監督/白石和彌
キャスト/山田孝之(藤井修一)、ピエール瀧(須藤順次)、リリー・フランキー(木村文雄(先生))、池脇千鶴(藤井洋子)、白川和子(牛場百合枝)等
死刑囚の告発をもとに、雑誌ジャーナリストが未解決の殺人事件を暴いていく過程をつづったベストセラーノンフィクション「凶悪 ある死刑囚の告発」(新潮45編集部編)を映画化。取材のため東京拘置所でヤクザの死刑囚・須藤と面会した雑誌ジャーナリストの藤井は、須藤が死刑判決を受けた事件のほかに、3つの殺人に関与しており、そのすべてに「先生」と呼ばれる首謀者がいるという告白を受ける。須藤は「先生」がのうのうと生きていることが許せず、藤井に「先生」の存在を記事にして世に暴くよう依頼。藤井が調査を進めると、やがて恐るべき凶悪事件の真相が明らかになっていく。ジャーナリストとしての使命感と狂気の間で揺れ動く藤井役を山田孝之、死刑囚・須藤をピエール瀧が演じ、「先生」役でリリー・フランキーが初の悪役に挑む。故・若松孝二監督に師事した白石和彌がメガホンをとった。(映画.comより)
土曜日にヒューマントラスト渋谷にて観賞。前評判も高く、実録ものとしてもピエール瀧&リリー・フランキーの両氏の演技がハンパないという話も聞いていて僕の中の期待値は高かった。
主役の山田に犯罪者を演じる二人の三名の演技を観るだけでもなんら不満はない作品であり、実話を元にしてもここまでエンタメとして観れるレベルに押し上げた白石監督はかなりの手腕だと感じられる。
実録犯罪もの映画としてはスマッシュヒットした園子温監督『冷たい熱帯魚』がある。やはりそちらと比べてしまうのは仕方ないのだろう。殺人を繰り返し遺体を透明にしていたでんでんさんはやはりあれから観た人の中では笑顔で笑っているけど影では風呂場で体を小さく解体し燃やしてるのかもみたいなイメージがつくほどの演技だった。今作のピエール瀧&リリー・フランキーの両氏もあの笑顔の裏で実は超怖い人なんじゃねえか?と観た人の脳裏の片隅に印象を植え付ける迫力なのはもう間違いないと思う。
今作で唯一笑いが起きる所は面会で藤井に余罪の事を聞かれた須藤がじいさんを首つりに見せかけて保険金を取ったんだ、でもそれって先生(リリー)関わってねえやみたいなやりとりの部分だった。しかし、常軌を逸している故に悲劇だからこそ表裏でコントにすらなってしまう部分である。
『冷たい熱帯魚』はそれがかなり多かったというかテンポの問題もあり笑いの部分は今作よりも多かった記憶がある。
『ごっつええ感じ』を観て育った世代としては、というか思春期にあれを見て育ってしまったという祝い≒呪いで形成されたものが自分の核の一部である人間なのでコントと悲劇は紙一重の表裏一体である、哀愁を笑うという松本人志メソッドが染み込んでしまったので『冷たい熱帯魚』は笑えてしまったのかなと思っていた部分があったのだが、『凶悪』を観てそうではなかったと思った。
園さんの『冷たい熱帯魚』は当時の園さんの心情とかやぶれかぶれな不安定な部分も反映されているのもあるんだけど園さんの過剰さは受け手がドン引きするか爆笑するかのどちらかに繋がるようなものがある。『凶悪』の白石さんはその過剰さを抑える事に徹して作ったのかもしれない。別に実録犯罪ものだから笑いが起きないからダメだと言っているのではなくて役者の演技自体が映える作品になっている。ただ、どことなくドキュメンタリーや再現VTRを観ているような感じもした。
はっきり言えば期待値が上がりすぎてた事と、最近観た映画が『地獄でなぜ悪い』『わたしはロランス』『クロニクル』と立て続けに今年のベスト級ばかりだったために『凶悪』の凄さの圧倒的さが感じられなかったのが大きいと思った。
だってなんかこの四作品ってスーパーサイヤ人クラスで、悟空がスーパーサイヤ人になった時は千年に一人の伝説とか言ってたのにトランクスが未来から来て、あれ二人いるやん、あれサイヤ人の血が流れてるやつみんなスーパーサイヤ人になっちゃったらスーパーサイヤ人の価値が下がったよね的な。でも絶対に地球人は勝てないクラスだって事を忘れちゃうわけですが。
この四作品は今のうちに劇場で観ときましょって思います。
あと『凶悪』のパンフレットには小説家の樋口毅宏さんがピエール瀧さんについて書いているのでそれは樋口毅宏ファンならぜひ。ピエール瀧さんファンもね。