Spiral Fiction Note’s diary

物書き&Webサイト編集スタッフ。

「レスラー」

 久しぶりにシネマライズに行ってダーレン・アロノフスキー監督、主演ミッキー・ローク「レスラー」を観た。土曜の昼間だったが客数はあまりいなかった。三沢さんが亡くなったことでこの作品に感情移入しやすい人や受け入れる事のできない人がいたりするらしい。


 本当は相田監督「精神」を観ようと思ってたんだが、約束の時間に間に合わないのでこちらにした。今日のシネマハスラーの映画だったし「レスラー」にしてみた。時間も二時間もないので時間的にもピッタリだった。


 八十年代に隆盛を極めたプロレスラーのザ・ラムのニックネームで知られているランディはもはや年もとり過去の栄光とは違う哀しい現実を、プロレスラーとして未だに生きていた。生活のために平日はスーパーで働いてもいる。週末は興行だから。


 九十年代が不遇の時代だった彼はニルヴァーナは糞だったと言う。彼にとってニルヴァーナは自分の不遇の時代を象徴する新しい価値観だった。

 

 酷使し続けていた体にはステロイド等の薬が注入され続け、もはや心臓を蝕んでいた。彼はいきなり試合後に倒れてしまう。
 手術を受け医師からもうプロレスは辞めないと命の保証はできないと言われ引退をする。しかし、彼にももう誰も残っていなかった。いないと思うようにしていた娘に会いにいくも拒絶される。
 それは彼が今までしてきたことの報いだった。通っているストリップバーの年のいったマリサにも個人的な付き合いを拒否される。


 スーパーで昔のことを知る客から中傷されぶち切れ、はやり自分にはリングしかないこと。かつての黄金期に対戦したレスラーとの一度は断った二十周年記念対決に向かうランディだった。



 この作品は観た事がないのですが、ドキュメンタリーの「ビヨンド・ザ・マット」という作品から影響を受けて脚本が書かれているみたい。
 さっき聴いていた宇多丸さんの「シネマハスラー」でも言われていたがそれのまんまらしい。娘に会いに行って拒絶されたりとか。
 レスラー同士は始まる前に打ち合わせをしている、こうきたらこう返して最後はこう決めようとか、前の対戦がその終わりだと被るから俺らはこうしようみたいな。いわゆるやらせと言われてしまう部分も描かれている。


 僕はプロレスの大ファンだったということはなくて、小学生の頃に土曜の夕方からしていたプロレスを父と共に見ていたのと、闘魂三銃士だっけな、武藤・蝶野・橋本さんが若かった頃見てたと思う。あとは蝶野さんのTEAM2000でしたっけ?の頃は深夜に見ていたというぐらいです。
 今住んでいる地域に越してからはちょこちょこ蝶野さんと奥さんを見かけるようになりました。奥さんがお子さんを産んでからはあまりお見かけしませんが。奥さんの方がデカイんだよなあ。


 確かに作品自体がプロレスみたいな構造だし、ドキュメンタリーちっくな撮り方をしている。ランディの後ろを追いかけるカメラの視線、臨場感。
 かつての栄光を失ったおいぼれの男。もはやプロレスしか残されていない彼はもうそれを捨てる事すらできない、その哀愁。


 輝かしい季節が眩しすぎた。その眩しさで家族に関わらずに捨ててしまった。「人間は、とてもまぶしい瞬間に、とても大事なものを失う」by「世紀末の詩」百瀬教授を思い出す。
 娘は捨てられた傷を背負ってしまった。一度は父と娘の再会によってその傷を回復できるかに見えたが彼はまた娘を裏切ってしまう。もはや彼に残されたものは彼を求めてくれるファンがいてくれるリングしかなくなっていた。
 

 ランディは肉体的にボロボロで精神的にももはや失うものはなくなってしまう。だから彼は引退したはずなのに二十周年記念戦を戦おうとする、それはもはや死に場所を決めたようなものだった。


 ここにいるのは哀れな男だ。しかし、心はランディを応援している自分がいる。プロレスはやらせとか言われるかもしれないが、リングで戦う男達だけが信頼できる仲間ととも現実を忘れることのできる聖域だった。他の格闘技は相手の攻撃をかわすしよける、危険だからだ。一発でやられてしまう可能性があるからくらいたくはない。


 でも、ランディたちはリング上で相手のすべてを受け入れる。こちらの方がはるかに危険だ。でもそこに信頼があってそこでどう見せるか観客を楽しませるかが大事だ。本当にエンターテイメントだし、エンターティナーだ。


 娘に拒絶され、ストリッパーには個人的な付き合いを断られ、仕事もぶち切れて辞めた年齢的には五十を過ぎた男が最後に居場所を求めたのは彼を必要としてくれる現実の世界にありながら虚構の狭いコミュニティの世界だった。


 ここに何があるだろうか? 彼を必要とする声たちだ。その声の中でなら彼は死ねると。


 例えば会社や学校で孤立してるけどコスプレの世界では名を馳せる人とか、この現実世界では居場所はないけど自分たちだけの共通した趣味の世界で居場所がある人は彼が最後にリングに上る意味が、彼の姿が自分と重なるに違いない。全てを決心してリングで戦う彼は、現実の世界からは逃げた。


 娘との関係修復からも逃げた。恋心からも逃げた。適応できない世界からも逃げた。だからやっぱりダメ男なんだ。でも、彼は彼が彼としていれる場所があって、そこはその大事なものを捨ててもいたいと思わせてくれる最後の聖域だった。


