監督・園子温 主演AKIRA、伊藤歩、高岡蒼甫、高橋惠子、奥田瑛二
ストーリー
とある小さな田舎町で働いている青年・史郎の日課は、毎日1時間だけ仕事を抜け出し、父親が入院している病院へ通うことだった。だが、そんな矢先、思いもしない不測の事態が史郎を襲う。
実は、史郎の体も病に犯されており、父親より病状は悪く、余命も短い…。史郎は、家族や恋人のことを思うばかりに、自身の病のことを誰にも打つ明けられず狼狽するのだった――。
監督は、『愛のむきだし』で第59回ベルリン国際映画祭の国際批評家連盟賞&カリガリ賞をW受賞した園子温。EXILEのパフォーマーとして活躍するAKIRA初主演作。
「愛のむきだし」に続いて今年二作目ですね、園子温監督作品を映画館で観れるのは。有楽町のシネカノンにて。初めて行ったよ、ここの映画館。東京でしてるのここだけだし。
よく考えたら初めて園子温監督作品を劇場で観たのは06年の11月で「ハザード」で、その次月には「気球クラブ、その後」を観た。
翌年の1月には三軒茶屋中央劇場で「紀子の食卓」を観て、2月にはneoneo坐にて「園子温全8ミリ作品完全上映」でAプログラム「ラブソング」「俺は園子温だ」(ぴあフィルムフェスティバル入選)「愛」、Bプログラム「男の花道」(ぴあフィルムフェスティバルグランプリ受賞)、Cプログラム「決戦!女子寮対男子寮」、同じく二月に「エクステ」とたった四ヶ月でこれだけの園子温作品を観た。
で、3月にロフトプラスワンにて園子温監督×山下敦弘監督×松江哲明監督×宮台真司さんのトークショーと一気に僕は園子温作品の世界にハマったのだった。というか突き刺さった。
「紀子の食卓」以後は映画館で観てますね。
今作「ちゃんと伝える」は園さんの地元愛知県豊川、豊中市方面で撮影されている。冒頭の商店街が見覚えあるなって思ったのは、ぴあフィルムフェスティバルスカラシップ作品「自転車吐息」では園子温監督自身が旗を持って駆け抜け、田中哲司主演「夢の中へ」で最後に田中さん演じる鈴木が走ったあの商店街っぽい。
でも、記憶が定かでないので「自転車吐息」じゃなくて「俺は園子温だ」か「男の花道」だったかも。でも「自転車吐息」だった気がする。
客層はエグザイルファンばっかりかと思えば比較的中年よりも上の世代の人が多いかった。
園子温作品にあるアンチ日本映画的な作風ではないので従来のファンからすれば少し驚き、園作品が苦手な人は観やすい作品である。
これは前作「愛のむきだし」の全てを出し切った監督がヘトヘトになってライトなものを作ろうとしたこと、監督が自身のお父さんを亡くされた事などが重なったためらしい。
ここで大事なのは園子温作品におけるアンチ日本映画的な作風を支えているのは映画の基本が出来ているからこそ出来る力技であったこと、それを証明する作品になっている。
園作品には引きの映像が比較的少ないが今作は日本映画的な部分も出しているので今回は引きの映像を意図的に使っている。以前に何にも語らない事で語る事や映像で語る事は好きではないと言っていた。そんなことは相米慎二まであとのやつはその頃の残像をなぞっているだけだと。
まあ基本的には演者のアップが多いのが特徴。「人間の表情ほど感動的なものはない」という監督の思いからだろう。
観た感想としてはとても丁寧に撮られている感じがした。日常をきちんと描いている感じ。同じような日々がいつかは終わって消えてしまうこと、大事な人もやがていなくなってしまう、そんな同じように見える日々を僕らが生きている事を改めて教えられているような。
「紀子の食卓」「エクステ」「愛のむきだし」では壊れた現在の「家族」を描いていたが、今作では「家族」の優しさというか生きていくための拠り所としてのホームとして。それは史郎と恋人の陽子(伊藤歩)の将来の事にも大きく関わってくる。
父が倒れてから父と向き合おうとした史郎。頼むから死なないでくれと願っていたが、実は自分の方が父親よりもひどいガンに侵されている事を知ってからは頼む親父、俺より先に死んでくれと思うようになる。自分が死ぬのを見てから死ぬなんてそんな親不孝はないと。
付き合いの長い陽子との将来の事は父の事で先延ばしになっていただけに、彼は苦悩する。だからこそ史郎は陽子に本当の事を「ちゃんと伝える」ことにする。だからこそ父との約束だった一緒に釣りに行こうという願いを叶えようとする。
