Spiral Fiction Note’s diary

物書き&Webサイト編集スタッフ。

『地獄でなぜ悪い』


待ちに待っていた園子温監督最新作『地獄でなぜ悪い』の公開初日。バルト9までチャリを飛ばして朝イチではなく昼前の回に。観た次の回の終りとその次の頭には監督と出演者の舞台挨拶があったはず。



監督・脚本/園子温
キャスト/國村隼・武藤大三、堤真一・池上純、二階堂ふみ・武藤ミツコ、友近・武藤しずえ、長谷川博己・平田鈍、星野源・橋本公次、坂口拓成海璃子


愛のむきだし」「ヒミズ」の鬼才・園子温監督が、自身初の娯楽作と銘打つアクション活劇。ヤクザの組長・武藤は、獄中の妻しずえの夢でもある、娘ミツコを主演にした映画の製作を決意。「映画の神様」を信じるうだつのあがらない映画青年と、通りすがりのごく普通の青年を監督に迎え、手下のヤクザたちをキャストに映画作りを始める。しかし、対立する池上組の組長でミツコに恋心を抱く池上も巻き込み、事態は思いもよらない方向へと進んでいく。園組へ初参加となる國村隼が武藤役で主演。ミツコ役の二階堂ふみ、池上役の堤真一ほか、長谷川博己星野源友近ら個性的かつ実力派の俳優たちが集う。(映画.comより)




去年の今頃はばったり園さんにお会いしてそのまま編集室に連れていってもらって編集を観せていただいた時は六、七時間観ていたので実際の作品の時間は二時間少しかなって思っていた。映画秘宝の田野辺さんに年末のB&Bのイベントでお会いした時には編集でいろいろ削って二時間を切ったという話を聞いていた。
八月の頭の試写会では今日公開されたものと同じようになっていた。時間としては二時間を少し越えていた。最後の終わりも一番最初に編集室で観たものとは違っていた。だから、試写室であの終わりを観た時にメタな部分も露にしてさらにこの作品の奥行きができていたように思った。



武藤役の國村さんには園さんがヤクザ映画のように演技をしてもらったみたいだ。この作品はある種のコメディでありそのために國村さんまでもコメディな演技では笑えない。國村さんにはピリッと決まった演技をしてもらう事でこの作品の面白さは増す。國村隼という役者の存在が軸としてあってコメディが広がっていた。
ガンアクションが決まっている、あのシブさ。



しずえ役の友近さんは面白い演技をしているわけではない。極めて普通にマジメに妻を演じているのになにか零れ出てくる面白さは園さんと相性がいいのかもしれない。やはりお笑いでコントが秀逸な人は演技のレベルが凄いのだなって思う。水道橋博士さん演じる警官のシーンで実はお笑い芸人同士であのワンシーンをやっているんだなって。水道橋さんを含めでんでんさんや深水さんなど園さんと所縁のある人もワンシーンだが出演をしている。



劇場で多くの人が池上演じる堤さんがミツコに関しての事で変顔というか表情がにやけるシーンで笑っていた。前半のコメディシーンを担っている気がする。僕はエキストラに行って最初に武藤が乗り込んでくるシーンの撮影に行っていて池上が組を仕切ることになって和服にしろというシーンまでいるのだが、堤さんは一人一人に組員に和服にしろとシーンではアドリブで組員に台詞を言っていた。
ジャパンアクションクラブに所属されていただけに殺陣のシーンがキレイだなあと形がすごくいいなっと素人ながらスクリーンに映る堤さんを観て思いました。



園さんの『ヒミズ』での好演も記憶に新しいが、シリアスな役だったので園さんがアクションもできるしアッパーな役をさせたいと思ったのが叶ったのがこのミツコという役だった。今作ではしずえが刑務所に入っているために血の繋がりはミツコと武藤であり、園さんは血の繋がりについてずっと描いているのでこの作品でも軸となる二人。周りはこの二人に巻き込まれていくのである。



編集室で映像を観ながら笑った記憶が残っているのはこの星野源演じた橋本だった。実際に園さんがヤクザの娘をハメたらその後ハメられそうになったという実話からであり園さんの過去の自分の投影した登場人物。
星野源おいしすぎるわと思わずにはいられない展開と巻き込まれ方。最後の最後までおいしいところを持っていく。さすが「大人計画」所属というか笑いどころをきちんと持っていける人、そして退院されたそうなのでめでたい!



