Spiral Fiction Note’s diary

物書き&Webサイト編集スタッフ。

『ムード・インディゴ うたたか』

 昨日はバイト帰りに赤坂でさんまを食べてから代官山ツタヤに行って発売されていた柴田元幸責任編集『MONKEY』を買いに行った。
 柴田さんのイベントがあるらしいので代官山で買おうと思って、でもその前に『別冊 文藝春秋』が出ていたので窪美澄さんの連載『さよなら、ニルヴァーナ』を立ち読み。ごめん、金がなくて。
 この作品は95年に起きた神戸須磨区での幼児殺害事件での少年Aを題材していて、それを巡る物語である。窪さんの『アニバーサリー』を読んで僕は最初に思ったのは東日本大震災を語る時に四十代半ばから五十代前半の作家さんが同時多発的に95年についてきちんと語ろうとしているのだなあということだった。
 実際にいとうせいこう著『想像ラジオ』や木皿泉著『昨夜のカレー、明日のパン』などを同時期に読んでいたから感じたのもあったし、古川日出男著『南無ロックンロール二十一部経』も95年を巡る物語だった。
 古川さんは福島出身の作家で原発以後にも精力的に書かれているし朗読劇や「ただようまなびや」などもされている。95年のあの年を境に起きた出来事。古川さんが震災もすぐに風化する、俺たちはまず95年すらきちんと語ってない、すぐに風化してしまった。だから今回の震災について書くまでに95年から11年までの出来事は今書かねばならないという事を言われていたのが脳裏にあったからこれらを読む際にそれに反応したのだろう。


 『さよなら、ニルヴァーナ』の最新話を読んでいて塩田監督『カナリア』や元ガールズのクリストファーが幼少期に両親が入信していたからそのカルト集団で育った話が脳裏に浮かんだ。この事を窪さんにツイッターで言うと窪さんは『カナリア』を観てなかった。これはある意味でカルト教団を描く時に浮かぶある情景というのはオウムというイメージがありそこから派生しているのもあるので共通認識として、あるいは週刊誌やテレビの報道で見たものがあるので近しいものになるのは仕方がない。
 『カナリア』のカルト教団の名前が「ニルヴァーナ」なのもたまたまだったりはするというかバンドのニルヴァーナの存在もデカいだろう。カート・コヴァーンがショットガンで自らの頭をぶち抜いたのは94年の出来事だからオウムも阪神淡路大震災も『新世紀エヴァンゲリオン』が始まる95年の一年前だった。
 それもなにか大きなアイコンの死亡と時代は否応でも関係がある。例え、カートの存在が日本では洋楽ロックファンのみに衝撃だとしてもその当時と今とでは洋楽ロックの市場も日本への影響力も違うものだから。
 『さよなら、ニルヴァーナ』は単行本化され発売された時には凄い事になると思う。今からそれは断言しても問題ないと思う、このままこの連載が最後まで書かれれば。直木賞とかそういう大きな文学賞を取ると思うし、取らないのならばもはやそれらの賞の意味はないだろう。その時に僕のように『カナリア』が浮かぶ読者も多少はいるはずだ。だけど、窪さんはその映画を観てはいないのだ。この時点でそれは書いておこう。誰かがいつか『さよなら、ニルヴァーナ』を読んで『カナリア』との事が浮かんで検索すれば窪さんが観ていなかった事だけはこれでわかるはずだから。
 本当にこの連載はヤバい、色々とゾクゾクする。『さよなら、ニルヴァーナ』は書籍化する前から書店員さんと書評家さん今のうちから読んでおいた方が絶対いい。連載追ってた方がいい。僕はそう思う。


 河出の『文藝』で田中康夫『33年後のなんとなくクリスタル』が掲載されているらしいと知って河出のサイトを見ようとしたら今月の新刊にマイクル・コーニイ『ハローサマー、グッドバイ』の続編である『パラークシの記憶』の文庫が発売されることを知ってテンションが上がっていた。これと窪さんの新刊『雨のなまえ』で今月はいける。
 ちなみに窪作品は『ふがいない僕は空を見た』『晴天の迷いクジラ』『クラウドクラスターを愛する方法』『アニバーサリー』とタイトルが空に関連するものが多く、新潮から出ているものの装幀は空に関する写真が使われている。
 新刊『雨のなまえ』も空に関している。『さよなら、ニルヴァーナ』は文春から出るだろうけど、ニルヴァーナ≒涅槃、涅槃は悟りとかの意味だから悟るって神的な感じがあるし、神は空の抽象化だからそういう意味でも空に通じてる感じがニルヴァーナからはする。僕だけかもだけど。


