Spiral Fiction Note’s diary

ライター&「monokaki」編集部スタッフ。「水道橋博士のメルマ旬報」で「碇のむきだし」、「週刊ポスト」で「予告編妄想かわら版」、「PLANETS」で「ユートピアの終焉ーーあだち充と戦後日本の青春」を連載中です。

2019年の映画マイベスト10

2019年の映画マイベスト10


新作オンリー(旧作、試写を含めて今年スクリーンで観たのは83本。たぶん、『スター・ウォーズ』新作観るから一本増える。そして、その映画が自分のベストに入らないのは感覚でわかるので除外。レイア姫、カイロ・レン、で主人公のレイがスカイウォーカー家に関係なかったら逆に驚く)。

 

01・『ブラインドスポッティング』

02・『ジョーカー』

03・『スパイダーマン スパイダーバース』
04・『よこがお』
05・『岬の兄妹』
06・『蜘蛛の巣を払う女
07・『アラジン』
08・『金子文子と朴烈』
09・『最初の晩餐』
10・『わたしは光をにぎっている』

 

次点
『僕はイエス様が嫌い』
『おいしい家族』
『108 海馬五郎の復讐と冒険』
『つつんで、ひらいて』
シスターフッド
バイス

 

『ブラインドスポッティング』はとてもアメリカ的な話ではあるものの、同じことをしても白人は捕まらずに黒人は捕まる。尚且つ主人公の二人は幼なじみであり、白人のほうが悪いことをしていても黒人のほうがいつも酷い目に遭う。実際に主人公の二人を演じた彼らは幼なじみであり、ラッパーでありポエトリーリーディングや演技をしていて、尚且つこの映画の脚本を手掛けている。
どんどん分断されていく社会において、このあるひとつの出来事が視点によって全く異なるということを描き出すことは非常に今の世界に対して正しい態度だと思った。また、彼らが住んでいる町は貧困層が住んでいたがプチセレブのような連中がやってきてしまって、もともと住んでいた人たちは無駄にお洒落な町に変わっていく中で家賃が上がって住めなくなっていくという事態も描かれている。アメリカだけではないし、日本だってそういうことは起きている。東京でもよくあることだ。家賃が高いところから少し離れた町でおもしろい店や人たちが集まると結局そこに人や店が集まり出して家賃が上がって、また同じことが繰り返される。
貧しい白人と貧しい黒人、浮かれているプチセレブなIT系の新しい住人たち、どこの国でも起きていることだった。こういう映画が作られているだけマシだと思うのは僕だけはないだろうが。

 

『ジョーカー』に関しては三回劇場で観た。オリジナルにはなれない、いや、オリジナルなものなんてそもそもないんだけど、でも、本物にもなれない道化師が憧れたコメディアンはテレビ画面の中にいて、出自を巡る話は彼を王にはしてくれない。一縷の望みはあっただろう。しかし、それも悲しい現実しかなかった。準備はすべて整ってしまった。そして、復讐が、いや、ただの怒りというよりも混沌だけが彼を救う。暴力はそこにある。ただの暴力、暴力だけがある。貧しいものは富むものから奪うしかない、政治も国家も誰も救ってくれない、システムは機能していない。壊れたくても頑丈な肉体は最後まで壊れることを許さずに、ただただ破壊することで自分を開放するしかない。何者にもなれない僕たちの中に巣食ったものと似ている。希望は戦争しかない、と彼が言うしかなかったように。国家のシステムが崩壊し、公僕が国民に奉仕することを忘れて公私混同する世界において、システムの再構築や社会保障なんかの制度を改めるならば、上の世代はなんとか逃げ切ることしか考えてないんだから、上と下の世代のために踏み台になって生贄にされるのは当然今の四十代前半から三十代だろう。だから、ジョーカーの破壊に恍惚すら感じてしまう。といってもクソみたいな世界だからってもクソみたいな人間になりたいとは思わないし、破壊される世界を受け入れるつもりもないのだけど。まあ、こう書いていくと僕がどうしても『天気の子』が許せなかったのもわかってきた。

 

だから今年のワースト1は『天気の子』。作品の内容とかやろうとしたことはわかるしヒットするのも納得できる。でも、あれを自己責任で片付けられたロスジェネ世代としては、その世代のトップクリエイターになった川村元気新海誠が作ったことに嫌悪感しかない。中高生や大学生がたくさん観にくるとわかっていて、僕と君のために世界がどうなってもいいというのは、確かに今の世界そのものだろうから共感を得るし、ラッドウィンプスの曲はカタルシスを強化するから感情を揺さぶって涙をもたらすんだ。しかし、『天気の子』の主人公とヒロインは安倍首相夫妻にしか見えないよ。僕と君と二人の知人や友人以外がどうなろうがいいのだから、世界の理を覆してもいいのだから、そこにはもう社会の摂理は失われる。つまり、あの物語を観て泣いた十代の子供たちに与える影響を考えると僕には恐怖しかなかった。たぶん、彼らはわかっていてやっている。『ジョーカー』と『天気の子』はたぶん地続き的なものがあるんだろうけど、やはり僕は『ジョーカー』の方にシンパシーを受ける。『天気の子』が大ヒットする日本で安倍政権がのらりくらりと続いているのはなんら疑問がない。