 だから、観た人は彼をダメ人間だというだろう。しかし、彼を否定できるだろうか。僕はできなかった。


 プロレスを知らなくても楽しめる映画だ。コンパクトにまとまっているし、時間の尺もよいと思う。でも切なさは残る。


 
 その後タワレコ前で待ち合わせ。目の前をこれからタワレコで観る予定のdetune.のボーカルの人が歩いて店舗に入っていった。で彼女と五階のワールドミュージックコーナーでインストアライブ。彼らは二人組なんだが、「Life」のサブパーソナリティの佐々木敦さんの「HEADZ」所属のアーティストでもある。で、やっぱり佐々木さんもいたので声をかけさせてもらって少しお話をさせてもらう。


 こないだ読んだ道尾秀介「片眼の猿」の解説を書かれていたので道尾作品について話した。彼はこれから売れていくし顔が男前なこともあってスター性があるなあみたいな。
 伊坂幸太郎さんと古川日出男さんが村上春樹さんの影響下にある作家さんだっていうこととか話してたら今日早稲田かどこかで古川さんイベント出るよみたいなことを教えられた。公式サイトが閉鎖してからまったく情報がないから知らなかった。


 で、「HEADZ」のスタッフさんが配っていたフライヤー見てたら前にアジカンのゴッチが古川さんと対談したみたいなことをサイトに書いてたやつがあった。「HEADZ」から出るらしい。


「迷い犬デッドエンド」
http://d.hatena.ne.jp/likeaswimmingangel/20090113


 「エクス・ポ」で連載してた「異種格闘技連続対談 フルカワヒデオプラス」単行本が「フルカワヒデオスピークス」(仮)ってやつで出るらしい。


 作家・古川日出男さん×後藤正文アジカン)、×iLL(ナカコー)、×黒田育世、×坂本慎太郎ゆらゆら帝国)、×桑原直、×和合亮一、×大竹伸朗、佐藤良明/佐々木敦茂木健一郎/岸本佐和子といったラインナップで初夏に刊行予定らしい。


 まじでどっかの出版社が公式サイトをまたやってくれることを願うよ。本当に新刊とか書籍情報すらわからないから。小説連載してるんだから角川でやってほしいもんだけど。


 で、インストアでdetuneのライブ。初めてライブで聴いた。生の方がいいなって思った。エレクトーンとアコギ/ベースだととてもシンプルで声がよく聴こえて。


detune. / さとりのしょPV


 四曲ぐらいやったのかな、三十分ぐらいで。で押し押しの予定だったので西川美和監督「ディア・ドクター」を観る為にすぐ近くのヒューマントラストに。階段で野性爆弾の川島さんが奥さんと子供といてつい二度見してしまった。二度見って相手にバレるね。


 エヴァを観ようとたくさんの人がいて、その時十六時四十五分少し前で「ディア・ドクター」始まるぎりぎりだったけど、「エヴァ」は次の十九時の回がすでに立ち見になってた。ですげーって思ってたら「ディア・ドクター」も立ち見だった。ので諦めた。一日二本はいいけど二本目立ち見はきつい。


 あれ、思いのほか「ディア・ドクター」客入ってるなあ。なんでだろう、直木賞候補だからか、テレビ等のメディアに西川さんが出たのか。



 緑道沿いを歩いて帰っているとカルガモ親子がのんびり泳いでいた。



 そのまま家の方へ歩いて行くとベンチに見た事ある顔が。ベンチに座って松尾スズキさんが本を読んでた。
 僕がちらっと見るとその視線を感じたのかこちらを一度だけ見た。ああ、いつものだ。声かけないでくださいオーラが出てる、自分が松尾スズキだと気づかれたことに気づいた松尾さんは時折このオーラを発している。のでいつも通り何もなかったかのようにスルーした。
 僕の家にはあなたの本が何冊もありますよ、舞台も観に行ってますよ。尊敬してるクリエイターさんなんですよ、でも言えねえ。


 飯食ってからそういえば角川から「ヤングエース」が出てるんじゃないかって思ってツタヤに行ったらあった。創刊号の付録として『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』の新キャラクターの真希波・マリ・イラストリアスのフィギュアが付いていた。


隣には「BECK」のコユキを。一応眼鏡っ子バージョン用の顔も付いてる。


 で、二号が式波・アスカ・ラングレー、三号が綾波レイのフィギュア。らしい、とても角川らしい商法だと思う。僕は「多重人格探偵サイコ」の終末を見届けたいだけ、いい加減に終わらしてもらいたい。


 フィギュアのためだけに一人で何冊も買う人もいるだろうし、「コミックチャージ」が転けたのに同じようなラインナップだ。「サイコ」は「少年エース」から「コミックチャージ」へそして「ヤングエース」に移籍している。


 目玉は「エヴァ」「サイコ」「サマーウォーズ」「ハルヒスピンオフ」だけど「エヴァ」「サイコ」はほぼ最終章に入っている。どうすんだこの二つ終わったらと読者ですら思うぞ。


 フィギュアが付いているので三号までは返本率は低いだろうけど、その後がやばそうだ。角川はメディアミックスで儲ける事にやっきになって、漫画誌なのにそこの核である「漫画」を信頼しているように思えない。創刊号から目玉がフィギュアであることからもわかるが。


 しかし貞本版漫画「エヴァ」はゲンドウの焼けただれた手にとあるものがあって、あれ? ゲンドウは銃で撃たれてもA.Tフィールド的なもんが手から出ちゃってますけど。庵野版ともかけ離れていってるなあ。


 ああ、松尾さんが何の小説を読んでいたかがすごく気になる。

MUSIC: 無謀の季節

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同姓同名小説 (新潮文庫)

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