだ言葉を甦らす降霊術でもある。


 雑誌「coyote」にて古川さんがガルシア=マルケスの作品において、マルケスは本気でふざけているという発言をしている。だから面白くもあると。この言葉が意味することがこのギグでわかった。


 「聖家族」は東北六県を舞台にした話、兄弟妹の話、祖母と祖母と祖母と祖母と孫と孫と孫と孫と〜連なる話、東北ラーメンを巡る話、鳥居に関する話、過去と未来を繋げる話、すべては古川さんが生まれ育った東北を舞台に展開されるサグラダ・ファミリア


 バーの前にいた、隣には仲俣さんがいて僕らは真剣に朗読ギグを聞く。言霊と楽器の音が重なっていく、古川さんの朗読はラップとも違うし、でも速いし、鋭い。それに合わせる楽器メンバーのテクニック。ラーメンの話を狗塚兄弟がするシーンで仲俣さんが笑い、僕も笑う。自分で本を読んでてそこまで感じなかった辺りが朗読によって鮮明になる。次第に笑い声は増えていった。


 真剣にふざけている:だから何?:面白いことって何?:面白いってカッコいいって:だからこれは?:面白くてカッコいい:そして古川さんは真剣にふざけて:そこから突き抜けている:それを体験する


 バンドメンバーによって語り口調は変わる、色が音色が揺らいで変わる。途中で仲俣さんはラーメンが食いたいと出て行く。実際は上でラーメンに近いもので食えるもの、カレーを食べていたそうな。あいや〜、確かにラーメン食いたくなった。


 「聖家族」を読んでいるとさらにわかる、面白さが増す。読んでなくてもわかるように選ばれたものを読みながら「聖家族」をバンドメンバーが編んでいく、紡いでいく。様々な章からなるものが目の前で展開されていく。


 止まることなく朗読は続く、古川さんは止まらない、観客はそこにいる。時間経過ともに人は増える。作家の朗読ライブでO-nestのライブスペースが埋まるという光景。文学というよりも古川日出男という作家の人気と彼に期待するものがここまであるんだという希望。


 聴きながらやっぱりもう一度は「聖家族」読み直さないとなあと思う、辞書みたいな分厚いこの作品。


 終わった時には長くは感じなかった。ずっと立って聴いていたけどそれほどの疲れはない、何かは減ったが何かが加わった。ただ200ミニッツ舞台に出ている古川さん大丈夫だろうかと思うほど濃密なライブだった。


 終わってから上のラウンジというかバーエリアで話していた。仲俣さんが話していた編集者の人と話をさせてもらったり、とか。一人知り合いがいるとこういう場所ではなんとかなる。
 角川の古川さんの担当のFさんや雑誌コヨーテのAさんとか飲みながら話をする。Fさんがタメだということを初めて知る、でAさんもタメだった。酉と戌の同級生の学年。申がいれば後は桃太郎待ち。


 終わって古川さんが現れて談笑されていた。前売り券予約していたのでお得だった「フルカワヒデオスピークス!」にサインを!と思いながらも、僕にとって大事な作品「サマーバケーションEP」を持ってきていたのでサインしてもらう。色んなファンの人が古川さんにサインをもとめていて快く応じていらした、あの後でも、すごいなって。


 で、気づいた。あっ今日の本にもサインしてもらおうと。で、申し訳ないのだが声を再度かけさせてもらってしてもらったら、名前を覚えてくださっていた。ただ、「碇」の字に関してはこれだよねと確認されたが。よかった、珍しい名字で。



 その後はビールを飲み続けて編集者の人と話をした。こういう空気は面白いなあっていつも思う。古川さんとFさんとAさんが同じテーブルで話をしていたのでそこに行ってみる。古川さんに聞いたのは「まじめにふざけてますよね?」ってこと。
 古川さんは笑ってて、「ああ、そうだね」って。Fさんとは「野性時代」連載の「黒いアジア」の登場人物の「酢豚女」の事で盛り上がった。面白くてカッコいいよねって。たぶん、古川さんを神格化しすぎるとダメなんだ。そこにある面白さを感じる事でもっと文章が好きになる、面白くて突き抜けるから鋭く刺さる。古川さんと会話をしていて確信できた。


 途中でケイタニーラブとのコラボでラップがあって文学ボーイだからB-BOYって言った辺りは笑いましたよって、笑わないといけないですよねって。古川さんは笑ってくれてよかったって。あれはたぶん笑わないとダメだろうなあってやってる人も笑ってくれた方が幾分マシな空気感だった。


 あとどうしても聞きたかった河出書房web連載中の「4444」の第一話に出てくる弟くんが「サマーバケーションEP」の主人公ではないかということ。古川さんは三時間以上声を出していたので声が嗄れている。
 でも話してくれる優しさが懐深いなって思う。でも、それは違うよと言われた。その発想は面白いなって。人物が似ているのは自分が好きなタイプのキャラクターだからだろうと。


 ゼロ時を越えたので僕は帰る事にした。最後に握手をしてもらって渋谷から歩いて帰る。来年には新作が何冊か出そうなのでものすごく楽しみ、僕も書いていこうと、僕なりのやり方で。


 246沿いに迷い犬はいない、いなかった。ライカはいない。


ASIAN KUNG-FU GENERATION「ライカ


古川日出男「4444」16話「どのあたりが犬の視線か?」
http://mag.kawade.co.jp/4444/2009/10/16.html


 僕が初めて古川作品を見たのは友人・只石家にあったハードカバー版「ベルカ、吠えないのか?」だったな。十二分の一の確率の干支、犬=戌、82年早生まれは戌。初めてお会いしたのは「ベルカ、吠えないのか?」文庫版のサイン会だった。自分の中で勝手にリンクしてもそれが自分に意味があるのなら何かに接続していく。


古川日出男「13」冒頭


 この世には毒蛇というものがいないことをあたしは知っている。人は、ある蛇によって死に、ある蛇には影響を受けないで(咬まれても)平気で生きる。そして後者の毒を無毒とみなす。決めたのは人の側だ。けれど、試してごらん。人間の唾液を他の動物に注入すれば、ある種の動物は死ぬから。それじゃあ、人間は有毒? あたしはそれを本で読んで学んだ。

エクス・ポ・ブックス1 フルカワヒデオスピークス! (エクス・ポ・ブックス 1)

エクス・ポ・ブックス1 フルカワヒデオスピークス! (エクス・ポ・ブックス 1)

聖家族

聖家族

13 (角川文庫)

13 (角川文庫)