Spiral Fiction Note’s diary

物書き&Webサイト編集スタッフ。

「トウキョウソナタ」

likeaswimmingangel2008-09-29

 寝ないままに、風呂に入って、最近現れた母子猫を隣りのアパートの一室のエアコンの室外機の隙間に見つけて、母猫は子猫を庇うようにして、少し威嚇してるような、放っといてくださいよみたいな顔でこちらを見て、子猫はそんなこともつゆ知らず乳を吸っている、そんな朝の、日曜日の朝の、9月最後の朝で、風も何やら秋風のような寒さが、長袖を用意させて、風が吹いて長くなった髪とボタンを留めていない長袖の上着を揺らす。


 少し歩いて昔バイトをしていた三宿のダイニングバーを通り過ぎて、もうそこの一階は何もなくなっていて空き部屋になっていて、物書きになれたら来ますと言ったのは最後の日で、僕はあの頃のままに、変わらないような生活で、店だけは無くなった、あの頃は酒を作るのがやっとでカウンターのお客の相手もろくにできなかった、今だったら少しはマシに話をできるようになっていると思うんだけど、もう過ぎた日々のこと。


 三宿の交差点で伊代はまだ十六だから〜とかつて歌っていた人とすれ違って、見られるという仕事をしている人はなんらかの雰囲気があって、見られる事は老廃物を体外に出すのに効果的なんだろう、隠そうとしてもある程度は見られたいということもあるのかもしれない、見られることが多いと同年代よりは若く見えるのは見られているという自意識がホルモンを多く出したりしているのだろう、それにしても伊代はもう何歳なのだろう、まあどうでもいいことだけど。


 徒歩のままで246を沿って道玄坂を下っていく、朝といえど渋谷、人は多いのが渋谷、ゴミが道に溢れている、JRで恵比寿まで、動く歩道をさらに歩いて加速してガーデンプレイスへ、映画館まではほぼ直線、9時少しで着くとすでに人が並んでいた。



 年齢的には僕と同年代は少なく、4、50代が多いようだ、さすが朝一。朝一の回は千円均一にしてもらいたいものだが、水曜日だと千円らしい、ガーデンシネマ。始まるまでは外のベンチでプログラムを読む、ガーデンプレスあんまり人はいない、午前だから。風は冷たい、強くはない。が寒い。


 黒沢清監督「トウキョウソナタ」、主演は香川照之小泉今日子、舞台は東京、線路沿いのマイホームで暮らす四人家族の物語。
 リストラされたことを家族に言えないーお父さん。ドーナツを作っても食べてもらえないーお母さん。アメリカ軍に入隊するーお兄ちゃん。こっそりピアノを習っている小学六年生のーボク。おかしくなったはずなのにー気づいたら家族みんながバラバラになっていた。


 笑いも所々で起こっていた、それはお父さんの言動や行動の所で。面白いといえば面白い、おそらくはお父さんのポジションがわかるオヤジ世代の笑い声だった。つまりは笑っている所はお父さん本人からすると笑えない箇所であり、他者であるから笑える、本人には辛い。


 バラバラになった家族それぞれに変化はある、最後の終わりはある種の希望として捉えれるけど、全てが元通りの家族になるわけはなく。


 リストラされて新しい職場で働き出すお父さんや、強盗に入られて車で少し逃避行して日常から非日常へ行くお母さんも、ピアノの先生から生まれ持った才能があると言われて音楽学校へ入学するように言われるボクや、米兵になって戦場へ行ったお兄ちゃんから届いた手紙にはアメリカだけが正義ではないということがわかりました、僕はこの国でこの国の人たちと戦いますという向こう側(アルカイダ的なもの)に行ったことがわかったりする。


 画的には黒沢さんの映画だなというか、映画っていうカメラワークだし、ところどころで使われるやけに明るい照明に照らされる役者とか印象的。


 わりと淡々と進むんだけど眠くはならない、一つの家族を軸にしているんだけど、そこに関わるものはたくさんあって、個々の問題も大きいけれど、戦争にしても、経済にしても世界との関わりがあって、彼らの、いや僕らの生活に直接的ではなくても間接的に関わってくる、嫌でも、否応なく。


 中国に総務部が置かれる事になってリストラされるお父さんとか、国籍関係なくアメリカ兵になれるようになったら日本人でも米兵として戦争に関与してしまうとか、関係なさそうな大きな事がごくごく小さい一つの集合体である家族にすら影響を与えてしまう、それがこの世界で。


 そういうことを受け入れていきながらも自分がどう世界と向かい合うのか、関わり合うのかを考えて動く事でそれまでとは違った毎日が始まるかもしれない、絶望の先の光は、自分の立ち位置を定めることから掴めるような気がする、そんなことを感じさせてくれる映画だった。


 「アカルイミライ」と同様に時間をおいてみるとまた評価や感じ方が変わってくるような映画かもしれない、「アカルイミライ」も最初に観たときよりも数年後観た方が自分としてはしっくりきた。「トウキョウソナタ」もある程度時間経つともっとわかるようになるかもしれない。


 終わって渋谷まで戻ると人混みで溢れている、日曜日の渋谷。
 ブックファーストに行き、リブロに行き、求めているものはなく、ブックファーストに関しては以前の7階か6階建ての時は本も多くて使っていたけど地下二階に移動してから本が少なくて狭いし品揃えも悪くなって利用度が減った。


 リブロでも聞いたが、そんなものありましたっけ?みたいな表情でどうしようかなって思って、最後の頼みでタワレコの最上階の本のエリアのエレベーターの所のフリーペーパー置き場に行ったらようやくあった。


 「エクス・ポ」増刊 古川日出男∞(フルカワヒデオムゲンダイ)がようやくあったよ、三件目で。どこも「エクス・ポ」扱ってるのに。 http://expoexpo.exblog.jp/8639737/


 帰って裏面の古川さんの九月二日の日記を読んだ、読み終わって友人から来たメールを読んだらやけに文字が大きく感じた、日記の文字のフォントがかなりの文字量を詰め込んでるので小さくて携帯のメールの文字が大きく感じてしまうほどだった。


 あそこに置いてて気づく人どのくらいいるんだろうか、探しにくるやつしか気づかなそう、ある意味宝探しだね。