Spiral Fiction Note’s diary

物書き&Webサイト編集スタッフ。

『冷たい熱帯魚』@東京フィルメックス 11/27

 朝から時給労働しに30分ほど歩いていく。『小島慶子 キラ☆キラ』の聴いてなかったポッドキャストを聴きながら。
 その中で人は年を取り様々な経験をしていき変わっていく。小学校ぐらいから三十年とかして再会とか連絡を取り始めた人がいて会っていない時間に確かに変わっている部分はあるけども時が経っていないように変わっていない部分があるよねって話だった。


 生まれた子供は親が教えたわけでもないのに資質や性質や好き嫌いだとかがすでにあって生まれ持った部分というのは変わり辛いのかもしれない。
 僕はしばらくというかずっと会っていない小学生の頃の友だちとかに会っても変わってないと言われるんだろうか、変わらない部分を感じてもらえるのかなあとか思いながら歩いた。


 で、仕事はまあ最初からトラブルが起きてこれは今日は災難な日やなあと思ってたら所ジョージ(本物はわりと二枚目だった)さんがお客さんで来てお釣りを返しに行って釣りが四千四百いくらだったからお札を数えて渡して小銭を渡そうとしたら千円返されてこれ(千円札)とそれ(残りの四百いくら)でみんなでお茶でも飲みなよと言って颯爽と帰っていった。カッコよすぎるし、僕の時給よりも多い金額っていうこの世の中、所さんすごいわ。


 前にも僕が休憩中に同じような事があったと聞いてたけどまさか自分が体験するとは思わなかった。店長にそれを伝えいただいたお金を渡したが僕が帰る時までにみんなにジュースは振る舞われてはいない、が僕は五時間働いて早引けして有楽町マリオンに、日比谷線で向かった。


 二年前は園子温監督『愛のむきだし』のジャパンプレミアムという初めて公式な場所での公開(一般の人が観れる)で去年は豊田利晃監督復帰作『甦りの血』を、そして今年はまた園子温監督最新作『冷たい熱帯魚』のジャパンプレミアムを「東京フィルメックス」で観るために。




監督・園子温 出演・吹越満、でんでん、黒沢あすか神楽坂恵梶原ひかり、渡辺哲(←の方々が舞台挨拶。上映後のティーチ・インは園子温吹越満、でんでん、黒沢あすか


冷たい熱帯魚』 海外版 予告編


 ストーリー・小さな熱帯魚店を営む社本の家庭は、不協和音を奏ででいる。年頃の娘は若い後妻に反発し、そのために社本と妻の間もうまくいかなくなっていた。娘が起こした万引き事件をきっかけに、社本はより大きな熱帯魚店を経営する村田と知り合う。村田は社本の娘の万引きを見逃すどころか、親切にも娘を自分の店で雇う。やがて、村田は社本に高価な熱帯魚を輸入する事業を手伝ってほしい、と持ちかける。その申し出を引き受けた社本は、想像を絶する異常な事態に巻き込まれていく。


 実際の事件を元(テキスト)にしている。大元は『埼玉愛犬家連続殺人事件』で文庫として『愛犬家連続殺人』として出版もされているものらしい。
 実際に公開されるのは来年の一月の末なので上映後のティーチ・インでメモった事を。


Q.(園さんに)なぜこのような作品を作ろうと思ったのか?
A.犯罪事件に興味があったこと。今の日本映画に欠けている徹底的に救いのない映画を作ろうと思った。


Q.(吹越さんに)どういう経緯で出演しようと?
A.脚本を読んでこの映画を最初に観てみたいと思った。園さんとの仕事は三本目で、下北沢で偶然園さんと会って仕事しましょうみたいな話で「一月空いてる?」って言われて空いてると言ったら脚本が送られてきた。


Q.(でんでんさんに)出演の経緯は?
A.前作にあたる『ちゃんと伝える』の時に国語の先生で出演してて園さんに仕事欲しいと言ってたら脚本が来て台詞多いなって思って、「俺が村田役?」って。近所の人のいいおじさんとかばっかりだかり本当に悪人をやりたかった。だから村田をやれて嬉しかった。


Q.(黒沢あすかさんに)出演の経緯は?
A.去年の11月頃にオーディションを受けて。受かっているかどうかわからない時に11歳から三人の男の子の母親でたるんだお腹の写真を撮って仕事できるなら完全に引き締めますと言ってブートキャンプ引っ張りだして衣装合わせの時には完璧に絞った。園さんは男の子って感じだった。あすかちゃんって言ってくれて優しかった。


観客からの園さんへの質問
Q.殺伐としたシーンで笑いが起きていたが意図的にやったことなのかどうか?
A.コメディとは本来救いのない所から。その人物がどう動くかを笑うもの。資料として犯罪ファイルをたくさん読んだり調べたりしたが笑えるような極限のおかしさがある。事件を振り返った時の犯人の供述などから。意図せずに笑いになってしまうものだ。


Q.宗教的になにか嫌悪があるか? 血のりは何を使っている?
A.宗教的な嫌悪をバックボーンに。キリストと親からのドメスティック的なものはそれは感じさせる背景として。血のりは偽物と精肉店とかからもらった本物の血をスタッフの西村さんがいろいろしてやった。


Q.『愛犬家殺人事件』の小説を読んでいたのだが最後の展開が違った事について?
A.『愛犬家殺人事件』や3つぐらいの犯罪ファイルをテキストにしてあとは自分が遭った詐欺師の実体験を合わせている。自分の作っている映画はアクション映画だと思っている。現実+アクション映画機能。最後は完全にfictionとして。


