Spiral Fiction Note’s diary

物書き&Webサイト編集スタッフ。

「来来来来来」

 下北沢の本多劇場劇団、本谷有希子 第14回公演「来来来来来」を二年振りぐらいに会った友人と観る。いつも通りに開始前のアナウンスは本谷さんのナレーションで。
 D列という思いっきり前の方だった。もう少し後ろの方が舞台全体は観えたかもしれないが役者さんが近くに感じれるのでよいといえばよい。


 ストーリー・山間の小さな集落。蓉子(りょう)は、この町の麩焼き場で麩を揚げて働く、新婚ほやほやの奥さんである。嫁ぎ先の夏目家には鳥を溺愛するあまり、自作の鳥園を作っては近所の子供から入園料を取る、商魂たくましい義母(木野花)と、長男の嫁(松永玲子)がいた。麩揚げ場には村の女達も働きに来ている。蓉子も馴染みつつあったそんなある日、新婚一ヶ月で夫は突然、失踪してしまう。


 山に捜索隊も出たが見つからず、村では義母の面倒をみる嫁を身代わりにして失踪した、と噂が広まる。東京から嫁いできた蓉子に、親切とお切開で「あんたも出て行ったほうがいい」と忠告してくれる者もいたが、蓉子はきっぱり噂を退け、旦那を信じて待っている。


 旦那がいなくなってからも、義母は使い勝手のいい蓉子を手放そうとはしない。働き者の蓉子は義母に命じられ、鳥を世話し、食事の支度をし、麩を揚げ続ける。


 鳥の世話をして旦那を待ち続ける蓉子の夢は、鳥園のつがいの孔雀がいつか羽を広げるところをみることだった。前に一度だけ羽を広げたところを夫と眺めたことがあり、その時が幸せだと感じたのだ。思い出を心の宝物にしながら、彼女は慎ましくせっせと暮らしていた……。


 キャスト・りょう/佐津川愛美松永玲子/羽鳥名美子/吉本菜穂子木野花と女性六人しか出てこない。二度男性的な記号として二人の男性が出たが彼らはセリフもなく記号として出ている感じだった。りょうさんはおもったよりデカクなかった、華奢な感じだった。目はやはり強い感じ。


 女子高生役の佐津川愛美は「腑抜けども悲しみの愛を見せろ」の映画での妹役の子みたい。彼女の感じとしては等身大というよりは僕らとか二十代後半や三十代ぐらいが感じる女子高生を描いた感じだ。実際の女子高生というよりはそこを過ぎた人間が描く、でも最近の子はこんな感じじゃないだろうかって感じがどことなくした。虐められている子なんだが最後の方で感情が一気に溢れ出すというか、蓉子の義母の気持ちにシンクロしてしまったりする。

 
 この物語はまず蓉子の旦那が新婚一ヶ月で逃げ出す、まるで蓉子を身代わりにして。その息子を溺愛していた義母。義母は旦那にも逃げられている、だからこそ旦那に似ていた次男の息子を溺愛していた。そのために愛されなかった長男はねじまがった性格になり、次男が逃げて、義母が長男に、長男が嫁に、嫁が蓉子と怒りの矛先が上からループみたいに最下層の蓉子に向かう。


 劇団、本谷有希子の常連の吉本菜穂子はテンションが高く、冒頭での明るいキャラクターとして陰鬱な感じの彼女達の中で笑いを取るキャラ。わたしのあそこ(女性器)はやさしいんだよみたいな発言。


 とりあえず百人と寝れば男に対した違いなんてない、サイズだってこんなもんと指で平均サイズを表す。おおっぴらな性格で。村の男連中とはほぼ寝ているらしい。どんな村だといいたいが、まあこの作品には女性の性的なものが何度か出てきた。そういうのを描くのは他の作家はあんまりしてない気がするし、女性作家だからこそ書けるものってのはやっぱりあるから、いい。


 よく考えたら百人寝たらたいした違いなんてないのよってのはホットドッグプレスでの北方謙三さんがしてた相談コーナーの名台詞「ソープ行け」に通じてるなあって。


 女性に対して恐怖心持ってたり逆に神聖なものだと思い込んで童貞を拗らせている男子に向かってとりあえずソープ行って童貞捨ててこいってのは、女なんて慣れたら問題なしというのとそんなに神聖なものでもない、みんな同じようなもんだという彼の意見だったと思う。それはもちろん女性にも通じるものだが。同じようなものだってわかった先には同じだけど自分にとって大事で他とは違うものを見つけたり探したりしないといけないという問題があるわけだが。


 彼女は前の「幸せ最高ありがとうマジで!」では新聞屋の店主と不倫してるような役だったかなあ、ものすごくツボにハマる女優さん。


 長男の嫁(松永玲子)は前半部では夫にも虐げられ、姑にはこき使われなんだけど、ある事件というか自分が姑に復讐を兼ねた行為以降、恐ろしく自分勝手な自己中心的な人物になる。人は何か行動を起こした事で反転するかのように人格がまるで変わることがある。考え方の変化というのは恐ろしく同じ人と思えないぐらい変わってしまうもの。


 蓉子(りょう)はかつて自衛隊にいたこともあり、どんな場所からも逃げ出さないで乗り越えるという精神武装をしている。だから彼女たちが押し付けてくる厄介ごとを逃げ出さずに耐える。新婚で逃げ出した旦那との想い出の孔雀がキーワードになっている。


