Spiral Fiction Note’s diary

物書き&Webサイト編集スタッフ。

文化系「試作品神話」

 大塚英志×西島大介「試作品神話」の文庫を読む。わりと多くの人の給料日にあたる25日に文庫の新刊を出す角川のやり方はきっと正しい、株式会社としては、きっとたぶん。というもののこの作品は最初に出たハードカバーで読んでいるので内容は知ってる。


 今回は大塚さんのあとがきもなく、おいおいっ。内容は、「ハロー」と僕達の頭上で神様は言った。牛乳、月の砂、神様の卵……少年たちはその夏、世界の秘密を知ってしまう。ひと夏の冒険を詩情豊かに描き出す、世界一かわいい絵本。ってのがサイトに載っている紹介。


 主人公六人は、僕(名前が彼だけない)、サリンジャーナボコフヘミングウェイエバラ・パウンド、ベビー・ディケンズ


 J・D・サリンジャー・1919年アメリカ・ニューヨーク生れ。ユダヤ人作家。1940年短編「若者たち」を発表、第二次世界大戦従軍中の軍務の合間にも短編を執筆。1951年『ライ麦畑でつかまえて』で一躍脚光を浴び、1953年自選短編集『ナイン・ストーリーズ』刊行後隠遁。


 ウラジーミル・ナボコフ・ (1899年4月22日(ユリウス暦4月10日) - 1977年7月2日) は、ロシアで生まれ、ヨーロッパとアメリカで活動した作家・詩人・昆虫 (鱗翅目) 学者で 1955年に小説『ロリータ』の出版により国際的に著名な作家となる。


 アーネスト・ヘミングウェイ・(1899年7月21日 - 1961年7月2日)は、アメリカ・イリノイ州オークパーク生まれの小説家・詩人。『誰がために鐘は鳴る』『武器よさらば』など。1954年、『老人と海』が大きく評価され、ノーベル文学賞を受賞(ノーベル文学賞は個別の作品ではなく、作家の功績および作品全体に与えられることに注意)。晩年は事故の後遺症による躁鬱に悩まされるようになり、1961年、ライフルで自殺。


 エズラ・パウンド・(1885年-1972年)はアメリカ・アイダホ州生まれ。新進詩人としてフランス象徴詩に触発され「イマジズム」運動にかかわり、その過程でエリオットやジョイスなどと交遊し、多くの影響を与えあう。パリに移り、ジャン・コクトーらの詩人やストラヴィンスキー、モーリス・ラヴェルら新しい世代の芸術家と交わり、さらには「失われた世代」の中心となり、ヘミングウェイらに与えた影響も大きい。


 チャールズ・ディケンズ・(1812年2月7日 - 1870年6月9日)は、イギリスのヴィクトリア朝を代表する小説家でイギリスの国民作家とされる。作品は『オリバー・ツイスト』『クリスマス・キャロル』『デイヴィッド・コパフィールド』『二都物語』『大いなる遺産』など。1992年から2003年まで用いられた10UKポンド紙幣に肖像が描かれている。


 で、僕は誰だ?


 彼らは14歳。ベビー・ディケンズだけは赤ん坊みたいで、成長する事を拒んでいる。ベビー・ディケンズの設定はチャーリー・ブラウンスヌーピーで有名な「ピーナッツ」のキャラクターであるライナスを思い出す。ライナスはいつも「安心毛布」を持ち歩いて、これがないと落ち着かない。このことから心理学用語「ライナスの毛布」という言葉が生まれた。


 これは幼児は何かに執着することで安心感を得ている。成長するにつれ、幼児の時に執着していたものから離れていくが、大人になってからでも新たに執着することがある。子供がよく人形や玩具を離さずに持ち続ける様を安心毛布であると言える。これはドナルド・ウィニコットの用語では、移行対象、過渡対象と呼ばれるものであるとwikiからコピペ。


 ライナスは漫画登場時には赤ん坊であったのに、次第に成長しチャールズ・ブラウンや姉などと同じぐらいの年のような姿になる。これはこういった漫画のキャラクターでは例外的に成長する。が中身は幼児のままなので「安心毛布」を手放せない。というのを初めて僕が知ったのが大塚さんの批評などからで、ベビー・ディケンズがあえて成長を拒むというのでライナスを思い出してしまった。


 彼ら六人は神さまのために、破壊をする。やがて街を破壊した彼らは特別な子供として、ただ在る。神さまが願いをなんでも叶えてくれるという。しかし彼らが願ったのは「大人」になりたいということだった。
 西島さんのかわいい絵で展開されるこの絵本。民俗学を学んで先生になりたかったけど漫画編集者になった大塚作品に流れるもの。絵本の形を取りながらも「通過儀礼」を描く。


 大塚さんは今は大学で漫画を教えていたりするのでそれについては最初の願望が叶ったという感じなのだろう。たまに生徒に呼び出されて相談を受けることなどを面倒くさいがどこか微笑ましく感じているようなことを書いていたりするし。


 とりあえず年内は無理だろうけど原作の「多重人格探偵サイコ」は最終章に入ったので来年には終わるだろう、何事もなければの話だけど。もともと「試作品神話」というタイトルはドラマ版『多重人格探偵サイコ』の続編で月刊ニュータイプに連載されたシリーズだった。
 たまに立ち読みしてたけど未完だ。ものすごくフィクションな小説の中にイラク戦争が始まったことなどノンフィクションをぶち込んでくるという彼の得意技というか読者を一気に非現実から現実に引き戻すという手法も使っていた。


 これってコミックもまともに連載されずに放棄された「摩陀羅 転生編」の続編として大塚さんの手によって書かれた「摩陀羅 天使篇」と同じ感じで、こちらも未完。終わっていない物語の続編を描こうとするとたいてい未完で終わるというのも出版社とケンカして連載を辞めることに含まれている気もしなくもない。


