Spiral Fiction Note’s diary

物書き&Webサイト編集スタッフ。

「生きてるだけで、愛。」

 朝区役所に行こうと思って世田谷線に乗ったら九時台だったためが乗客が多かった。普通に生活している、朝起きて夜寝る生活という意味だけど、そういう生活を何年もしてないなって感じた。まあ、それを選んでいるのは自分なので仕方ないが。西太子堂で漫画家の蛭子能収さんが乗り込んできた。朝からエビスとは縁起がいいかなって思ったけど字が違うからそういうわけでもなかった。


 区役所はひんやりとしてた。冷房とかそういう感じではなくてコンクリの感じとか雰囲気とか、ひやひやしてた。保険料の滞納したやつの分納分を払いに行ったんだが、案内係みたいな人に聞かれて呼び出しの番号を押されて紙を渡された。え〜と、その仕事はいりますか、超暇じゃん、で給料はお役所だから出てますよね、パートじゃないよねどうみても。で税金からもらってその中から税金をさらに払って生活していけるんだ、ほへえ〜。


 それか何かの罰ゲームなのか、ずっと立ちっぱっぽいけど。まあ、そういう人たちがニートやフリーターの問題なんてどうでもいいというか考えるわけないわ、で、将来絶対に制度的に廃止される、運営が成り立つわけない年金とか払えないと強制徴収するんだって。
 とか考えてたら秋葉原事件の加藤が国会とかに乗り込んでテロしようとか考えなかったのはもはや政治がどうにかしてくれるという想像力すらないみたいなことを東浩紀さんが言っていたような気がするんだけど違ったかな。年金とか貰えなくなった、若者ではないな、老人とかが区役所とか市役所に乗り込んでなんかするってのはこれから出てくるんだろうなあってイスに座って待ってる時に考えた。生活保護を受けられなくてそれに抗議したおじいさんが家で寝たまま栄養失調で亡くなっているという事件は少し前にあった。


 結局のところ、そういうことを考えたら政治とかそういうことに興味を持ったりいろんなことを知らないといけない、変えて行かないといけないみたいに、そんな方向になるからニートやフリーター、派遣社員の問題とかで雨宮処凛さんみたいな人が政治的な方向に行ったとは思うんだが、僕はそういう方向へ行こうとか思えないけど一応考えたりはする。
 でも、年金はもう制度的に無理なんだから新しいビジョンを政治家が、やつらは傀儡でしかないからその周りの知識人がこうすると票が集まりますからみたいに新しい制度とか考えてやつらに法案を通すように働きかけてもらうしかないのだろう。ベーシックインカムとか日本でどうなんだって話もあるけど、もっと議論されていいはずだし、右翼左翼の話にそこだけ取り込まれるのもどうかって思う。そこから発展してないし。


 保険料の分納分支払ったけど、どんだけ保険料取ってんだって思ったら年収の一割近くとかそれぐらいだった。そう考えるとたまに年に一、二回歯医者に行く僕だったら十割負担でも余裕でお釣りが来るというのは目に見えてて。会社負担してもらえてると半分は会社なんだけど、そうじゃないと思ったよりもかなりの額。ここまで高いなら給付金いらないから一年保険料無料とかにしてくれた方が絶対いいし、そっちの方がみんな金使うんじゃないかな、それか消費税十何%にしてもいいから保険料無料とかのほうがまだ許せる。


 高齢者が増えるのは仕方のない事で、子供がたくさん生まれた時代はそれだけ死ぬ確率も高かったし時代背景もあって、やがて時代が移り変わって豊かになって行く中で子供の数が減っていった、核家族とかになっていく過程の中で今の事態を想像してた人はきっといるんだろうけど、経済が右肩上がりの妄想にとらわれて未来を判断し損なった。結局問題は山積みになって子供や孫の代に負の遺産だけ残してしまった。


 団塊の世代より上の世代が一気にいなくなったら年金も保険料の問題も一気に解決するって言っていたのは誰だったか。事実そうなんだろう、実際にそんなことはできないし起こらないけど、発想としては姥捨て山と同じ、現代版の発想だ。あるいは若者が日本を捨てて海外に移住しまくるという事態は今の所起きていない。


 「アイルランドを知れば日本がわかる」という新書を読み終わったが、アイルランドはイギリスの植民地だった時代が長く、イギリスからの圧迫政治や飢餓などの問題で多くの人がアメリカに移住した。アメリカの南北戦争にもアイルランド系はたくさん参加している。アイリッシュ系の子孫がアメリカにはたくさんいる。もちろんイギリスにもたくさん移住しその子孫たちがいる。


 ビートルズのメンバーのうち三人、ジョン、ポール、ジョージはアイリッシュ系、リバプールにはアイリッシュ系の子孫がたくさんいるのでアイルランドの本当の首都はリバプールだと自嘲気味に言う人までいるらしい。
 ケネディ大統領もアメリカに移住した先祖を持ち、カトリックは大統領になれないという不文律を破った人で、黒人は大統領になれないと言われていたのに大統領になったオバマが彼に憧れたのはその辺りもあるらしい。オバマも母方を辿るとアイリッシュであるらしいのでアイルランドにかなりの好意を持っているらしい。移民してきた子孫達がアメリカの中軸で活躍している。