ファック・ボンバーズの監督である平田を演じた長谷川さんはかなりの映画好きでしかも映画秘宝系が好きという園さんと話の合う人だった。そして園さんの映画に出たいと熱望していた。成海さんを口説く時のあの早口台詞は最初はもっともっと長くて編集で短くなっている。たぶん、ソフト化したら特典映像でつけてほしいなあ。すごい量の台詞をまくしたててるあれはやっぱり凄い。けどやっぱり削られちゃうよなって思わなくもないw
実は一番最初に編集室で観た時にピンとこなかったのは長谷川さんのこの平田だった。平田も橋本も園子温監督のかつての自身の投影した登場人物である。あのハイテンションとかがどうも僕の中にいまいち入ってこなかった。試写の時点では入って来るようになったのはなんだったんだろう。園さんでもあるわけだがそれがうまく僕自身が咀嚼できていなかったのかもしれない。


地獄でなぜ悪い』は園さんの自伝的な『非道に生きる』を読む事でわかることが沢山ある。僕はファック・ボンバーズの一員だった秘宝の田野辺さんから書いてみると言われて『別冊秘宝 凶悪の世界映画事件史』に『非道に生きる』を読んで『地獄でなぜ悪い』を観るという文章を書かせてもらってます。あと発売中の『映画秘宝』最新号を併せて読んでいただくとかなりこの作品の深部に迫れるし理解できると思うのでぜひ。


編集室や試写室の小さなスクリーンではなくバルト9の大きなスクリーンで爆音でこの映画を観るとやっぱり自然とニヤけてしまった。この映画はお前を、お前だけを喜ばそうと思ってんだよ! そうそんな感じで。
園さんの作品の中でも一番エンタメ度も高いし今まで園さん苦手だった人でもきっと笑って観れる作品になっている。この作品にはいろんなものが詰まっている。
深作さんのヤクザ映画に対してのものだとか、ヤクザのスーツと着物の対比とか。デジタル上映になってフィルムの時代が終わりゆく今だからこその映画館を秘密基地にしたり、ファック・ボンバーズという園さんの若き頃の映像集団が全国のスクリーンで暴れたり、35mmでヤクザが映画を撮ったりとか。


園作品の中でも劇場で大笑いできるもの。『ヒミズ』『希望の国』という神経を使いシリアスな作品を作ったからこそ反対のベクトルに楽しい作品に向かったのが今作だった。
本当に多くの人に劇場で観てほしい。もうそれだけだなあ。


病気完治の星野源から手紙…園子温監督ら『地獄でなぜ悪い』メンバーが感激!
http://www.cinematoday.jp/page/N0056757


2008-11-28 「自転車吐息
http://d.hatena.ne.jp/likeaswimmingangel/20081128


2008-11-30 「愛のむきだし」@東京フィルメックス
http://d.hatena.ne.jp/likeaswimmingangel/20081130


2009-02-01 「愛のむきだし」初日舞台挨拶
http://d.hatena.ne.jp/likeaswimmingangel/20090201

2009-08-25 「ちゃんと伝える」
http://d.hatena.ne.jp/likeaswimmingangel/20090825


2010-11-27 『冷たい熱帯魚』@東京フィルメックス 11/27
http://d.hatena.ne.jp/likeaswimmingangel/20101127


2011-01-21 『冷たい熱帯魚』@ビルボードライブ東京
http://d.hatena.ne.jp/likeaswimmingangel/20110121


2011-02-10 『冷たい熱帯魚』@テアトル新宿
http://d.hatena.ne.jp/likeaswimmingangel/20110210


2011-11-14 『恋の罪
http://d.hatena.ne.jp/likeaswimmingangel/20111114


2012-01-15 『ヒミズ
http://d.hatena.ne.jp/likeaswimmingangel/20120115


2012-02-04 『自殺サークル』『紀子の食卓
http://d.hatena.ne.jp/likeaswimmingangel/20120204


2012-07-13 『希望の国』試写 07/12
http://d.hatena.ne.jp/likeaswimmingangel/20120713


2012-10-24 『希望の国
http://d.hatena.ne.jp/likeaswimmingangel/20121024


2013-08-07 『グレイテスト・ヒッツ・テラヤマ』『地獄でなぜ悪い』試写とか
http://d.hatena.ne.jp/likeaswimmingangel/20130807

映画秘宝 2013年 11月号 [雑誌]

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非道に生きる (ideaink 〈アイデアインク〉)

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けもの道を笑って歩け

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