 知り合いの人に焼いてもらった「鳥人戦隊ジェットマン」の最終4話を見た。まずすごいのは戦隊ものリーダーのレッドの恋人だった女性が敵の組織に洗脳されてて戦うことになる。
 で、最終話前に彼女は敵組織のボスに一太刀だけくらわせて殺される。ラスボスをなんとか倒す。ほぼ無敵だが彼女が後ろから指した部分が巨大化した時に広がってそこが弱点になるという伏線あり。


 で、エンディングが三年後。レッドとホワイト(ピンクがいないかわりにこの作品ではピンク)の結婚式。ブラックが行く途中にスリを捕まえてその時にナイフで刺される。え〜あんな強いのと戦ってたのに人間に普通にナイフで刺されるって。
 結婚式に辿り着きレッドとベンチに座って話をするブラック。二日酔いだとウソをついて。みんなで記念写真。ブラックだけがベンチに座っている。レッドが疲れているんだろうといい、写真を。その時ベンチに座っていたブラックの首がガクッと倒れる。終。


 ヒーローもの最終話で仲間同士で結婚して仲間が死ぬって、すごい衝撃的だ。


 「試作品神話」と一緒にタオ・リン「イー・イー・イー」という小説を買った。帯縦には「ゼロ年代の青春小説」と。うん、実際にアメリカで刊行されたのは07年みたいだし、今年はまだゼロ年代だからね。この作品の著者は83年生まれの台湾系のアメリカ人作家でこれが長編デビュー作。


 「イー・イー・イー」は大学を出てニューヨークで働いていたインテリ文化系男子だったのに、今ではフロリダの故郷でピザ屋の店員として働くアンドリューが主人公で、好きだった女の子も遠くに行ってしまった。未来はない。彼の頭の中ではそんな考えとジュンパ・ラヒリへの呪詛がずっとループしている。とりとめのないネガティブ思考に、このうっとしいエモ野郎めってツッコミたくなってきた所で、厭世的な熊とセレブを誘い出しては殺してる暴力的なイルカが登場し、シュールな様相を呈してくる作品とのこと。


 というあとがきを先に読んで思ったというか思い浮かべたのは「ドニー・ダーコ」や「ゴーストワールド」といったアメリカのインディー系映画だった。この二作はなぜかあまり観ない海外映画の中でも好きな方で、終わり方が好きだってのもある。あとなんかこの十年の匂いがするというか。日本もアメリカもやっぱりこの十年のゼロ年代で若者は息苦しく生きているのだと。


 「イー・イー・イー」の主人公はどうやら高学歴フリーターらしい、まあアメリカにもいるわな。日本で「ゼロ年代の青春小説」というとメフィスト系の作家なのだろうか。西尾維新佐藤友哉辻村深月などが挙がるんだろうかなあ。まあもう半年も切ったゼロ年代の総括は年末から新しいテン年代(by 佐々木敦氏)の初めの方でされるんだろう。


 読みやすそうなので早めに読もうと、でアメリカの作家と日本に住んでいる僕らが抱えてものがどれだけ似ていて似ていないのか共感できるのかできないのか知ってみたい。


「文化系トークラジオ Life」
「Life政策審議会」Part8(外伝2-1)Part9(外伝2-2)配信。
http://www.tbsradio.jp/life/2009/08/2009816lifepart8.html
http://www.tbsradio.jp/life/2009/08/2009816lifepart9.html


 で、前に放送でも言っていたこと。今週の「AERA」(2009.8.31号)の勝間和代さんの連載対談「勝間和代のあの人をまねたい」のお相手は、なんとcharlie(鈴木謙介)です。って。勝間和代さんって名前はすごく聞くし、本屋でも彼女の本をすごく見かけるし、今はこの人と脳科学者の茂木健一郎さんとかは出せば売れるって人だよね。でも、あんまり知らないんだけど普通に会社務めしてる人とかはけっこう知ってるもんなのかな。


 で、来月の9月はcharlieが町長として出ているNHK教育青春リアル」と「文化系トークラジオ Life」のコラボ企画らしい。「居場所」についてみたい。


 来月の放送楽しみだな、テレビとラジオのコラボってどういう感じだろう。テレ朝「アメトーーク」とTBSラジオ雨上がり決死隊べしゃりブリンッ!」のコラボなら見た事あるけど。


 糸井重里さんが出ていた「YOU」っていうNHK教育でしてた番組の話が「Life」の中で出てきて知らねえなあって思ってたら始まったの僕が生まれた二週間後からぐらい、知らないのは当然だった。


 出演者が言いたいことを自然に言えることやスタジオで知り合った人と友達になれることが魅力であり、番組が支持された理由らしい。糸井重里の番組で一言も話せずにただ座っていたのが宮崎勤だったっていうのは大塚さんの本で読んでたけど、「YOU」の事だったか。


 彼に「居場所」はあったんだろうか。


 「居場所」って与えられることもあるし、自ら作るものでもあるし、そこから出て行くこともあるし、でも「居場所」って全然普遍的な、永遠みたいなものではなくて儚い場所みたいな。


 どこの、誰の「居場所」もやがてはなくなるし、当たり前に存在していると思っていたらいつもの間にか崩壊してしまったり、当人の努力だって必要だし、運みたいなもので成り立っていたりするような。


 だからそこは「居る場所」で「居たい場所」であって「居た場所」。けっこう時間の流れで「居場所」って変わってしまうから。

試作品神話 (角川文庫)

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イー・イー・イー

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ドニー・ダーコ [DVD]

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