Spiral Fiction Note’s diary

物書き&Webサイト編集スタッフ。

『うみべの女の子』

向井秀徳 - ふるさと


 一月の末(28日)にTBSラジオ『キラキラ』にて園子温監督『冷たい熱帯魚』について水道橋博士さんが話した時に僕のブログでの評を使ってもらい、その日はDragon Ashのツアー初日で嬉しすぎてダイブをして最高な気持ちで家に帰ってたら人生で初めての電報をもらった。


 その電報の中身というのはこれについてでだった。↓


『第一回 星海社FICTIONS新人賞 編集者座談会』
http://sai-zen-sen.jp/works/extras/sfa001/01/01.html


 で、二月の頭に出版社の方に行って編集者の人と話をしてきました。自分でもわかっていた足りないものを指摘されてさらにグサリと、副社長の太田さんは岡山出身なので岡山県民なぜ上京しないのか問題等を話したりしました。


 まあ、ぶっちゃけ次に送る時のハードル上がった気もしなくもないですけどね! こんな時だからこそあえて言います、僕は小説家になります。 と自分でもハードルを上げときます。


ASIAN KUNG-FU GENERATION - Solanin Live ARABAKI ROCK FEST'10


 で、今日は仕事帰りに浅野いにお最新刊『うみべの女の子』一巻を買いに行った。


内容・海の近くの小さな町に暮らす平凡な中学生・小梅。 小梅に思いを寄せる、内向的な同級生・磯辺。 思いよりも先に身体を重ねてしまった二人。 秘密の時間を過ごせば過ごすほど、心の距離は遠ざかっていく――。


 浅野いにおの新刊『うみべの女の子』一巻を読みました。連載してるのは知ってたんですが一切連載を追わずにコミックを待っていたので非常に楽しみにしていました。上記に書かれてるようにセックスをしてしまった事でいびつになっていく関係性等の描写は浅野いにおらしいです。


 読んでツイートした感想。


浅野いにお『うみべの女の子』読んでたら大きな地震が。思春期のセックスを描いてて感じとしてはこれはある意味で古谷実ヒミズ』の雰囲気がある。ゼロ年代の空気をきちんと描いていた浅野いにお古谷実は表現は違うが向かってるベクトルや描こうとする世界観は近いのかもしれない。


浅野いにお『うみべの女の子』に漂う性春と地方都市における空気、他者性とかはすごく好きというか過ぎ去ってしまった痛みにどことなくノスタルジーを感じる年になってしまったんだろう。でも、十四歳から二倍以上の月日が経たなければ客観視もできないあの頃の性の発芽と世界の始まり。


浅野いにおソラニン』はリーマンショック以前にモラトリアムを過ごせた僕らロスジェネのある意味で等身大の青春だった。大事な誰かが死ぬ事でしか動き出せない、怠惰な平凡な毎日で死んだように生きていた僕らがやっと大切なものを失うしか前に進めなかった浅野が描いたゼロ年代前半の景色だった。


 一巻の終わり方のこれから明らかに事態はさらに悪化してしまうだろうという感覚にそのために彼の先輩や何かの伏線というか今後の不吉な匂い。その辺りは古谷実の『ヒミズ』以降と近い。


 僕は漫画をたくさん読むというタイプではなく好きな漫画家や興味持った漫画家の作品は読むというスタンスなのであんまり多くの作品を読んでない。
 そういう中で前のディケイド(十年間)のゼロ年代の空気感を描いていた、僕らが感じている体験していた雰囲気を漫画で描いていたのは浅野いにお古谷実西島大介じゃないかなって思ってる。


 前のディケイドは9.11からの大きな転換期から世界は確実に色を変えてしまった。そこにさらにリーマンショックで今までみんながあると思いたかった信じたかった日本的社会幻想もないことが完全にはっきりしてしまった。
 その時代の青春から二十代ぐらいの僕らぐらいが感じている空気感を描いていたと思う。


 古谷実作品は特に『シガテラ』の終わり方は思春期の思い込みなんて月日が経てばそんなものは幻想だよといいたげな終わりで読んでビックリしたけど腑に落ちた。彼の作品の主人公はたいていフリーターとかで人付き合いが下手で周囲の変な人に巻き込まれてしまう。
 ただ、その主人公に彼女ができたり彼の事を好きになってくれる女の子が現れる。しかもそういう子は美人で巨乳である、それ故に彼は色んな事に、負のオーラに巻き込まれるんだが、これこそが古谷流のアイロニーだとしか思えない。
 読者は主人公に感情移入する。僕みたいな何の取り柄も定職もない男にこんなに可愛くて巨乳な彼女が、と夢想する。実際は中々そうじゃないんだからとびっきりの皮肉を感じる。


 西島大介作品はかわいい画だけど世界と自分について描かれていてオススメは『アトモスフィア』で自分がひたすら増殖していくSF的な世界なんだけどそのオチというか増えている理由のシーンが面白いというかこれは漫画じゃないとできないやって思う、文学的でもあるんだけど。
 『世界の終わりの魔法使い』シリーズもサーガになってて台詞がすごくいい、ベトナム戦争を描いている『ディエンビエンフー』も途中で泣けたりする。
 

 浅野いにお作品は『素晴らしい世界』の一巻が出た時にジャケ買いしてからずっと追いかけててその度に感想書いたりしてる。好きっていうか描いている世界や空気に同調しやすいんだと思う。短編集『世界の終わりと夜明け前』収録『東京』なんかは地方出身者からするとこれやられたら堪らんわっていう内容だし。


浅野いにお『素晴らしい世界〜浅野いにお初期オリジナル作品集完全版〜』レヴュー
http://cookiescene.jp/2010/07/post-75.php


 誰かいつか書くだろうけど今の状況で『東京』みたいな作品を小説なり漫画で書くと短編で今回の3.11の地震原発の問題で西日本の実家に帰った主人公が数年後に色んな事が落ちついてmixiなりなんなりで実家に帰った事で遠恋になってその後別れてしまった東京にいた彼女が結婚したのを知って東京に残っていたかもしれない自分の現在と実家に戻っている現在を思い比べてどうにもならない気持ちだけが残るっていうありふれた作品になるよね。


 これ書いて『モンキービジネス』に書いて送ろうかな。


クッキーシーンに書いた『アンチクライスト』のレヴューアップされました。 http://bit.ly/eS8drx

うみべの女の子 1 (F×COMICS)

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世界の終わりと夜明け前 (BIG SPIRITS COMICS SPECIAL)

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ヒミズ 1 (ヤンマガKC)

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シガテラ(1) (ヤンマガKCスペシャル)

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世界の終わりの魔法使い (九龍COMICS)

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アトモスフィア〈1〉 (ハヤカワSFシリーズ・Jコレクション)

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