Q.『愛のむきだし』の真逆な作品だと言われていたが自分には同じようなものを感じた。『愛のむきだし』ではサブテーマだった「父親の無力」が今回のメインテーマになっていてある種「オイディプスコンプレックス」な部分も感じたが最初からそうしたのか?
A.「オイディプスコンプレックス」な部分は最初の脚本の段階では薄かったがでんでんさんと吹越さんとのやりとりや芝居から膨らんででんでんさんが象徴的な父の用になり吹越さんが息子になりそれが大きな軸になった。黒沢さんに母親を見ているような感じだったのかもしれない。意識的ではなく無意識ででてきたものだった。


 質問はこれで終わり終了。


 途中で何度か目を背けたくなるようなシーンもあった。まあR-18指定らしい。僕はグロいのとかスプラッターみたいなのは正直苦手だ。
 しかし、その血まみれなシーンや殺伐としたシーンで多くの観客は笑っていた。僕もかなり何度も笑った。極限状態での発言や行為は意図せずに笑いになってしまうということ。これは自分の想像を超えてカッコ良すぎた時に笑ってしまうような感覚に似ていた。


 家族・親子・セックス・暴力・血と監督のこれまでの流れを組んでいる。近いとすると『奇妙なサーカス』かもしれないなあ。
 黒沢あすか神楽坂恵はおっぱい出てたけど大きかったっす、エロスと暴力と血ってのは園さんの作品ではほぼ出てくると思う、『気球クラブ、その後』『ちゃんと伝える』はないけど。女優さんが胸を出すというよりも極限的な状態とかになるシーンとかで園さんの作品に出ると一皮むけるっていうイメージ。


 あと吹越さん演じる社本の娘の名前が「ミツコ」だったんだけど、『紀子の食卓』での主人公の紀子が東京で名乗る『ミツコ』という名前、『奇妙なサーカス』でも『ミツコ』が出てくる。前に園さんに会った時に「なんかミツコって名前よく出ません?」と聞いたら確か昔好きだった子の名前かなんかだったと思う、また使ってた。


 園子温映画ってのは本当に突っ切ってる感じで突っ切ってるから世界に届いてしまって日本ではあまり見向きされてない気もする。これは好き嫌いは真っ二つに分かれる作風でもある。大衆的なテレビ局主導の映画も必要なんだけど少しはこういう作家性のある作品を観てほしい。


 本当に凄い表現とか作家性とか作品って麻薬なんだよ、生温くないし優しくもない。だけどそれを知ってしまうと後には戻れない。
 体が痺れてしまうし惹かれてしまうし嫌悪してしまう。一度味わって逃げ出せばもう味わいたいとは思えないし、それを乗り越えたらその刺激がまた欲しくなる。


 園子温監督は観る人の中にある価値観や基準をぶっ壊してしまうような驚喜=狂気=凶器な映画を作りだせる人だ。


 僕が二十代で憧れて影響を受けたのは園子温監督と作家の古川日出男さんの二人。この二人に憧れ影響されたのは彼らは僕にはまったくない資質を持っていて人間的にも魅力がある。ないものに憧れるというのは人間の性だろう。
 しかしその先の景色を見るには僕は今ある全てを出し尽くしてみて何が残るか涌き出るかそれとも終わるかそれだけだろうとも思う。

 

左が『虐殺器官』で右が今度出る『ハーモニー』の文庫のジャケ。


 ツイッター見てたら『ハーモニー』の表紙が『虐殺器官』と並んで出されてた。反対の色を使ったコントラスト素晴らしい。文庫も買うしかないと思った。つうか買うけど。


 著者の伊藤計劃さんは07年に『虐殺器官』でデビューし同作で「ベストSF2007」国内篇第一位、「ゼロ年代SFベスト」国内篇第一位になっている。この作品は本当にすげえとしか言えない。
 そして三作目『ハーモニー』で第40回星雲賞(日本長編部門)および第30回日本SF大賞を死後受賞した。特別賞」枠を除き、故人が同賞を受賞するのは初めてだったらしい。作家としてのキャリアはわずか3年だった。


 前に読書会の時に話をしていて伊藤さんがもう五年生きていたら日本の小説は変わっただろうと言うとみんなが頷くぐらいにそういう可能性を持った作家だった。でも残された側がなんとかするしかないんだよね、いつの世も。


 最近読んだ佐々木中著『切りとれ、あの祈る手を』より「読んでしまった以上、読み変えなくてはなりません。読み変えた以上、書き変えなくてはならない。読んだことは曲げられない、ならば書き始めなくてはならないのです。」


 羽海野チカ3月のライオン』五巻を読んで冒頭の一話のモノローグ(独白)で涙ぐんだ。本当に羽海野さんは『ハチミツとクローバー』にしてもこの作品にしてもモノローグの使い方が抜群に巧い。


 チャールズ・ブコウスキー『死をポケットに入れて』より「自分の気が狂ってしまわないようにとわたしは今も書き続けていたし、このとんでもない人生とやらを自分自身に何とか説明しようと、わたしは今も書き続けている。」

 
 最後にですが『SPEC』の着信メールの『どすこいメールだよ Check this out now』を魔がさしてダウンロードしてしまいました。

愛のむきだし [DVD]

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奇妙なサーカス Strange Circus [DVD]

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ちゃんと伝える スペシャル・エディション [DVD]

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気球クラブ、その後 [DVD]

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虐殺器官 (ハヤカワ文庫JA)

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ハーモニー (ハヤカワ文庫JA)

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3月のライオン 5 (ヤングアニマルコミックス)

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死をポケットに入れて (河出文庫)

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