この作品はあまりネタバレしたくない。できれば劇場で観て欲しいから。
父と母、史郎と陽子が並ぶそのとても美しいシーン。そこで僕は泣いてしまって涙が止まらなかった。
二十代後半になれば嫌でも両親の今後の事など嫌でも考える機会は出てくる。普通に生きていけば僕に何事もなければ両親が先に逝くから。史郎の立場に自分を重ねやすい。僕は観ながら自分の両親や祖母の事を想った。
伊藤歩が素晴らしく良かった。彼女の顔のアップが「人間の表情ほど感動的なものはない」という園さんの発言を体現していた。
田中先生役のでんでんさんがかなりいい味でした。出汁の染み込んだ大根のように。佐藤二朗さんの発言で僕だけ笑ってた。
前作「愛のむきだし」で好演した満島ひかりもカメオ的に出演。「園子温全8ミリ作品完全上映」の時に初めて話させてもらった時に「同じ役者さんって続けて出てる人多いですよね」って園さんに聞いたら「やりやすいし、合う人とは合うんだよねえ」って教えてもらったことがあった。彼女は園さんにそう思われる役者になったという事だろう。
AKIRAは役者として特に違和感はなく、まあ奥田瑛二さんと高橋恵子さんというベテランがいるので思い切ってぶつかっていったのかなあ。
関係ないけどAKIRAの声って、トータルテンボスの「おやおや、おだやかじゃないねぇ〜。」でお馴染み?のボケ担当大村朋宏の声に非常に似ている。
で、わりと顔の系統も似ている、系統の中でもランクは存在するので男前かどうかはあるとしても。
やっぱり声って顔の骨格とかである程度決まっていて顔の系統が似ていると声は少なからず似ている。
これは僕が「文化系トークラジオ Life」のパーソナリティーであるcharlieこと鈴木謙介氏の声がオードリーのツッコミ若林正恭の声と似ていると思い始めてからなのだが、二人とも顔の系統も似てるんだよなあ。
一人で観に行けば大事な人の事を想うし、大事な人と観に行くのも非常にいい作品だと思う。
観終わった後は非常に心が晴れやかな感じになった。今年二回も劇場で園さんに泣かされてしまった。まだ公開が始まったばっかりなのでぜひ映画館で観て欲しいと思う。今までの園さんの作品が苦手な人でも観やすいと思うし。
「自転車吐息」
http://d.hatena.ne.jp/likeaswimmingangel/20081128
「愛のむきだし」@東京フィルメックス
http://d.hatena.ne.jp/likeaswimmingangel/20081130
昨日は「ノーボーイズ ノークライ」を観たし。二日間続けて映画館で泣くってのもどうなのかしら。やっぱり親父に似て涙もろい気がする。
うちの親父が死ぬとビニールハウス三個分一杯にある趣味のサボテンが残されるんだけど、やっぱり息子としては手に負えないので業者さんに引き取ってもらうことにするわと今から言っている。と同時にネタにはなるなって思ってたりもする。
以前知り合いの人と話していると僕が普通よりも変わっている話になって親父の息子よりもサボテンが大事と小二の僕に真顔で言った話とかしたらそれはそうなるわみたいな、でもその話も面白かったみたいでいつかネタにしようと前から企んではいるのだが。
帰ってから高校野球の決勝戦を見たが最後の九回すごかった。ねばりがねえ、最後のサードライナーの時のバットにボールが当たった音で鳥肌が立った。途中からゲリラ豪雨かと思うかのような大雨が降り始めた。なんか台風が来たときみたいな強烈な雨だった。
帰りの電車でシャッフルでANA「DRAMA」がかかってすごく気持ちにあった。でもYou Tubeにないから「NEXT」を↓。
ANA-NEXT
世界は優しくて愚かで、美しくて儚い。いつかは終わるそんな事を忘れてしまうような眩しい時間がプレゼントのようにある。でもそれは誰にも平等ではなく、ましてや永遠でもない。失われて気づいてもそれではもはや遅すぎる。
『あなたはあなたの関係者ですか?』
『僕は僕の関係者ですか?』
僕に関係してくれている人に「ありがとう」を、いつかの「さようなら」までの日々を、そしてこれからも「どうぞよろしく」とちゃんと伝えよう。
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