 『MONKEY』は村上春樹の連載「職業としての小説家」がすごくよかったというか、おお!と思った最後とかのあれが。『銀河鉄道の夜』&『ただようまなびや』チームの執筆陣が多いといのも嬉しい。
 だが、買った代官山ツタヤはいつの間にセルフレジになってんだ。前までは書店員さんいたのに、いたから本買ったらイベント参加しますかとか聞いてくれてやりとりとかできたのにそれもない。けっこう本買いながら哀しくなった。
 好きな作家さんのイベントとかあったらその書店で本買うじゃん。セルフレジだともうアマゾンでよくね?とか思っちゃうんだよなあ。レジでのたわいのないどうでもいいやりとりもコミュニケーションの一種だと思うんだけど。
 去年、北アイルランドとかイギリスとか行った時にスーパーのレジはセルフレジとか導入されてたけど一応スタッフがいてわからない人にはやりかたを教えてあげてたよ。こうやって人の仕事がどんどん減ってるのに給料上がるわけないじゃん。ディストピア〜。
 発売日翌日に『MONKEY』増刷決定らしいです、めでたいです。『MONKEY』は続けて購読します。



シネマライズミシェル・ゴンドリー監督『ムード・インディゴ うたたか』を観賞してきた。



監督/ミシェル・ゴンドリー
原作/ボリス・ビアン
脚本/ミシェル・ゴンドリー、リュック・ボッシ
キャスト/ロマン・デュリス/コラン、オドレイ・トトゥ/クロエ、ガド・エルマレ/シック、オマール・シー/ニコラ、アイッサ・メガ/アリーズ等


フランスの小説家であり、作詞家、ジャズトランペット奏者、歌手など幅広く活躍しながらも、1959年に39歳の若さで他界したボリス・ビアンの名作青春小説「うたかたの日々(日々の泡)」を、「エターナル・サンシャイン」のミシェル・ゴンドリー監督が映画化。働かずに暮らせるほどの財産をもち、自由に生きていた青年コランは、無垢な魂を持つ女性クロエと恋に落ちる。盛大な結婚式を挙げ、幸せな日々を送っていた2人だが、クロエが肺の中に睡蓮が芽吹くという不思議な病に侵されてしまう。高額な治療費のために働き始めたコランの人生は次第に狂いはじめ、クロエも日に日に衰弱していくが……。コラン役に「真夜中のピアニスト」のロマン・デュリス、クロエ役に「アメリ」のオドレイ・トトゥ。上映時間95分のインターナショナル版のほか、131分のディレクターズカット版も一部で上映。(映画.comより)




 僕は岡崎京子さんが書いたマンガ『うたかたの日々』は読んでいるのだが原作小説のほうは未読だ。ただ、映画だと利重剛監督『クロエ』は観ている。日曜日に『菊地成孔の粋な夜電波』を聴いていたら菊地さんがこの『ムード・インディゴ』について話されていたのが気になっていて観ようかなっと思ったのだった。渋谷に行って時間があったので本屋やタワレコをブラブラしていたらタワレコの二階のカフェの壁にこの作品の特集ボードみたいなのがあって、ここはいつもなにか公開される映画の特集をしている。



↑菊地さんからのコメント




 冒頭のコランが僕も恋がしたい!とオドレイ・トトゥ演じるクロエと出会って恋愛して日々が彩られていく感じはミシェル・ゴンドリーのポップな映像感覚の多幸感があってなんかニヤけてしまう。ああ、僕も恋がしたい!と。
 もう、細部までのミニチュアみたいなものまでが動いたり、ファンシーというかファンタジーみたいな感じ。でも懐かしい感じもするのに異様にハイテクなものも交ざり合ってるしというハイブリッド感はTHIS IS POPPPPPPPPPPPPP!でレトロ&ハイテクの心地よい融合。
 僕は正直なとこ『アメリ』もシネマライズで観てるけどオドレイ・トトゥが可愛いとは思えなかった。だけど今作でのクロエを演じている彼女はチャーミングで可愛く見えてウェデングドレス着てコランと歩いているのとか観ると「ああ、いいなあ」って思えた。
 有名な小説で物語なんで最後はそのようにいくのだが、前半の二人の幸せな時間のカラフルなポップ感と対照的に後半、クロエの肺に木蓮が咲いて病状が悪化していき、お金の問題も出てきてコランにとっては世界の色彩が変わるのがやけに印象的であり、モノクロの世界になっていく。
 クロエと出会ってコランの人生や世界はイロトリドリノセカイになったが、その変化によって彼は彼女も財産も失っていく。それは確かに悲惨な光景であり哀しい出来事だ。しかし、それでもクロエと居た日々の輝かしいカラフルな日々は彼女と出会った事で訪れたことも事実だ。
 ミシェル・ゴンドリーによってこの古典作品が現在に甦ったと言いたくなるような作品だ。あとニコラ演じてた人って『最強のふたり』のあの人だよね、明るくてナイスな役でした。
 恋愛したら世界は善くも悪くも変わっていく、そしてそれが成就してできるだけ長く続けば幸せだし最高だけど、哀しい終わりだってある。その時それまでの世界とはまた違う色で覆われてしまう。
 僕はこういう映画大好きですけどね。



君のさよならに僕はまたねと嘘をつく、そんな雲と光のち刹那

アニバーサリー

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想像ラジオ

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昨夜のカレー、明日のパン

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ハローサマー、グッドバイ (河出文庫)

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パラークシの記憶 (河出文庫)

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MONKEY Vol.1 ◆ 青春のポール・オースター(柴田元幸責任編集)

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