 義母は嫁のある行為で、義母もまた逃げ出した旦那との想い出が孔雀であったりする。よく考えればここの男、まあ父息子は共に嵐の晩に逃げ出しているのだが、自由にというか自らの意志でここから逃げ出した男たちと反対に本来飛べるはずの鳥たちは鳥園に閉じ込められている。メタファーなんだろうな、わかりやすい。


 義母がやがて発狂する。待ち人を間違えて空砲で撃ってしまう、事件は一気に加速する。この辺りで佐津川が非常にいい演技と言うか物語を展開さす要素として存在する。発狂し蓉子に世話をしてもらうようになる義母、長男の嫁も事故で蓉子に世話をしてもらっている。


 誰がどう考えてもしんどい逃げ出したくなるような事態なのに蓉子は逃げ出さずに、前よりも楽しそうになっている。その辺りは気が触れた義母が手で銃みたいな感じで「バン!」とするのだが、「あら、よけちゃった」などすごく明るいキャラクターになっていく。


 蓉子がなぜ逃げ出した次男と結婚したかがわかるのだが、物語が終盤に差し掛かるとこの人のある意味で自己承認の物語なのか?と思えてくる。彼女が最後に選ぶ決断はみんなにハッピーエンドに見えるものを選ぶことになる。
 だが、最後部分のネタバレになるけど義母と蓉子はこの村を有刺鉄線で囲んだここを出て行くことを選ぶ。しかも義母がよしよしと頭を撫でて自分を褒めてくれるからという理由だ。だから彼女には尽くそうと。


 誰かに褒められたい、認めてもらいたいというのは自己承認欲求だと思う。まあ、この二人に関しては共に旦那が逃げ出した二人なので彼らを追いかけるというか置いていかれた場所に留まる事をやめて、今まで居た場所から動き出していく。


 ここではない何処かに向かう事がいい事か悪い事なのかはわからないが、彼女は義母と共に出て行く事を選んだ。


 本谷さんの舞台って感じの自意識的なものも出てくる、すごく狭い人間関係の喜怒哀楽を描くのが上手いしぶっ壊れ方というか窮地に追いつめられた人間が取る行動はトンでもないけどあり得なくもないなって、ぶっ壊れた行動は当事者たちは笑えないけど第三者的には笑える。


 いつも僕らは自分に降り掛かる不幸には残念極まりないと思いながら接するしかないが、知らない誰かに降り掛かった不幸はまるでエンターテイメントの一つとして消費してしまえるようになってしまっている。芸能ニュースがまるでそうなように。


 終わった後は編集の仕事をしている友人と飲み屋で飲む。彼女が早稲田卒なのもあって、早稲女問題というか早稲女本の企画を聞いたりする、あとは処女力とかの。ゼロ年代が童貞的なものが話題になったし、いろんな形で出てきたのでネクスト十年期のテン年代(by佐々木敦さん)は処女的なものが流行っても面白いのかもなって。「君に届け」なんてもろに処女力満開ですよと力説された。


 彼女が久しぶりに僕に連絡を取ってきたのが「文化系トークラジオ Life」でのことだったりと趣味とか趣向が近いと繋がっていくもんだなあって。彼女が語った「Life」の事でちょっぴり人生が変わった話は黒幕がすごく喜びそうな話だった。


 うーむ、やっぱり同じようなものが好きだと繋がりやすい、というか世界はやっぱり狭いと思う。


 家に帰るとサマソニ三連チャン参戦な友人が泊まるために来てた。元々彼を舞台に誘ったらスペシャルズのライブに行くといい、他にも友人二人誘ったらスケジュールの問題でダメで、彼女が久しぶりにメールしてきて、それならと本谷さんの舞台誘ったら本谷さん好きだったということで一緒に行ったんだが、なんかうまいこと回ってるものだ。


 友人は家からRipchordとDirty Projectors、Discoveryのアルバムを持ってきてくれたのでiTunesに入れた。アルバムのアートワークを見たらDirty Projectorsはなんか絶賛されたアルバムだったなあって、彼にも言われたんだがジャケ見るまでわかんなかった。


Dirty Projectors @ Death By Audio: August 2007


 あとようやくアマゾンで頼んでた「愛のむきだし」のDVDが来た!今年の映画の中でも圧倒的ですよ。久しぶりにDVD買ったなあ。


 今年日本にいるなら絶対観るべき映画なの!by宇多丸師匠。


 「おくりびと」はアカデミー一冠だろ、たかが。「愛のむきだし」は世界中で冠取りまくりだぜ〜ベルリンを初めとして。これをシカトするなんて大丈夫か日本のエンターテイメントは。サブカル系雑誌の一部ぐらいだよ、きちんと取り上げたの。

 
 そりゃあルーキーズが今年の興行収入一位だろうけどさ、あの映画で人生変わらないだろ、頼むから変わらないでほしい、映画のフリしただけのドラマごときで。


 人生を変えてしまうような圧倒的な熱量の作品があるってことはさ、知っててもいいと思うんだ。

 
ライムスター宇多丸のウイークエンドシャッフル
「ザシネマハスラー」「愛のむきだし
http://s05.tbsradio.jp/redirect/utamaru/472778.mp3


愛のむきだし」@東京フィルメックス
http://d.hatena.ne.jp/likeaswimmingangel/20081130

生きてるだけで、愛。 (新潮文庫)

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ビギナーズ・ラック

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Bitte Orca (Ocrd)

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Lp (Ocrd)

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愛のむきだし [DVD]

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