 大英帝国に虐げられ続けていたので、判官贔屓の国とも言われ困っている人には手を貸す国民性を持つ。ODAPKOに積極的である。自らの国が弱い立場、弱者であったことの歴史がそうさせるらしい。革命と言って思いつくゲバラの父がアイルランドの家系らしい。イギリスにゲリラを仕掛けていた血がゲバラにも受け継がれたとさえ言われている。


 日本は戦争で負けてGHQに征服されたのにかかわらず、母国語を禁止されずに、アイルランドは母国語であるケルト語を禁止され英語を習わされた過去がある。もし、アメリカが日本語を禁止し英語を強制して本格的に英語を学校で習わされていたら、今多くの英語の話せる若い日本人が海外に逃げ出すことになったのかもしれない。低学歴層が貧困に陥るのはしごく当然の成り行きだ、金がなければ教育も受けれない、大学に行けれないし(自分でなんとかできることもあるが)親の収入が大きな問題として格差を生む、拡げていく背景がある。だって、日本の中でしかやっていけないのだから。

 
 英語さえ通じればとりあえず世界に出てはいける、など考えることもできる。アメリカが島国日本を統治しながら日本の個性を大事にして(くれたのかどうかわからないけど)くれたおかげで日本人は結局のところ日本から他の場所に出て行けなくなった。出て行く可能性を低くした。それすらもアメリカの戦略だったとしたらアメリカの隷属として見えているこの日本は結局アメリカと同等の立場なんてなれやしないのだ。きっと。


 帰りに本屋によって道尾秀介の作品を何か読もうと思って文庫で探してたら新潮から出ている「向日葵の咲かない夏」というのが平台に積んであってその隣に本谷有希子「生きているだけで、愛。」があった。山田詠美風に言うなら昨日は「PAYDAY!」だったので二冊購入した。


 「生きているだけで、愛。」はハードカバーの時に買って読んでいる。文庫が出てすぐの時に解説がお世話になっている仲俣暁生さんだったのでそこだけ立ち読みしてた。06年前半には松尾スズキさんの「クワイエットルームにようこそ」が芥川賞候補になって読んで、後半がこの作品が候補になっていたので読んだのだった。正直主人公の寧子が鬱病メンヘルで痛い、この女には関わりたくねえっていう感じはした。


 「クワイエットルームにようこそ」の映画では内田有紀が演じた主人公もメンヘルで痛々しいんだけど、こっちも男としてはめんどくせーっていう。どちらの女性も相手に対してのものが、叩き付けるような想いだったり気持ちがあって、それが相手(彼氏)にきちんと伝わらない、自分と同じぐらいのものを相手が出してくれないという部分で憤っている。
 これはもう自分はずっと相手の顔面を殴っているのに、で相手にも顔面を殴り返して欲しいのに相手はひたすらローキックやボディブローで返してくるという温度差や疲労感や絶望感という感じ。


 「劇団、本谷有希子」関連の舞台で観た事があるのは「ファイナルファンタジックスーパーノーフラット」「幸せ最高ありがとうマジで!」の二本で八月の本多劇場で新作「来来来来来」のチケを取った。舞台もだけど小説を読んでもそこに描かれる「自意識」の問題に惹かれるというのが僕にはある。
 何かを表現する時にこの「自意識」の問題は大きい、人に文句を言われるのは嫌、でも何にも言われないのも嫌。彼女の作品を読んでいて笑える部分はその「自意識」が他者として客観視すれば滑稽に見えるという部分、しかしそれは笑えるだけに同時に痛い、身につまされる思いになる。それを客観視して作品を作れるところに彼女の才能があって、評価される部分だと思う。あと世界観はわりと閉じている世界の中で展開されている。


 彼女の「ほんたにちゃん」を読んだらこれって自分のことに近い、似ていると思うクリエイター志望は多いだろう、僕もかなり笑って冷静になって痛かった。「生きてるだけで、愛。」の最後の方に「寧子がパルコカード作れないって言ったの、よく覚えてる」「誰でも入れるのに、パルコのやつらに是非ってすすめられたから嫌々入ったのに「審査の結果見送らせていただきます」って通知が来て怒り狂ってた」って部分でやっぱり笑ってしまったけどこの辺りは本谷さんの実話だろう、「ほんたにちゃん」にそんなのがあった気はするし、「幸せ最高ありがとうマジで!」がパルコ劇場でやる時に「パルコカード作れなかったのに舞台やるよ」っていうフレーズがあったから。


 「自意識」の時代が終わったと「文化系トークラジオ Life」スピンオフ「ヱヴァ特番の配信:Part2」で宮台真司さんが言われていたが、この十年で出てきた「自意識」っていうのはインターネットを通じて内ではなく外へ出せるものになった。だからこそ本谷作品に共感したりする人が増えたっていうのはあるんじゃないかと思う。だけど出す事で傷つく人も増えたし、自意識が過剰になってしまったり、引きこもる要因にもなったのかもしれない。


ヱヴァ特番の配信:Part2
http://www.tbsradio.jp/life/2009/06/part2_21.html

アイルランドを知れば日本がわかる (角川oneテーマ21 A 101)

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生きてるだけで、愛。 (新潮文庫)

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向日葵の咲かない夏 (新潮文庫)

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